倶東国編
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14
ごうごうと燃える赤と青の入り混じる炎に、黒い影が揺らめき一対の奇妙に光る丸い窪みがこちらをひたりと見据えている。生物の目を連想させる窪みに、しかし生気らしきものは感じられない。
チラリと唯を伺えば驚愕で目を見開いていた。それは当たり前な反応なのだろう。一対の窪みに生気は感じられないと言うのに、威圧感のようなものを発している。
人によっては委縮してしまいそうな威圧感を肌で感じ、それでも気丈に立っている唯は普通にスゴイ。
そんな秋風達の前には、炎に跪拝している心宿がいた。心宿が炎の姿をした不気味なものを、跪拝し崇めていることに僅かに眉をしかめる。
心宿によればこの影は「陰」の神なのだそうだ。ちなみに「陽」の神は太一君というらしい。
(まるで白龍と黒龍の陰陽体だな。これで黄龍に似たものもいれば完璧だ)
この世界に四神が存在しているのだから、それを統べる存在がいても可笑しくはない。
しかしこの不気味さは形容しがたい不安感を抱かせる。まるで見てはいけないものを見てしまったようで、秋風は僅かに身を震わせた。
「青龍の巫女……本郷唯。七星士が揃っていなければ青龍が召喚できないことは承知しておるな」
「え……ええ」
「青龍を呼びたしたければわしの教える法を聞くがよい」
「青龍を……っ!?」
確かに亢宿がいなくなり七星士欠けた今では青龍召喚はできない。
かといって召喚できません、巫女をやめますとも言えない状況だ。仮にでも「やめます」と言ったらあの皇帝に何をされるか。
それに心宿も他の七星士たちの信頼――これはあるのかすら怪しいが――も裏切ることになる。
揺れる黒い影を見つめ唯は「知ってるなら教えて」と震える声で返した。
声もだが体が本能で震えているようだ。それでも真っ直ぐに相手を見据えている。
不気味な影は彼女の態度に気をよくしたのか、割りとあっさりと教えてくれた。
四神召喚には七星士と四神天地書が必要不可欠だが、どちらか一方あるいは両方を失った場合、「神座宝」と呼ばれる神器で補えるのだそうだ。
「神座宝」は過去に巫女が四神を召喚したときに使用したものらしい。
詳しいことは教えてくれなかったがそれは北甲国にある。それを探しだせとの事だった。
「……七星士と天地書がないのを補う……ってことは美朱もソレを狙うってことだよね……」
「何を迷う。巫女は四神を呼び出すのが役目」
「……」
無言の唯に対し影はこれ以上の対話はムダだと判断したのか、緩く揺らめき姿を消した。
一瞬自分を見たような気がしたが気のせいだろう。あんな不気味なものに気に入られるなんてゾッとする。
「なかなか凄いのが出てきたな。さて、これを信じていいものか」
「疑うのは心外だ。我が唯一神は全てを存じ上げている」
「そう凄むな。まあ他に方法がないのなら、その神とやらが教えてくれたのは有りがたい。あとは唯次第だ」
「あ、あたしは……。ごめん、少し考えさせて」
そう言うと唯は思案顔で歩き出す。その後を角宿が追いかけていく。
秋風も二人に続こうと歩き出したが、心宿に声を掛けられ追うことは叶わなかった。
「護衛役は角宿に移行する。お前はその補佐だ」
「……なに勝手にっ」
「お前にはやってもらうことがある」
「そんなものお前の子飼いでもやらせろ」
出会ってからずっと見守っている少女。どこか脆くて危険な危うさを持つ彼女を、放っては置けない。
見知らぬ場所で危ない目にあい、泣き崩れていた姿が鮮明に思い出される。
そして好きな人を失い、友人と敵対し、まだまだ未成熟な心は悲鳴を上げているのに、それを見ぬふりをする姿はいつか崩壊してしまうようで目を放せないのに。
なのにこの目の前の男はその場所から離そうとする。
確かに護衛が増えるのは彼女の安全面で考えれば一番いい。しかし本当にその護衛は信用できるのか。彼女に親身になってくれるのか。不安がつきまとう。
じっとお互い無言で睨みあう。先に折れたのは秋風の方だった。
仮にここで突っぱねようものなら、補佐どころか完全に護衛から外される。七星士など巫女の周りのことは彼に一任されている。それくらい心宿の地位と権力は大きい。
秋風は忌々しく舌打ちすると、心宿の脇を通り過ぎる。
最早ここで言い争っていても意味がない。結局はこの男の言いなりになるほかないのだから。
「……お前は唯さまが行くと思うか」
「さあな。ただ朱雀の巫女しだいで彼女は動くだろうとしか私は言えない。
唯は朱雀の巫女と争うことに躊躇しているようだし。ただあの巫女のことだ、神座宝とやらの存在を知れば手に入れようとするだろうな」
歩く背に不意にかけられた言葉にぶっきらぼうに答える。
朱雀の巫女。対峙したのは数回程度の顔立ちは可愛らしい風貌だったと思う。
ただ中身がなんかバカっぽかった。しかし考えなしではないのだろう。ただのバカに七星士がついていくわけはない。
数回顔を合わせたくらいしか面識はないので、秋風とって朱雀の巫女の印象はそんなものだ。
秋風は肩を竦めると話は終わりだと再び歩き出した。
朱雀の巫女を思い出すと言い表せないモヤッとした気持ちになる。何もかも持っている人間を妬む気持ちに近いのだろうが、秋風はそれに気づかず顔を顰める。
その後ろ姿を心宿はただ静かに見ていた。
二日後、朱雀の巫女たちが北甲国に向けて出航すると報告を受け、唯は朱雀の巫女と争う決心を固め、俱東国を出港した。
初出2015/04/25
修正転載2023/11/11