倶東国編
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07
薄闇を照らす灯籠に反射し、抜き身の刀身が怪しく光る。
刃を向けられているはずの鬼宿はそれを気にする様子もなく、固い表情で秋風を真っ直ぐに見た。
「そこを通らせてくれ」
「変態だったのかお前。よくも女の風呂を堂々と覗こうとするな」
「のぞ…っ!?ち、違う!ただ唯に話があるんだ」
「話なら湯上がりでもいいだろう」
「それじゃ遅いんだよ。頼む秋風!」
うろんな目で鬼宿を見ていた秋風の眉がピクリと動く。刀が僅かにあがり鬼宿の眼前に動いた。
「貴様に呼び捨てにされる覚えはない。いいか、話は唯が上がってからだ」
「だから、それじゃ遅いんだよっ」
「痴漢は去れ!」
「うお!?危ねぇ。」
振りかぶった刀が鬼宿の頬を掠めた。はらり、と一筋髪が枚散る。
秋風の額に血管が浮き出、親の仇を見たかのように鬼宿を睨み付けた。
「避けるな!」
「避けるわ!」
本気で死ぬかと思ったと、間一髪で避けた鬼宿は冷や汗を流す。
恐る恐る秋風を見れば、彼女はすでに次の攻撃の準備をしていた。
「な、なぁ?単純な話し合いですむのに、流血沙汰にする気か?」
「貴様が素直に下がればすむことだろ」
「だからそれはムリだって」
お互い譲らずにらみ合いが続く。
状況は武器がある秋風が有利だが、鬼宿とてここですごすごと引き下がる訳にはいかない。
ちらりと見た空に浮かぶ月が約束のときを刻々と教えてくれた。
「ふふ。そのへんにしておきなよ」
「唯」
「唯もう上がったのか。これを」
「ありがと」
湯気をたたせ水を滴らせた唯が、可笑しそうに笑いながら二人に声をかけた。
鬼宿は湯上がり姿に気まずそうにし、秋風は彼女の布一枚の姿にすかさず側に置いていた衣を彼女の肩にかけた。
あとは側に控えている女官の仕事だ。
「外が騒がしかったからね。それで何で二人はケンカしてたの?」
「ケンカじゃない、牽制だ。コイツが風呂を覗こうとした痴漢男だったから撃退も兼ねてな」
「だから覗こうとしてたんじゃねぇって!ただ唯、お前と話がしたかったんだよ」
鬼宿の『話』という言葉に唯の表情が凍りつく。それでも鬼宿は話を続けた。
「あんときは聞けなかったから今聞きに来た。
美朱の所に行く前に聞きたいんだ。お前は俺と行く気はあるか?ってな。……けどムリそうだな」
「何が言いたいの?」
「……お前は自分から巫女になるって言ったのか?美朱の敵になる『青龍の巫女』になるって決めたのか?お前たちは友達なんだろっ」
鬼宿は真っ直ぐに唯を見る。唯もまた真っ直ぐに鬼宿を見た。
「友達だからだよ!何も知らなかった前のあたしだったら仕方ないって思った!
でも今は違う!あの恐怖も惨めさも何もかもあの子あの子のせいだ!あたしはあんな目にあったのに、あの子は……美朱はのうのうと過ごしているなんて許せない!」
「……そのために巫女になったのか。そうまでして何がしたいんだ」
「ただあなたが欲しいだけ。鬼宿、あなたが好きなの!」
「何度も言うが、俺が大事なのは美朱だけだ」
「……っ、なんで!?こんなにあなたのことが好きなのに!出会ったのも美朱と一緒なのに、なんであたしじゃダメなの…っ。」
二人以外にもいるというのに、なりふり構わず唯が叫ぶ。
心からの声にも鬼宿は首を振るだけだ。
「……出会いが重要とかじゃない。俺はアイツだから好きになったんだ」
「……っ」
真摯な眼差しでそう言うと、鬼宿は出口に向かって歩き出す。
秋風はその後ろ姿を見ていたが、唯の「秋風さん、とめて……」という呟きに即座に動いた。
柄を返し峰で鬼宿の胴を薙ぐ。鬼宿も咄嗟に防御したが、秋風はそれを見越し回し蹴りをした。
不意をつかれた鬼宿はそのまま昏倒した。
「……美朱には渡さない。絶対に」
倒れた鬼宿の側に近づき、唯は嫉妬の浮かんだ目で彼の頭を抱き抱えた。
初出2015/03/29
修正転載2023/11/04