19話
夢小説設定
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日も落ち薄暗くなった山を駆け上がり、寂れた建物の戸を開けると幻狼は無造作に浅葱を投げ捨てた。
強い衝撃に息を詰まらせつつ浅葱は頭を持ち上げる。
薄暗がりの中でも分かる色素の薄い髪に三白眼。身なりは山賊たちのような出で立ちだが、どこか気安さを感じる雰囲気の男に彼女は目を細めた。
正直、この暗い中で男と二人きりという状況に身体が震えるが、それを知られるわけにはいかない。怯えを隠すように相手を睨み付ける。
「おーおー。こんな状況でも泣き言1つ言わへんとは肝が据わっとるな。
まぁ、この場所はオレとダチしか知らへんし、泣いとっても誰も助けにけえへんけどな!」
「…………」
「悪いな。お前に恨みはないねんけど見せしめじゃ。おとなしいしとったら痛いことはせん」
「…………」
陽気な声と言葉に無言で応えていると、幻狼は何を思ったのか浅葱の顎を掴み上げ口を寄せた。
暗がりでも分かるほど間近で見える顔に、僅かに身を固くし浅葱もまたじっと相手を見返す。
幻狼は無表情に睨み上げてくる浅葱と目が合い、ピタリと動きを止めた。
「…………」
「…………」
暫くの睨み合いに時間が止まる。始めに動いたのは意外なことに幻狼の方だった。
「やめたやめた。こんな能面のような女抱いてもおもろない。第一、元々女ちゅーヤツは好かんのやし!」
「そう、ですか」
顔から幻狼の手が離れ、浅葱から安堵の吐息がこぼれる。肩の力を抜き浅葱は小さく呟き返した。
「……睿俔の趣味はほんま分からへんわ。まあええわ、一段落つくまでお前は人質やさかいな。ヘタに動いたら殺すで」
「はい」
一先ず身の危険はないらしい。最初の無体を働こうとする素振りは鳴りを潜め、睨みをきかせる幻狼に浅葱は頷いて見せた。
まずは身の安全をはかり状況を確認することが先決。ここが何処かわからない以上無闇に動くことは出来ない。
それにこの男。顔つきは鋭いが、どこか憎めない雰囲気がして警戒するのがバカバカしく思えてしまう。
「何か私の顔についてますか?」
「……なんやキレイな顔してまったく泣きも笑いもせえへんし、不気味なやっちゃな」
「よく言われます」
初対面の人はまずこの顔のことをいう。そして不気味なものを見たかのような眼差しで挨拶もそこそこに離れていくのだ。
彼もまた、自分が出会った人たちのように不快感を露にするんだろうと俯く。
そんな浅葱を幻狼は繁々と眺め、突然真横から顔を覗かせると口許を指で引っ張り変顔をした。
「ベロベロ~バ~!」
「…………は?」
「なんや少しは驚きい。四六時中そない顔しとったら人生つまらへんで」
「はぁ……。地なんで急に言われても」
どう頑張っても意識的に表情を変えるなど自分には無理だ。むしろ目がつり上がり怒った顔になってしまう。
困ってしまった浅葱に、幻狼は頭を乱暴に掻き変な女だなとぼやいた。
「私は元々こんな感じなんで気にしないでください。それより妹のほうが感情豊かで可愛らしい子ですよ」
「妹ぉ?なんやキレイなニイチャンの後ろにいた妙な格好の女か?」
「そうです。アレでも『朱雀の巫女』なんですよ?」
そう言うと幻狼は僅に眉を動かし「朱雀の巫女……」と口の中で言葉を転がしていた。
「朱雀の巫女知ってるんですか?」
「伝説の巫女様つーヤツやろう。そないこと誰でも知っとる」
「そうなんですか。じゃあ朱雀七星士の『翼宿』という方知りませんか? 私たち翼宿を探してるんです」
「知らん」
「……そうですか。じゃあ身体に『字』がある人は?」
「だから知らんってゆうてるやろ!お前、顔変わらんゆーのによう喋るヤツやな!」
「よく言われます」
呆れて吠える幻狼に浅葱は先程と同じ言葉を返す。
月明りの中、のんびりとした会話がなされる。先ほどまでの憂鬱な気分はどこかへ飛びさったような軽さに、僅かに残っていた警戒心もなくなってしまった。
そう例えるのならば、ご近所に一人はいるであろう面倒見のいい人を相手にしているかのように。
どうもこの男の憎めない雰囲気は嫌いではない。浅葱は僅に口元を和らげた。
「幻狼さんは不思議な人ですね」
「なんや急に―――誰じゃ!!」
呆れたと言わんばかりの幻狼と、警戒を解いた浅葱の和やかな会話の最中、建物が僅かに音をたてた。
ガタン、と部屋戸が物音をたて幻狼は浅葱の口許を手で覆い警戒するように扉を睨み付ける。
何があったのか分からない浅葱は目を丸くして同じく扉を見た。
そんな二人の前で扉から1人訪問コントが繰り広げられ、次いで扉から男が姿を現した。
(私をあの男の所に連れて行った人……)
「
見つかった!と身体を強張らせた浅葱は、幻狼の呆けた声にえ?と声を上げる。
状況についていけない浅葱は、腕を組あいくるくると回りながら再会を喜びあっている二人を茫然と見つめるしかなかった。