倶東国編
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03
走り去る二人の少女と追いかける兵士たちを見つめていた秋風はゆっくりと皇帝へと振り向いた。
威厳はあれど知性溢れる賢帝という風格ではない。髭面のおじさんといった感じにただ無感情で見つめ静かに頭を下げる。
「ご無礼申し訳ございません。どうやら彼女達に行き違いがあったようです」
「よもや、そなたも朱雀の……紅南国の手の者ではあるまいな」
「陛下、この者は城下で私が拾いました。出自を確かめましたが、紅南国と繋がるものは出てきませんでした」
疑心的な皇帝に心宿が答える。
先ほどまであった何かを企んでいた目が秋風に向けられ、彼女もまた真っ直ぐに彼を見た。
彼の何もかも見透かすような蒼い瞳が僅かに細まった。
たしか彼は『
これから自分がどう動くのか見透かされているような気がして落ち着かない。
ともあれ、今は唯とその親友で「朱雀の巫女」と判明した少女を追うことにする。
彼女たちがこれからどうするかによっては、自分もこれからの判断が変わるからだ。
「お話はこれで終わりでしょうか。では私はこれで失礼します」
ちらりと心宿の手にある四神天地書と言われた巻物を見たが、そのまま広間を後にした。
朱雀の巫女にとってあの巻物が大切だろうが、彼女にとっては知ったことではない。
そもそも、朱雀の巫女がどんな人物か知らないのだ。取り返す義理もない。
「兵士たちが多いし、そんなに遠くには行けないはず」
ならばどこか部屋に隠れているのか。
隠れられそうな部屋を手当たり次第覗き見たり、兵士を捕まえ聞いたりする。
見かけない顔に怪訝な表現をしたが、心宿が唯と共に庇護していたと知ると気を許し教えてくれた。
「どうしよう。こういっぱい兵士がいたら逃げられないよ。四神天地書も取り返さなきゃいけないのに」
「バカ!なに出てこうとしてんだよ!とにかく隙をついていくしかないんだから、周りを見てからにしな!」
「……この時点で見つかってるぞ?」
なんでこんなに騒がしいのに見つけられないんだ、兵士たち。呆れて口許がひきつる。
秋風の声に二人の少女が慌てて振り返り、唯が安心したように笑った。
「秋風さんか、よかった…」
「いや、よくないのでは。というか、常々思っていたが君は私を無条件に信用しすぎる。少しは警戒心を持て」
「だって秋風さんだから。あなただから信用してるんだよ」
「……それは嬉しいが、なんだか刷り込みに近い信頼だ」
彼女を助けたのが自分だから無条件に心を許してるように思える。同性であったことも要因だろうか。
秋風は肩を竦める二人に近よろうと足を進め――ようとしたが後ろからの殺気に反射的に刀を鞘ごと抜くと振りかぶった。
「うおっ、あぶねぇ」
聞き慣れない若い男の声に秋風の眉がピクリと動いた。
見ない顔の男だった。10代後半の顔のいい青年が、刀を受け止めたであろう腕を擦っている。
当たり所がよかったのか、刃ではなく峰を腕に打ち付けたようだ。運のいい男だ。
男は全身ずぶ濡れで、外から侵入してきたことが分かる。朱雀の巫女が逃げたことで騒がしかったが、もしかしたらこの男の探索で騒がしかったのかもしれない。
「た、鬼宿!」
「美朱……!」
唯の後ろに隠れている少女の名を青年が呟いた。
感動の再会ではなさそうだが、気まずいという雰囲気でもない。しいていうなら、身内に遭遇し思わず隠れてしまったような感じだろうか。
とりあえず、それとなく周囲を警戒しつつ、三人にも注意を払う。この男以外現れないのなら、単身宮殿に乗り込んできたということだ。
侵入者はこの男一人と確認し、三人を観察する。朱雀の巫女は唯の肩越しで窺うように顔を覗かせ、男は目を瞬かせ巫女と唯を見下ろしている。
……なんだ、この空気。
何とも言えない雰囲気戸惑い唯を見れば彼女もぼぅと彼を見つめついる。
「あと……唯だっけ。久しぶり」
「……覚えてくれてたの?」
名前を呼ばれ、唯の目が輝く。ほんとなんだこの空気。
甘すぎる。しかもなんかややこしい感じに甘い。
鬼宿は美朱を、美朱も鬼宿を、唯もまた鬼宿を熱視線で見ている。
自分には色恋など無縁だが、こんな空気は知っているので居心地が悪い。最高に悪い。
「勘弁してくれ……」
なんだかとんでもない事態に陥りそうで、秋風は項垂れた。
初出2015/03/22
修正転載2023/11/04