保カフ 防衛隊副隊長とモンスイ社員カフカの恋模様シリーズ 

 『ただいま、渋滞中!』 


 「さすがの手さばきですね。見事なもんや」

 そう声をかけると『お疲れさまです、副隊長さん』と笑顔を向けてくれる。そんな彼は、怪獣解体専門のモンスタースイーパー通称モンスイの日比野カフカさんだ。
 怪獣討伐後必ず解体業者に依頼することになるのだが、ここ最近亜白隊長の指示でモンスイへと頼むことが多い。以前は別の業者へ依頼していたのだけれど、少々揉め事が起きてしまい今のモンスイへと変更されている。

 「日比野さん、お疲れでしょ? 珈琲でもどうですか? 皆さんも良かったらどうぞ」

 飲み物や食べ物を差し入れとして持ってきたので、業者の方々に声をかけた。これもひとえに仕事を円滑にするための重要任務である。

 「副隊長さんもお忙しいでしょうに、俺らのためにいつも良くして下さりありがとうございます」

 珈琲美味しいです、と人好きのするような笑顔が眩しい。
 最近この日比野さんの笑顔を見ると、疲れが吹っ飛ぶような癒やし効果があると気づいた。だから、忙しい合間を縫って出来る限り顔を出すようにしている。あまり、贔屓のようなことは良くないと思うが背に腹は代えられない。とにかく癒やされたいのだ。

 「いえいえ、僕ら防衛隊ができるのは討伐までで、その後の大変な処理は全てお任せしてしまうんですから。感謝してもしきれないです」

 「そんなふうに言ってもらえると、この仕事やってて良かったなって思えます。こんなすごい人に褒めてもらえるなんて······今日の晩飯すげぇうまく感じるかも? て言ってもどうせ、今日もカップ麺とかですけどね」

 お恥ずかしいなんて言いながら、差し入れた珈琲を飲み干している。

 「彼女さんに手料理作ってもらわないんですか?」

 「彼女がいるように見えますか? 副隊長さんみたいなイケメンだったら彼女の1人や2人いるかもしれないっすけど」

 僕もおらんけど、というのは飲み込んで。代わりにこう提案してみた。

 「それやったら、僕が晩御飯お作りしましょうか?」

 「え? 副隊長さんは料理お得意なんですか?」

 「まあ、そこそこですね。忙しいんでいつもとはいきませんけど。こういう仕事なんで体が資本ですから、休みの日なんかはなるべく手作りするようにはしてますね」

 「すげぇ、イケメンで料理上手とか······モテ要素しかないっすね」


 ◇

 
 「あのう、本当にうち······に来られるんですか?」

 「そのつもりですけど? ご迷惑でなければ」

 「迷惑、ではないっすけど」

 モンスイの皆さんの仕事終わりに、もう一度顔を出し挨拶する。
 そして、当たり前のように日比野さんに声をかけた。食材を調達してからお宅へ伺ってもええですか、と。

 「副隊長さん、その」

 「それ、やめてもらえます? 僕にも一応名前があるんで」

 「あ、えっと······保科、さん?」

 「はい、何でしょう」

 たかだか名字で呼ばれたくらいで、何故こんなにも気持ちが高揚するのか皆目見当がつかない。表向きは笑顔を貼り付けながら、僕は終始答えの出ない問いに頭を悩ませていた。

 「その、こういうこと、いつもされてるんですか? 以前は別の業者が入っていたとお聞きしましたが」

 「こういうこと、とは?」

 「えっと、業者人をその······1人ひとり労う? みたいな」

 「そんなわけないでしょう。僕もそんな暇人じゃありませんので」

 だったら何故、と問われて答えに詰まってしまった。
 ほんまになんでやろう?
 さすがに貴方は特別だとは言えずーー

 「ただの気まぐれです。僕明日休みですし······それに、日比野さん。怪獣の知識が凄いじゃないですか。よければお話を聞きたくて。討伐時にも役立つことが多くあると思いますし」

 「あ、あー! なるほど。そういうことだったんすね。俺なんかで役に立てるならお安い御用です。何でも聞いてください!」

 「そう······だから、手料理はそのお礼です」

 漸く腑に落ちたのか、日比野さんは足取りも軽く進んで家に案内してくれる。

 それにしてもよく回る口やな、と自分でも思ってしまう。次から次に口からでまかせで。口から先に生まれたような奴とはきっと僕のことやろう。 
 そんなことを考えているうちに、日比野さんのお宅の目の前へと来ていた。

 「すいません、散らかってて。家にお客さん来ること滅多にないもんで」

 彼が住んでいるアパートに到着し、部屋へと案内してもらったが。いかにも男の一人暮らしといったふうで、これでもかと散らかっている。脱ぎ散らかしたのか洗ってそのままなのか分からないが、あちらこちらに衣服が散らばっているし。また、食べ終えたカップ麺や弁当の空容器もそのままになっている。

 「今度は、掃除しに来ましょうか?」

 「いやぁ、それはさすがにちょっと······」 

 日比野さんは座れるだけのスペースを確保しようと、慌てて片付け始めた。僕は断りを入れてから、買ってきた食材を冷蔵庫にしまう。

 「それで、晩御飯はどちらにするか決まりました?」

 ハンバーグとカレーで悩んでいるらしく、どちらになってもいいようにある程度買い揃えてはきている。使わなかった食材は付け合わせでも作って消化しようと思っていたが。

 「そんなに悩むなら、いっそのこと両方作りましょうか? カレーにハンバーグのせたらええですやん」

 「え? 良いんですか!? すごい手間なんじゃ······」

 「そうでもないですよ? じゃあ決まりということで」



 ◇◇



 「うわぁ、すげぇうまそう······いただきます!」

 うっま! 保科さん旨いっす! と子どものようにはしゃぎながら、日比野さんはガツガツと良い食べっぷりである。
 特段上手くできたわけでもなく、そこそこだと自分では思っていたが。こんなに喜んでもらえるなら、いくらでも作れる気がしてくるので本当に不思議だ。自分のために作るときは手間ばかりかかって、1人で食べても味気ないことが多いのに。

 「ほんまに美味そうに食べはりますね」

 「いや、実際旨いんで!」

 口元についたカレーを拭ってやりたいが、さすがにそこまですると引かれそうな気がして踏みとどまった。

 「ところで、あの······1つ聞いてもええですか? 日比野さんって亜白隊長のファンなんですか?」

 この部屋に来たときから気になっていたのだ。散乱している物の中に、ちらほらと見え隠れしている亜白グッズが。元々防衛隊の中でも人気の高い人なのでにわかファンも多いけれど。この部屋にはわりとプレミアムな代物まであるようなので、年季の入ったファンなのかもしれない。
 だが、このことは日比野さんにとって聞かれたくないことだったのか、水を飲もうとしてひどく噎せている。

 「いや、その、ファンではないです。ただ応援してるだけで」

 それをファンと言わずして何というのか。
 まあ、本人が違うと言っているのだからそういうことにしておこう。

 「今度機会があったら、亜白隊長もーー」

 連れてきましょうかと続けようとしたところで、チャイムが鳴った。誰か来たようだが日比野さんはすぐには出ようとしない。相手も諦めが悪いようで、何度も呼び鈴を鳴らしている。

 「あの、出なくてええんですか?」

 「······すいません、ちょっと出てきます」

 渋々といった様子で玄関へと向かっていった。
 扉を開くや否や相手と揉めているようだが、漏れ聞こえてくる声は確実に女性のそれである。

 「なんや、彼女おるんやないか」

 何故だかそのことで気落ちしている自分がいるけれど、揉めているということは別れる可能性も高いという考えが至っている自分に驚きを隠せない。

 「ちょっと、今は······おい、ミナ!」

 ズカズカと上がりこんでくる『みな』とかいう女、ほんま常識ないな。自分のことは棚に上げそんなことを考えていたら、突如自身の名を呼ばれ驚いて顔を上げた。

 「保科! お前、ここで何をやっている」

 「亜白隊長!? いやぁ、えっと······その言葉、そっくりそのままお返ししてもええですか?」

 「質問に、質問で答えるな」

 「まあ、そうですよね······えっと、僕は日比野さんに手料理を振る舞っているところです。そちらは何しに来られたんですか?」

 「私はカフカくんに会うために来た」

 この2人、名前で呼び合っているということは、そういうことなんだろう。

 「さっきファンではないと仰ってましたが、つまりはお付き合いーー」

 「してません! ミナはただの幼なじみです!」

 横にいる亜白隊長が見るからにショックを受けているようだが、良いんだろうかそう断言してしまっても。

 「これで分かっただろう、保科。今度はお前が答える番だ。何故カフカくんの家で手料理を振る舞っている?」

 何と答えれば無難にこの場を切り抜けられるかと思案していると、ぐぎゅるるると誤魔化しようのないほどの音量で腹の虫が鳴いた。

 「ミナ、腹減ってるのか?」

 「良かったら、カレー残ってますけど······食べますか?」

 「そうだな、頂こう。よそってくれるか、保科」

 「了」

 とりあえず、食べている間は亜白隊長も大人しいだろう。その間にうまい言いわけを考えなくては。
 そうこうしているうちに、今度は日比野さんの携帯が鳴り始めた。

 「鳴ってますけど、出なくてええんですか?」

 「······すみません、ちょっと出てきます」

 そう言って玄関のほうで話し始めたが、またしても揉めているようだ。

 『いや、悪いんだけど······今、家すげぇ渋滞してるっていうか、立て込んでるというか······え? もう近くに来てる!? 着いた!?!』

 玄関の扉が開け放たれて、また誰かやって来たようだ。滅多に客は来ないのではなかっただろうか。

 「やっぱり亜白、お前か! ん? 何でお前がここにいる、オカッパ!」

 「鳴海、隊長!? えっと······そっくりそのままお返しします」

 リプレイかというくらい先程と同じくだりすぎて正直笑えない。それに、何故こんなところに隊長が揃い踏みなのか意味が分からない。

 「弦くん、何でそんなに喧嘩腰なんだ? え、2人って仲悪いのか!?」

 「なんでボク様がこんな奴と仲良くしなくちゃいけないんだ。ボクはカフカがいればそれで良い。おい、亜白! 食ってないでお前も何とか言え」

 「黙れ鳴海、飯が不味くなるだろ」

 どうやらこちらの2人はいつも通りなようで、ある意味安心する。

 「それで、カフカさん。鳴海さんとのご関係をお聞きしても?」

 「弦くんも幼なじみです」

 「え? 隊長同士が幼なじみとか初耳ですが」

 「「幼なじみじゃない。ボク(私)の幼なじみはカフカ(くん)だけだ」」

 傍目だと息ぴったりだし気は合っているように感じられるが、勤務中と同様に仲は悪いらしい。日比野さんを挟んで亜白、鳴海の両隊長がいがみ合っている。

 「客はめったに来ないと言っておられましたけど、この様子だとこの人らしょっちゅう来てるんと違います?」

 「ああ、こいつらは客っていう感じしなくて。俺にとってはもう家族みたいなものなので」

 かなり良いことを言われているはずなのに、両者とももの凄く不満そうな顔をしている。もしかしたら、隊長2人は彼に対して幼なじみ以上の感情を抱いているのかもしれない。

 「ところで、カフカさん。次のお休みはいつですか?」

 「え? 休み? 来週の頭にあるはずですけど」 

 「でしたら、またその時に料理作りに来ますね。何を食べたいか考えておいてください」

 また来てくれるんですか?と明らかに喜びを滲ませている彼に、ついこちらも嬉しくて頬が緩む。
 できることならもっと彼を喜ばせてあげたい。そんなことを考えていたら、不機嫌な様子でこちらを睨みつけている隊長たちを視界の端に捉える。
 彼らには負けていられない。何故かそんな思いが急激に芽生え始めて。
 だから、『もう2度と来るな、オカッパ』とか『その料理とやらは私の分もあるんだろうな?』などと上司たちがほざいているが無視することにした。今は勤務時間外であるし、何よりプライベートにまで口出しされる謂れはない。

 それにしても、日比野カフカという男は細かいことは気にしないたちなのだろうか。名字呼びから名前呼びへと変えたのに全く気にする素振りもない。そもそもこちらに興味がないんだろう。だとすれば、意識させればいい。そのためには行動あるのみだ。
 幼なじみとか疑似家族だとか、そんな生ぬるいものでは僕は満足しないし、唯一無二のものしか望まない。彼のたった1つしかない特等席を狙っていくーー

 (ああ、僕······この人のこと、好きやったんやな。今さらやけど)

 カフカさんの手を取り、こちらへと引き寄せる。そして、口の端についた汚れを唇を掠めるようにして指で拭い、それをそのまま口に含み舐め取った。

 「カレー、口についてましたよ?」

 「ふえ? なっに、かれ······え?」

 口元をおさえ、これでもかと顔を赤らめる姿が愛おしい。
 彼は全くの難攻不落というわけではないようだ。これはもしや、ちょっと押せば案外すぐに手に入るのかもしれない。

 「次会えるの楽しみにしてます、カフカさん」 


 保科はそのまま玄関を出て帰ろうとした。そんな彼をカフカは慌てて追いかけ礼を述べる。
 ご飯おいしかったです、ありがとうございました。またいつでも来てください。
 そう伝えようとしたところで、カフカの目の前に鳴海、亜白の幼なじみ2人が立ち塞がった。彼らは示し合わせたかのように、もうここには二度と来るなと保科へ向けて言い放つ。
 だがその剣幕に怖気づくこともなく、保科はさらりと痛いところを突いてくる。
 そんな保護者みたいなことしてるから、家族のようなものだと言われるんですよ、と。そして、さらに彼は笑顔でこう宣戦布告する。

 『あんたらの大事なもんは僕が戴きます』

 その言葉に腹を立てた隊長2人はカフカの制止も振り切り、保科に詰め寄った。
 鳴海に胸ぐらを掴まれ責め立てられようとも、亜白に頭を鷲掴みにされ脳天締めをされようとも。それでもにこにことカフカに手を振りながら、笑顔を崩さない保科であった。


 design
1/2ページ