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紅南国の北に位置する小さな都・張宏。かつては人が賑わい活気みなぎる都だったというそこは、今は見る影見なく寂れていた。
大通りに人影はあまりなく、いても活力がなさそうな者が多い。以前に訪れた、鬼宿の故郷に少しだけ似ている。誰もが生きることに必死で、誰もが未来を憂いていた。
そんな寂れている張宏の大通りに立ち、美朱達は言葉少なく周囲を見て絶句していた。頭上でカラスが騒がしく鳴く。それがさらにもの悲しさを増してしまう。
近くにはやつれた顔の男が壁に寄りかかり、小さな窓から見えた中には寝込んだ子供と看病する親が見える。
絶句している四人の真横を、荷台に人を乗せ走り去る男たちとすれ違い浅葱は目を反らした。
「…………ひどい」
折り重なるように乗せられた人たちは一目でダメだと分かるほど、真っ青を通り越して土色だった。
あれはもう手遅れだ。虫の息ではなく、正真正銘の死体の山だった。
「こんな状態になっているとは……」
「何が原因なんでしょう?」
「わからぬ。しかし最近雨が降らないと報告があったはず」
「あめ……」
土地が乾いて農作物が育たないにしても、これはひどい。
地下水すら干上がってしまうほどならこの状況もわかるが、ぱっと見たところ井戸に水はあるようだ。草木も草臥れこそすれ、枯れるまでには至っていない。
ならば、作物以外の何かが原因だろうか。
一番に考えられるのは、病が流行り蔓延してしまっていることだろう。
しかし、皇帝の星宿にその報告が来ていないなのは不自然だ。流行病の恐ろしさは皇帝が一番わかっているはずだからだ。
知っていたらならば、目的地を聞いた時点で来ることを止めている。そしてここは完全に閉鎖され、医師団が派遣されているはず。
そのどれもなされていないとなると、別の理由があるはず。
いや、厲閣山からここに来る間に、何かが起きた可能性のほうが高いのかもしれない。それならば星宿が知らないことにも納得がいく。
山賊たちのいる山から都に降る道中でも考えることに没頭していた浅葱は、ふいに右腕を引っ張られ思考を停止させた。
つかまれた腕をみれば、見知らぬ美女が縋るように掴んでいる。しかも顔色が随分と悪かった。
「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、はい……。旅の方、申し訳ありません。少しだけめまいが……」
「無理に立たなくても大丈夫ですよ。少しだけ座りましょう」
「あ、ありがとうございます」
道の端に大きめの石を見つけ、そこに女性を座らせる。彼女はゆっくりと深呼吸を繰り返し力なく俯いてしまった。
「ん? 浅葱、この者はどうしたのだ?」
「今ぶつかってしまって……。どうやら体調を崩したようだったので、休ませているところです」
「あ、ほんとだ。顔色悪い。大丈夫ですか?」
星宿と浅葱の話に美朱がひょこっりと女性の顔を窺う。
女性は俯いていた顔をゆっくりと持ち上げ、小さく頷き返してきた。
「すみません。もともと体が弱いので、よく立ち眩みを……あら……?」
「え?なに? ああ、無理はしないで」
申し訳なく思ったのか、立ち上がろうとした女性の体がふらりと傾き、傍に立っていた柳宿の足に寄りかかる態勢になってしまう。
寄りかかられた柳宿は気にした様子もなく、優しく女性を支え座りなおさせると改めて周囲を見てため息をつく。
「どこかで休んだほうがよさそうだけど、ちょっとムリそうね」
「あの、大丈夫です……。所用で急ぎ、揚さんのところへ行かなければならないですし……」
「はい! それじゃ、あたしがおんぶして運ぶよ」
「いえ、それは申し訳ないですし……」
「でも本当にフラフラで危ないよ。でも急ぐんでしょ?」
「それは……」
元気いっぱいの美朱の申し出を女性は困惑とともに断りを入れる。
それでも美朱は「いいから」と引き下がってくれず、助けを求めるように浅葱を見上げてきた。
「美朱、無理強いはしないの。それにあなたより背の高い人を運ぶのは大変よ」
「それはそうだけど。でも他に運べる人いる? 星宿はケガしてるし、浅葱もあたしと同じだし。あ!柳宿!」
「あたしぃ? 別にいいけど彼女了承してないじゃない」
「だって、ほっとけないんだもん」
「つめたいヤツ~」と揶揄する美朱。それに柳宿は心底面倒そうにため息をすると、手荷物を馬に括り付けた。
「あ、この水晶はあなたが持ってて」
「はい。いいですが、大丈夫ですか?」
「美朱のわがままでずっと立ち往生するわけにもいかないし、彼女をこのままほっとくわけにもいかないしね。—―――ちょっと居心地悪いでしょうけど、どうぞ」
「す、すみません」
「あ、まって!」
あのため息は美朱に対してのもので、自分ではないと知り女性がほっと肩の力を抜く。
そのまま女性をおぶろうとしゃがんだ柳宿に、美朱の静止がかかる。
「よっと!」
「きゃあ!?」
「美朱ぁ!?」
美朱が女性の背後から胸を鷲掴みにするという暴挙に、女性は悲鳴を上げほか三人は一斉に美朱の名を叫んだ。
まさかの暴挙におよんだ美朱は、過去に騙されたからと悪びれもなく言う。
確かに星宿も柳宿も女と思えるほどの美貌の持ち主だが、それを理由に見ず知らずの女性の胸を鷲掴みにするなど失礼にもほどがあった。
「この馬鹿妹!」
「だってぇ、確認は必要だと思ったんだもん」
でもちゃんと女の人だったよ!と要らない報告をする美朱に、浅葱の頭に平手が飛ぶ。
その前では柳宿がうちの子が失礼しましたと頭を下げていた。
「――と、ともかく、彼女は急ぎのようだ。早くしたほうがいいかもしれない」
美朱が笑い、浅葱が怒り、柳宿がひたすら謝っている実にカオスな雰囲気に、星宿は一呼吸置き始めの目的を口にした。
まさかの美朱の行動にやや場の空気がおかしいが、確かに彼女は先を急いでいたのだし早めに目的地に運んだほうがよさそうだと、それぞれ荷物をを抱えなおし、柳宿は女性をおぶる。
「あら? 水晶が光って『癒』の字が出ているわ」
「あ、ほんとだ。ということは、もう一人ここにいるってことだよね。やった!これで一石二鳥!」
例の死者を生き返らせられる人物に、山賊のお頭を生き返らせ、ここでもう一人仲間にする。確かに一石二鳥だろう。美朱の中では。
しかし翼宿の正体に気づいている浅葱は、あいまいに頷くだけだった。
対照的な二人のその様子を星宿と柳宿は、顔を見合わせる。
美朱が無邪気に元気いっぱいなのはいつものことだ。しかし浅葱はどこか一歩引いて物事を見ている。
そんな彼女が、下山してからずっと何か考え事をしていることに、二人は気づいていた。
それが山賊たちのことについてなのか、翼宿についてなのか、それとも他のことについてなのかまでは分からない。
しかし何かが、彼女の中でひっかかりを覚え考える結果となったのだろう。
彼女の中で結論が出れば、話してくれるだろうと星宿と柳宿は無理に聞こうとはしなかった。
女性の案内で一軒の民家に到着すると、扉がいきなり開け放たれ少し草臥れた壮年の男女が出てきた。
どうやら窓から外の様子を窺っていたらしい。二人は急いで柳宿に背負われた女性にかけよる。
「少華さん!よかった。来てくだすったんだね!」
「苦しみ出したと思ったら、あっと言う間に……」
「大丈夫」
そう言うと夫婦と思われる二人は女性――少華を一室に案内する。
美朱達も二人の多々ならぬ雰囲気と、なぜ少華を頼るのか気になり、咎める声がないことをいいことに家に上がり込んだ。
案内された一室には、まだ少年と思われる年若い男性が横たわっていた。
二人の様子や言葉にもしやと思っていた予想があったたのだと分かり、美朱達の顔色が変わる。
男は死んでいた。
少華は横たわっていた男に近づくと、その白い手をそっと彼の頬に添える。
そのまま顔を近づけ、唇を合わせると息を吹きだんだ。そう、まるで人工呼吸のように。
思わず目を丸くした美朱達の目の前で男の体が僅に動き、ゆっくりと目を開けた。
「うそ!?生き返った!!」
「……蘇生の力」
ウワサは本当だった。
確かに彼は死んでいたと思う。胸が動いていなかったし、夫婦の様子でもそう見受けられた。
それがどうしたことか、少華が息を吹き込んだ瞬間に男が動き出した。
これはいったいどういうことなのか。驚く美朱たちの目の前で、男はゆっくりと体を起こす。
家族と共にいた老医師の話では、一月前から原因不明の病が蔓延し始めたらしい。
高熱を発症した後、体の一部がマヒしてしまい数日のうちに死んでしまうと老医師は語った。
医者では治せず、妖怪や物の怪のたぐいの仕業ではないかと囁かれているそうだ。
「彼女はいったい……」
「少華さんは不思議な力を持っているんじゃ。医師でも治せない病で死んだ者を生き返らせるけとができる。しかも生前の元気な状態に戻るんじゃ。
病に苦しむくらいなら、いっそ死んで生き返らせてもらうほうがどれほど良いか……」
「…………」
奇跡の力を持つ女性。死んだ者の家族からすれば、それは奇跡の力。でもそれは本当に信じていい力なのだろうか。
死んだ人は蘇らない。それは自然の摂理であり、絶対に変わらない事象。それを捻じ曲げる彼女の力を、ただ奇跡として受け入れるには危うい。
浅葱は何もかもが儚い少華の後ろ姿を見つめ、胸に巣食う言い知れない不安に手を握りしめた。
脳裏に『癒』の水晶がちらつく。
七星士にはそれぞれ異なった特技や力が備わっていると思っている。
鬼宿は拳法に優れ、星宿は剣術に優れている。柳宿はその華奢な見た目に反して怪力であり、井宿は法術に関してはかなりの力を持っている。
もし仮に少華が七星士だったのならが、あり得る能力だと思う。しかし、彼女の力は他の誰よりも異質だ。
それに彼女は癒しというより、もっと別の何か。別の力のようなモノを感じる。漠然とした不安が付きまとう力だ。
ここは一度お暇し、仲間たちと話し合いをしたほうがよさそうだと美朱を見れば、彼女は足早に少華に近づいた。
「あ、待ちなさい美朱」
「い、いつの間に……!」
浅葱の声に柳宿と星宿が振り向けば、美朱は少華を壁に追いやり逃げられないように壁に手をついて迫っていた。
「少華さん、お願い!生き返らせたい人がいるの!私たちに着いてきて!」
「こ、困ります……。私はこの都の人達を置いていけません。それに一歩でも出たら、力をなくしてしまいます」
「わかった!それなら連れてくる!」
「美朱なに無茶なこというの」
「幻ちゃんに言ったら手伝ってくれるはずよ!」
今日はどうも美朱の行動に驚かされてばかりだ。しかし良い言葉を聞いた。彼女はここを出ては力が使えない。つまり七星士ではない。
やはり七星士とは違う別の力が彼女にあるらしい。その正体は分からないが、今は美朱の行動を止めるほうが先決だ。
飛び出して行ってしまった美朱を追いかけるため、浅葱たちも挨拶もそこそこに彼らの家を後にした。
その後ろ姿を静かに見送った少華の胸がざわめいていたなど、彼女たちは気づかなかった。
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