11話
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「………」
「………」
とある日の昼下がり。柳宿に会わせたい人がいると言われ、彼の部屋に出向いた浅葱はそこで一人の青年と顔を合わせた。
端正な顔立ちのその人物は、浅葱の世界でいうイケメンと言うものだ。
しかし、今はその見目麗しい容姿に生気がないただの腑抜けた男に、浅葱は困り果て柳宿に助けを求める視線をなげる。
顔を合わせた時から、彼は心ここに在らずの状態でただボーとしていたからだった。
「ほら!たまちゃん、シャキッとしなさい!あなたの将来の姉になる人がいるのよ!心証をよくしておかないと美朱は貰えないわよ!」
「………は?」
将来の姉?美朱を貰う?
頭に?ばかりが浮かぶ浅葱とはうって代わり、その言葉にたまちゃんと呼ばれて青年は勢い良く顔を上げマジマジと浅葱を見た。
「美朱の……姉?」
「そう……ですけど?」
「美朱!美朱も来てるのか!?」
「いいえ、私一人ですけど…」
この青年は美朱のなんなのだろう?
勢いに押されつつ自分だけだと答えると、彼は再び項垂れてしまった。
「そうか…」
「ええと…美朱とはどういった関係ですか?友達にしては、ちょっと反応が大袈裟ですし」
「どうって…………アイツとは仲間って言うか、大切なヤツって言うか…」
戸惑いながら聞いてみるが、彼は言葉を濁らせ頭を掻くだけで要領を得ない。
益々分からなくなってしまった浅葱は、柳宿に助けを求めた。
彼はしっかりしなさいよ!と青年をひっぱたいていたが。
「鬼宿は私達の仲間なの。つまり朱雀七星士なのよ。あと美朱のコレ」
コレと出された手には親指が一本上げられ、浅葱は「え…?」と柳宿と鬼宿を交互に見る。
親指を立てる仕草は古臭い印象を持つが、浅葱には意味が分かりぽかんと口を開けた。
コレの意味は美朱の彼氏が鬼宿と言う意味。つまり彼は美朱の恋人なのだ。
「えぇ!?」
「あら浅葱でもそんな顔をするのね。新しい発見だわ!」
「そんなことはどうでもいいです!彼、美朱の恋人なんですか!?」
受験勉強の合間に恋人をつくっていたのか!という驚きと、美朱って面食いだったなという呆れに浅葱は疲れたように肩を落とす。
そう言えば、母とのケンカの原因が男と会っていたことだと思い出し、さらにため息も出てしまった。
「とりあえず、自己紹介をした方がいいですよね。はじめまして、浅葱と言います。美朱の姉です」
「美朱の姉?似てねぇな」
「よく言われます。訳あって、今はここにお世話になっています」
皆さんいい人ばかりで、いい国ですね。と言うと、彼は皇帝陛下の人望の
「オレは鬼宿。さっき柳宿が言ったように、朱雀七星士の一人だ」
「それと美朱の恋人さん、ですよね?」
「なっ!それはだな…っ。その…」
「違うんですか?」
「……」
なぜ沈黙するのだろう。いまいちチハッキリしない鬼宿に、浅葱は静かに言葉を待つ。
彼は僅かに口を尖らせ、「確認してねえから分からない」と答えた。
「は……?」
「アイツ、自分の世界に帰るのに必死だったし、オレも離れるまで自分の気持がわかってなかったから。正直、美朱もオレのことどう思っているか分からないんだ…」
つまり片思いかもしれないと言うことか。
美朱がこちらで過ごした日々を知らない浅葱がどう返せばいいか考えていると、自分達の会話を聞いていた柳宿が「馬鹿ねぇ」と彼の不安を一蹴した。
「どう見てもあんたにメロメロだったじゃない!だいたい、そうじゃなかったら星宿様の求婚を拒むなんてしないわ」
「……求婚」
次から次へと出てくる自分の知らない妹情報に、浅葱は息を吐き出した。なんて罪作りな子だ。
「ま、美朱がいないと確証はないけどねェ」
持ち上げたと思ったら、突き落とした柳宿に、鬼宿は真っ赤から真っ青に顔色を変え項垂れる。
それが楽しかったのか、柳宿はにんまりと笑みを浮かべていた。
「……あの今はいませんけど、多分来ますから気を落とさないで待っててくれませんか?」
「なんでそんなこと分かるんだよ」
「姉妹の感です。それにあの子、頼まれたことを投げ出すような子じゃありませんから」
今彼らに自分たちの不思議な関係を教えても、信じてもらえないだろう。
浅葱はあえて曖昧な言葉で誤魔化しながら、「それはあなた方も知っていますよね」と続けた。
鬼宿と柳宿は目を瞬かせ、ふっと笑うのを目にし、彼らと美朱の関係に一抹の寂しさを憶え目元を細めた。
「そうよ!どうせあの子事だから、私たちに心配ばかりかけた後にひょっこり現れるわ。
それに浅葱がここにいるってことは、美朱も来るってことじゃない。そんな腑抜けた顔で美朱に会ったら、どんな事言うかしら?」
「うっ……」
痛い所を突かれ、鬼宿は自分の胸に手をあてる。自分自身、ただボーと無意味に過ごしていたと自覚はしていた。
ただ、何をしても美朱を思い出し手につかないという泥沼に嵌まってしまっていたのだ。
それは目の前の少女が環境に慣れようと頑張っていたときも。……確かに不甲斐ない。
「鬼宿さん?」
「はぁ、確かにだらだら無味に過ごしてんの性に合わねぇし。オカマに説教はされたのはムカつ…」
「た~ま~ちゃぁ~ん?」
「…アリガタイオコトバアリガトウゴザイマス」
ニコニコと笑みを浮かべながら指を鳴らす柳宿に、鬼宿は冷や汗を流し片言で返す。
力関係は柳宿の方が強いようで、浅葱はひっそりと納得した。自分も彼には世話になっている手前、強気に出られると断れないのでよくわかる。
しかし、二人でこれなのだ。七人集まったらどうなるのだろう。
「よし、シャキッとしたわね~。よかったわ、あのまま置物でいられたら邪魔で仕方なかったんだもの。浅葱のおかげね」
「……そう、ですか」
然り気無く酷いことを言った柳宿は作戦成功!と笑う。
浅葱と会わせたのは、紹介の意味の他に発破をかける意味もあったようだ中々の策士だ。
浅葱は脳内の引き出しにまた一つ柳宿の項目を増やした。
「さてと、たまちゃん。あなた現実に戻って来れたけど、これからどうする?美朱を待つ?」
「……一回家族の様子を見たいし、金を貯めて帰ってみる。こっちに来てから一度も帰ってないし」
「あら?てっきり美朱が帰って来るまで待つとか言うと思ったのに」
「いいんだよ」
そもそも出稼ぎ先で美朱に会い、帰ったあとも星宿の好意に甘え留まっていたにすぎない。
少しだけ仕送りがてら様子を見に行っても罰は当たらないだろう。鬼宿はそう続けた。
「柳宿、美朱が来たら呼びに来てくれよ」
「あら?美朱の事だから呼ぶより会いに行く確率の方が高いわよ」
「確かにやりそうだ」
からからと笑う二人を見ていた浅葱は、少し疎外感を感じ目を細めた。間に入れないのは仕方ない。
彼らとは出会って間もないのだ。会話の最中口を挟むような親しい関係に発展しているわけではない。
それを寂しく思っていると、不意に優しい手が自分の手に触れた。
先を辿るとそれは柳宿の手だと分かり、肩の力を抜く。
浅葱の僅かな変化に気づかなかった鬼宿は、「もう少ししたら帰る」と少し寂しそうに言った。
「ありがとな、浅葱」
「え……?」
「お前に会って少しだけ目が覚めた」
「なに、浅葱だけぇ?」
「柳宿もありがとさん」
「ふん。あ、ちゃんと星宿様にも挨拶して行きなさいよ」
「分かってるって」
そう言うとおもむろに立ち上がり、鬼宿は浅葱を見下ろしながら優しい目を向けた。
「浅葱、オレのことは鬼宿でいいぜ。さんとかつけられるとむず痒いし」
「でも……」
「気にすんなよ。美朱の姉ちゃんならこれから長い付き合いになるだろ?」
「……分かりました。鬼宿」
よし、と頷く鬼宿を見ていた柳宿は、触れていた手を握りしめ「鬼宿だけなんてズルい」と、浅葱に言いだす。
「私も柳宿って呼んでちょうだい。あなたと一番一緒にいる時間が長いのに他人行儀っぽくていけないわ」
「……ぬ、ぬりこ…?」
有無を言わせない笑みに押され、戸惑いながら名前を呼ぶ。柳宿はふんわりと笑うと、ぎゅうーと浅葱を抱き締めた。
「カワイイ~!」
柳宿は興奮すると抱きつく癖があるらしい。
なにやら妹と似たような癖だな…と、締め付けられて息苦しいなかぼんやりと思った。
「おい、変態!抱き締めるな!浅葱が潰れるだろ!?」
「誰が変態よ!」
「だ…っ!」
不用意な一言によって、鬼宿は柳宿に沈められる様子を、浅葱はぼんやりしてきた意識の中見ていた。
それから数日後。金が貯まったからと鬼宿は家に帰っていった。