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「まってっ!このイノシシ娘!」
「あらほんと。確かに猪突猛進でイノシシ娘」
「それが美朱の良さなのだが……」
自分の妹に悪態をつく浅葱に柳宿がツッコミをいれ、星宿が苦笑で返す。
確かに自分ができることを精一杯頑張るのは彼女の長所だが、逆に言えばそれしか見えていないという短所にもなる。
それをわかっていてそう言える星宿に、浅葱はあらためて彼の人の良さを感じていた。これが惚れた弱みというものか。
しばらくすると、先を走っていた美朱には早々に追いついた。しかし都からは少しばかり離れているため、都に戻らずひとまず厲閣山を目指すことになった。
空を見上げれば厚い雲に覆われ時間帯は分からない。ただ都についたのが昼を少し過ぎた頃だったと思うので、今は夕方近いはずだ。
もうじき日が暮れてしまう。それまでに厲閣山につけばいいが。
木が枯れはてカラスが不気味に鳴く薄暗い道を歩きながら、浅葱は体が重くなっていくことに焦りを感じた。
しかし、先を行く美朱たちに迷惑はかけられないと無理矢理足を動かす。
(おかしいわ。なんで急に……)
張宏までの道中は何ともなかった。都にいた時も悪いと感じなかった。それなのに、なぜ急に。
まるで美朱が病気に罹った時のような体の重み。彼女が病気だと自分にもその症状が現れることがある。しかし、前を行く美朱にそんな様子は見受けられない。
それとも美朱ではなく、自分が病気に罹ってしまったのだろうか。
「浅葱無理しなくていいわよ。あんたは都に戻ってなさい」
「いいえ。私もみんなと一緒に……」
「浅葱!!」
隣で歩いていた柳宿が心配そうに声をかけてくる。それを顔色悪くしながらも断りをいれた。
確かに張宏にいれば、みんなにも心配かけずいられる。けれど、あの都にはどうしてもいたくなかった。どこか不穏な空気を感じるあそこには。
しかし、引き返すべきだったと思ったのは次の瞬間だった。
スルリと馬を繋いでいた手綱から手が離れ、崩れ落ちた浅葱を柳宿が抱き止めた。
「だから帰りなさいっていったのよ。大丈夫?」
「……はい。体が重いだけですから」
「顔色も悪いわ。急にどうしたのかしら?」
さっきまであんなに元気だったのに、行きなりどうしてと柳宿が首を傾げる。
美朱を追いかけ走って来たので、ずっと体調が悪かったというわけでもない。
都に蔓延している病というものだろうかと思うも、自分たちに異常はないと先を行く美朱と星宿に目をやれば、星宿が慌てて美朱の名を呼んでいた。
「美朱!」
「星宿様!どうしたんですか!?」
「わからない!美朱!しっかりしろ!……まずい熱がある!」
「浅葱も倒れたんです!星宿様、直ぐに都へっ」
美朱と浅葱の異変に、慌てて馬を引き道を戻ろうと踵を返す。
しかし、二人の行く手を遮るように地面が波打ち、移動手段として連れていた馬一頭が地中へ飲み込まれて行ってしまった。
あり得ない出来事に二人が驚き、周囲を見回す。
馬を飲み込んだ地面がさらに波打ち、今度はどす黒く腐食した手が伸びてくるのが見えた。
次々に伸びてくる腐食した手は徐々に這い出し、体全体が地中から出てくる。
干からびた者や、腐食し異臭を放つ者など状態は様々だが、一様に死者であることは分かる。
どのくらい出てきたのか、数えることすらできないほどに現れたゾンビ。奴らは濁った声で「肉をくれ」と襲い始めてきた。
星宿が剣で干からびたゾンビを叩き切る横で、柳宿が浅葱を抱えながら落ちていた大木を空いている片手で振り回す。
それでも一向に減らないゾンビの群れ。一応、剣や大木で奴らの体を切りつけ、へし折り動けなくすることはできている。しかし死ぬことはなく、這いずるように「肉……肉……」と手を伸ばしてくる。
あまりの不気味さに柳宿は鳥肌をたて「きしょい!」と叫んだ。
「どうします!?星宿様!」
「何とか退路を確保する!浅葱を頼んだ!私は美朱を……っ」
星宿の指示で浅葱を抱えなおした柳宿は、美朱のもとにゾンビたちが近づくのが見え「星宿様!」と叫んだ。
それに星宿も気づいていたのだろう。ゾンビたちの手が美朱に届くことはなく、彼の剣で切り裂かれた。
「しっかりしろ美朱!」
掛け声にも反応がない美朱に、星宿の美しい顔が顰められる。
最悪の状況だ。具合の悪い人間二人を抱えここを切り抜けられるほど、星宿も柳宿もそこまで武術に優れていない。
しかも体力はかなり削られ疲弊している。美朱達二人を抱えるだけで精一杯だ。
柳宿に抱きかかえられている浅葱も、朦朧とする意識をなんとか保ち状況を打破しようと考えたが、ぼんやりした思考ではままならない。
それどころか、視界がほとんどなく明暗しか判別することができなかった。
これ以上どうにもならない。いよいよ追い詰められ、じりじりと後退した星宿の眼前を轟音とともに熱風が走った。
その炎は柳宿の周囲も巻き込み、あたり一帯を包み込んだ。ゾンビたちが悲鳴を上げる間もなく灰と化していく。
数秒の僅かな間に炎は消え、ゾンビたちも跡形もなく消えていた。
「……んまに、こんなことやと思うたで」
「幻ちゃん?」
どこからか聞こえる声に美朱が首を傾げ呟いた。
浅葱にも聞こえたその声の持ち主を思い、そっと目を細める。ああ、来たのか。ほっとしたような少し残念なような気持が沸き起こる。
星宿と柳宿は声のする方を見上げ、小高い崖の上でハリセンを構えた立ち姿の人物を見つけた。
炎を出したその人物は「よっと」と軽い掛け声とともに飛び降り、四人の前に危なげなく着地した。
「なんやまたそない面白味のない顔して。少しは驚かんかい!」
「……私これでもビックリしてます」
「ほんま分からんやっちゃ」
柳宿に抱えられたままの浅葱に幻狼が顔を近づける。
むすっとした顔をで言う幻狼に、浅葱はよく見えない目を瞬かせ首を傾げて見せた。本当に驚いたのだ。表情には出ていないだろうけれど。
それと共に恐怖から解放された安堵と、仲間たちを置いてきてしまったのかと残念に思う。仲間思いに好感が持てたのに、と。
しかし浅葱が思っていた以上に、彼女の表情は柔らかくなっていた。
それを真正面から直視した幻狼は照れたように頬をかく。通常とのギャップにどこかこそばゆい。こんな顔をずっとしていればいいのにと彼は思ってしまう。
そうすれば――――。
「ちょっと幻狼。顔近いわよ!」
そんな二人を間近で見た柳宿は、言いようのない不快感と共に距離を詰めていた幻狼の首飾りを思いっきり引っ張り、二人を強制的に離す。引っ張られ幻狼は一瞬行きを詰まらせた。
柳宿はそんなことになど気にも留めず、ニッコリと笑う。笑っているだけなのに迫力があった。ただ雰囲気が『ヤんのか?コラ!?』と喧嘩腰なのが、幻狼には気に食わない。
柳宿の手が素早く離され絞まっていた喉から、新鮮な空気が肺に送り込まれる。幻狼はむせながらも涙目で柳宿に食ってかかった。
「げほっ!殺す気かぁ!」
「うるさいわねぇ。この子具合が悪いの。静かにしてちょうだい」
幻狼の必死の抗議を笑みで封じ込め、柳宿は浅葱を抱き直し彼女の顔を自分の胸元に隠してしまった。
そんな二人のやり取りを、浅葱はただぼんやりと聞いていた。柳宿の懐に頭を押し付けられてしまったので、視界が真っ暗だ。
頭に霞がかかったようにぼんやりとして、深く考えられずまされるがまま。
普段の浅葱であれば、一言二言反論しそうだが、そんな気力もなくぐったりとしている様子に、再会して数分の幻狼にもの体調の悪さが分かり「悪かったな」とそっけなく謝った。
さらに幻狼は、少し離れた所で美朱を抱き起している星宿を確認し、ことの重大さをなんとなく理解しおもむろに大きく息を吐きだした。彼の胸中は、間に合ってよかったである。
「それにしても幻狼。お前なぜここにいる?」
「……なんやほんまは来る気なかってんけど、お前らだけやったら頼りないさかいな。話し合うて攻児が頭になったんや。先代も許してくれはるやろ」
星宿の困惑した様子に、幻狼は穏やかに笑い返し右腕を擦る。快く送り出してくれた仲間たちに感謝しきりである。
しかしこれでもまだよく状況が分かっていない星宿たち三人を尻目に、心意を悟った浅葱は、なんとか懐から頭を出しもう明暗しかわからない目を細め「ありがとうございます」と頭を下げた。
がっかりして申し訳なかったと、少しばかり反省も含めてのお礼に幻狼が照れくさそうに頭を掻いた。
「ちょっと!なにあんた達だけで通じ合ってるわけ?」
「そうだな。説明を求める」
「え?え?」
柳宿と星宿が意味が分からないといえば、幻狼は察しが悪いと悪態をつく。
「アホ!まだわからんのか。『翼宿』はオレや。幻狼はニックネームや」
「「あー!」」
はらりと包帯を外し『翼』の字が浮かび上がった右腕を見せた。
「だましてすまんかったな。まぁ、コイツは気ぃついとったようやけどな」
「なんで黙ってたのよ!あんたたち!」
「そうだぞ!」
「しゃあないやろ!オレかて頭にならなあかんかったんや!先代たちの意志ムシでいるかい!……でも攻児たちは「行ってこい」ゆうてくれたんや」
噛みつく柳宿と星宿に幻狼――翼宿は大声で言い返した。
「私も幻狼さんの意志を尊重することにしたんです。仲間を見捨てさせるようなマネは出来ませんでしたから」
仲間を裏切る行為がどれだけ辛いか知っている浅葱は、彼が快く送り出されたことに安堵し、なんの憂いもなく仲間になることに歓迎する。
そんな浅葱とは反対に、星宿は呆気にとられ表情を崩し、柳宿は呆れて深いため息を吐き出していた。
そんな中、仲間たちの驚きや呆れの雰囲気が美朱にも伝わる。
しかし、彼女は顔色を悪くしながらもキョトンとした表情をし、軽く首をかしげて問いかけた。
「ねえ、みんな。幻ちゃんが翼宿なんでしょ?ねえ、ドコに字があるの?」
「え……美朱?」
「なに言うてんねん!ほらここにあるやんけ!」
「え?え?おかしいなぁ……影は分かるけどあんまり見えないの」
星宿に支えられ上体を起こしている美朱に、翼宿が自身の右腕を近づける。
彼女は再度首を傾げ、ごしごしと目を擦りながら「おかしいなぁ」と独り言ちていた。その様子に皆が絶句する。
「あの……実は私もなんです」
「はぁ!?」
「今はもう明暗しかわかりません。……黙っていてごめんなさい」
美朱におこった異常。それに言葉を失う仲間たちに、浅葱が追い打ちをかける。
ぼんやりした影が眼前に≪ある≫とは分かる。でもそれが柳宿であるとまでは断言できない。
ただ声が近いので、彼に抱きかかえられているのだろうと理解していただけだった。
「あ、あんたなんでそれを先に言わないの!?」
「あの状況でしたので……」
「それでも大事なことでしょうが!」
具合が悪くなっただけではなく、目まで見えなくなってきてしまう。これはまさに張宏で医者に聞いていた症状と酷似している。
高熱の後、体の一部がマヒしてしまう。やがてそれは死を迎える。『未知の病』。
その病気に双子が罹ってしまったと、星宿も柳宿も真っ青に顔色を変え、自分たちが抱えている少女たちの顔を凝視する。
いったいどうするべきか悩んでいる暇などない。一刻も早く都に戻り、医者に見せるか少華によって治してもらうべきだ。
幸い、三頭いた馬のうち二頭は残っている。二人を馬に乗せ来た道を戻ろう。
星宿と柳宿の出した結論は同じだった。二人はお互いに頷きあうと、抱きかかえていた双子に馬に乗るよう言う。
「で、でも何も見えないのに馬になんて乗れないよっ」
「大丈夫だ。私も一緒に乗り美朱を支える。お前を一刻も早く医者に診てもらわねば」
「……うん、わかった」
星宿の提案に美朱は頷くのを見て、柳宿も同じ提案を浅葱に申し出る。
浅葱も自分たちの置かれている状況が最悪なものだと理解できているので、否をいうこともなく了承した。
とはいえ、二頭の馬は恐怖心から震えが止まらず一向に動きたがらないので、ひとまず双子を木の下に移動させ、馬が落ち着いてからの移動になった。
星宿たちが馬を宥めている間、美朱と浅葱は二人並んで座っていた。目が見えない状態の中で互いの呼吸や体温を近くに感じ、少しだけ不安が軽くなる。
しかし視界は明暗のみで、いずれはそれも見えなくなってしまう状態では、僅かな安心でしかなかった。
「浅葱、あたし達失明するのかな……。やだよぉ」
「ええ、私もいやよ」
美朱の弱音に浅葱は堪らず妹の体を抱きしめる。
もし仮に失明してしまったら、家族の顔や仲間の顔が分からないのは辛い。
大好きな人たちの顔が見れなくなるのは、とても耐えられそうになかった。
いやな未来を想像し、浅葱は軽く頭を振りかぶる。その時、じわりと鎖骨辺りが熱くなりだした。
それと同じに、薄紅の光が双子を中心として広がる。やわらかで温かい光に、少し離れていた仲間たちも驚き駆け寄った。
「な、なんや!?」
「美朱!浅葱!」
突然発生した光は数秒もしないうちに収まり、光の発生元であろう双子が抱き合った姿で現れた。
いったい何が起こったのか、光の中心にいた二人にも分かっていない様子に、柳宿がいち早く駆け寄る。
「二人とも大丈夫!?」
「あ、あれ?……あ、柳宿だ」
柳宿に反応を示したのは美朱だった。彼女は目の前の浅葱を見た後、柳宿に向かって声をかけてきた。
それは声に反応したのではなく、目で見て確認したことによる反応だ。
そればかりか、周囲を見ると「なんでだろう?」と呟いている。
「美朱!あんたあたしが見えるの!?」
「うん。星宿も幻ちゃん……あ、今は翼宿だよね。二人も分かるよ!」
「美朱、よかった…っ」
ニッコリと笑う美朱を星宿が力強く抱きしめる。美朱も嬉しそうに彼を抱き返した。
「今のはなんやったんや……?見えんはずやったのに見えるようになっとるし…。
んーどないしたんや?二人固まって」
目が見えるようになった美朱。彼女は先ほどまでの不調が嘘のように、いつものように明るい笑顔でいる。しかし、その一方で微動だにしない人物がいた。
翼宿は戸惑いながら柳宿と浅葱に声をかけるが、二人はまるで時間が止まったかのように動かない。
そればかりか、柳宿の顔色は浅葱よりも悪くなっている。
「どうしたの?翼宿」
「なんや、さっきから動かんのや」
「柳宿?浅葱もどうしたのだ?」
星宿が柳宿の肩に手を乗せ、二人を見下ろす。柳宿の体が震えた。
「…………星宿さま?」
「浅葱?私はこっちだ……まさかっ」
自分の居るところとは全く別の方角を見て困ったように眉を下げた浅葱に、星宿は彼女の状態を察する。
彼女は明暗は分かると言っていたし、声のする方にも反応していた。しかし、今は声がしてもどの方向から聞こえるのか把握できないようだった。
「っ…星宿様!申し訳ありませんが、私たちは一足先に都に戻ります!」
弾かれたように頭を上げたら柳宿は、浅葱を抱き上げ馬の上に乗せ自分も馬にまたがる。
「承知した。柳宿、浅葱を頼むぞ!」
「はい!」
星宿に柳宿は頷き返す。柳宿は星宿の了承を得るや、二人を乗せていると思えない速さで走り去っていった。
怒濤の勢いに口を挟めなかった翼宿はあんぐりと口を開けっぱなしにし、馬が駆けていった方を見つめ思わず言葉がこぼれてしまった。
「なんやったんや…」
「浅葱は目が見えなくなってしまったのだろう。おそらく耳も聞こえていないか、聞こえずらくなっているだずだ。
柳宿は浅葱をあの女性の元に連れて行っているはずだ。美朱、立てるか?我々も柳宿を追うぞ」
「…………」
「美朱?」
「あ、うんっ。浅葱心配だし早く戻ろう!」
真っ青になり柳宿たちが去っていった方角を見ていた美朱は、取り繕うように頷き星宿に促され馬に乗った。
そこでああと気づく。一頭しか馬がいなく、星宿と美朱が乗ると翼宿は一人走ることになりそうだ。
星宿は馬上から翼宿に声をかけた。
「すまない!翼宿は走ってきてくれ!」
「おう!って無茶苦茶やんけー!? チッ!しゃーない、浅葱の大事やろ。はよーいけや!」
未知の病に侵されていた美朱の回復。その代わり、目以外にも耳が不自由になった浅葱。
混乱することばかりだが、今は追いかける方が先決だ。
さっきまで熱を出していた美朱を走らせるのは気が引け、翼宿は美朱と彼女を馬に乗せた星宿を先に行かせ自分は意地でも走ることにした。