倶東国編
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15(他視点)
――これは倶東から朱雀の巫女たちが自国に戻ってきた後の話。
全身を包帯で巻かれベッドに寝かされている己に情けなさを覚え、翼宿は口を尖らせていた。
窓から見える青空にすら苛立ちを感じてしまう。己の力を過信していたわけではなかった。しかし結果はこのざま。きっと心のどこかで、慢心していたのだ。
はぁ……とため息がこぼれる。コレが治るまでどれくらいかかるのか。それを考えただけでも億劫だ。
寝台の側では軫宿が木で骨折ヵ所を固定したり、傷に薬を塗ったりしていた。
軫宿の治癒の力は一日1回くらいしか使えない。いや、無理をすればそれ以上出来るだろうが、術者に負担がかかり過ぎるのだ。
その1回は腕の骨が折れてしまった美朱に使われた。しかしそれよりも、腕の傷より心にできた傷が深いようだと軫宿が手当てしながら言っていた。
美朱の身に何があったのか、彼女は口を割らない。ただドジを踏んでケガをしたと言い張るのみだったという。
それが嘘だと誰もが分かっている。あのキズは鬼宿にやられたと。それがどれほど彼女を傷つけたのかも。好きな男にやられた傷は癒されることは難しい。
「うぎゃ!じゃからぁもっとソフトにせんかい!」
手際よく巻かれていく包帯で、また一ヶ所骨折ている所を圧迫されていく。その圧迫と激痛に翼宿は悲鳴をあげた。
「くっそぉ~!こないな傷早ぉ治らんかぁ!」
手当てが終わり身動きがとれない苛立ちをそのまま叫ぶ。
鬼宿に負わされた傷は軫宿の力が戻りしだい治してもらえる。それまではこの姿なので叫ぶことしかできない。
「おんどれ!鬼宿!今度あったら覚えときや!」
思い出すだけで沸々と腹が立ってくる。あの澄まし顔に一発食らわせないと気が収まらない。
しかし、自分はそれで気が収まるが美朱はどうなのだろうか。好きな男に傷つけられ、親友らしい少女ともケンカ別れしたままだ。
こればかりは時間が解決してくれるしかないのだろう。
「あー……なんやグチャクチャや」
腹立つやら心配やら焦りやら。
あれやこれや考えて頭がパンクしそうだ。元々考えるより動くほうが性にあっているせいか、多くのことを一度に考えるのは疲れる。
空でも眺め心を落ち着かせようと窓の外に目を向けると、不意に長い黒髪が視界の隅に入った。
「……っ!いっでぇー……!」
反射敵に身を持ち上げたことで骨折ヵ所が悲鳴をあげた。
歯を食い縛り痛みを堪える。その間も視界の端に黒髪が行き来しているのをとらえたが、それらはこの宮殿の女官たちだった。
一瞬脳裏に浮かんだ人物だと思ったことがバカらしい。
あの女がこの宮殿、ましてや紅南国にいるはずがないのだ。
それがどうして居るなどと勘違いしたのか。
バカらしい考えを振り払おうと軽く頭を振うが、一度浮かんだ顔は消えない。
呆れた色を浮かべた目。勘違いで動揺し赤面した顔。鋭い光を放つ瞳。隙のない身のこなし。動くたびに揺れる見事な黒髪すらはっきりと思いだせる。
そのどれもが浮かんでは消え、再度浮かんでは消えていく。
美朱のことを考えていたはずなのになぜ。
「なんじゃこりゃ……」
一人の女をこんなに思い出すのは初めてで翼宿は困惑し掠れる声で呟く。
その声は風にかき消され、翼宿自身にしか聞こえなかった。
初出2015/05/04
修正転載2023/11/11