北甲国編
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3
「お客人様。お酒のお代りどうです?」
「お!ねえちゃん気前えぇの!ありがたくいただくで!」
「はい、どうぞ」
上機嫌で答える翼宿に、秋風はニコリと微笑んだ。
ここは西廊国と北甲国の間にある砂漠地帯。氐宿の幻術にハマった朱雀七星士四人が、各々が望む幻を見せられていた。
朱雀七星士は皇帝の星宿以外で出航していたと聞いていたが、実際この場にいるのは四人。
氐宿が言うには、どうやら、巫女を追い鬼宿が一行から離れ、他一名が神座宝のごたごたで死んだらしい。
朱雀七星士全員とは面識のない秋風は、ふーんと興味なさげに聞き流していた。
そうしてこの地に辿り着いた四人は、まんまと術にハマり夜の砂漠に留まっている。
秋風の役目は、彼らが見る幻をより現実と思わせること。七星士と接触し、彼らが望む行動をすることが彼女の役目だ。
親切な人にもてなされ、料理や酒を振る舞われている幻を見ている翼宿。同じ家人宅で書物に囲まれている幻を見ている張宿。同じく幻で作られた珍しい薬草に夢中な軫宿。
術に精通し法師である井宿には、より念入りに幻術をかけているらしく、三人の周りを動き回っているが見破る様子はない。
その四人に、声をかけながら酒振る舞う素振りを、書物を進める素振りを、薬草を取り出す素振りをして見せている。
なかでも翼宿はかなり上機嫌で幻の酒を飲んでいるのが滑稽で、秋風はクッと喉の奥で笑いをこらえていた。
この中で面識のあるのは井宿と翼宿であり、なんとなく性格が掴めてるのは翼宿だ。
関西弁で陽気な男。そして義理堅いのか仲間想いの所もあるらしい。
俱東国での戦闘の際に見せた男気は、なかなかどうして、敵である自分にも好感を抱かさせるほどだった。
とはいえ、それは好意というより戦ってみたいという高揚感が上回ったもの。女誠国で相対したときに好機がきたが、大石が降るという不測の事態にそれは叶わなかった。
秋風はふぅとため息を吐き、目の前の男を改めて見る。
今ここで奇襲し戦闘に持ち込んでしまいたいが、心宿が立てた作戦を乱したとなれば、今以上に厄介な立場になってしまう。
これ以上、唯から離れるわけにはいかないと、心を落ち着かせ、さらに翼宿に酒とつまみを勧めた。
※
どれくらい時間が経ったのか、時計もないので確認がとれないが、かなり寒さが厳しくなってきた。
敵を惑わせる役目とはいえ、夜には氷点下にもなる砂漠でこの薄着はきつすぎる。
思ず体を震わせた秋風に気づいた翼宿が、「寒いんか?」と火照り顔で聞いてきた。
幻であろうと、酔うことはできるらしい。
「ええ、まあ。家の中であろうと夜は冷えるものですから」
「なら一緒に飲まんか? この酒めっちゃ美味いんしなぁ」
「いいえ、私は結構です。それよりお客様方は大丈夫ですか?」
飲めと言われても幻の酒は飲めるはずもなく、秋風はやんわりと断り、逆に相手に問いかける。
幻の街とはいえ、夜の砂漠に薄着でいるのだから寒いはず。
もし寒いと言いだしたのなら、あらかじめ追加で渡された氐宿の術の貝を使用することになっている。
二重に術をかけることで、幻と分からなくするらしい。
「なんや体がぽかぽかしていい気分じゃ!」
「それはようございますね。法師様は大丈夫ですか?」
「私も大丈夫なのだ」
「そうですか。では私は奥におりますので、ご用事があればお声かけくださいませ」
これ以上彼らと付き合っていては、ボロが出てくるころ合いだ。
ここは一度傍を離れ様子とした方がいいだろう。
秋風は軽く会釈をし、彼らから離れるようゆったりと歩みを進める。幻術が届かない範囲までは演技をしていなければバレてしまうらしい。
便利なようで不便な術に悪態をつきながら去る秋風の後姿を、翼宿がぼんやりと見ていたことに彼女は気がつかなかった。
「どうしたのだ?」
「んー?いやぁ、なんや髪がキレイなねーちゃんやったなーって思ってなぁ。どっかで会ったことあったような気がしたんやけど」
「……飲み過ぎなのだ」
2025/08/16
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