序章
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御伽話の桃太郎と鬼は実在した。
数千年にも渡り、互いに子孫を増やしながら戦争を続けていた。
いつしか桃太郎は《桃太郎機関》、鬼は《鬼機関》という組織を作り現代まで日々戦いを繰り返している…
『………』
《鬼機関》練馬区戦闘部隊に所属する蝶世命は椅子に腰掛けたまま項垂れ気落ちしていた。
原因はデスクを隔てて目の前に座る男である。
「…で?何か弁解があるなら聞いてやる。2分以内にしろ」
腕を組み、命を睨みつける彼は無陀野無人、命の先輩であり想い人でもある。
以前まで戦闘部隊のエリートとして活躍していた人物だが、現在は一線を退き母校ー羅刹学園で教員として働いている。
そんな無陀野に何故命が睨みつけられているかというと、遡ること2時間ほど前のことだった。
その日、命はミスを犯した。
任務で桃太郎数人を倒したところ、隠れていた桃太郎に隙を突かれ拘束されてしまった。
『なっ!?』
「捕まえたぞ、"死を呼ぶ蝶"!一緒に来てもらおうか!」
頸動脈の辺りに刃物を突きつけられ、生命の危機を感じた命は彼に従う他なかった。
廃工場まで連行されると跪かされ、数人の一般隊員の桃太郎に押さえつけられた命にリーダーらしき男がニヤニヤしながら迫りくる。
何をされそうになっているかは明白だった。
『(気持ち悪い…)』
なんとかこの状況を打破しなければならないと思った命は、自分の下唇を思い切り噛み傷つけると、そこから出た血を口の中に溜め始める。
そして男が顔を近づけてきたその時、口に溜めていた血を相手に吹き掛けた。
「ぐあああああっ目が…目がぁぁぁ!!」
命は血を毒に変える能力を持っており、男に吹きかけたのもただの血ではなく猛毒と化した血だった。
毒が目に直撃した桃太郎はその場で悶苦しみ周囲の桃太郎もパニックに陥る。
命はその隙を逃さず、押さえつけていた手を振りほどき技を出して暴れ回った。
……___。
その後命はその場にいた桃太郎全員を殺し、彼女への乱暴は未遂に終わったが、殴られたり髪を引っ張られたりして、応援が駆けつける頃には彼女の姿はボロボロになっていた。
「命!」
『え…無人さん!?』
そこには何故か無陀野の姿もあった。
用がありこっちに来ていたところ、命の状況を知り戦闘部隊に同行してきたという。
その後基地に戻り、治療を終えた命は一室を借りて無陀野と対面していた。
ガーゼが貼られた頬や包帯が巻かれた手を見て、無陀野はポーカーフェイスを僅かに歪める。
「無様な姿だな」
『面目ないです…』
厳しい言葉に命は俯いて苦笑を浮かべた。
そして話は冒頭に戻る。
『(言葉足らずなところは変わらないなぁ…)』
無陀野と命の付き合いは長く、無蛇野が学生の頃から交流があった。
故に命は理解していた。
厳しい言葉は優しさの裏返しなのだと。
だから反論はせず、素直に謝罪をすることにした。
『お見苦しいところを見せて申し訳ありません。以後気をつけます』
「いや、お前に以後はない」
『え…』
「さっき隊長に話を付けた。お前は除隊だ」
除隊という言葉を聞き、命は困惑した。
確かに捕まってしまったのは自分のミスだ。
だが、クビになるほどの失態を犯してしまったとは思えなかった。
『無人さん…流石に怒りますよ。私これからどうやってご飯食べていけばいいんですか?』
「お前の次の仕事は決まっている。行くぞ」
そう言って立ち上がり、命の手を取り連れて行こうとする無陀野。
彼の悪癖が出ていると気づき、命は更に抵抗した。
『業務内容!行き先は言わなくていいんで仕事の内容だけ教えてください!無駄じゃなくて必要なことです!』
命の抗議に一理あると察したのか、無陀野は渋々説明を始めた。
「お前にはこれから羅刹学園で俺の補佐をしてもらう。以上だ」
『…無人さん、合格者出したんですか?』
羅刹学園で教官をしている無陀野だが、ここ数年合格者は出していないと聞いていた。
それなのに命が補佐に回されるということは、今年は合格者が現れたということだ。
『何人いるんですか?』
「6人だ、それと…」
『?』
「鬼神の子が1人追加されるかもしれない」
『えぇ!?』
鬼神の子と聞いて命は驚愕した。
かつて桃太郎機関を壊滅寸前まで追い込んだとされる鬼神…その血を継いだ鬼がこの世に8人存在するという。
まさかその鬼神の子だというのか。
『事情はわかりました。でも…なんで私なんですか?他にふさわしい人はいると思います』
「俺は鬼神の子の確保に向かう。お前は先に鬼門島に向かえ」
『無人さん!!』
命の問いかけに答えることはなく、無陀野はローラースケートで滑って基地を立ち去って行った。
命はただそれを茫然と立ち尽くして見送った。
『行くしかない…か』
こうして無蛇野によって戦闘部隊を除隊させられた命は、行く当てもないので言われるがまま身支度を整えて羅刹学園がある鬼門島、通称"鬼ヶ島"に船で向かうことになった。
出発直前、お世話になった隊長や他の隊員達が見送りに来てくれていた。
「頑張れよ!」
「無蛇野さんによろしくな!」
幾多の死線を越えた仲間との別れは寂しかったが、激励の言葉が嬉しかった。
本当は同じ練馬区の偵察部隊隊長と副隊長にも挨拶をしたかったが、生憎別件で練馬に不在のため何も言えないまま練馬を後にした。
鬼門島行の船に揺られている間に無陀野から渡された新入生の情報が載った書類を読みながら命ははけ口のない、言いようのない圧迫感に苛まれていた。
『なんで私が…』
命は特別出世しているわけではなく、ただの戦闘員だ。
そんな自分が何故教員に…書類に目を透しながらも頭の中はずっとぐるぐる回っていた。
『あ…この子が鬼神の子か』
最後の書類に鬼神の子について書かれていた。
名前は一ノ瀬四季、義理の父親と二人暮らしの少年らしい。
『ふーん…鬼神の子って言ってもただの男の子だな』
しげしげと興味深く書類を読む命は知らない。
この少年が桃太郎と鬼の戦いに大きな影響をもたらすことを。
そして自分がその渦中に巻き込まれつつあることに、彼女はまだ知らない…。
続く
