第三話
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まず行ったのは京夜への輸血だった。
一つだけじゃない、幾つもの血液型を問わない輸血パックの針が京夜の腕に打たれる。
京夜の腕は管だらけになった。
「なんであいつにつけてんだ?患者につけないのかよ?」
「しっ」
疑問をぶつける四季に女性隊員が黙るよう注意する。
静けさの中、京夜は瀕死の患者に問いかけた。
「旦那、腕と脚どっちが欲しい?腕なら口を1回、脚なら2回閉じてよ」
枕元に立つ京夜に、患者は浅い呼吸の中でパク…と1回口を閉じた。
「腕ね…了解っす」
「こ…子供…生…れ…抱き…め…たい…」
「しっかり抱かせてあげますよ」
患者は必死に自分の願望を京夜に話す。
その願望に応えるように、彼はニヤリと笑って自分の手首をメスで切った。
「ただ俺の血を大量に"入れる"んでマジ超痛いっす。我慢お願いしゃっす!」
傷口から溢れ出た血液が患者の口に流し込まれていく。
「俺の血は戦闘向きじゃないけど便利なのよ。この血は鬼の回復力を何倍にもしてくれる」
「あんたたち!押さえるの手伝って!」
女性隊員の指示で四季、皇后崎、矢颪の武闘派が患者を押さえつける。
「ううぅうぅぅぅぅ」
患者は次第に苦しみだして暴れ出す。
それに伴うように、輸血パックの血液がどんどん減っていく。
「輸血ガンガン減ってる!?」
『輸血のストックってどこですか?持ってきますよ』
「お願いします!隣の部屋です!あんたたちも突っ立ってないで血ドンドン持ってきなさい!」
『ほら行くよ』
暇をしている命が遊摺部、漣、手術岾を連れて輸血パックのストックが入っている段ボールを運ぶ。
生徒が一箱ずつなのに対し、命は二箱、三箱を重ねて軽々と運んでいく。
華奢な命の意外な一面に生徒や他の隊員はギョッとしていたが、本人は構うことなく輸血パックを運ぶ。
一方で京夜の血を飲ませていた患者に異変が起こる。
「おお…!」
失われた腕からグニィ…グニョ…と新たな腕が蠢きながら生えてきたのだ。
「うぉ!なんだ!?」
「細胞が再生され始めた」
ズルッ
「あぁぁああぁ…」
患者の絶叫が続く中、腕が生成されて今度はその先から手が生えてくる。
同時に深手を負っていた胸部も傷が治っていく。
「おぉ!」
そして、患者の腕と胸部もとい肺は綺麗に完治したのだった。
「手と肺が…直った…!」
短時間とはいえ、苦しい治療を乗り越えた患者は再生した腕を信じられないような顔で凝視する。
とりあえずこの患者は大丈夫だと、治療を見守っていた命は息をついた。
すると四季が京夜に問いかける。
「なぁ。時間おいて脚も治せないのかよ」
「少量なら何回でも治せるけど、一度に大量に摂取すると抗体ができちゃうんだ。そーなるともう脚の再生まではできないんだ。これ以上摂取したら体がもたないしね」
京夜は治療を終えた患者の枕元に膝をついて、彼に話しかけた。
「旦那、貴方はもう戦闘部隊から外されると思うっす。でもこれからは援護部隊で一緒に戦いましょうよ。子供と一緒に走れるように、バチバチにいい最新の義足作らせまっせ。ま!とりあえずリハビリ頑張りましょうね」
京夜の言葉に患者の男性は涙を浮かべる。
しかし、それは悲しみではなく心の底から湧き出る喜びの涙だった。
「ありがとう…感謝しきれない…」
彼は再生された手で顔を覆いながら感謝の言葉を述べた。
「よいしょっと」
話を終えた京夜は歩き出して、傍観していた四季達の横を過ぎ去り際に言い放つ。
「これが鬼と桃太郎の戦いだよ。あの隊員が未来の君たちかもしれない。色んな理由で前線に行きたい気持ちもマジで分かる!けど!前線だけが戦場じゃない。前線で前を向いて戦えるのは、その背中を守ってくれる人がいるからってことを覚えときな。戦う人の後ろで、傷ついた鬼を全力で助けるのが俺の…援護部隊の仕事だ…ここが俺の戦場だよ」
自分の仕事に誇りを持ち、熱く語る京夜の姿に胸を打たれた生徒も少なからずいるようだった。
「あんたマジかっけぇ!チャラついてて嫌いだったけと漢だぜ!」
「分かる!チャラ男だけど痺れたな」
特に前線に出たがっていた矢颪と四季は、京夜を見直した様子で彼を称賛していた。
「ふへー俺の株爆上がりじゃん」
『上がった後は下がるだけですから気を引き締めてくださいねー』
「えー俺の妹ちゃん辛辣ー」
『いつから兄妹になりました?』
プイッとそっぽを向く命。
悪態づいてはいるが、本心ではない。
チャラいし鬱陶しいけど仲間想いで優しく、自分の仕事に誇りを持つ京夜を彼女は心から尊敬している。
『(絶対言ってあげないけど)』
言ったら抱きつかれて頬擦りされるのは目に見えてる。
何も言わないのが得策だ。
「よっしゃあ!なんでもするぜ!ジャンジャン指示くれ!」
「あ、四季君には別のこと頼みたいのよ」
「ん?なんすか?」
京夜が指をさす方向には地下なのに縁側があり、そこには小さな黒髪の女の子が腰掛けていた。
「あそこにいる芽衣ちゃんのケアを頼みたいのよ」
「あいつ?何かあったのか?」
「昨日運ばれて来たんだけどね、桃太郎機関に襲われたらしく両親がまだ見つかってないんだ。四季君見た目に反して優しいし、頼むよ」
「おーまぁいいぜ」
大分失礼な言い方だが、四季は気にせずに芽衣の元へ向かった。
四季達も援護部隊の仕事にやる気になってくれたようで、とりあえず安心する命。
すると治療が一段落した京夜が、彼女の肩を抱いてどうしても気になっていたことを問いかけた。
「…で、なんで命ちゃんはダノッチの下に着いてるの?練馬で頑張ってたじゃん」
『…除隊させられました』
「なんで!?」
命は自分の身に起きたことと、無陀野が自分を引き抜いたことを京夜に説明した。
話を終えると、京夜の表情が僅かに歪んだかと思えば、肩にあった手を後頭部に移して命の頭を自分の胸へ抱き寄せる。
そしてさっきのように力いっぱいではなく、優しく…壊れ物を扱うように彼女の頭を撫でた。
「…ごめん、怖いこと思い出させたね」
『そりゃ気持ち悪かったけど、未遂だしもう気にしてませんよ』
「そっか、よかった…無事で」
頭を撫でる京夜の手が心地よかった。
その流れで命は本心を彼に打ち明けた。
『あの人に憧れて戦闘員になったのに…その本人に除隊させられるとか皮肉ですよね』
「んー、でも命ちゃんは先生の方が向いてるんじゃないかな」
『校長先生にも言われました。けど、まだ自信持てないです。生徒は全然言う事聞いてくれないし、なんならナメられちゃってます。なんで無人さんは私を副教官にしたのかわからないんです。私は…あの人みたいに厳しくて優秀な教官にはなれません』
「ダノッチは命ちゃんにそういうのを求めてるんじゃないと思うよ」
『それって…』
どういうことですか?、と続けようとした時だった。
急に廊下が騒がしくなった。
「先生!」
騒ぎを聞きつけて二人が廊下へ向かうと担架で人を運ぶ鬼で溢れる。
その担架には死体が寝かされていた。
『殺されたご遺体ですね…』
「あらま…たくさん来たね」
「見回りをしてた援護部隊が大量の死体を回収したみたいです。ざっと30人くらいです」
『そんな量の死体が放置されてたんですか?』
隊員の言葉に命は違和感を覚える。
鬼は死ぬとツノが出てしまうため、一般人に見られないように鬼機関で死体を回収する決まりになっていた。
この死体達は京都のあちらこちらに放置されていたという。
まるで
『(まさか…ね)』
さすがに自分の推測は現実的ではないと、命が首を振った刹那、子供特有の高い声が響いた。
「待って!」
声の主は、四季が面倒を見ていた芽衣という鬼の少女だった。
芽衣は担架で運ばれていく鬼の死体を見て、弾かれたように駆け寄る。
「パパ!ママ!」
彼女が駆け寄った先には、男女の夫婦らしき鬼の死体があった。
「芽衣…」
「芽衣ちゃんのご両親だったのか…」
『そんな…』
芽衣は父親の遺体が乗る担架の前で泣き崩れた。
幼い少女には、あまりにも辛い現実だった。
「うわああぁぁぁぁパパァ…!ママァ…!」
「慣れないね…本当に…」
悲痛な泣き声が響き渡る中、京夜はやるせない気持ちに耐えるように腰に手を置いて俯いていた。
