倶東国編
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12
「てやぁー!」
松明で照らされている庭に不釣り合いな掛け声と喧騒が響く。
予想通り薬によってなのか記憶をすり替えられた鬼宿と、朱雀の巫女を守るために翼宿が戦っている。
体術の鬼宿に対し翼宿は術が出ない鉄扇で対峙していた。
リーチがあるぶん翼宿が有利に思えるが、どうやら荒事は経験していても『戦闘』は経験不足なようで隙をつかれては身体中に傷を増やしていく。
「筋はいいのに惜しいな」
「なんだ、お前も欲しくなったのか」
「誰が欲しいと言った。本当に悪趣味なヤツだな。
単純に鍛えればそれなりになりそうだと思ったんだよ。たしか山賊だったんだよな」
「そうだ。れい閣山の山賊の頭が翼宿だ」
「山賊だから身軽だが、山賊だから戦闘には向かないのか。ああ、そろそろ決着がつきそうだな」
ふむふむ、と二人の対戦を観察していた秋風がやや残念そうに言う。
その隣では心宿が秋風の言葉に興味をひかれたのか会話をやめ、不敵に笑みを浮かべた。
「……なんでこの緊張状態でそんなに和やかに話せるの」
ただ一人、唯だけが彼らの会話に脱力しながら鬼宿の姿を目で追っていた。
結局、決着はつかなかった。気絶した朱雀の巫女が意識を取り戻し叫んだのだ。
悲痛な声で「殺さないで」と叫んだのに翼宿が反応し防戦一方に切り替わったから。
さらにどこからともなく笛の音が聞こえ、それを突破口に井宿が術を行使し紅南国へと逃げていったからだった。
残ったのは荒ぶる心をもて余した鬼宿と、彼を気遣わしげに見ている唯。
心宿をはじめとした兵士たち。それから先の戦いで朱雀七星士たちに興味を持ちはじめた秋風だけ。
秋風は鬼宿を一瞥し、興味を失ったとばかりに翼宿たちがいた所を見つめていた。
(……翼宿か。いつか戦ってみたいものだ。
そういえば紅南国の王も剣の使い手だと報告があったな。本当に興味深いヤツラだな)
朱雀に負けず劣らず青龍も特殊な使い手ばかりなのだが、あまりにも身近すぎて凄さが今一わかっていない秋風。
そっと目を伏せた彼女の瞼裏にはやや目付きの鋭い関西弁男が映る。
巫女を守るためにボロボロになりながら挑む姿は尊敬値するほどだった。
それにしても、あれほど傷ついても立ち向かっていた彼にとって朱雀の巫女はよほど大切なものらしい。
(唯と親友だとか言っていたな。で、鬼宿の恋人。さらに七星士たちの愛すべき巫女か。なんだ?やっぱり巫女は気にくわないな)
以前感じたもやっとした気持ちに秋風の顔が歪む。
なぜそんな気持ちになるのか首を傾げながら、彼女はただ夜風に身を預けていた。
初出2015/04/10
修正転載2023/11/05