◈優しい温もり
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‡‡人は、孤独だ
他人と触れ合っているのに‥
その温もりに抱かれているのに‥
心は
こんなにも
孤独 ‡‡
他人と触れ合っているのに‥
その温もりに抱かれているのに‥
心は
こんなにも
孤独 ‡‡
ピピピピッピピピピッピッ―‥‥
『‥‥‥』
朝。
いつもと変わらない繰り返しの日常。制服の袖に腕を通しながら、今日の授業内容を思い出して鞄に教科書を詰め込む。
『おはよう‥』
お決まりの朝の挨拶の言葉は静かなリビングに響くだけ。
両親は仕事で海外に赴任中。朝一番で見送ったのは昨日。この家には私しかいない。家政婦を雇うと言った父にこれをキッパリ断った。‥大変だったけど、毎日一回電話することで母が了承してくれた。
『いただきます』
簡単に作った朝ご飯を食べながら、テーブルに置いてある家族写真を見て思う。こんなにも優しい両親に愛されて幸せな筈なのに‥私の心は冷え切ったまま。満たされず、何も感じない。親不孝だと自分でもわかってる。
『ごちそうさま』
食べ終えた食器を片付けて、綺麗に洗う。寂しいとは思わない。
私の心は冷たいままだからこの孤独が心地良かったりする。
『‥‥‥行ってきます』
鞄を持ち、テーブルの写真に告げて家を出る。学校へと向かう見慣れた通学路を歩きながらふ‥っと思う。
私の心はいつからこんなにも冷え切ったのか‥?
そこで、思い出した。前居た学校で親友だと信じていた女の子が幼なじみを傷つけていた‥嫌な記憶。私のせいで幼なじみが傷つき、耐えていた事にも気づけなかった‥私の罪。そのことに嘆き悲しみ、自分の愚かさが赦せず‥‥手首をカッターナイフで切った。幸い、深く切れてはなかったが‥手首には今も痕が残る。
幼なじみのあの子は泣きながら私を責めるのではなく、自分自身を傷つけた事に怒っていた。その時もうひとりの幼なじみに渡されたのがこのリストバンドだった。
その事をきっかけに私は他人を拒絶し始めた。
『‥‥‥』
人は、自分以外の人間の心など理解することなんか出来やしない。どんなに近くに居ても、だ。当たり前だろう。
全てを理解することは出来なくても感じることは出来るだろうが‥それは、相手を知りたいと思うから。
ただ自分の心を押し付けてわかったつもりでいる人や勘違いをする人が多いから‥捻れる。
だから、私は他人を拒絶する。傷つかないように‥誰も傷つけてしまわないように‥。
「神崎」
『‥‥‥』
仁「おはようさん」
一瞥して、止めた足を再び動かす。また‥。彼は、何故私を気にするのかわからない。用事があるわけでもないのに、私の所に来ては勝手に話してる。相槌もしないで無視し続けても‥‥彼は来る。
今も、何も言わずに私の隣を歩く。全く理解出来ない彼の行動。無視し続ける私に懲りもせず、毎日‥隣に居る。唯一の存在‥‥。
『‥‥‥』
仁「?‥神崎」
『‥何故、毎日私の隣に居るの』
仁「‥俺が居たいだけ」
『‥何故、私に話しかけるの』
仁「俺が話したいから」
『私‥貴方が、嫌い』
仁「俺は好きじゃがのぅ」
『‥ッ‥‥バカバカしい』
苛立つ。彼の言葉に嘘が感じられないことも、私に向ける優しい眼差しも、嫌いだ。
このやり取りも今回が初めてじゃなかった。毎回繰り返す質問も答えも変わらない。
仁王 雅治という人物は私に何を望むのだろう。
こんなにも拒絶し、無視する私に好きだと言う彼が‥‥ワカラナイ。
『‥‥‥』
仁「‥ん?」
『‥‥違う‥』
わからないんじゃなく、ワカリタクナイんだ。あんな思いをしたくないから‥。
誰かが傷つくより近しい人間が傷つくのがなにより‥嫌なんだ。
彼は、私の思考の大半を占領してる。気を‥許してるわけじゃない、決して‥。彼もまた、必要以上に踏み込んでは来ない。触れるか否かの一定の距離を保ちながら隣に居る。
本当に、不思議な人‥‥。
‡side:仁王‡
今日も俺は神崎の隣を歩く。
一方的な会話とは言えない独り言を話しながら。端から見たら可笑しな光景じゃろが‥俺は気にもならん。神崎も気にしてないらしい。
隣を歩く彼女は綺麗な顔立ちの美人さん。日本人形のような美しさの和服がぴったり似合うような女。
無表情の冷たい態度も、嫌な感じはせん。むしろ、凛とした凛々しさを感じるくらいだろう。
周りは、近寄りがたい雰囲気を放つ彼女に好奇心はあるものの遠巻きに見てるだけ。彼女の傍には俺以外居ない。それが、嬉しいと感じとる俺は狂ってるのかもしれんが‥‥それでもいい。彼女が好きだと言うことに嘘はないからの。
『‥何故、毎日私の隣に居るの』
仁「‥俺が居たいだけ」
『‥何故、私に話しかけるの』
仁「俺が話したいから」
『私‥貴方が、嫌い』
仁「俺は好きじゃがのぅ」
『‥ッ‥‥バカバカしい』
いつものやり取り。
周りを、他人を拒絶する彼女にとって俺の行動が理解出来ないらしい。好きだと言うと一瞬、苦しそうな辛い表情をする。戸惑うのも無理はない‥普通なら無視された時点で近寄らんからな‥。
でも俺は、彼女が‥神崎 あやめが好きなんじゃ‥。
「マジかよι」
「ドンマイ(笑)」
「笑い事じゃねーよ!!」
「神崎が隣じゃあなー(苦笑)」
「替わってくれる奴いねぇかなー」
仁「なら、俺と替わらんか」
「マジっ!」
仁「あぁ。ブン太も近しいの」
「サンキュー仁王!」
今は席替えの最中、くじを引きその席に移動する。彼女の席から離れた場所のくじを引き沈んだ気持ちが浮上した。
窓際の後ろの席、その隣には神崎が居て前にはブン太。うるさいだけの女子が居ない最高の席。
仁「隣、よろしくな」
『‥‥そう』
手に持つ本から視線を外すことなく短く返事する彼女に笑えた。
嫌いだと何度も言われて来たが、最近じゃ、短くはあるが返事を返してくれる。どこか矛盾する彼女の行動が笑える。
少しだが、彼女の中に入ることを許してくれとるんじゃろ‥‥無意識に。
『‥‥何』
仁「否‥なんでもなか」
怪訝そうに睨む顔ですら愛しいと感じる。どこか、幼さが見え隠れする彼女の表情を見るのは楽しい。よく見てないと気づけないがのぅ。
丸「よくもまぁ‥毎日毎日アイツと居るよな、お前」
仁「まぁな」
丸「飽きねーの?見てっと、話してるわけじゃねぇみてーだし」
仁「飽きんよ。隣に居るだけでも楽しいからの」
丸「ハァ~‥ι俺にはさっぱりわかんねーよぃ」
仁「だろうな(笑)」
彼女に初めて会ったのは二年の終わり。その時転校して来た。クラスは違ったが、あれだけの容姿だからクラスの奴なんかは大騒ぎしとったな。初めは物珍しさから声をかける奴が居たが、あの性格じゃから次第に彼女に声をかける奴が居なくなった。
丸「アイツも、もう少し愛想あればいいと思うんだけどな」
仁「神崎はあれでいいんじゃよ。変な虫も寄らんし」
丸「ハイハイ‥(独占欲かよぃι)」
今思えば、俺は出会った瞬間に彼女に惹かれたんだろう。柔らかな笑みを浮かべる彼女は、綺麗じゃった。出来ることならその笑みを自分に向けて欲しい‥そう望んでしまう。
それだけ俺は彼女に惚れてしまってる証拠じゃな。
仁「お帰り」
『‥‥』
仁「女子は調理実習じゃったんか」
『そう‥』
仁「ブン太が喜ぶわけか」
チラッとブン太を見れば、女子からそれをもらって喜んどる。
そこに好意はないんじゃから哀れじゃの‥。
仁「何作ったんじゃ?」
『‥クッキーとカップケーキ』
仁「俺にはないのか?」
『誰かに貰えばいいでしょ』
仁「神崎のが欲しいんじゃ。他はいらん」
『‥はぁ‥』
仁「ふっ‥‥素直じゃないのぅ」
『うるさいッ』
キッと睨んでくるが怖くない。
照れ隠しだとわかってるからな。ぶっきらぼうに渡されたラッピングを開くとこれまた可愛らしいクッキーか入っとった。
仁「うさぎとは‥驚いたナリ」
『‥‥‥』
罰が悪いのか、そっぽを向いてる神崎に小さく笑った。
まったくギャップがあり過ぎじゃなか?
お世辞にも可愛げがあるとは言えん彼女がうさぎのクッキーを作ったということに笑えた。
『いらないなら、返して』
仁「嫌じゃ。神崎から物が貰えるなんて滅多にないから貴重ぜよ」
『たかがクッキーでしょ』
仁「神崎からってのが重要なんよ」
『‥‥物好きね』
仁「そうじゃな」
呆れ顔の神崎に笑って言えば少し困ったように視線を逸らす。一線を引く彼女に少しではあるが‥歩み寄れた気がしとる。
クッキーを一つ取り出し、口に含むとほど良い甘さが広がる。
仁「美味いぜよ」
『そう、良かったわね』
仁「せっかく褒めとるんじゃからもう少し喜んだら‥‥!!」
『‥‥‥何?』
仁「ぁ‥なんでもないぜよι」
『そう‥』
驚いたナリ。
反則じゃろ?
不意打ちとは、卑怯ぜよ。
まぁ、本人は無意識らしいが‥‥
一瞬、見せた笑み。
小さくではあるが、綺麗な笑みを浮かべとった。
仁「‥‥ハァ~‥」
こんなにも彼女が愛しいとはの。
ほんのり紅いだろう顔を逸らして空を見上げた。
ーーーーーー
私は‥彼に何を期待してるのだろう?
拒絶しておきながら、最近じゃ短くはあるけど返事を返してる。自分のことなのに、ワカラナイ。
席替えにしたって隣が彼だってわかったら安心した。
いつの間にか、彼が隣にいることに安心する自分が居ること驚いた。
『どうしたのかな‥‥私‥』
ほんと‥どうかしてる。
気が付けば、彼のことばかり気にしてる‥‥彼の前だと、素直に笑えた。
あのクッキーはよく幼なじみのふたりに作ってたからか、無意識にうさぎの形になってた。周りの子も驚いてることに気付いた時には作り終えてしまっていたから‥諦めた。
『習慣って怖いわね‥』
嬉しそうな笑みを浮かべながら食べるあの子、からかいながらも食べるあの人‥‥大切な幼なじみの姿。
彼に‥仁王君にあげたのは、気まぐれ。他のはいらないと言った後、突き刺さるような女子からの視線が痛かったなぁ。
『‥‥気を、許してる‥』
気まぐれじゃなく、私自身気を許してるんだ。認めたくなくて‥気付かないふりしてただけ‥。彼だから、仁王君だから‥あげた。美味しいと言った彼の言葉が何よりも嬉しいと感じた。いつから、彼を拠り所にしていたのか。気が付けばいつも隣に彼が居た。何も言わず、ただ傍に居てくれた。嫌な筈なのに、心は嬉しいと感じる矛盾に困惑するばかり。
『私は、どうしたい‥?』
真っ青な青空を見上げて問い掛けても、答えは出ないまま‥。自分のことなのに、わからない。無意識にリストバンドを握り締めてた。
騙されてたことに気付かないで、勝手に信頼して‥‥裏切られた。
大切な幼なじみまで傷つけられて‥自分自身が赦せず、悔やんで‥‥あの後から私は孤独を選んだ。自分が赦せないから‥他人を信じられないから‥そうでもしないと、私は生きて行くことさえ‥捨ててしまうから。
こんな私を知ったら―‥
『貴方は、どうするのかな‥』
きっと、ここで彼の手を取ってしまったら最後―‥離せない。だから、私から手を伸ばしたりしない。
例え、そこに安らぎと幸せがあったとしても―‥‥。
『‥‥‥』
「‥‥ぁ‥」
屋上を後にした時、男子生徒とすれ違った。何か言いたそうだったけど、これを無視。誰だったか名前は知らないけど、女子が騒いでた気がする。‥‥どうでもいいけど。
仁「‥お帰り」
『‥‥‥』
彼の声が、言葉が‥嬉しいと感じるのは‥何故だろう?
仁「どした?」
『‥何が』
仁「ぼんやりしとるじゃろ」
『そんなことないけど‥』
仁「無理したらいかんぜよ」
『別に‥貴方が気にする事じゃ‥
仁「心配するさ」
‥‥なんで‥』
仁「お前さんだから、な」
そう言って笑う彼が、とても眩しくて‥顔を逸らした。
頬が、熱い。きっと、紅いだろう顔を見られたくなくて俯くしかなかった。
トクン‥トクン‥トクン―‥
胸の奥が、静かに満たされてるのがわかる。
だからといって、私はそれを受け入れることが出来ない‥‥。他人を信じられないままの私が、彼の好意を素直に受け取れば‥私はきっと‥彼なしでは生きて行くことが出来なくなるから‥。
それに、裏切られるのが怖いから―‥‥。
仁「のぅ、神崎」
『‥‥‥』
仁「人を好きになるんは、辛くもあるもんじゃな‥」
『‥‥?』
昼休み。
私は彼に連れられて屋上に来てる。暖かな日差しに心地よい風が吹き抜けて行く。
会話はほとんどなかった中、唇を開いた彼の言葉に理解出来なくて首を傾げる。
仁「本気になったのは初めてじゃから、一喜一憂ばかりやし。」
『‥‥なら‥』
仁「ん―、それは出来んのぅ」
やめればいい。
そう言おうとした言葉を奪い、拒否された。
仁「独占欲が強いらしくてな。他の男がお前さんの傍に居るのは、ムカつくんじゃ」
『別の、人‥‥‥』
彼じゃない誰かが、私の傍に居る?
『‥‥嫌よ‥』
仁「‥‥神崎?」
『貴方以外なん‥‥!!』
私‥何、言って‥。
これじゃ、まるで、彼に居て欲しいって言ってるようなものじゃない‥。
仁「‥神崎‥。今の―‥
『‥‥先に戻る』
あ!オイ!」
立ち上がり、彼の呼び止める声を無視して走って逃げ出した。頭の中がぐちゃぐちゃ‥。
私は、彼に何を期待して‥いつか、彼だって離れて行くのよ?私たちはまだ中学生、これから先、色んな出会いがある。
その中で彼の気持ちが変わらないなんてことを信じられるの?
『はぁ‥‥はぁ‥。馬鹿みたい‥』
キーンコーンカーンコーン‥‥予鈴のチャイムを聞き流し、教室とは逆に歩く。授業を受ける気にはなれない。静かな場所で考えたい‥‥答えが見つかるかは、ワカラナイ‥けど。
そっとリストバンドを握り締めた。
「神崎さん!」
『‥‥』
「話があるんだけど‥いいかな?」
『‥‥貴方、誰』
ーーーーーー
‡side:仁王‡
仁「言い逃げとはな‥」
残された俺は、予鈴を聞き流して、空を見上げとる。頭の中は、先程言い逃げした彼女のことでいっぱいじゃ。
俺以外は嫌だと言ってくれたんじゃが、どうやら自分でも驚くくらい無意識だったらしいのぅ‥‥俺は、嬉しいがな。怯えとるような気がする。何にと言われるとわからんが‥触れれば壊れそうなくらい、危うい。そんな感じ。何がそう感じさせるんかは知らん‥けど、俺は彼女をこの手で掴んだら一生離してはやれんじゃろな。
仁「フッ‥それだけ、ハマってしまったってことかのぅ」
少しずつ近くに歩み寄れとるが、彼女は迷ってるみたいじゃな。無意識でも、彼女が少しでも俺の存在を意識してくれてるだけでも進歩だろうな。
まったく、テニスよりも彼女のことを考えてるなんて真田に知れたらいつもの台詞を言われるな(笑)
―‥‥ガチャ キィィィッ―‥
仁「神崎?」
『‥‥‥』
仁「どうしたんじゃ?‥‥‥‥神崎‥」
先に戻るって言っとったから、授業出とるもんじゃと思ったんじゃけど‥一体、どうしたんじゃ?
隣に座ったっきりで何も言わんし。
『仁王君‥』
仁「ん?なんだ」
『‥‥どうして、私を好きだって言えるの‥』
仁「唐突じゃな‥。俺がお前さんと言葉を交わしたのは、今年の初詣だったか」
『‥‥』
仁「赤也がお前さんにぶつかって倒れそうだった所を俺が助けた」
『そうね‥』
今思うと、奇跡じゃろな‥。
転校して来た彼女に興味は湧かなかった。無表情で全てを拒絶するような雰囲気を纏う彼女に関わろとは思わなかったからの。
でも、あの時‥。雪がちらつく中、静かにそれを眺めて笑っとった彼女を見かけて‥不覚にも、見惚れとった。綺麗な笑みを浮かべながら雪を見とる彼女が何よりも綺麗だと思った。
仁「実際、話てみると苦労したぜよ。毎日シカトされるし、嫌いだとはっきり言われるしの」
『‥‥‥』
仁「それでも、諦めたくなかったんじゃ」
少しずつ、変わっていく彼女の態度に気付いたから。今も、こうして俺の隣にちゃんと居てくれる。
『‥‥私は‥』
仁「‥‥」
『私は、他人を信じることが出来ない。だから、仁王君が私を好きだって気持ちを信じてあげられない‥』
なんとなく気付いとった。
どんなに好きだと言っても彼女は困った顔を浮かべていたからの。
『前居た学校で、私は親友だと思ってた子に裏切られたの‥』
仁「‥‥」
『直接、その子に何かされたわけじゃない。‥されてたのは幼なじみの子だった』
彼女が今どんな表情をしとるか綺麗な黒髪に隠れて見えん。
じゃが、無意識なのかリストバンドをギュッと握ってる。
初めて自分のことを話す彼女の言葉に耳を傾けた。一語一句、聞き漏らさんように‥。
ーーーーーー
『馬鹿よね‥。勝手に信頼して、あの子がどんなに辛い思いをしてるかも気づかないで‥‥。無邪気に笑ってた』
仁「‥‥‥」
私は、何を話しているのだろう?
あんなにも拒絶していたのに‥彼は、どうして私をひとりにしないでくれるのだろう?
心の奥底では、孤独であることに泣いてた。
だからだろうか‥彼の言葉が嬉しいと感じるのは‥‥。
『あの子が殴られてたのを知ったというより、その場面を見ちゃったの‥。その後はよく覚えてない‥。半狂乱になって‥近くにあったカッターナイフを手首に当てて‥‥‥引いた』
仁「!!?」
『その時の傷。このリストバンドね‥もうひとりの幼なじみの男の子にもらったの。
ねぇ、仁王君‥‥人の心なんて簡単に変わるの。変わらないなんてこと断言出来やしないし、私は信じられない』
仁「じゃが、それじゃあお前さんはひとりぼっちじゃぞ」
『傷つかないで済むなら、傷つけないで済むなら‥‥それでも、いい』
彼は、こんなにも優しいのに‥こんなにも温かいのに‥私は、それを素直に喜んであげられない。ずるいとわかっていても、怖いの‥君が、離れてしまったら‥と考えると、踏み込むことが出来ない。
『‥さっき、別のクラスの男子に告白されたわ』
仁「俺以外にも物好きが居ったんか」
『そうね‥。でも、何も感じなかった』
そう、何も‥。彼とは違った。その違いが何なのかはわかってる‥きっと、私自身が彼に惹かれているということ。本当に、ずるい‥。怖いと言って拒絶しているくせに、傍に居て欲しいと願ってる。
仁「裏切ったりせんよ」
『わからないわ‥そんなこと』
仁「ふむ‥。俺は、お前さんを手放したり、裏切るような真似はせんて断言出来るんじゃけど」
『なんで、そんなことが言えるの‥』
仁「言ったろ?独占欲じゃよ。それに、好きな奴を泣かせるような真似はせん」
そう言って笑った彼に胸がギュッと苦しくなった。こんなにも私を好きだと言ってくれる彼に、少しだけ‥その言葉を信じてみたくなった。
『本当に、不思議な人‥』
今日は休日で部活動をしてない私は家事をし終えて、くつろいでいる。午前中に家事をやってしまったし、午後は買い物に行くことにした。‥‥だけど、出掛けなきゃ良かったと今更に後悔した。
原因は‥‥
「神崎さんは今からどこか行くの?良かったら一緒に‥あ!待ってよ!」
うっとうしい‥。ずっとつきまとって来るコイツはこの間告白してきた人。何度無視してもつきまとう‥正直、コイツは嫌い。彼とは違うから、同じでもきっと私はコイツを嫌う。
ずっと隣で喋るのを無視しながら、私は彼のことを考えてる。
どうして、今此処に‥彼は、居ないのだろう
『‥‥居るわけない‥』
彼は私の恋人じゃないんだもの‥いつも彼が傍に居るなんてこと、あるわけ‥ない。どうしたのかな‥私。いつの間にか、彼が隣に居ることが心地良かった。私は、私の中に入って来るモノを拒んで来た‥傷つきたくないから‥関わることにやめて、拒絶して‥ひとりになった。
優しさも、温もりもあるのに‥‥私は、強くないから‥何かを捨てないと壊れてしまうの。
「あやめさん、待ってよ!」
『!!?‥‥離せッ!!』
手を掴まれとっさに振り払った。他人に触れられるのを嫌うからか、触れられた場所からゾッと鳥肌がたった。気持ち悪い‥半狂乱になりそうな心を静めるように深く息を吸って、吐く。
「‥どうして、そんなに拒絶するの?」
『‥関係ないでしょ‥』
「関係なくない!俺は君が好きなんだ!だから‥
『‥興味ない‥』
‥え?」
『興味ない、って言った』
「なら、仁王は君にとって何?」
『‥‥』
「仁王は詐欺師だよ。君のことなんて本気じゃないんだよ?ただ、君をからかって遊んでるだけだ」
『‥ッ‥』
「裏切られるだけだよ?」
『!!?』
どうして、こんな言葉に動揺してるの?
どうして、私は‥‥こんなにも彼に会いたいと願ってるんだろう?
裏切らない。そう言って笑った彼の顔が脳裏に浮かんだ。
『‥‥ぁ‥』
「神崎さん!!」
間違いない。きっと、あの綺麗な銀色は彼のトレードマークだから‥。彼の声が、笑顔が、きっと今の私にとって大切なモノになっているんだと思う。どんなに嫌いだと言っても、心は満たされるばかりで。自分のことなのに、まるで私がふたり居るみたいに相反する気持ちの‥どちらが本音なんだろう?
もしかしたら、どちらも本音なのかもしれない。ただ、今は‥この胸に広がる不安を消したくて‥彼の元に走った。
‡side:仁王‡
切「次どこ行きます?」
丸「ゲーセンはもう行ったしな~。幸村、どうするよ?」
幸「そうだな。朔夜、部活の備品で買い足す物はあるのかい?」
「そうですね。なら、少し救急箱の中身が減ってしまっているのでお買い物してもよろしいですか?」
ジャ「なら、近くにデパートがあったな」
真「うむ。そこで買い出しをするとしよう」
蓮「だな。それに、そろそろ赤也たちが腹減ったと騒ぎ出す頃だ」
丸「腹減った~」
切「俺もッス」
柳「流石、柳君ですね」
仁「わかりやすい奴らじゃのぅ」
今日は珍しく部活を休みレギュラーで遊びに行こうと言った幸村の提案に赤也がソッコーで賛成しとったの。真田は渋っていたが、参謀も賛成したから仕方なくではあるみたいじゃが‥結構、乗り気じゃぞ(笑)
彼女は‥何しとるんじゃろな‥。傷つくことを、傷つけることを怖いと言った彼女は、本当に優しい子じゃと思った。そして、寂しいと言えないでいると言うことも‥。
どこまでも、素直じゃないのぅ。けど‥彼女が別の奴に告白されても何も感じなかった、そう言ってたが‥なら、俺の言葉はちゃんと彼女に届いているんだろう。そのことが嬉しい‥彼女の中に入ることを許されたんじゃからな。
柳「そういえば。仁王君」
仁「なんじゃ。柳生」
柳「陸上部の笠井君、知ってますか?」
仁「あ~‥。女子が騒いどったな」
柳「えぇ。その笠井君なんですが、神崎さんに告白したそうですよ」
仁「そらまた、随分な物好きやの」
笠井‥確か、爽やかな感じの奴じゃったかの。
柳「クラスで騒いだみたいですね。気を付けて下さい」
仁「女子は怖いからな。ま、神崎がその手の奴らを構ったりせんとは思うが‥。
念には念を、じゃな」
柳「その方がいいでしょう」
仁「あぁ。
‥ぐいっ―‥‥
Σっと!!‥神崎?」
『ハァ‥‥はぁ‥。‥匿っ‥て』
仁「は?」
「神崎さん!」
『‥ッ‥。お願い‥』
ギュッ―‥
いきなり服を引っ張られたと思ったら噂していた彼女が後ろにいた。匿う、とは穏やかじゃないが‥どうやら、彼女自身、本気で困っているみたいじゃし。それに、追っかけて来るのは男か。ギュッと握る彼女の手が微かに震えてる。
仁「‥朔夜。神崎と先行っててくれんか」
「はい。精市たちはどうします?」
幸「後から向かうよ。ジャッカルと弦一郎、それに蓮二は朔夜と先に行っててくれ」
真「わかった」
蓮「了解した」
ジャ「あぁ、わかった」
ふたりで行かせたら、変な虫が寄るからか。流石、幸村じゃな。真田が居れば安心だろうしな。
仁「というわけじゃ。お前さんも早く行きんしゃい」
『‥‥‥ありがとう‥』
すれ違い様の言葉。随分、素直じゃな(笑)
さて、どうするかのぅ。
柳「おや。笠井君ではありませんか」
「あぁ、柳生か。奇遇だな」
柳「そうですね。どうしたのです?そんなに急いで」
柳生も上手いのぅ。
ある程度時間稼ぎせんと見つかるかもしれんしな。
「あ、神崎さん見なかったか?」
仁「神崎なら、あっちに行ったぞ。全力疾走しっとったみたいじゃが」
丸「アイツ足速いんだな。意外だぜ」
柳「笠井君が追いつけないとは、驚きですよ」
幸「隠れた才能かな」
切「(俺、余計なこと言わないでいよっと)」
柳「何故、彼女と?」
「偶然会ってさ。少し一緒に過ごしてたんだよ」
胸の辺りがモヤモヤしとる。嫉妬じゃな‥独占欲が強い上に嫉妬深いとは‥。見つけたのが俺だったら良かったのに‥そんな無駄な考えが頭をよぎる。
柳「ですが、笠井君。女性を困らせるのは、よくないと思いますよ」
「困らせたわけじゃないよ。手を握ったら真っ赤になって走り出しただけ。照れ隠しだよ」
仁「照れ隠し?神崎が?」
照れ隠しの彼女が、匿ってなんて言うかι
震えていた彼女の手。触れることを‥触れられることを嫌う彼女が俺に触れたのは初めてだな。
仁「おめでたい奴ナリ(ポツリ」
ーーーーー
「そろそろ、精市たちが来るそうです」
柳「上手く誤魔化せたようだな」
ジャ「仁王が上手く騙したんだろ」
真「しかし、女子を追いかけ回すなど‥たるんどるわ!」
『‥‥‥』
デパート内のカフェで待機することにした私たち。彼以外に関わりなんてなかったけど、変わった人たちだと思う。不思議と嫌な感じはしない。
それに‥
「もう、安心ですよ」
『そうね』
彼女と話すのも嫌いじゃない。むしろ、落ち着く‥‥関わらないでいたから気付かなかっただけ。彼女もまた、私と似た所がある。価値観みたいな、そんな所が。
彼に関わらなかったら、出会うことすらなかったかもしれない。本当に、彼と出会ってから私が変わっていく気がする。どうしてかな‥嫌な感じがしないのは‥。
「お帰りなさい」
ジャ「大丈夫だったみたいだな」
丸「当然だろぃ!」
幸「だけど、またどこかで会うかもしれない。神崎さん、良かったら一緒に行動しないかい?」
『そこまでしてもらう必要はないわ。買い物済ませて帰るから平気』
「なら、せめて仁王君を連れて行って下さい」
幸「そうだね。荷物持ちにもなるし」
『けど‥』
「どの道、此処から別行動するつもりでしたからお気になさらず(微笑)」
何だか、有無を言わせない感じがするんだけど‥。でも、私の都合でせっかくの休日を狂わせるのは‥なんとなく嫌だ。巻き込んで置いて今更ではあるけど‥。
仁「そんじゃ、そうするかの」
『は?』
仁「ほら、行くぞ」
『ちょっ‥!』
なんか、勝手に決まったみたい?
他もそれぞれ別行動してる。仕方なく彼について行くしかない。
仁「で、買い物って何買うんじゃ?」
『食料品』
仁「自分で自炊しとるんか?」
『両親は海外に赴任中。家政婦さんは嫌だから断った。‥自炊しなきゃ、餓死してるわね』
仁「女の子ひとりは危ないぜよ」
『別に。それに、幼なじみのふたりがよく来るし』
毎日ではないけれど、時間がある時に来ては夕飯を食べて行く。別にひとりが寂しいとは感じない。
仁「‥‥。聞きたいんじゃけど、幼なじみの男はお前さんに気があるのか?」
『有り得ない。あの人の恋人はもうひとりの幼なじみだし、貴方も知ってる人物よ』
テニス部で知らない人はいないでしょうね。あんな目立ちたがり屋の俺様。
仁「俺が?」
『氷帝の跡部って言えばわかるでしょ』
仁「アイツが幼なじみなのかι‥なら、そのリストバンドは跡部のか」
『えぇ』
自分勝手な人だけど、きちんと周りを見渡せるしっかり者でプライドが高いあの人は優しい所もある。ふたりして何かと気に掛けてくれる‥。
仁「‥‥」
『どうかした?』
仁「否、なんでもなか」
『‥怒ってる‥』
仁「怒ってなんかないぜよ?」
『‥‥‥』
気のせいじゃない筈。
彼との付き合いは長くないし、むしろ嫌っていたけど‥最近は彼の小さな変化に気づけるようになってた。だから怒ってるのも気付いたけど‥目の前の彼は誤魔化す。独占欲が強いと言ってたけど‥‥まさか‥‥
『景吾に嫉妬でもしたの?』
仁「‥ピヨッι」
『ふふっ』
仁「笑わんでもえぇじゃろ」
『ぇ?‥‥ぁ‥』
私‥笑ってた?
ふたり以外の前で笑えなかったのに‥‥。彼の前だから、自然に笑えた?‥‥彼の前だと素の自分で居られる‥‥彼の前だと素直になれるあれだけ触れることを、触れられることを嫌っていたのに‥彼に自分から触れた。
まったく、殻に閉じこもった私を連れ出すのが上手いんだから。
仁「やっと笑ってくれたな」
『‥‥‥そうね。貴方に関わる内に、私の何かが変わっていたみたい』
あんなにも拒絶して、突き放したのに‥隣にはいつも彼が居て。気が付けば彼との会話が楽しいと感じてる自分がいた。不思議と嫌じゃなくなってた‥。
『本当に、変わった人‥』
仁「それ、褒め言葉か?」
『さぁ。‥どうかな?』
仁「‥‥それは、卑怯じゃ‥」
『‥何が?』
仁「なんでもないぜよ」
私、何か言った?
そっぽを向く彼に首を傾げる。こんなにも楽しいと思ったのはいつぶりかな?
彼は幼なじみのふたりとは違う安心感がある。素直に笑えるのは、私が彼に気を許しているから。
きっと、私は‥彼を必要としてるんだと思う。飄々とした人物の割に、さりげない優しい所や子供っぽい所‥‥大人っぽい見かけとは裏腹な性格でまた笑えた。
仁「‥楽しそうじゃな」
『‥‥えぇ。‥楽しいわ』
仁「やけに、素直やのぅ」
『仁王君に感化されたのかもしれない。こんな自分も嫌いじゃないかも‥(微笑)』
仁「そうか」
その後、何気ない話しをしながら買い物をした。カゴを取ろうとしたら自分が持つと言って取られた。こういうことに慣れてると思うと胸の辺りがモヤモヤした。嫉妬でもしたのだろうか?よく、わからないけど‥。
仁「今日、何作るんじゃ?」
『パスタにしようかな‥‥って、なんでそんなこと聞くの』
仁「ん?気になってのぅ。な、今度弁当作ってくれんか」
『他の子にでも頼んだら』
仁「お前さんのがいいんじゃよ」
『はぁ‥。なら、来る?』
仁「は?」
『ウチに来るって言った』
仁「いいのか?男連れ込んだりして」
『気を許してなかったら誘ったりしない』
仁「(喜んでいいやら‥わからんのぅ)」
『どうかした?』
仁「否。‥そんじゃ、お言葉に甘えるか。せっかくの誘いやしのぅ」
『そう‥』
本当に、不思議‥‥さっきから笑ってる、なんて。彼の雰囲気に当てられたのかな。だとしたら、これはこれで‥‥悪くない‥。
『出来るまで適当にくつろいでて』
仁「適当と言われても、困るんじゃけどι」
買い物を済ませ、神崎の家に着いて中に入ったはいいが‥くつろいでろと言われたもののどうしたもんかι
俺にお構いなしに彼女はエプロン姿になって、髪留めをして用意を始める。
『‥何‥?』
仁「ん‥お前さんのエプロン姿が可愛いと思って見とれとった」
『‥ッ何言ってるんだか‥』
プイッと顔を逸らした彼女の頬が微かに赤らんでいるのが見えた。ホント、今日の彼女は素直じゃな。向けて欲しいと思った笑みは、あの日と変わらず綺麗でこっちが照れた。こんなにも愛しいと思ったのは初めてじゃ。気を許してもらえたのはいいが‥‥男として見られとらんのぅι
『どうかした?』
仁「考え事じゃよ。なかなか答えがわからなくてな」
『なんの答えがわからないの?』
仁「お前さんの心」
『‥‥‥は‥?』
随分と間抜けな反応じゃな(笑)しかし、ここまで意識されんとは流石の俺でも凹むぜよι
『‥何を知りたいかわからないけど。今の私は‥‥仁王君のこと嫌いじゃないよ』
仁「!!?」
『不思議だけどね。‥あんなにも拒絶して、嫌ってたのに‥。本当に、変わってる人(微笑)』
そうか‥彼女の綺麗な笑みを向けてもらえたのは、嫌いじゃないからか。
他人を家に入れることすら嫌っていたのに、入ることを許されたのは警戒心を解いてくれたから‥。
仁「今日はえらく素直やのぉ」
『‥そうね。‥今日は、ひとりで居たくないから‥甘えてるのかもね』
仁「笠井のことか。随分しつこい奴に好かれたみたいじゃな」
『迷惑なんだけどね。アイツは私なんか見てないわ。見てるのは私の殻だもの』
確かに、周りが見えないのか、無理矢理手に入れようとしとる感じじゃな。
‥強気な彼女が震えて助けを求めて来たくらいだし。チラッと見ると、学校とは違う彼女が居る。甘えてる‥‥それだけ信頼されていると思うと、今すぐにでも抱き寄せてしまいたくなる。
『出来たよ』
仁「おぉ。運ぶの手伝うぜよ」
『そう?なら、お願い』
仁「了解ナリ」
改めて新しい一面を見たぜよ。並べた皿を見ると素直に美味そうだ。彼女に家庭的な所があったとはな。
仁「いただくぜよ」
『どうぞ』
仁「‥‥美味いな。これなら、いつでも嫁に行けるんじゃないか」
『無理よ。でも、そうね‥その時は貰ってくれる?』
仁「ん。いいぞ」
『なら、私を裏切ったりしないでよ?』
仁「フッ‥。わかってる」
なんだか、恋人みたいな会話じゃな。彼女の変わりように驚きじゃ。‥否、変わったんじゃなくこれが彼女自身なんだろうな。よく笑って、甘えて‥それが今自分に向けられてることが嬉しい。
心は壊れやすく危うい
ガラスよりも弱く、猫みたいに俺を翻弄する彼女は一番愛おしい人よ。
しかし、あれからと言うもの笠井は何かと神崎に近寄るが朔夜と仲良くなったのかひとりで居ることがなく、幸村たちも居るからかちょっかい出して来ないし‥安心じゃな。
仁「最近は楽しそうやの」
『そう?』
仁「良く笑ってるしな」
『そうね。‥テニス部限定だけど』
仁「俺にとっては好都合じゃき」
『私は複雑』
仁「なんで?」
『テニス部ファンの呼び出しがしつこいから。仁王君たちが居ない時を見計らって来ては話があるからついて来い、用件はわかってるんだから教室で言えばいいのに』
よっぽどしつこい連中だったんじゃな。うんざりしてる彼女は不機嫌そのもの。気を許しているのは俺を始めテニス部だけ、拒絶はしている。俺たちの関係も変わってはいない。つかず離れずの一定の距離を保つだけ。最近は、笑いかけてくれるようになったが‥そのたびに触れたくなる‥。
『仁王君?』
仁「‥ぁ‥‥あぁ、なんじゃ」
『‥手、見つめたりしてどうかしたの?』
仁「ぁ‥いや、なんでもなかι」
『‥‥手、大きい』
仁「神崎?」
『男と女じゃこんなに違うのね。ほら』
手比べをしながら微笑む彼女の手を握った。小さく柔らかな清潔感のある手から伝わる体温が心地いいナリ。
『両親や幼なじみ以外で私から触れるのは貴方だけ』
仁「奇遇やの。俺が抱き締めたくなるのはお前さんだけじゃよ」
『‥‥。‥今は、まだ自分の気持ちがわからない‥でも、わかったらちゃんと伝えるから‥‥待っててくれる?』
仁「待っとるよ。それまでは色々と我慢せんといかんなぁ」
『我慢?』
仁「こっちの話」
『??』
少しだけでも近いた距離が今はちょうどいいのかもしれんな。こうして素直な気持ちを話してくれるようになったんじゃし、今はまだ俺に笑いかけてくれる彼女を見てるぜよ。
仁「また、手料理作ってくれな」
『私ので良ければいつでもどうぞ(微笑)』
仁「ほぉ‥。なら、弁当作ってくれんか」
『わかった』
仁「楽しみじゃ」
友達以上恋人未満の曖昧な俺たちには、もう少し互いを想いあう時間が必要だ。彼女を傷つけたくないからの。
こんなにも綺麗に笑う彼女の隣に自分が居ていいと思うと気持ちが安らぐ。
『‥ん~‥』
仁「なんじゃ、眠いんか?」
『これだけ温かいと眠くもなる』
仁「そうじゃな。少し眠ったらどうだ?肩貸すぜよ」
『ん‥‥ありがとう‥』
とんっ―‥
次の授業はサボりじゃな。
肩にもたれて寝る彼女の顔はいつもよりも幼さく見えるのぅ。こうしてると中学生らしいのに、大人っぽいあの笑みを浮かべるとは思えんな(笑)
仁「‥‥好いとうよ、あやめ」
ーーーーー
眠りに落ちる一瞬、彼の匂いに包まれるような感じがした。ここまで気を許しているなんて‥。
恋人未満の割に会話はバカップルみたいだし、いつも傍にいてくれる。ただ一途に想っていてくれる彼の意外な一面には驚いた。
詐欺師なんて呼ばれているけど‥私には中学生らしい所があると思う。拗ねたり、笑ったり‥‥それが本当の彼なんだと思うと少し笑ってしまいそう。
自分の気持ちはまだよくわからないけど‥きっとこの答えはもう出ているんだ。でも‥今は、このままで居たい。君に裏切られてしまったら私はきっとまた繰り返してしてしまうから‥。今の私を見たら、幼なじみの景吾や佳奈はなんて言うかな。
最近、母さんに好きな人出来た?なんて言われたから少し驚いた。いつも母さんにだけは隠し事は出来ない。きっと好きな人‥だとは思うけど、まだ曖昧な感じだ。
『‥‥雨、降って来たか‥』
日誌を書き終えて、帰ろうと窓の外を見ると薄暗い雲に覆われた空に水が弾く音がする。彼はミーティングだと言っていたから今日はそれで終わりだろうな。この雨じゃ仕方ない。
‥‥そこでふと気付く。
『ホント、いつも彼のことを考えてる』
そんな自分に少し笑った。窓を少し開けると冷たい風が髪を撫でる。あの日以来、私は彼の傍に居ることで安心を得ている。不安を拭い去ってくれるのは彼だけ‥。
「それって、仁王のこと?」
『‥‥!!?』
「俺だって、仁王に負けないくらい神崎さんが好きだよ」
『はなっ、して!!』
「離したくない!」
後ろから声を掛けられたと思ったら、抱き締められた。振り返らなくても笠井だと分かると一気に鳥肌が立ち、気持ち悪さから呼吸が上手く出来ない。
嫌だ‥‥イヤだ‥‥いやだっ‥‥!!
ドンッ―‥‥
「ッ!!‥どうしても、仁王がいいのかよ」
『はぁ‥はぁ‥。お前は、嫌いだッ』
キッと睨んで吐き捨てるように言っては鞄と日誌を持って教室を出た。急いで日誌を置いて、校舎を出て行くと傘も差さずに雨の中を走る。
『はぁ‥‥はぁ‥ッ』
空を見上げると激しい雨が頬を、肩を、濡らしていく。いっそ全部洗い流して欲しいとさえ思う。触れた所全てが汚染されたように気持ちが悪い。
彼でさえ私には触れたりしない、触れられるのを嫌っていると知っているから‥テニス部のみんなもそう。あの時感じた彼の温もりが恋しい‥‥いつも傍に居るせい?こんなにも彼を望んでるなんて‥。
『‥ッ‥!?』
落ち着きを見せるも再びさっきの出来事が脳裏をかすめるとゾッと寒気が走り、発狂したくなる気持ちを静める為に無意識に手にはカッターナイフを握ってた。ギチギチと刃を出して、リストバンドを外す。ハッキリと残る一本の線‥前につけた傷跡。そこに刃を当て、躊躇う。
「もっ、絶対‥しちゃダメだからねッ!!」
跡「馬鹿なことすんじゃねぇぞ?アーン」
今も聞こえるふたりの声が私を止める。
カツン―‥
下ろした手からカッターナイフが落ちる。行き場のない不安を感じながら空を見上げた。
大声で叫んでしまえば楽になるだろうか?
狂ってしまえば、壊れてしまえば傷つかない?
けれど、彼の名を叫んでいるのは何故だろう‥ずっと心の中で叫んでる。彼はまるで安定剤みたいな存在になってるんだ‥。
仁「神崎!!」
あぁ‥‥君は、いつでも私を見守ってくれてたのか‥。
『に‥ぉ―‥‥‥』
彼に手を伸ばした所で私の視界は閉ざされた‥‥。
