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※ ※
睿俔を縛り上げ、睿俔の言いなりにならずにすんだ手下たちが、幻狼たちに頭を下げ謝罪している。
その様子を、浅葱達は幻狼と美朱の二人の後ろから見ていた。本当に根は素直な者の集団らしく、誰ひとりとして敵意を向けてこない。
彼らも彼らなりに信条があり、それを誇りとして生きていたようだ。しかし、睿俔という者のせいで、その信条と相反する行動をとってしまったと言う。
彼らの詫びを、幻狼は肩を竦めるだけで特に咎めることはしなかった。かわりに、隣に立っていた美朱の頭を軽く小突く。
「詫びと礼やったら、朱雀の巫女と……そこの女に言えや!オレが頭になれたんのもコイツらのお陰やさかいな」
そこの女と言われ一瞬分からず目を瞬かせた浅葱は、自己紹介も何もしていなかったことを思いだし会釈だけ返しておいた。
「そやな…ほんまおおきに!オレら、先代の意志を裏切ったまんま生きるとこやった」
「あたしはなにもしてないもん!頭を上げて!それに幻狼を動かしたのは浅葱だから、お礼なら浅葱にして!」
「でも彼らの心を動かしたのは美朱だし、別に私はいいわよ」
「もう、面倒くさいわね!二人まとめてでいいじゃない!」
「なんだか適当すぎます……」
納得がいなかないと、隣を見上げ口をとがらせる浅葱に柳宿は笑う。ああ、自分の知っている浅葱だとひっそりと安堵しながら。
そんな柳宿を見て、浅葱は再度むくれながら視線を反らした。
「あ…でも一つだけお願いがあるの。『翼宿』って人この中にいる? いたらあたし達と一緒に来てほしいの!」
そうだ。今回ここを訪れたのは仲間探しのため。今山賊たち一同集まっているし、一人ずつ聞いて回るよりいい。
美朱の言葉に辺りがざわつく。翼宿という存在は誰も知らないらしい。頼みの綱の睿俔も知らないという。
(……私の覚悟、無駄だったのね)
あの時に感じた恐怖と覚悟を返してほしい。決死の覚悟で向き合ったのに、知らなかったなんて。
思わずため息が出てしまうのは致し方ない。浅葱のため息に、柳宿と星宿が気づかわし気に見てきたので、「大丈夫だ」と返しておいた。
そんな中、不意に幻狼が声をあげる。
「オレ知っとるで」
「ホント!?」
「んな期待した顔で見んやない……ガッカリしても知らへんで」
「いいの!ダレ!?」
「『翼宿』っちゅーのは先代の頭のことや。つまりもう死んでおらへん。……残念やったな。でも死んでもうたもんは戻ってけえへん」
絶句している美朱たちに淡々と語った幻狼は、もう一度帰ってこないと今度は自分に言い聞かせるように呟いた。
戸惑う星宿と柳宿たちの隣に立ちながら、浅葱は唇に手をあて妙な引っ掛かりに眉を寄せる。
まるで喉に小骨が刺さったような不快感に振り向き幻狼を見た。
何かを隠している素振りはない。ないが、どこか釈然としない。
(……ここに来るとき水晶に字が浮かび上がったのはなぜ? 一ヶ月も前に死んでいたならヒントなんて出るはずもないのに。
それに巫女がいるのに、集める前に誰かが欠けているなんておかしいわ。
幻狼さんが何かを隠してるとか? でも隠してなんの特になるの? 仲間を売り渡すことになるから?……何が何だかわからないわ)
それはまるで、霧の中に手を入れて物を探るかのように、不確定の情報と水晶に移ったヒント。
考え込む浅葱を尻目に、美朱たちは困惑しながらも明日、その先代の頭の墓に確認しに行くことになった。
※
翌朝、浅葱達は森の中に石造りのドーム型の建物に足を踏み入れ、棺に安置された遺体を確認した。
死後一か月以上経っていることから、棺の中を改めることはしていないが、子分たちの証言から、納められているのは間違いなく先代であると証明されている。
つまり、本当に翼宿は死んでいるということだ。しかし、やはりここでも違和感が生じ、浅葱はじっと周りの様子を観察していた。
「星宿様、どうします。翼宿がいなくては……」
「うむ。しかし死者を蘇らせるわけにもいくまい」
「…………」
「そうですね。……浅葱、見るのが辛いなら下がってなさい」
(やっぱりおかしい…)
違和感に無言でいた浅葱を死者を見るのが辛いのだろうと受け取った柳宿は、彼女の手をとり後ろに下がらせる。
浅葱はされるがまま後ろに移ると全体を見回した。
(パッと見て七星士のような人はいないわ。お頭って人の体を確認した訳じゃないからハッキリとは言えないけど……。
水晶は旅に出てすぐにヒントを示した。仲間集めのために渡された物が、死者を映すなんてありえないわよね。現実的でもない。……なら後の可能性は)
だてに朱雀の巫女の近くで見てきた訳ではない。
七星士たちは、まるで引き合わされる運命のように巫女に出会っている。
井宿のように自らの宿命として自覚し、共に歩もうとするのはごく少数のはずだ。
それぞれに家族がいて、仲間がいるのだ。そう簡単に着いていこうとはしないだろう。
美朱や自分と深く関わり、自由を縛るものがある人物。――浅葱は幻狼を真っ直ぐに見る。
多分、間違いないはずだ。
あくまで自分の勘と推察だが、条件に当てはまるのが彼と攻児しかいない。
攻児は山賊だが縛りはあまりない。名乗り出ることは勇気がいるが、それだけだ。
けれど幻狼は違う。彼は先代から次のお頭にと望まれるほど人望がある。そして今はハリセンを奪え還し、自他ともに認めるお頭になった。
さらに初めてあった時、朱雀の巫女というワードに見せた表情。まるで、とうとう来てしまったと言いたげなあの顔。
もし彼が翼宿ならば、あの表情にも納得がいく。
浅葱の視線に気づいた幻狼は一瞬目を見開き、気まずげに目をそらす。
そのことが決定打となり、浅葱は想像を確信に変えた。
(名乗り出るつもりはないのね。……当たり前ね)
彼もその宿命は理解していただろう。でもお頭の遺志を継ぐこと、そして山賊たちの居場所を護ることは、巫女たちと共にいてはできない。
だから名乗り出ることがない。
僅かな間でも、彼が責任感と仲間想いな性分なのは理解できている。お頭になった今、仲間たちを放り出すマネはしないだろう。
「あの…頭、聞いた話なんでっけど。
北の
「おじさん、それマジ!?」
浅葱がひとり真相に辿り着いた中、山賊のひとりもたらした情報に美朱が食いつく。
詰めよった美朱に、小太りの男は噂だけどと言葉を濁しながら頷いた。
「だったら確かめに行くわ!」
「ちょっと美朱!?行きなり何を言い出すのよ!」
「今は1%の可能性でもすがりたいもん!当たって砕けろよ!」
「……砕かれちゃったら大変ね」
苦笑混じりに美朱の言葉に突っ込みをいれた浅葱は、「でも希望が有る限りは最後まで足掻きましょう」と星宿と柳宿に向かって言った。
驚いている二人を通り越し、幻狼を見ると彼はコチラをじっと見つめていた。
互いに射抜くような視線合戦の末、浅葱は「私たちは大丈夫です」と目許を緩ませ目で幻狼に送る。
彼は目を瞬かせフイッと顔を反らしてしまった。それが彼の答えだった。
昼過ぎ、幻狼たちの世話になった浅葱たちは盛大な山賊の見送りに手を振り、彼らから貰った――いや……多分、自分たちのを返されたのかもしれない――馬に跨がり厲閣山を後にした。
※
「……幻狼、ほんまに行かんかってよかったのか?」
「アホ抜かせ!オレは頭や。先代の意志もお前らも捨てられっかい!」
「……ほんまにそれでえーんか?」
「…………」
攻児の問いに幻狼は無言で返す。
包帯が巻かれた右腕に触れ、幻狼は自分の正体を看破した黒髪少女を思いだし、静かに彼らが消えた方角の先を見ていた。