13話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どうすればいいのだろうか。
「…………」
先を進んでいた柳宿たちを追いかけ、気がつけば辺りは暗闇。
そのうえ二人を乗せていた馬が転び、その拍子に美朱が投げ出されて、さらには誰かに襲われて……それで?
なんで鬼宿と抱き合っているのだろうか?
浅葱は馬から降り、二人を囲んでいる人たちの輪に加わった。
「柳宿、これは…いったい?」
「……何ってただのバカップル」
「は?」
今何を?と間抜けな声を上げた浅葱は、再び抱き合う二人に目を向けた。
バカップル……バカップル……バカップル…パイナップル?
「そんなに悩むことないわよ。久しぶりの再会で周りが見えてないだけでしょ」
ようするに、自分の気持ちに気付いた二人が再会して、離れていた時間を埋めるように抱きしめあっているのか。
呆れたというか、なんというか。周りの人間すべて見えていない二人は、周囲の空気に気づいていない。
「はいはい。あんたら回りの大勢シカトして何ムード作ってんのよ!」
「「あ…」」
「あ、じゃないでしょ」
まったくも~!と呆れ顔の柳宿の隣では浅葱がキョトンと呆けている。それに気が付いた二人は勢い良く離れた。
「鬼宿さん、その人逹は…」
「ああ、こいつは美朱。朱雀の巫女だ」
「朱雀の…っ」
美朱の紹介に周囲の男逹がざわめく。伝説と言われている巫女が目の前にいるのだ確かに驚くだろう。
続けて呆れている柳宿を紹介する。
「こっちはオカマ……も、もとい、オレと同じ朱雀七星士の柳宿。で、こいつは…ダレ?」
オカマと言う説明に柳宿の鉄槌が下り、鬼宿は訂正を入れた。次に柳宿の隣にいる少年を見て鬼宿は首を傾げる。
柳宿たちと一緒に来たということは、知り合いの筈だが思い当たる人物はいない。
ただ、誰かに似ているような気がして、鬼宿は浅葱の顔を覗きこんだ。
「誰かに似ているような……」
「はい、そこまで!鬼宿、顔が近いわよ」
誰だ?と眉を寄せて考えていた鬼宿の襟首を摘まみ柳宿が引き離す。どこか怒っているような雰囲気に鬼宿はますます首を捻った。
柳宿がムキになるような人物……。はて?
「鬼宿、私がわかりませんか?」
「ん、んん~?もしかして、浅葱…か?」
「はい。やっと気づいてくれた」
動きやすいように男装を選んだのだが、どうやら変装としても役に立っていたようだ。
鬼宿は記憶にある浅葱の姿と、今の浅葱を照らし合わせ「よく化けたな…」と感心する。
それほどまでに、記憶にある彼女と目の前の人物とが合致しなさすぎたのだ。
「変装のつもりじゃなかったんですけどね」
鬼宿に気づかれなかったのなら、意外に変装の才能でもあるかもしれない。
そう冗談半分で言うと、鬼宿は「かもしれねぇな」と笑いながら返した。
「倶東との聞いたろ?こんな状況だ、不審なやつらが最近出回ってるらしくてよ。金儲けにこの村の用心棒やってんだ!ま、オレがいる限りこの村も安心だろーしな!」
勝気に笑う鬼宿に美朱が安心したように微笑む。
離れている間も、困っている人がいれば助ける性格は変わっていないことに美朱は安堵した。
粗方見回りもできたことだし、と鬼宿は美朱逹を促し厄介になっている村に誘う。
その時、松明の火が消えた。風すら吹いていない静かな森は一瞬で暗くなり、いきなり消えた火に村人逹がざわめく。
それを沈めようとした鬼宿の隙をつき、横にいた美朱が暗闇の森に引きずり込まれた。
一瞬のことで、鬼宿はもちろんのこと柳宿も浅葱も止めることが出来なかった。
「「「美朱!?」」」
鬼宿、柳宿、浅葱の声が重なる。
「くそ…っ」
「鬼宿!?」
「浅葱!危ない!!」
美朱が消えた藪に鬼宿が飛び込むと同時に、浅葱は切羽詰まった声の柳宿に腕を引かれ抱き込まれる。
刹那、鋭いモノが浅葱の腕を擦ったような気がした。
柳宿の胸に顔を押しつけられるように抱き込まれ、柔らかい布地に視界が塞がれた。
同じように塞がれた耳に誰かの断末魔が聞こえ、浅葱の身体が震える。
一体何が起こったのだろう。
「ぬ、柳宿……何があったの?」
「……浅葱、見ちゃダメよ。誰かが射った矢が、美朱たちが消えたと同時に飛んで来たの」
「なん…っ」
なんで突然。絶句した浅葱を抱きしめ、柳宿は木に寄りかかる。
注意深く周囲を警戒するが、次の一手は来ない。
村人以外に不審な人間もいないことで柳宿は体の力を抜いた。
「柳宿、大丈夫ですか?」
「ええ、もう居ないみたい」
「そうじゃなくて、怪我…してませんよね?」
何も見えないなか、もぞもぞと手探りで傷がないか確かめる。
痛がる素振りがないから無傷なんだろう。
「私は平気よ。私より自分の心配しなさい。腕怪我してるじゃない…」
密着していた体を離され、眉を寄せている柳宿の視線の先を追えば、確かに彼の言う通り左腕に赤い染みがついていた。
掠めた気がしたのは、気のせいではなかったのか。血を見て先ほどまで感じなかった痛みを感じ始める。
「これくらい平気です」
「ダメよ。せっかく白い肌なのにキズが残るわ!」
綺麗な肌してんだから大事にしなさい!と一喝され浅葱は肩を竦めた。
流石、美を追求しているだけありキズ一つでも鬼気迫る勢いだ。
「ほら腕出しなさい」
有無を言わせない迫力に腕を出す。それを手際よく手当していき、最後に浅葱の全身をくまなくチェックした。
腕以外怪我をした所はなさそうだと分かると、柳宿はやっと安心したように息を吐いていた。
「浅葱!怪我大丈夫!?……な、な、死んでる!!」
「げっ、なんだよ…こりゃあ」
浅葱傷手当が終わったころ、あたりの惨状に藪から出てきた美朱と鬼宿は死体を見て絶句している。
死んでいるのはさっちまで一緒にいた村人だ。無惨にも矢で射抜かれていた。
「柳宿何があった!?」
「……見ての通りよ!美朱が引っ張られて鬼宿が飛び込んでったと同時に、美朱のいた方に向けて矢が飛んできたのよ!」
「あたしが…狙われてるって、『あの人』言ってたの。この人たち…あたしのかわりに…!」
一人ブツブツと呟くと、震えはじめた美朱を鬼宿は抱き締める。
二人を見ていた柳宿は、美朱が左腕を掴んでいる事に気づき美朱に問いかけた。
「美朱、あんたも怪我したの?」
「あ、柳宿、それは違うと思います」
同じところを怪我するなんて姉妹だからかしら?と聞いた柳宿に、浅葱が否定する。
「私たち少し人とは違うみたいで、お互いのケガの痛みを共有してしまうんです。全てではないんですけど、最近は特に頻繁で…。ね、美朱?」
コクリと頷いた美朱に、鬼宿と柳宿は互いに目配せをして二人を交互に見た。
そんな話は聞いたことがない。
姉妹だとて、結局は別々の人間。互いのケガの傷みを共有するなどあり得ない。
疑う二人に美朱と浅葱は、言葉でしか説明できないことに歯痒い思いをしつつ、本当なんだと精一杯伝える。
「それに私たちは双子ですから、不思議なことだとは思いますが、そんなこともあるんですよ」
「は?双子ぉ!?」
「お前らがぁ!?」
確かに全く似ていないけれども、そんなに驚くこともないだろう。少しだけ面白くない。
「本当だよ。私はお母さん似で浅葱はお父さん似だっただけで、ちゃんとした双子だもん。同い年だけど浅葱は自慢のお姉ちゃんだよ!」
「私も美朱はカワイイ妹よ」
双子として生まれだけれど、精神年齢が浅葱が上に見られるため、どうしても双子として見られないことが多い。悲しいことに、同い年だと言っても信じてもらえないこともある。
どうやら自分たちのやり取りは、年の離れた姉妹のように見えるらしく、お姉さんは随分大人びていますねと言われることがよくあるのだ。
「どう見ても浅葱の方が歳上って感じね。美朱が子供っぽすぎるからかしら?」
「柳宿ひどい!私のどこが子供っぽいっていうのよ!」
「そういうのが子供だっていってんの。まったく少しは浅葱を見習って、落ち着きなさいよ」
頬を膨れさせくってかかる美朱に、柳宿は鼻で笑い飛ばしている。その光景は襲撃があったとは思えない程に賑やかで、居合わせた村人たちは唖然と見ていた。
「……二人とも言い合いはそこまでに。まずはここから離れましょう」
「そうだな。浅葱も怪我してるし、村まで引き上げた方がよさそうだ」
浅葱が美朱タたちの仲裁に入る。鬼宿もそれに頷き、一同は村に戻ることにした。敵に襲われ命を落としてしまった村人も一緒に。
※
行きなり押し掛けたにも関わらず、親切にも夕食を出してくれた家主に礼を述べ、皆で料理を囲みながら美朱が藪に消えた経緯を彼女から聞いているところだ。
襲われた当の本人は勢いよく料理を平らげてつつ説明しているため、柳宿に食べるかしゃべるかどちらかにしなさいと頭を叩かれていた。
「――だからそのキツネ顔が『朱雀の巫女』は倶東国に狙われてるって……」
「あ、美朱。それちょうだい」
「はい。でね、元の場所にもどったら、ああなってて……」
「…浅葱も何ズレたこと言ってんの。ったく…美朱、あんたショックを受けたわりによく食べるわね」
「だっへおなはすいてたんらもん(だってお腹すいてたんだもん)」
ガツガツと勢い良く食べる美朱に、柳宿は呆れ彼女を嗜める。浅葱は手当てをした左腕を庇いながらマイペースに箸を運ぶ。
宮廷料理とは違う素朴で美味しい料理に、落ち込んでいた気分も少しだけマシになった気になると浅葱はしみじみと思った。
「確かにこの国を護る朱雀の巫女は、敵国にはジャマだろーな」
「………」
「んな顔すんなって美朱。オレがいるだろ!オレが護ってやるから安心しな!
自分の存在が他国に疎まれているとショックを受けてる美朱に、鬼宿が威勢良く豪語する。
…………が、それに感動するより前に、彼の守銭奴魂に火をつけるような依頼が来てしまった。
「……鬼宿、今格好いいこと言ったのに」
「今に始まったことじゃないけど、七星士探す前に、鬼宿の金儲け主義治した方がよくない?」
鼻歌なぞしながら飛び足した鬼宿を見送り、浅葱は目を丸くする。金儲けが趣味とは知らなかった。
しかし本当に彼に美朱を任せていいのだろうか?
呆気にとられている浅葱とは反対に、柳宿はアレは病気だと呆れているのを聞きながら、浅葱は何とも返す言葉が見つからずまた箸を口に運ぶのだった。
※
「浅葱、美朱、あんた逹はここで寝なさい」
「「あたし(私)逹だけ?」」
案内された部屋に入るなりそう切り出した柳宿に、美朱と浅葱は綺麗に言葉をハモらせた。
「ここ狭いでしょ。私は鬼宿の所に行くから何かあったら呼びに来なさい」
「それなら大丈夫だよ!」
「そうね。そのことなら問題ないし、柳宿は美朱の護衛でしょ?」
部屋にはベッドが二台。対して人間は三人。柳宿の言っていることは正しい。双子の方がおかしいのだ。
無邪気に言う美朱と、にこやかな顔で頷く浅葱に柳宿は怪訝そうな顔をした。両壁際にベッドが一つずつあり、どう見ても二人が限界だ。
まさか通路になっている真ん中に寝ろと言うんじゃないだろうか。
「固いとこで寝るなんて御免こうむるんだけど」
「柳宿、何いってるの?」
分からないなぁと首を傾げる美朱では埒が空かないと、説明をも求めて浅葱に目を向ければ、彼女は相変わらず無表情のまま淡々とした口調で説明した。
「もちろん、ベッドで寝てください。私達は一つで間に合いますし」
「二人で一つを使う気なの!?」
「はい。そうですが、何か変ですか?」
変も何もおかしいだろ。それに狭くないのか。
「浅葱、久しぶりだね!」
「そうね…毎日受験受験ってそればかりだったから、寝る時間も合わなかったし」
…………。
どこにどうツッコミを入れるべきだろ。頭を悩ませる柳宿など気づかず、一緒に寝ること前提で話が進み、それを不思議に思わない美朱と浅葱に頭が痛くなってくる。
双子とはこういったことが普通なのか?
「……そう、わかったから。ゴメン、少し頭が痛くなってきたし先に寝かせてもらうわ」
「え?柳宿大丈夫?」
「何か薬でも貰ってきましょうか?」
「いらないわ…オヤスミ」
そう言うと、柳宿はよろよろと歩きそのままベッドに倒れこんだ。
「なんか柳宿変だったけど、あたしたち何かした?」
「さぁ……?でも今日は色々あったのだし疲れたのでしょう。そっとしてあげましょう」
首を傾げる美朱に浅葱も曖昧に答え、何も掛けずに寝てしまった柳宿に毛布をかけてあげる。
そっと額に触れてみたが、熱はないようで浅葱は安心した。
「さて私たちも寝ましょう」
「うん……本当に久しぶりだね~。ねぇ浅葱、こっちに来てからちゃんと寝れてた?」
「ええ、みんな良くしてくれてたし毎日熟睡よ…」
浅葱はベッドに座り、心配そうに見下ろしている美朱を静かに見返す。
僅かに細められた瞳に美朱はたまらず彼女の手を握りしめた。
「……嬉しいことも不安な事も半分こ、だよ。だからもう我慢しないでいいんだから」
「………ありがと」
「うん」
言葉少なめの会話だが、お互い何を思っているのか手にとるように分かり、二人は顔を付き合わせ笑いあう。
狸寝入りでそれを聞いていた柳宿は、少し寂しそうに唇に力を入れた。
彼女の不安定な心に気づいてアレコレとやっていたのに、その不安を解消させたのは彼女の双子の妹の美朱。
自分が彼女の不安を取り除きたかったのに…と少し悔しい思いをしつつ、柳宿は浅葱が触れていた額に手を置きゆっくり撫でる。
悔しさの中に、温かな気持ちが沸き起こり、唇を笑みの形に変え体の力を抜いた。