北甲国編
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1
房宿と合流、そして脱出といった経緯を経て、明け方には秋風は唯たち倶東勢と合流することが出来た。
事前に脱出経路を確保していたことが功を奏した。でなければ、もう少し合流が遅くなっていただろう。房宿の用意周到さには感心する。
朱雀の巫女と七星士たちの足止め及び抹殺の報告は房宿がやってくれると言うので、秋風はそれに甘え一足先に休息に入っていた。
北甲国の国境口ということで、北国特有の身を切る寒さが染みる。女官たちが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたおかげもあって、比較的暖かく過ごせているがそれでもかなり寒い。
少し仮眠を取りその後唯の所に顔をだそうと思いながら、秋風は気を失うように眠りについた。
そして、気がつけばかなりの時間が経ち、当の唯は角宿を護衛に北甲国の首都である特烏蘭へと行ってしまった後といった失態。これでは護衛としても補佐としても役立たずである。
心宿に豪語していただけに彼と会うのは嫌だが、それでも一応心宿がこの遠征の責任者であることは変わらないので、こうやって渋々来た次第だった。
「遅いお出ましだな」
「それは悪かったが、これは一体どうゆう状況だ?」
天幕の中には心宿だけでなく房宿と、かなり酷いキズを負った尾宿の姿もある。
尾宿とは顔合わせの時に会って以来なので、この妙な出で立ちに驚きつつ、目の前の状況にただただ困惑するのみだ。
心宿の手には鞭。どう見ても調教用の鞭だ。それを尾宿に向けているとはいったい。
「任務失敗でヤケドを負ったんだよ」
「任務って朱雀側に何か仕掛けたのか?」
「そう。それで逃げ帰ってきたのさ」
「……そうか」
失敗のことをいうのなら、自分たちもそうなのだが。そう思うが、機嫌の悪い心宿をさらに刺激させるほど愚かではない。
それに房宿が無傷でいるところを見れば、こちらの失態は許容範囲内だったのだと思われる。
こちらに一瞥と嫌味が飛んできただけで、心宿の関心は尾宿に向いているのを幸いと秋風は口をつぐんだ。口はつむぐが、見ていて気分が良いものではないと僅かに顔は顰める。
鞭が鋭い音をたて地を叩く。音だけで尾宿は身体を震わせ、俯いたまま固まっている。
鞭にトラウマでも抱えているような怯え方に、秋風の眉間に一層シワがよる。
これではまるで本当の調教ではないか。それも人間に対してではない。動物に対して行われるような調教だ。
同じ人間、同じ七星士の仲間としてではなく、本当に使い捨ての手駒として扱っている心宿。
しかし彼は自分以外の七星士を手駒として考えているフシがあったが、これほど顕著に態度で示したことはなかった。
冷徹で残酷。それでいて排他的。冷たい瞳に幾度となく底知れぬ闇を見たが、これほどまでに闇を抱えていたとは。
心宿の世界には彼以外に誰もいないのかもしれない。皇帝や青龍七星士、秋風やもちろん巫女である唯さえも。
ずっとどこかで感じていた予感に、秋風はそっと瞼を下ろす。
きっと唯は巫女である限り丁寧に扱われる。青龍七星士たちも手駒としてなら手元に置いておくだろう。しかし自分はどうなのだろうか。
唯が懐いていること、剣の腕が立つことをかわれ彼らの傍にいる。だが、神座宝が手に入り青龍を召喚したら?
ここにいるのはあくまで唯が懐いているからに過ぎず、彼女の関心がなくなった時、または用済みと判断された場合、自分の居場所はない。なんとも不安定な立ち位置なのだと、いまさらに思い知る。
用済みと放逐されるだけならば問題はない。一番の懸念は召喚するための何らかの材料にされかねないということ。そしてそうなれば、唯に何かしらの傷を残すことになるということだ。
自惚れではないと思う。彼女の懐き方は、姉を慕う妹の様な、親を探す子供の様なそんな純粋な好意に溢れている。
だからこそ、彼女の傍を離れることが心配なのだ。まるで天秤の上を歩くように仕向けているこの男の傍にいさせることが。
秋風は閉じていた瞼をあげると、折檻されても手当てをされず去る尾宿の後姿を見つめていた。
2024/01/2