第九話
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馨から話を聞いた後、命達は町中を歩いていた。
日が暮れて、ネオンや街灯でギラギラと輝いていていかにも東京、という雰囲気が醸し出ている。
「さっさと戻って飯食おーぜ」
矢颪が言い放つが、それに応える人は此処にいない。
いつも矢颪と一緒に騒いでいる四季が戻って来ない。
採血は既に終わっているはずなのだが…恐らく寄り道しているのだろう。
『(早めに迎えに行った方がいいかな)』
またお説教されては可哀想だ、と彼女が考えていた時だった。
「お姉ちゃん待って!」
彼等の横を幼い姉妹がすれ違う。
命は無意識にその2人を目で追った。
初めてのはずの見知らぬ姉妹。
だが、彼女の中で無性に懐かしい気持ちが込み上がった。
『……』
その気持ちを誤魔化すように目をそらして、足を進める。
何事もなくホテルに到着する…はずだった。
バシュッ
ギャギャ
ドッ
『えっ!?』
背後から重いものがぶつかる音が聞こえて、全員が振り返る。
そこには横転するトラックがあった。
「事故だ!」
「トラックが突っ込んできた!」
土煙が晴れると、道路の真ん中で先ほどの姉妹の姉が倒れている。
どうやら事故に巻き込まれたらしい。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
傍らで妹が必死に倒れている姉に呼びかける。
少し離れた場所で、皇后崎が姉妹をじっと見つめていた。
何もない場所で横転したトラックと、呆然と立ち尽くす皇后崎を見て、命は全てを理解した。
その瞬間、大股で皇后崎に歩み寄り彼の肩を無遠慮に掴む。
『何をしてるの!?』
「!?」
切羽詰まった声で詰め寄ると、皇后崎は目を見開く。
何も言わない皇后崎に苛立ちながら、背後にいた無陀野に声をかけた。
『無人さんこの子…!』
「血を使ったな、すぐに逃げるぞ。桃が動く」
すぐにホテルへ戻り、チェックアウトすることとなった。
生徒達に身支度を整えさせる。
「街の防犯カメラは大体桃機関と連携してる。血を使うと反応を掴み、桃機関へ情報を送る。すぐに場所を移すぞ、40秒で支度しろ」
その時、無陀野のスマホが鳴った。
「はい」
(無陀野さん、状況は把握しています。隠れ家へ案内するのでそちらへ避難してください)
電話の相手は馨だった。
彼の案内で偵察部隊の隠れ家に避難することになった。
「ここは普段偵察部隊が使ってるアジトです。直接情報を共有したり、会議したり機密情報を保管したり」
「あの古本屋じゃねーの?」
「あそこは生活に紛れて情報を仕入れる所、あーゆう所がたくさんあるといざって時敵の目を散らせるしね」
マンホールから地下に移動する。
京都もだが、鬼機関の拠点は地下が多い。
命を狙われている以上、地下の方が何かと便利なのだ。
「練馬区周辺、偵察部隊の隠れ家だ」
地下は広い空間が広がっていて、鬼機関の隊員が勤務している姿も見受けられた。
「ナツ君は他の隊員が迎えに行ってます」
『ありがとうございます、馨さん』
「何から何まで悪いな」
「この後の予定は?」
「仕方ない、学園に戻る」
「(よかった…帰るんだ…)」
羅刹に戻ると聞いてロクロは安心していたが、血の気が多い矢颪は不満げだった。
「はぁ!?また何もせず終わりかよ!?こっちは京都から不満溜まってんだぞ!」
『黙って。欲求不満なら自分で処理して、今それどころじゃないんだから』
「あ?んだテメェ」
『黙れって言ってんのが聞こえないの?』
「…!」
真顔で圧が籠った声で咎められ、流石の矢颪も口を閉ざす。
すると命を見た他の隊員が騒ぎ出した。
「蝶世さんだ…」
「羅刹の教官になったってマジだったんだな」
「勿体ないな…練馬の戦力の主軸だったのに」
言いたい放題言われるが、今はどうでもよい。
命は横目に皇后崎を見た。
一応は反省してるのか、俯いて黙り込んでいる。
その様子を見て、彼女は無意識に舌打ちをしていた。
「ナツ君到着しました」
「どーゆう状況?」
そこにスマホで連絡を受けた四季が到着した。
彼は皇后崎がやらかしたことを聞いた。
四季は矢颪のように怒るか、馬鹿にするかと予想されたが、意外な反応を見せた。
「え?子供助けたの!?おま…マジで!?超かっこいいな!」
彼は皇后崎がやったことを手放しで喜んで褒め称えた。
「なーんだ!アクシデントっていうから何事かとおもったわ!あれ!?でもなんでこんな殺伐としてんの?」
あまりの能天気ぶりに近くにいた隊員も困惑している。
流石の矢颪も居た堪れなくなったのか、四季に話しかけた。
「お前…空気読めねーな」
「え?褒め称える空気だろ?」
「くく…本来ナツ君の反応が正しいよね。この空気で言えるのも凄いけど」
「?サンキュー?」
馨の言う通り、四季の気持ちもわかる。
子供を助けたことは決して悪いことではない。
けど事情が事情だ。命は我慢できなかった。
彼女は皇后崎の前に立つと、大きく手を振りかざした。
パンッ
「!?」
地下に乾いた音が響いた。
皇后崎は一瞬何が起こったかわからなかった。
頬の表面が焼けるように痛みが広がっていく、彼はようやく叩かれたと理解した。
『…自分が何したかわかってんの?』
「…!」
「え…チヨ先?」
いつもより低く、抑揚のない声で皇后崎を叱る命。
ここまで激怒した命を見たことがない生徒達は困惑と僅かに恐怖を覚えていた。
『死ぬなら勝手に死んでよ!同胞を巻き込まないで!』
「……」
「よせ、命」
怒りのままに皇后崎を叱っていると、無陀野に後ろから肩を引かれ制止される。
そこでようやく、命は我に返った。
『ごめん…!私…』
「いい、アンタの言うとおりだ」
『違っ…』
「悪かった」
皇后崎はそれだけ言ってそっぽを向いた。
それを見た命に言いようのない後悔がこみ上げる。
すると無陀野が彼に近づいて話しかけた。
「お前がやったことは間違いじゃない、が正解でもない。体術のスキルを磨け。次から血を使わずに対処できるようにな」
無陀野は戒めるように皇后崎の頭にトンと人差し指を立てて、押し当てた。
無陀野が離れると、四季が再び皇后崎に話しかける。
「でもお前が子供助けるって意外だな!蹴っ飛ばして歩いてるイメージだわ!」
「すごい偏見だね」
「救えていない。俺はまた救えなかった」
皇后崎は悔しげに呟く。
その様子があまりにも寂しげで、命は胸が締め付けられる。
一方で四季は意味深な言葉に疑問を浮かべていた。
「また?」
「部屋の用意ができました」
「日の出までに出発する。それまで寝て体力回復に努めろ」
こうして、皇后崎が起こしたアクシデントによって、命達は偵察部隊の隠れ家で一晩を明かすこととなった。
