第九話
夢小説設定
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『すみませんでした』
生徒達がそれぞれの部屋に向かった後、その場に残った命は無陀野に頭を下げる。
傍らでは馨が見守っていた。
「お前は間違っていない。だが、皇后崎も間違っていない。それだけはわかってやれ」
『…はい』
「命ちゃん、疲れてる?」
『え…』
「昼間会った時も元気そうじゃなかったから」
『……』
「命」
やはり、馨には見透かされていた。
何も言えず黙り込んでいると、無陀野がこんな提案を持ちかけた。
「練馬に戻るか?」
『…!』
命は目を見開いた。
まさか、無陀野からそんな提案をされるとは思っていなかったからだ。
『いいんですか?』
「不安定な感情のまま仕事をされても効率が悪い。何より無理に連れてきたのは俺だ、お前の好きにしろ」
「部隊には僕から説明するよ」
命にとって願ったり叶ったりの提案だった。
馴染み深い練馬に戻って、今まで通りの仕事ができるのは嬉しい。
しかし…
『(本当にいいの?)』
命の脳裏に生徒の姿が過る。
打ち解けた四季、優しさを表に出すようになってきた皇后崎、そして他の生徒達。
彼等を残して前線に戻っても良いのだろうか…。
どうしてもすぐに決断できなかった。
『明日の出発まで、考えさせてください』
「もし残るのなら、お前を此処に置いていく。いいな」
『…はい』
それだけ交わすと、命は部屋に向かった。
残された無陀野と馨はその背中を見守りながら話し合っていた。
「大分滅入ってますね」
「あそこまで苦しませるつもりはなかったんだがな、荷が重かったか」
一般隊員からいきなり教官に任命したのは無理があったかと、無陀野は反省した。
命の姿が見えなくなると、彼はため息混じりに呟く。
「…少し、過保護が過ぎたか」
「フッ…」
「?」
無陀野の呟きを聞いた馨が不意に笑いをこぼす。
突然笑い出した馨に、無陀野は怪訝そうな顔を浮かべる。
「いえ、失礼しました。でも今ので確信しましたよ」
「なんだ?」
「…無陀野さんですよね?彼女の昇進妨害してたの」
「何故そう思った」
「不思議だったんですよ。あれだけ優秀な子が、どうして役職に就けずに一般隊員のままなのかなって」
「……」
「わかっています。…全部命ちゃんのためですよね」
馨の推測は当たっていた。
命の優秀さは鬼機関で十分評価されている。
彼女に役職を、という話は今まで何度もあったが、無陀野はそれを全て阻止していた。
傍から見れば嫌がらせと思われるかもしれない。
しかし、"邪眼の鬼"の生き残りである彼女があまり目立つと、桃太郎に正体が気づかれる恐れがあると無陀野は判断していた。
全ては無陀野の愛ゆえの行いであった。
「女だが体術に長けている、頭も良い、何より統率力がある。上に立つには申し分ない」
それでも…あのひだまりのような笑顔がいつか見れなくなってしまうと思うと、耐えられなかった。
「…アイツだけは先に死なせたくないという、俺の我儘に付き合わせてしまった。今思えば、教官としてあるまじき行為だったな」
「……」
無陀野の言葉に耳を傾けながら、馨は別のことを考えていた。
「(推しカプ最高ぉ…!早く正式にカップリングしないかな、頑張れ命ちゃん)」
彼は内心歓喜していた。
この並木度馨という男、無陀野の隠れファンである。
そして憧れの人と可愛い後輩とのカップリングを楽しみにしていた。
なので、命が羅刹で無陀野の補佐に任命されたと聞いた時も、涼しい顔をしながら内心は愉悦に浸っていた。
「どうした?」
「いえ、何も。お聞きしたいのですが、何故彼女を教官に?羅刹で働くにしても、他にも仕事はあるはずです」
「誰よりも他人の痛みを理解できるアイツなら、生徒達に寄り添えると思ったんだ。アイツは、俺には無いものを持っているからな」
過保護ではあるが、無陀野はちゃんと評価している。
突き放すような言い方をしたものの、続けてほしいのが本音だと言葉から感じられた。
彼女が最善の選択をすることを馨は切に願った。
………_______。
命は用意された部屋のベッドに腰かけて考え込んでいた。
"練馬に戻るか?"
無陀野の提案が頭の中をぐるぐると回っている。
一人になると、冷静に考えられるようになった。
『(考えてみたら、授業は全部無人さんが進めてるし、私なんかいなくても…みんな大丈夫だよね)』
そもそも無陀野に補佐など必要ない。
少し淋しい気持ちもあるが、所詮仕事なんてそんなものだと自分に言い聞かせる。
『練馬に戻ろう…』
彼女は練馬に残ることを決意した。
『無人さんに伝えなきゃ。でも…』
その前にやることがある。
命は立ち上がり、部屋を後にした。
