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なんなく建物の中に入り込んだ浅葱たちは、廊下の角で敵の出方を窺っていた。
手下たちが辺りを彷徨いているが、肝心の睿俔の姿は見当たらず、これからどうするかと話し合いがもたれた。
二手に別れ片方が陽動することも視野に入れるべきという意見でた。
しかしこの建物に詳しいのは幻狼と攻児の二人のみ。仮に二人を分けたとして、戦力のバランスがとれなくなってしまう。
結局、六人固まって行動する方がよいという結論に至ったが、まさかの手詰まり。二人とも睿俔がどこにいるのか見当がつかないという。
外窓から見えた広間から移動したらしいことは分かっているが、そこからどこに移動したのか分からないという。
柳宿と美朱の二人は、何やら使えないなどと二人を詰っていたが、それが騒がしかったのか、後ろから「あら!?幻狼たちじゃあーりませんか!?」と野太い男の声でオネエ言葉かかけられた。
「柳宿と同業のかた?」
「失礼ね!あたしはあんなに厳つくもないし、ぶっとい声じゃないわよ!」
思わず洩らした言葉を聞き逃さなかった柳宿は、浅葱の額を軽く叩く。
柳宿は手加減しているのだろうが、彼の怪力は本人が思っている以上に強い。叩かれた衝撃で思わず後頭部を押さえ浅葱は顔を顰めた。
なんだか世界が少し回っているように見えるのは、気のせいじゃな気がする。
「そんな悠長なことしとる場合か!幻狼!どないする!?」
「ふっまかせとき!出てこい狼…」
「あ!幻狼さん!それはダメです!」
ちょっとした柳宿とのやりとりを呆れた表情で見ていた幻狼が、ふと決め顔で懐からあの札を取り出したのが見え、浅葱は慌てて止めにはいる。
しかし浅葱の止める声は遅かったらしい。
紙は弾けるようにショートケーキに姿を変え、再び放った呪符も次々と食べ物に姿を変えていく。
「なんじゃこれはー!!」
「だから止めたのに…間に合いませんでした……」
「あん時か!?なんてことしてくれたんやアホー!!」
顎を外さんばかりに叫んだ幻狼は、がっくりと肩を落とす浅葱に向かって吠えた。こちらを怒っても……とは思いつつも、数多ある札の仲で一枚だけ札に落書きしてしまった手前反論できない。
浅葱は静かに息を吐き出すと、視界の隅でソロソロと逃げ出す態勢の美朱の襟を掴み上げ逃走を阻止した。
元々の原因は彼女なのだから、しっかり同じく叱られてほしい。
「さて美朱。謝ろうか」
「やぁ……つ、つい書いちゃって」
「ついやあるかー!!」
半分涙目で叫ぶ幻狼に美朱は渇いた笑いをするだけだ。
出来心だろうと、こうして危険に瀕しているのは紛れもない現実。攻撃手段がなくなってしまったので、どうすればこの山賊たちを倒せるのかと幻狼がさらに怒鳴る。
そんな不毛なやり取りをしていた幻狼と美朱の間に炎が走った。言葉通り炎が二人の間を縫うように走ったのだ。これが幻狼達が話していたハリセンの力か。
「きぁっ!」
「浅葱!!」
とっさに浅葱を引き寄せた柳宿は、熱風に肌がチリチリとした痛みがして軽く顔をしかめる。それでも浅葱が無事で良かったとほっと息をついた。
「あ、ありがとうございます」
「お礼なんていいのよ。それよりこれは笑うしかない状況ね…。いい?浅葱。あたしの傍から離れないようにしなさい」
「はい」
浅葱を抱きかかえながら、柳宿の額に冷や汗が浮かぶ。周囲は敵に囲まれ、中央にはハリセンを構えた睿俔が仁王立ちしているのが見える。
そんな緊張感の中、柳宿の言葉をそのまま体現させた美朱のウソ笑いが響く。どこまで行っても美朱は美朱だ。
それを殴って止めた幻狼は焦りを見せつつ睿俔を睨み付けた。
「よう幻狼!狼はもうでてけえへんのか?」
「ちっ……」
苦々しく舌打ちをし幻狼に睿俔は優越の笑みを浮かべる。四面楚歌。絶体絶命。
それぞれの脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
目の前にはハリセンをかまえる睿俔とその手下たち。しかも手下の中に「翼宿」がいるかもしれないとなると、下手に手出しできない。星宿が迷い呻く。
「くっ……だめだ。我々には戦えぬ…この中に『翼宿』がいるかもしれん!」
「オレかて『仲間』と戦わなあかんやなんて出来んわ!そやかて、呪符なしで睿俔には近寄れん……くそっ!」
焦りながら毒ずつ幻狼達を嘲笑うかのように、睿俔は口元を吊り上げる。さらに視線の先には浅葱を見据え、舌舐めずりをした。
ぞわぞわと背筋を走る悪寒に、浅葱は無意識に柳宿の服を握り締める。それに柳宿も彼女を支える腕に力をいれた。
もうあんな思いはしたくない。目の前から攫われるのなら、何が何でも守り通す。柳宿の気迫と睨みに睿俔が怯んだ。
「な、なんや!?やるんか!?」
女と見まちがうほどの美貌を誇る柳宿の睨みに、ビビる睿俔の隙に美朱が飛び出す。
彼女は睿俔のハリセンに引っ付き奪おうとしらしい。あまりにも無茶な行動に、仲間たちが驚き悲鳴をあげた。
「ハリセンを返して!!これは幻狼のものよ!返して上げるのが筋ってものでしょ!」
「美朱!危ない!」
「美朱!止めなさい!」
星宿と柳宿が叫ぶ。睿俔は彼女の首を締め上げそのままグッと前に突き出した。
突撃してきたのをこれ幸いと逆に人質にしてしまう。
これで誰も手出しができなくなってしまった。敵側は大勢の山賊たち。頭は焔をだせるハリセンを持っている。
それに加え、浅葱は美朱が絞められた箇所と同じ首が圧迫され、とても動けそうにない。助けるどころか、美朱同様足手まといになってしまっている。
(くる……しい……っ)
頭がクラクラする。立つことさえ辛く、浅葱は柳宿の服を強く握りしめた。
縋りつく態勢になった浅葱に、柳宿が慌てて体を支えてやる。
「浅葱!?あんたどうしたのよ!?」
「み、あか…美朱のが……」
息苦しそうにしながらも、浅葱はなんとか顔を上げ柳宿に答えた。
美朱の苦しみ自分にもきたと言いたいのに、空気が遮られ言葉に詰まる。
それでも言いたいことは何となく伝わったのか、柳宿は浅葱を抱きかかえ「わかったから!」とそれ以上の言葉を遮った。
「あたしは大丈夫よ!でも、ねえ!どうしてみんなコイツの言いなりになってるの!前の頭に申し訳ないと思わないの!?
……ハリセンを怖がって仲間と戦うなんて、男の癖に意気地無し!!」
「やかましい!!」
「「っ……!」」
ギリギリと締め上げられる苦しみに双子が同時に苦しみだす。
その様子に幻狼と星宿がやめろと叫ぶが、睿俔はさらに力を込めた。甚振ることを楽しいでいいるように笑う声が響きわたる。
しかし、体を張った美朱の説得が山賊たちに響いたのか、先ほどまでの威勢はなく、それどころか明らかに武器を下げ消極的な態度を見せ始めた。
これで睿俔以外の山賊たちは攻撃してこなくなるだろう。意識が朦朧とし、ぼんやりとながら霞む頭で思う。
そんな浅葱と美朱の視界に鬼宿の姿が映りこんだ。意識を失いかけ幻でも見ているのだろうか。
いや、そうではないと、星宿の驚く声で現実だと分かり息を飲んだ。鬼宿はここにいないのに、どうして。
「鬼宿!?」
「ちょいまて!もう1人おるで!?」
黒髪に額に鬼の字を浮かべた青年とは背中合わせに、黒く長い髪を後頭部で縛った男が姿現す。
仲間たちには見慣れない袖の長い服に鮮やかな色彩の羽織が一際異彩を放つ。瞼を持ち上げ現れたのは赤紫の意思の強そうな瞳だった。
何度記憶を掘り起こしただろうか。何度逢いたいと願っただろうか。
もう記憶すら朧気で、顔さえまともに思い出せない会いたかった人。
「……まさか…っ」
息をつくのもやっとだった浅葱の目にも、いるはずのない二人の姿が映りこむ。
鬼宿が睿俔から美朱を救い、睿俔の手下を長髪の男が斬りつけていく。
まるで互いを助け合うかのように蹴散らしていく鬼宿たちに、みんな驚きで声がでない。
そんな中浅葱は目に涙を浮かべ、じっと長髪の男を凝視していた。
まるで動き一つ一つを見逃すまいとしているかのように見え、柳宿は浅葱から男を見る。
綺麗な顔立ちの優男だ。しかしその剣筋は鋭く、剣術を嗜んでいない自分ですら相当の手練れだと分かるほど研ぎ澄まされている。
「あれ」は一体彼女のなんなのだろう。男を見ながらも、チリチリと何かが柳宿の胸を焦がす。
彼女の世界の誰かだろうか。彼女が意識を向け涙を流すほどに逢いたい人。
ああ、自分は浅葱のことをほとんど何も知らないのだ。
柳宿は唐突に現実をつけつけられたかのようで、男を見つめる浅葱を支える手に力が入った。
端整な顔立ちだが身のこなしが抜き身の剣のような人。剣の腕もよく、次々と男達を昏倒させている。
ひらりと舞う鮮やかな色彩に目が放せない。まるで昔をそのまま見ているようで、浅葱は食い入るように見つめ続けていた。
二人の活躍であっと言う間に全ての男たちは倒され、いつの間にか形勢逆転した。
ハリセンで蹴散らそうとしていた睿俔も、幻狼にそのハリセンを奪われ、起死回生のチャンスをなくしたらしく尻もちをつき、冷や汗を流している。
呆然と成り行きを見ていた浅葱は、長髪の男と目が合い大きく見開く。
男は薄く笑うと浅葱に近づき、くしゃりと乱暴に頭を撫でた。昔、幼い頃にそうしてくれたように。
「――――……っ」
浅葱の唇が戦慄き、顔を隠すように俯く。もう限界だった。目から涙が溢れだし、小さく嗚咽も口からこぼれだしてしまう。
その様子を見た男は、小さく苦笑すると柳宿に視線を向けた。
男と柳宿の目が交わる。近くで見るとかなりの美丈夫な男は目を細めると瞼を下ろしてしまった。
そしてそのまま消え去り、一枚の紙になった。それはあの時、美朱と共に落書きした幻狼の札の一枚。
カサリ、と音をたて柳宿は紙を拾うと紙に書かれた文字に目を細め、俯いたままの浅葱に差し出す。
浅葱はくしゃりと顔を歪め紙を大事そうに抱きしめた。
その様子に、柳宿のチリチリとした胸が少しだけ痛む。あの紙に書かれていた文字があの男の名前なのだろう。彼女が泣くほどに会いたい人物。
――――あの男が……。
じわじわと湧いて出る黒い感情に頭を振り気持ちを切り替え、その感情を気づかなかったことにして柳宿はフワリと笑うと「よかったわね」と彼女の頭を撫でた。
泣き笑いで頷く浅葱を抱きしめていた腕に力を込めていたことなど、彼は気づかなかった。