15話
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「あなた様はここでお待ちください」
「え、あ、美朱は?」
「あの娘でしたら『青龍の巫女』として、陛下に会われております」
金髪の男と美朱から引き離され、浅葱は通された部屋で困惑気味に聞いたがが、監視を兼ねた兵士は表情を変えることなく、淡々と答えると一礼をして去ってしまった。
(陛下にあっているって言ってたわね。……美朱、無茶なことはしないでよ)
浅葱はすることもないので、椅子に座り静かに瞳を閉じた。
不安なことばかりで落ち着かない。しかし部屋をウロウロするわけにもいかず、今どうするべきかを考えることで心を落ち着かせる。
それに考えるべきこともある。
(なぜ私は皇帝に合わせて貰えないのかしら?
『青龍の巫女』と名乗った子の姉なら、普通は同じ異世界人だと思うはずでしょ。
皇帝に引き合わせる事くらいはしそうなのに。なのに引き離されて、オマケに丁重な扱い。
朱雀の巫女として疑っているわけでもないわね。もしそうなら尋問くらいはされているわ)
何か理由でもあるのだろうか。青龍の巫女でも、朱雀の巫女でもない何か。
「雨……激しくなって来たわね」
瞼を持ち上げ窓を覗く。どうやら通り雨ではなさそうだ。
それに雨に紛れて喧騒まで聞こえはじめ、浅葱は眉をしかめた。
「もしかして、だけど……」
美朱がなにかやった?
冷や汗をながしつつ、そっと扉を窺う。
二人分の駆け足に扉を開けると、見張りの兵はおらず代わりに妹と親友が走ってくるのが見えた。追われているのか、二人の表情は焦り浮かべている。
いったい何があってこうなっているのやら。とりあえず二人を手招きすると、美朱と唯はぎょっと驚きつつ浅葱に駆け寄ってきた。
他の部屋では誰がいるか分からない。浅葱は美朱たちを部屋に率いれ、辺りを確認すると静かに扉を閉めた。
「はぁはぁ…」
「はぁ…浅葱、助かったぁっ」
「助かったじゃないわ。なんで追いかけられてるの?それに唯がここにいるなんてっ」
浅葱は座り込んでいる美朱たちの前に膝まずくと、唯を抱き締めた。
行方不明と聞いて心配していたが、顔色もよく健康そうで安心する。
今までどうしていたのか気になるも、この様子を見る限りひどい目には合っていなさそうでほっと胸を撫で下ろした。
「唯、無事でよかったっ」
「浅葱、あんたなんでここに…」
「唯が心配で美朱についてきたの。でもいくら探しても見つからなくて心配してたのよ!」
よかったと喜ぶ浅葱に唯は涙を滲ませ、彼女を強く抱き締め返す。
唯の記憶にある彼女は、フラフラになりながら家に帰った後ろ姿だ。そんな別れだったので、元気な様子に唯もまたぎゅっと抱き返していた。
「浅葱…っ」
「がんばったね…心細かったよね。もう大丈夫よ」
子供をあやすように軽く背を叩き、浅葱は唯の肩越しに美朱に微笑む。美朱も泣き笑いをしながら頷いた。
「ご、ごめん…情けない姿見せたね…」
「ううん、唯ってばいつも気丈に振る舞うからなんだか嬉しいわ」
身体を離し気まずそうに目をそらした唯に、浅葱は目元を緩ませ首を振る。
いつも自分達を引っ張るお姉さんというポジションの彼女だが、同じ年頃の女の子。一人で見知らぬ場所にいるなんて心細くないはずない。
自分も知らない世界で一人っきりになり不安な毎日を送っていたくらいだ。
幸いにも身元引き受け人がいい人で、皇帝も優しいひとだったから今こうしてここに居ることが出来ている。
浅葱はぎゅっと唯の手を握りしめ、真剣な顔で「一緒にここからでましょう?」と言った。
「出るってどこに行く気…」
「紅南国に行こう!唯ちゃんがこの国の『青龍の巫女』になんかなったら、あたし逹敵同士になっちゃうもん!」
戸惑う唯に美朱は、浅葱の手ごと唯の手を握る。
彼女が俱東国で保護されていたように、自分たちも紅南国で保護されていたと説明する。
「鬼宿たちだってきっと喜んで迎えてくれるわ!」
「…鬼…宿?」
声を震わせた唯に二人は美朱は微笑んで頷く。浅葱も僅かに表情を崩しながら頷いた。
「みんな優しい人たちよ。唯もすぐに打ち解けられる…………唯、これどうしたの!?」
ふと触れていた唯の手首が目に入り、浅葱は息を飲み、美朱は目を見開いた。
左手首に真新しいキズがあった。明らかにリスカットした痕だ。白い手首に痛々しく浮かび上がっている。
向こうにいたときはそんな傷などなかったはずだ。よく一緒に行動していた自分たちが見落とすなんてことはないはず。それならこれがついたのは――。
心配そうな親友二人に唯は困ったように苦笑いをすると、さり気無く袖を持ち上げ傷痕を隠した。
「ただの傷だよ。3ヶ月前にあの図書館で『四神天地書』から"青い光"が出てきて……本の中へ入った時ケガしたみたい」
「みたいって……」
「もう痛くもないしそんな顔すんじゃないよ」
そういうと唯は遠くを見るように目を細め、ここに来たときの事を語った。彼女のどこかぼんやりとした眼差しに胸騒ぎする。
浅葱にとっては一か月前。美朱にとっては数日前。しかし唯にとってはすでに三か月経っている。
その時間差が三者の関係を僅かに揺るがしていることに、まだ誰も気づいてはいなかった。
「突然ここに来て、途方にくれていたらあの人が助けてくれたんだ」
「あの人って金髪の人だよね?違う国の人なの?」
「金髪って馬に乗ってたあの人のこと?確かにここの人たちと少し違ったわね」
コテンと首を傾げる双子に、唯は彼が「
胡人。つまり異民族のことをここではそう呼ぶらしい。主に金髪碧眼で美しい容姿の者が多いという。
「あら、だから少し違う感じがしたのね」
「いい人だよ。心細くて不安だったあたしの傍にずっといてくれた」
最初に会った時に冷たい人だと感じたが、唯にはそうではなかったのだろう。
あのどこか人を寄せ付けない雰囲気があった男を思い出し、浅葱は頭を振るう。少し会話した程度の人を悪く思ってはいけない。現に唯は彼に助けられている。
浅葱は漠然とした不安を振り払う。きっとあの冷たい眼差しも、不審者だったからだろう。だから大丈夫。
「…よかったわ。あなたにも支えてくれる人がいたのね」
浅葱は目元をやわらげ唯の手を離すと立ち上がった。
「でもやっぱり心配だわ。早くここから出ないと…」
「……………あ!あぁ!」
「な、なによ。突然」
扉から外を窺おうとした浅葱は、いきなり叫んだ美朱の声にズルッと転ける。
咄嗟に壁に手をやったおかげで転ぶことは免れたが、来て欲しくなかった足音が廊下から聞こえてしまい浅葱の頬がひきつった。
「四神天地書忘れてた!あれには七星士残り3人のヒントが書いてあるのに!金髪超絶美形のあの人から返してもらわなきゃ!」
「なんでそんな大事なもの忘れるのよ!いえ、それよりなんで持ち歩いているの!」
「だって七星士探すなら肌身離さず持ってなくちゃダメだと思って!」
「バカ!あんたらデカイ声出すんじゃないよ!」
「今の声はここからか!?」
騒ぐ双子につられ、唯までも無意識に声が大きくなる。
それを聞きつけたのか、バンッと勢い良く開け放たれた扉から兵士が侵入してきた。
軽装とはいえ鎧姿の中年の兵士がぎょっと目を見開き、手にしている槍を三人に向けられた。
「お前ら…っ」
「まずいっ」
大声で仲間を呼ばれたらお仕舞いだ。なにかで隙をつくらなければ。
浅葱は近くにあった置物を見つけると、とっさに兵士に向かって投げつけた。それは兵士の顔面に辺りそのまま崩れ落ちてしまった。
「うわ!いきなり倒れやがった!」
「え?」
「た、鬼宿!」
ずいぶんと耳に馴染んでしまった声が、崩れ落ちたへ兵士の背後から聞こえる。見ればずぶ濡れの鬼宿がひとり佇んでいた。
あの検問を突破し王宮内を探していたのか、ずいぶんと息があがっている。
それでもどこもケガをしていない様子から、浅葱たちはほっと息を吐きだした。鬼宿の登場で、美朱は歓喜の声を上げるも、はっと意識を戻し唯の後ろに隠れてしまったが。
「……鬼……宿?」
「えと……唯、だっけ。久しぶり…」
「覚えてて、くれてたの…?」
美朱の背から僅かに顔を覗かせた唯に、鬼宿が記憶を頼りに彼女の名を呼ぶと、唯は雰囲気を和らげ僅かに頬を染めた。
そんな彼女の様子に、浅葱は目を瞬かせ、鬼宿と唯を交互に見やる。もしかしたらだが、唯は鬼宿に好意を持っているのかもしれない。
でも彼には美朱がいる。唯の気持ちは鬼宿には通じない。
よりによって親友で同じ男を好きになるなんて。彼女逹の関係にヒビが入らなければいいが、もしそうなったならば彼女は自分たちにとって最悪の選択をとるかもしれない。
朱雀の巫女と対立する青龍の巫女として。それは望む所でないし、きっと唯も望まないだろう。
人の心など他人にどうこうできる問題ではないのだが、唯には他の男に目を向けてもらいたい。世の中、男はひとりではないのだから。
とにもかくにも、問題は山済みだが、唯を見つけた今は、一刻も早くこの国から出ていかなければいけない。
俱東国は紅南国と対立していることもあるが、美朱が朱雀の巫女とバレてしまったことでさらに窮地に立たされてしまっている。
鬼宿が宮殿内にいるということは、すでに敵方が乗り込んできたことは知られていることを踏まえ、これ以上ここにいることは危険すぎる。
浅葱は恐る恐る廊下を確認すると、あたりには人影はなくほっと息を吐き出した。
「…………浅葱、いま人いる?」
「いないようよ」
「ならあたし彼に話をつけてくる!四神天地書とあんた達を帰すように…あたしのことも!」
「唯!?」
「唯ちゃん…!」
「大丈夫、彼はあたしに逆らえないから!」
浅葱の予想通りならば、唯言う通り彼女は襲われない。
四神天地書の存在で朱雀の巫女の存在がバレてしまっていると考えれば、唯は青龍の巫女である可能性が高いと思われているはずだ。
ただし、それは美朱と唯二人しかいなかった場合の話。今ここには異世界の人間が三人いる。
美朱を朱雀の巫女と確信しているとして、残り二人のいずれかが青龍の巫女と考えているのならば、自分の扱いにも納得がいく。
丁重に扱われていたのは、きっとまだ確証がいられていなかったからだ。
初めはどちらかが朱雀の巫女であると考えていただろう。しかし、美朱が皇帝と謁見し、そこで四神天地書を落としたことで確信を得た。
引き離していたのは仮に逆だった場合程度でしかない。確信を得られるまでは誰が朱雀の巫女で、誰が青龍の巫女であるか分からないのだから。
そして彼らは賭けに勝った。見事朱雀の巫女を引き当てたのだ。
ならば、残り二人のどちらかが青龍の巫女であるか。
浅葱はきゅっと顔を引き締め、唯の提案の乗ることにした。
早く去らなければならないが、四神天地書は返してもらわねばならない。しかし唯1人を彼らの元に行かせるのは心配だ。
美朱と鬼宿は朱雀側であると知られてしまった以上、まだ疑惑に留まっている自分が行く方がましだと考えたのだ。
「唯、私も行くわ!」
「浅葱っ」
「二人は私たちが戻って来るまで、静かにしていなさい。いいわね」
「え?ちょ……っ」
美朱たちが引き止める前に、唯と頷き合い部屋を飛び出す。
「……なんか今の浅葱、柳宿に似てたな」
「だよね」
美朱と鬼宿の「一緒に居ると似るって本当なんだなー」的な話は、幸いにも唯を追いかけた浅葱には届かなかった。