15話
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仲間たちに断りもなく飛び出してきてそれほど時間は経っていないものの、もうすぐ日も暮れそうという時間。
木々が生い茂り日があまり差さない道を二人身をよせあい歩いていく。
この道は、途中ですれ違った村人に聞いた倶東国行きの近道だ。
普段はあまり人も通らないのか、今の所誰とも出会っていない。
「薄気味悪くて何かでそうだね…」
「出るとしたら熊辺りじゃないかしら、ほらアレとか…………え?えぇ!?」
森と言えば熊が定番だろうと浅葱が軽口を叩き、木の影から現れた生き物を指差した。
「ちょっとぉー!アレなにぃー!?」
「バッ…バカ美朱!大声ださないで!」
「浅葱こそ声大きい!」
のっそりと姿を表した「トラ」は、慌てふためく浅葱達を一瞥すると低く喉を鳴らし威嚇しくる。
ヤバい、ヤバい!脳内で警鐘がなる。確実にトラは自分達を獲物として見ている。
熊は目をあわせて後退りしろというが、トラの対処法までは知らない。とにかく撃退、または逃げなければ。
浅葱は足元に落ちていた棒を拾い、トラに向かって構えた。
「美朱、私が引き付けるからあなたは逃げ――」
「死んだフリ!!」
「ばかぁーーーーー!トラに死んだふりはきかないし、そもそも意味がない行動よー!」
「擬態なら!」
「餌がぶら下がっているようにしか見えないわよ!!きゃあっ!」
「浅葱!大丈夫!?」
飛びかかってきたトラを紙一重で回避したが、尻餅をついてしまい構えを解いてしまった。
丸腰。絶体絶命。そんな言葉が脳裏を駆け巡る。
「グルルル」
「浅葱っ!」
「まずい……美朱、あなただけでも逃げなさいっ」
「でもっ」
「早く行きなさいっ!」
じりじりと近づいてくるトラから目を放さず、美朱だけでも逃がそうとするが、彼女は震えながらも逃げることなく代わりに棒切れを構えはじめた。
「く…来るなら来なさいよ!!逆に食べちゃうからね!!ぎゃーっウソです!ごめんなさいーっ!」
「美朱っ」
美朱に狙いを定めたトラは勢いをつけ飛びかかる。浅葱は反射的に目を閉じ、妹から顔を背けた。
「ガァッ」
「…美朱!浅葱!」
「た…鬼宿…」
不意の鬼宿の登場に、美朱はヘナヘナと座り込み安堵の息をついた。
助けて欲しい時、必ずかけつけてくれる。それが嬉しくて、同時に悲しかった。
自分の存在は鬼宿ならず、彼の家族をも危険に晒してしまう。
もう自分のために危ない目にあって欲しくなかったから、浅葱と二人で出てきたのに…彼はここに来てしまった。
美朱はぎゅと手を握り締め絞り出すように声を出した。
「なんで…来たのよ。やめてよ、もう…あたしのために危ないことするのはやめて!!」
美朱は震えながらせきを切ったように今まで溜め込んできた想いを吐露する。
重い雰囲気に浅葱は黙って二人を見守りながら、周囲を見渡した。
鬼宿が来たなら柳宿も来たかもしれない、と淡い期待をもったが鬼宿以外誰かが来る気配はなかった。
チクンッと胸が痛み、浅葱は首を傾げる。
来ないのは鬼宿の家族の護衛かもしれないのに、なんで自分はそれにショックを受けているのだろうか。
(鬼宿が助けにきてくれたように、柳宿に助けてもらいたかったのかしら?)
自分が柳宿に助けてもらうなど想像がつかない。こちらに来てからずっといる保護者のような立ち位置の人物だからだろうか。自分の事なのに掴めない想いに胸がモヤモヤする。
浅葱は軽く頭を振ると、気持ちを落ち着かせ立ち上がった。美朱と鬼宿の二人から距離をおき、落ちてしまった美朱の荷物を拾い上げる。
「……来ても危ない目に合うだけよ」
ぽつりと呟いた声が少しだけ空しく。しかし、それをかき消すように美朱の叫びがかぶさり、浅葱は己の気持ちを自覚することはなかった。
「それがイヤなの!あたしに構って傷つくのがつらいのよ!あたしのことは放っておいて!」
振り向けば美朱と鬼宿が抱き合っていた。
痴話げんかの末の話し合いは、無事まとまったようで浅葱はほっと息を吐き出した。
拗れたまま時間が経つと、元の関係に戻るのは難しい。わだかまりを抱いたままでいることは浅葱も望んでいない。
それに信頼や愛情など壊れるのは一瞬。取り戻そうとすると一生かかることは、以前の人生で学んでいた。
「…オレが傍にいちゃだめなのか?
お前がいなくなった3ヶ月間、逢いたくて…気が狂いそうだった。もうオレはお前のいない世界なんて考えられない…。
オレが必ず護ってやる。何があっても二度とオレから離れるな――!」
「…っ」
(話は纏まったようね、よかった。……それにしてもお腹空いたわ)
昨日から何も食べていないことを思い出し、お腹を押さえる。朝早くに鬼宿を追いかけ、たどり着いた先でも敵に襲われ、唯の行方に関することで出てきている。
考えてみれば、まともな食事は昨日の夜以来だ。ふと視界に倒された虎が入り、ぼんやりと思う。
(このトラ、美味しいかしら?)
今ならなんでも美味しく頂けそうだ。空腹で考えることを放棄してしまっている浅葱は、そんなとんでもないことを思っていた。
それに食べることが供養にもなるだろうと、若干ヤバい目でトラを見下ろしていた浅葱は、鬼宿の美朱の名を呼ぶ声にビクンッと跳ねた。
「お腹すいたぁ……今動くと気持ち悪い」
「腹…かよ…」
安堵し表情を崩した鬼宿に美朱はにっこりと笑い、自分達から少し放れたとこにいる浅葱にも苦笑を寄越した。
「浅葱もだよね?昨日から何も食べてないし」
「あ……やば…っ」
「鬼宿、私のこと忘れてましたね。……別にいいですけど」
「うっ…忘れてたわけじゃねぇぞ!ただ――」
「はいはい、言い訳は結構です。美朱が好きすぎて心配だったんだ!って顔に書いてあります。
美朱、何か食べ物持ってきた?なければ、このトラ捌いていいかしら?」
「なっ…」
「浅葱~、包丁ないしお腹こわしそうだよ~」
「食べ物……」
「ごめん、その中にもないや。……鬼宿、お願いがあるんだけど、柳宿と乗ってきた馬にお菓子の入った袋があるの!取ってきて欲しいな!」
「………」
疑いの目で見てくる鬼宿に、美朱は必死に「もう行かないから!」と言った。
「あたしの食い意地しってるでしょ!もう、浅葱からも言ってよ!」
「鬼宿、私達、朝から何も食べてないので力が入らないんです。二人同時に連れて戻れないですよね?
美朱のこと見張っていますから何か食べ物持ってきてもらえませんか?」
お腹を押さえ、少しだけ困ったように眉尻を下げた浅葱の言葉に鬼宿は深々と息を吐き出した。
「そもそもお前が止めてくれさえしていれば、こんな事にはならなかっただろ」
「あの勢いの美朱を止めるなんて無理ですよ。でも、私達だけじゃ危ないとわかりましたし、もう行きません」
「はぁ…………わかった。柳宿も連れてくるから、大人しくしてろよ」
じっお互いの腹を探りあっていたが、真っ直ぐな瞳に鬼宿が折れ渋々立ち上がる。
柳宿という言葉に浅葱は額を押さえ、小さく頷いた。
会ったら怒られる。絶対説教だ。短い間であろうとも、だてに一緒に居たわけではない。きっと心配したと言いながら、こんこんと説教してくるに違いない。
頭が痛い。
がっくりと項垂れた浅葱と、苦笑いをしていた美朱の頭を軽く撫で鬼宿は急いで村に向かって走り出した。
その後ろ姿を切なそうに見つめ、美朱はおもむろに立ち上がった。
「浅葱、行こう」
「……いいのね」
「うん」
言葉少なに二人は立ち上がると、運良く通りかかった荷車に飛び乗りその場を後にした。
鬼宿にはああいったが、親友の手がかりが得られそうなのだ。じっとしてなどいられなかった。
馴染みのない、それも異世界であり仮にも敵国と見なしているに行くのは危険かもしれない。
しかし、だからと言って確認なしで宮殿に戻りたくはなかった。日々唯のこと気がかりでヤキモキしてなどいたくなかった。
そんな日々はこの一か月で終わりにしたかったのだ。鬼宿と柳宿には申し訳なしが、確認し次第、美朱を連れて戻るつもりでいる。
幸い、柳宿に世界の仕組みを聞いていたし、文字もマスターしたとは言えないが、日常程度の読み書きは問題ない。
浅葱は遠ざかる道を見つめながら、ぎゅっと手を握り締めた。
二人が荷馬車に乗ってから数分後、薄暗い森の道に鬼宿と柳宿の姿があった。
しかし、二人が来た時には双子の姿はなく、あたり一帯静寂に包まれ不気味なほどだった。
「美朱!浅葱!どこに行ったのよあの子達…っ。鬼宿、本当にここであってるんでしょうね!?」
「ああ、多分アイツらは………倶東だ。……っ、ちくしょう!」
ガンッと近くの木を殴り、鬼宿は唇を噛み締める。やはり信じなければ良かった!
殴った拳が軽い痛みを訴え、鬼宿の逸る気持ちを押さえつけてくれる。
「オレはアイツらを追いかける。柳宿、お前は栄陽に戻って星宿様にお知らせしろ!」
「あんた一人じゃ無茶よ!あたしも一緒に――」
いい募る柳宿に鬼宿は頭を左右に振った。
鬼宿の中では美朱がいない未来など描けないほど、彼女の存在は必要不可欠になっていた。
それに二人でいくよりも、二手に別れた方が効率がいいと柳宿を説得する。
鬼宿の説明に柳宿は暫く唇を引き結び無鈍でいたが、小さく頷き同意した。
確かに二人で手当たり次第に探すより、二手に別れた方がいい。
それに美朱は朱雀の巫女で国にとって大事な存在。倶東に向かったのだとしたら、皇帝である星宿に報告は必要で、場合によっては国同士の対立が深まる可能性も秘めている。
柳宿の脳裏に眉尻を下げ微笑む浅葱の顔が浮かんだが、それを振り切るように走り出した。