仁王
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「神崎さんまた一位だ」
「毎回毎回凄いよねぇ」
「ガリ勉なだけだよな」
「それ以外になんもねーんだろ」
『(それ以外に何が欲しいんだ??)』
ざわつく生徒たちを尻目に教室に入った。
鞄を机に置き、教科書を出し、予習をする。
普通なら友達と挨拶を交わして、世間話をするのだろけど。
生憎、私には友達と呼べる人は居ない。別に不便は感じないし、欲しいとも思わない。周りの顔色を窺いながら合わせて何がいいのか理解できないのだ。
『(人の心なんて答えがないから面倒くさい)』
「来た来たvV」
ポキッ―‥
『(始まった。うるさいんだよね)飽きないなぁ‥』
女子の黄色い声が廊下に響くこの時間は私にとって最悪とも言える。耳障りな声に集中力が切れるからだ。
原因は、我が校誇るテニス部イケメンレギュラー。相変わらずのモテっぷりに呆気に取られながらシャーペンを押す。
『あれ?出ない‥。変えあったかなぁ?』
筆箱を探すが、残念なことにシャー芯を切らしていた。
私としたことが‥失敗した。時間があるから仕方なく購買に行こと席を立ち、出入り口に進むが―‥‥。
『(邪魔だ)』
出入り口が塞がれていた。しかも両方。私の他にも通りたい人が居るけど、怯えている。
まぁ、テニス部ファンの女子は気が強いクセに呼び出しをする陰湿な集団らしい。とはいえ、このままこうしていても何も変わらないし、何よりシャー芯がないのは困る。
『すぅ―‥‥あのっ!!』
静まり返った周りの視線は私に集まった。
『出入り口塞がないでもらえますか?出たいんだけど』
スッとよけた女子に軽く頭を下げて廊下に出た。
『行かないの?』
「ぇ‥あ‥」
固まったままのクラスメートに声を掛けた。その子の為に声を上げたわけではないのだが、礼を言われた。
『(いかんいかん、購買行かなきゃ)』
廊下を歩き出し、すれ違った男子の香水がヤケに鼻についた。匂いに敏感なだけか、嫌いな匂いだ。化粧も香水も付けない私には“臭い”だけ。
『(気分悪いな。よく付けられるよ)』
「あ、あやっちだぁ☆」
『‥おはよ』
「おはよォvV」
この妙にフワフワした子は唯一私を“友達”と呼ぶ去年のクラスメート沢桐 京香さん。
「今日ね~体育バスケなのっ☆」
『楽しそうですね』
「うん!バスケ楽しみなのvV」
『(私は憂鬱)』
自慢ではないが私は運動が苦手だ。
勉強以外で得意と言えば‥ピアノ。小さい頃に習ったことがある程度だけど。
フワフワしてる割にスポーツマンなんだから不思議だ。
?「おっ!京香じゃん」
「あ~!丸ちゃんにニオちゃんvV」
丸ちゃん?ニオちゃん?誰??
丸「いい加減に丸ちゃんはやめろぃ!?」
仁「可愛い名じゃな」
「そぉだよねvV」
丸「嬉かねーよ!!」
騒がしい。
赤髪に銀髪の男子を尻目に“この学校は校則がないのか?”と疑問に思いながら“どうでもいいか”と結論付け教室に向かう。
「あやっち!今日はバイトだよね?」
『そうだけど、それが?』
「一緒行こうvV」
『わかった』
私のバイト先は彼女のお姉さんが経営する小さなカフェ。少しでも両親の負担が減るようにと始めたバイトだ。
『ん?何コレ‥手紙?』
「ぁ‥それ、さっきのファンクラブの子が」
『そう‥。(面倒になった訳か)』
「ぁ、あの‥さっきはホントありがとう」
『いえ、私も出たかったから。礼を言われることはしてない』
「私、怖くて言えなかったし、あのままだったら‥」
『気にしない方がいい。それに、授業始まった』
「‥Σはっ!!?」
慌てて戻る彼女から視線をノートに移した。
『(どうしたものか)』
手紙とは言えないメモ用紙を見ながら溜め息。行けば何が待ってるかは想像がつく、が、行かなきゃ更に面倒になるかも‥。どちらにせよ、厄介であることには変わりない。シャー芯を切らした自分を恨む。
「あやっち!」
『元気だね‥沢桐さん』
「うん!運動大好きvV」
『はぁ~‥』
仁「元気じゃのぅ、京香」
丸「スポーツマンには見えねーよな(笑)」
『(また来た‥最悪)』
誰だか知らんが関わらないでおこう。そう思って離れようと動いた瞬間、強い力で引っ張られた。
「どこ行くの?」
『いや、どこということはなく‥』
丸「京香の友達か?」
「そぉなのvV」
『‥‥ι』
仁「名前教えてくれんか?」
『人に名前を聞く前に自分から名乗るものでは?』
そう私が言った言葉に何故か驚いてた。
丸「Σマジッ!?」
『は??』
仁「テニス部レギュラーって言ってもわからんか?」
『それはわかる。誰を指すかは知らないし、興味もない。
ん?‥‥レギュラーなんだ』
丸「Σ今かよ!?」
こんなド派手な選手って‥ありか?わからん。
仁「仁王 雅治」
『ん‥神崎 あやめです』
仁「よろしくな、あやめちゃん」
『(いきなり“ちゃん”付け)
とりあえず、それ以上近づかないで』
仁「は?」
丸「失礼だろぃ」
『それは―‥‥ん?』
いつの間にか女子の視線が集まってることに気付いた。凄まじい殺気に面倒くさい、と内心で呟いて仁王君を見る。
『香水』
仁「香水?付けとるが‥?」
『はぁ‥。匂いがキツいし、似合ってない』
丸「こんなモンだろ?」
『あなた達はそうでも私には“臭い”だけだ』
静まり返った体育館。
ヒソヒソと聞こえて来る非難の言葉に動じることなく目の前の銀髪を見つめる。
仁「ッ~‥‥アハハハッ!!」
『Σな!?』
丸「に、仁王ι」
「ニオちゃんが爆笑してる!?」
肩を震わしお腹を抱える程笑う彼が余程珍しいのか周りは驚き、私は状況が分からず困惑していた。
『ぉ、怒らないのι
(普通なら怒りそうなんだが‥何故爆笑ι?)』
仁「くくっ‥はぁ~笑ったぜよ。怒らんよ、俺も嫌いだし」
『は??』
仁「この香水貰いモンでな。付けないとしつこいんよ」
丸「そんな理由で付けてたのかよぃι」
仁「誰も指摘せんし、しまいには似合ってるなんて言う奴ばっかりだったぜよ」
『なら、何故付ける。嫌いなら嫌いって言えばいいじゃない』
理解できない。
私なら貰い物でもお断りだ。そもそも貰い物すら貰った試しがないから分からないけど。
仁「似合ってないって言われたかったんじゃよ」
『何それ?』
仁「価値観っていうのか、そんな似たこと思ってる奴が居るか知りたかったんよ」
丸「相変わらず訳わかんねーよι」
「ニオちゃんはあやっちを気に入ったてことだねvV」
『否、気に入られたくない(キッパリ』
仁「酷いのぅ。お友達になって欲しいナリ(微笑)」
トクン―‥
ん??なんだ今の??初めて感じる感覚に戸惑う。
こんなの知らない。
『(でも、苦手だ)』
さっきまで爆笑してた人物とは思えない位作った笑みを浮かべている。
答えることなく仁王君は試合へと向かった。
「ニオちゃんがあんなに笑うの初めてだよ☆」
『あっそ』
「あやっちはニオちゃん嫌い?」
『その質問は意味ない。
‥‥苦手だ、あんな能面みたいな表情-カオ-』
その場しのぎの無意味な感情に何の意味がある?
そこまでして人に合わせることに意味があるのか、私には興味ない。
答えの出ない問題は解くだけ時間の無駄だ。
「カッコイイ!!」
「ホント!!」
試合そっちのけで男子の試合に見入る女子。
「ふたり共頑張って―!!」
『‥‥』
隣で応援する沢桐さんにつられてコートを見た。テニス部レギュラーだけあって運動は得意らしい。
シュートを決めただけで悲鳴にも似た黄色い声が響く。
『(嗚呼、眩しい)』
窓から入る光を浴びた彼の銀髪はキラキラと輝いて見えた。
男子の中に居る彼は普通の男子生徒。けれど、女子相手には能面みたいな笑みを浮かべるのには理由があるのか?
『ああやって笑ったらいいのに』
「仕方ないよ、ニオちゃんは女の子が信じられないから」
『女子限定?』
「あやっちと同じ」
『‥‥そぅ』
私と同じ―‥‥。
――――――――――‥
小さい頃、私にも人並みの感情はあった。泣いて、笑って、はしゃいで‥友達だって居たのだ。仲良しの女の子。何をするのも一緒で、親友と言ってもいい。けれど‥そんな幼い友情など容易く壊れる。
ある日、髪型を変えて登校した。初めて覚えた三つ編みが嬉しくて、両親に褒めてもらえたから舞い上がってた。学校に着いて友達にも褒めてもらった。
それから、しばらくして私は友達の枠から外された。
地味な私が色気づいたのが気に食わなかったのだ。
その後、その友達は私が彼女につきまとっていた、と周りの女子に言ったのを聞いた。
その時悟った。自分がいくら友達だと言っても相手がそう思ってないなら一方的な勘違いだと。
それからの私は勉強以外を切り捨てた。
傷つくのが怖いのではない。
貼り付けた笑顔の下に隠された“裏切り”が怖い。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『はぁ~‥』
散々な一日だ。
体育の後、やたら親しげに話してくる女子にウンザリ。腹ん中じゃ私を理由に仁王君に近づきたいだけだと見え透いた言葉の数々、勝手に友達だとか言っていたことに腹が立つ。
『(そもそもなんで私なんだ‥)』
彼の周りには女の子が手に余る程居るのに、何故彼は私に興味を示すのだろう?
『Σ‥いかんいかん!!バイトに遅れる!』
鞄を肩に掛け教室を出る。
下駄箱を開けると一通の手紙―‥というか、メモ用紙。
『またか‥』
懲りないなぁ、なんて思いながら開くと少し驚いた。
“明日から香水付けんから、仲良くしてくんしゃい 仁王”
『わざわざ書くことか‥』
何となく捨てることが出来ず鞄に入れた。校舎を出て何気なくテニスコートを見る。
必死に素振りをするのは一年生か。二年はランニング。一際目立つ髪色に視線が動く。
『(あんな顔するんだ)』
真剣に取り組む表情に見入る。
彼、仁王 雅治は周りが抱くイメージよりも真っ直ぐな男の子のかもしれない。
「あやっち!!」
『Σな、なにッ!?』
「にゃふんvVニオちゃん見てたでしょう(ニヤニヤ」
『み、見てないッ!?』
「うっそだぁ!!見てたよ☆」
『う゛ι』
見られた恥ずかしさか、指摘されたことが恥ずかしいのか分からないが、今自分の頬が熱いのは分かる。
「で、どうしたの??」
『‥‥彼は寂しいのか、と思っただけ。行こう、遅刻する』
「‥うん☆」
◆◇side:沢桐 京香◇◆
あやっちは一生懸命な子。
勉強は一番、バイトもこなす。そして、私が私でいられる場所。
お調子者でバカな子だってよく言われた。でも‥そのおかげで一人じゃなかったんだけど。高校に上がってからも仲の良かったニオちゃんや丸ちゃんとバカをやってる。
女子の友達は‥居なくなってた。バカな子とつるんでも疲れるだけと言われたから。いつの間にか女子の輪から孤立。ニオちゃんと丸ちゃんだけは変わらず仲良くしてくれたけれど、それも気に食わず、二人を私から遠ざけるようにことある事に邪魔をされた。
そんな時、お姉ちゃんの店にバイトで入ったのがあやっちだった。
初めはちょっと怖かったけれど仲良くなりたくて必死に声をかけた。冷たく、しかもキッパリと断れたりもした。
『何をそんなに必死になってるかは知らないけど、無理に笑って私の顔色を窺ってまで友達になりたいの?』
その言葉に驚いた。
まるで、心の中を見透かされたようで‥。それからの私はあやっちの顔色を窺うことをせず、ありのままで接することが出来る。これが本当の友達なんだと分かった。
丸「よくあんな冷たくされても一緒に居るよな」
「冷たくないよ。
あやっちは、お月様なんです」
仁「月?」
「(そう、お月様)」
また一人だった。
そんな事を思っては泣いてた。誰にも言えなくて、辛くて‥でもお月様はいつも見守ってくれていたんです。あやっちはお月様に見えた。静かに、だけど、確かに在る‥優しい子なの。
「あ、そういえば。ニオちゃんは寂しいのかって言ってたよ」
丸「なんだそれ??」
仁「(寂しい、か)」
「ニオちゃん??」
仁「なんでもなかよ。あやめちゃんに会ってくるぜよ」
「なら、図書館居ると思うよ」
仁「サンキュー」
ニオちゃん‥きっとニオちゃんなら分かると思う。周りがなんと言おうあやっちの優しさが‥。言葉は冷たくても、さりげない優しさや思いやりのある女の子だから。
丸「俺はアイツ苦手だぜぃ」
「ふふっ。あやっちの良さは寂しさを知るものにしかわからないですよ」
丸「寂しさねぇ。仁王はそう簡単に行かねーよぃ」
「私は行くと思うよぉ?」
ニオちゃんの寂しさは深いけど、あやっちなら。私はニオちゃんを応援します!!
†side:仁王†
「“寂しいのかって‥”」
あんなこと初めて言われたぜよ。
誰も触れなかった心の底の底にある“寂しさ”は誰にも言ったことがない。幸村は気付いとるかもしれんが‥神じゃし。詐欺師故が、自分自身のことは明かせなかった。
一度、付き合った彼女に明かしたことがあったが‥‥
「“また嘘でしょう”」
そう切り捨てられた。
しかも、俺の気持ちより自分優先。女なんてそんなモンなんじゃ。なら俺も都合良く使うだけ、遊ぶだけの存在にした。分かってもらえないんなら、期待せん方がマシだからな‥。
じゃが、昨日会ったばかりの女は違った。
『“通りたいんだけど”』
臆することなく声を上げた、気の強そうな女。脇目も振らず、興味ないとばかりに俺の脇を通り過ぎた。
しかも、話し掛ければ近寄るなって言われた。
『“臭いだけだ”』
失礼極まりない発言も俺には嬉しいと思ったんよ。正直、俺も香水や化粧品の匂いは嫌いだ。この香水だって捨てようと思ったが、毎日のように確認され仕方なくぜよ。でもあやめちゃんのおかげで付けない理由が出来たがのぅ。
「お願いよ!!助けて頂戴!!」
『お断りします』
「先生を助けようとは思わないの!?」
『思いません』
「Σ酷い!?冷たい‥チョー冷たいッ!?」
『(教師だろうが)
はぁ‥静かになった』
仁「あやめちゃん」
『‥‥何か』
仁「用はないぜよ」
『そっ』
反応薄いのぅ‥ι
どうやら勉強中だったらしい。学年一位は伊達じゃないのか。
『あ、そうだ。仁王君』
仁「ん?」
『昨日の体育でのことだけど』
仁「香水のことか?」
『そう、それ。言い方が悪かったと後から気付いた。ごめんなさい』
仁「本当のことじゃき、構わんよ」
『ありがと』
律儀なんだか、抜けてるのか。変わった子じゃのぅ。
隣の席に座り、眺める。睫は長く、傷みのない黒髪は一つに低い位置で束ねてある。化粧はしてない、香水も。地味と言えば地味だ。なのに、何故か惹かれる自分に驚く。
カタンッ―‥
『ん?におー‥』
ふわっと香るシャンプーの匂いが心地良い。気付いたら誘われるように唇を重ねてた。
『‥‥』
仁「すまん‥したくなった」
『‥‥そぅ』
意外な反応ナリ。
仁「怒らんの?慌てもせんし」
普通ならひっぱたくか恥ずかしさで慌てるだろ?
『くだらない』
仁「!?」
そう吐き捨てた彼女の瞳は凍てついてるようだった。
『アンタはしたくなったからしたと言った。なら‥誰でもよかったんでしょう』
仁「‥‥」
『だったら、取り乱すだけ無駄』
冷静な彼女の瞳は拒絶するように俺からそらされた。
仁「誰でもじゃなか。あやめちゃんだからしたくなったって言ったら?」
『私を見てないクセに』
仁「!?」
『アンタは着飾らない自分を受け入れてくれるなら誰でもいいだけだ。口にしないだけでそう思ってる人は居るはず、たまたま言葉にしたのが私だっただけ』
否定出来なかった。
あやめちゃんだから、そう言える程俺は彼女を知らない。身勝手な自分に呆れる。
真剣に教科書を見つめ勉強に集中する様はまるで、俺が居ないもののように扱われているのが分かった。壁があるように‥。
図書館の静けさが、自分の置かれた状況が‥‥寂しい。
仁「(情けないぜよ)」
トン―‥
『重いのだけど‥』
仁「無視せんで‥」
自分でも驚く程小さな声だ。
『‥はぁ。無視してない、勉強中なだけでしょう』
仁「‥」
『子供みたいだ』
仁「‥ガキじゃし」
『まぁ、そうなんだけど‥』
シャーペンを置き、細い肩から頭を上げると彼女は困ったように笑った。
『少しだけ、飾らないアンタを見た気がする』
仁「嘘だとは思わんの‥?」
勝手に出来上がったイメージはなかなか崩せなかった。だから決まって“嘘”だと言われる。
『嘘なの??』
仁「‥‥嘘じゃなか」
『うん(微笑)』
仁「(嗚呼‥わかった気がする)」
彼女自身が着飾らないサッパリした性格だから落ち着くのか。簡単には傷つかない、けれど、突き放すほど冷たくない。
ひっそりと浮かぶ月のようだ。
仁「あやめちゃん」
『何?』
仁「名前で呼んでくれんか?」
『いいけど‥名前なんだっけ??』
仁「雅治」
『じゃあ、雅って呼ぶ』
仁「ん‥。それとな、あやめちゃんのこと好きになってもえぇ??」
『‥‥‥Σえぇ―ッ!!?』
キスした時より驚いとるな‥。
『な、ななななんでっそうなるの!?』
仁「あやめちゃんが欲しいから」
『なっ///!?』
仁「あ、照れた」
『うっさい///!!』
真っ赤な顔を隠す仕草が可愛いと思った。
仁「答えは直ぐじゃなくてえぇよ」
『ぅん///』
仁「あやめちゃんに好きになってもらえるように頑張るけぇ」
『‥‥///』
本気で手に入れちゃる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『行ってきまーす』
「行ってらっしゃーい!」
『(今日、英語の小テストだ)』
いつも通りの朝。
まだ登校には早い時間帯の通学路は人が居ない。
『(なんだか疲れた‥)』
あの日、図書館での告白から数日。彼は必ず私の隣に居るようになった。お昼も丸井君に沢桐さんたちと食べるようになって賑やかだ。
一緒に居る内に彼を知ることが出来た。
悪戯好きで詐欺師と呼ばれていること
ひょろっとしてる割に肉が好き
数学が得意科目
時々屋上でサボっては寝ているらしい
一つ一つ知る度に惹かれている自分に気づく。だからと言って、どうしたいとかはないんだけど‥。
仁「今日はバイトないんか?」
『うん。今日は休み、そっちは?』
仁「休み。デートせん?」
『図書館ならいいけど』
仁「遊びませんか?」
『お断りします(キッパリ』
仁「酷いナリ(シュン」
最近の彼は表情がコロコロ変わる。大袈裟にではなく、喜怒哀楽が分かる位の小さな変化。
他の女子には相変わらずの能面スマイルらしい。
『遊びたいなら他当たれば』
仁「あやめちゃんとがいいんじゃ。それに、あやめちゃんのことまだ知らん」
『(嗚呼、自分のことは話してないか)』
仁「壁があるようで寂しいぜよ」
机に突っ伏しながら私の左手に躊躇いながら触れた。どうやら、私が嫌がると思っているのか極力触れようとはしない。意外と臆病なところがある。払いのけずにいれば、安心したのかどこか嬉しそうに見えた。
ほんの些細なことで喜ぶ彼につられて口元が緩むことが増えた。
けれど、そのたび考えてしまう‥“裏切られないか?”と。
『雅、私と居て楽しい?』
仁「楽しいというか、安心かのぅ」
『そう。‥私は、勉強してる方が安心する』
仁「‥邪魔か?」
『邪魔じゃない。ただ、私は他人を信じることが出来ない』
仁「‥‥」
『小さい頃、友達だと思ってた相手に裏切られた。それから勉強以外の全てを捨てたの』
黙ったまま、静かに耳を傾ける雅の手は私の手をキツく握っている。
『人は損得でしか価値を見出さないでしょう?
どんなに仲良しでも腹ん中じゃ笑ってる。私はそれを目の当たりにして、絶望した。
友達なんて不確かなものに時間を割く位なら勉強した方がいい‥そう結論を出した』
仁「そうか‥」
『けれど―‥‥雅??』
離れた手の温もりに視線を移すと立ち上がる雅が。
仁「あやめちゃんは酷な言い方するのぅ」
『ぇ‥?』
仁「勉強の邪魔して悪かったの」
『ちょっ‥』
そう言い残し彼は去った。
残された私は立ち去った彼の背中を見ていることしか出来なかった。
『なんなんだ‥』
知りたいというから話したのに途中で退室って‥。
一番伝えたかったことが言えなかった。
『雅のことは信じられる』
そう思えるようになった。
なのに、その後雅は私の隣から消えてしまった。しばらくしてどっかのクラスの女子と付き合ったと知る。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あやっち!?」
『ぉはよ‥』
「大丈夫じゃないって顔してるよ!!」
『平気、ちょっと徹夜しただけだから』
ここ数日。私は眠れなくなっていた。理由は分かっている。が、それを認めたら‥私は私でいられない。
仁「おはようさん」
「おはよう、ニオちゃん」
『‥‥‥』
彼の横を通り過ぎた時、香水の匂いがした。前のよりはマシな匂いだけど私には不快だ。
教室に入る一瞬見た彼は彼女に笑いかけていた。
『(幸せなんだ‥なら、よかった)』
ズキッと痛むそれを振り払うように勉強をした。バイトもシフトを増やして忘れようと頑張った。
『(気持ち悪い‥)』
お昼休み。
睡眠不足と疲労からか気分は最悪。保健室に行こうと通りかかった空き教室で聞きたくなかったモノを聞いた。
「じゃあ、本気じゃなかったの?」
?「もちろんナリ」
独特の話し方で分かってしまう自分が憎い。
「神崎さんとあんなに仲良かったのに?」
自分の名前に足が止まった。
仁「ガリ勉タイプは面倒だって分かったからの。手は出さん。お前さんも居るしな」
「もぅ///」
面倒‥か。なんだ、あの告白は嘘だったんだ。しかも彼女はあの時お礼を言って来た子とは。
「私飲み物買ってくるね。仁王君は?」
仁「スポドリ」
「分かった!」
出て行った彼女は嬉しそうに笑ってた。
『馬鹿みたい‥これじゃ、道化だ』
ポロポロと落ちる涙は止まる術を知らない。
私はまた“裏切られた”‥。
視界が揺れて足に力が入らず、バランスを崩してドアにぶつかった。
ドンッ!!
仁「なんじゃ?」
『(ヤバっ!)』
そう思っても力が入らない。
仁「あやめちゃん?どうしたんじゃ?」
『なん、でもない‥ふらついただけ』
仁「とりあえず立ちんしゃい」
『ほっといてッ』
仁「なっ!?」
ダメだ。冷静になれない‥。
『アンタなんか信じなければ良かったッ』
仁「‥‥」
『楽しかった?ガリ勉女相手に好きだなんて言って‥腹ん中じゃ笑ってたんでしょう?』
仁「!?」
『雅なら信じられる‥そぅ、思ったのにっ!』
愚かだったんだ。
私は、彼の優しさや温もりを真に受けた馬鹿な道化。ゆっくり立ち上がってふらつきながら壁伝いに歩く。
仁「あやめちゃんっ!」
『呼ぶなっ!!』
仁「っ‥!?」
初めて、他人の温もりが心地良いと思えたのに‥惹かれてたのに‥。
『アンタも笑うんだ、馬鹿な奴って』
仁「‥‥」
『嘘じゃない‥そう信じたのが、間違いだった。馬鹿みたい‥』
なんで止まらないの‥?
泣いたって変わらないじゃない‥惨めなだけじゃない‥。
『もぅ‥消え‥ぃ‥』
ぐらりと視界が揺れて、体から力が抜けそのまま視界を閉じた。
一瞬、微かに聞こえた彼の声は珍しいくらい‥震えてた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ん‥‥ぁ‥』
「起きた」
『はぃ‥』
「38℃の熱出して倒れたの。覚えてる?」
『なんと、なく』
「仁王君が運んでくれたから後でお礼しなさいね。授業終わったら沢桐さんが鞄持って来てくれるからもう少し寝てなさい」
『ありがとうございます‥』
まだぼんやりする頭の彼のことを考えた。あんなにみっともなく泣き喚いた自分を思い出す。私はいつの間にか彼に恋心を抱いていたようだ。
つぅ―‥
『また‥ッ‥‥ぅッ‥』
手を握ってくれた温もりが忘れられない。コロコロ変わる表情も柔らかな銀髪も私の名前を呼ぶ声も、全部‥嘘だったなんて‥‥信じたくない。
けれど、これが現実だ。
『伸ばさなきゃ良かったんだ‥答えのないモノに、私みたいな人間は‥‥』
それでも―‥‥
『す、き‥だった―‥』
なかったことにはしたくない。ちゃんと、受け入れよう。
忘れられる―‥
?「あやめちゃん」
『!?(どうして、雅が‥)』
仁「具合は平気か?欲しいモノあるかの?」
『そんなこと、アンタにしてもらう理由はない。授業中の筈だけど?』
お願いだからこれ以上私の心をかき乱さないで。
『運んでくれたのは感謝してる、ありがとう。でもこれ以上世話をされる覚えは――‥』
仁「悪かった」
え‥‥?
仁「早とちりして。俺よりも勉強が大事なんだと勘違いしてた」
『何を、今更‥』
仁「俺の言葉を嘘じゃないって信じてくれたあやめちゃんの邪魔にはなりたくなかった。だから、離れた‥」
何を、何を言って‥‥私は邪魔なんて思ったことはない。むしろ、安心してた。
仁「じゃが、初めてあやめちゃんと居るのが心地よくて、離れた途端寂しくなっての」
『それで彼女と付き合ったわけ?不誠実な言葉並べて傷つけて‥自分さえ良ければいいの?』
仁「最低じゃな‥」
『私は、雅が何も知らないと言ったから話した。
答えのないモノを初めて欲しいと思わせたのは雅だ。
だから‥』
なんて言ったらいい‥?
好きだと言ってしまえば、彼女はどうなる?
仁「さっき、彼女と別れた」
『え?』
仁「頑張れって応援されてのぅ。授業サボって来た」
『(言ってもいいのか‥?)』
仁「あやめが好きだ」
『!!』
仁「本気ぜよ。本気で好いとうよ」
震える声に胸が苦しくなる。
きっと怖いのだ。自分がしてしまったことを責められ、嫌われることが。
『(責めるのは簡単だ、けれど、非は私にもある)』
ベッドから出て、カーテンを開けると俯く彼が立っていた。
数秒の沈黙の後、私は彼に手を伸ばし―‥‥
わしゃしゃ!と、撫でてやった。
仁「なんじゃ!?」
『アンタは見掛けよりも案外バカだ』
仁「酷いナリ」
『けれど、真っ直ぐで素直だと分かった』
仁「‥///」
『照れた』
仁「‥‥///ι」
でっかい子供のような彼に私は惹かれた。答えが見つからないなら一緒に見つけて行けばいい。掛け違えたならやり直せばいい。
だから‥
『私も雅が好きだ』
仁「!?」
迷わない。
この手の温もりがあれば私は前を向ける。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
仁「あやめ」
『あぁ、おはよう雅。朝練ご苦労様』
仁「相変わらず勉強か」
『それ以外に何があるの?
(まぁ‥少し別のことをしていたのだけど)』
仁「HRまで時間があるから寝るナリ」
『そっ。起こさないわよ』
仁「酷い‥」
『冗談』
仁「(真顔で冗談はキツいぜよι)」
隣に座り、腕を枕に突っ伏す雅を盗み見した。
窓から差し込む陽の光に照らされた銀髪はキラキラと輝いて綺麗だ。
『(勉強が手につかない)
参った‥』
仁「どうした?」
『雅が居ると‥勉強が手につかなくなる///』
仁「邪魔したか?」
『違う。私が‥意識してるだけ///』
仁「(直球は困るのぅ。可愛すぎ)
なら、勉強より俺を構ってくれんか?」
『(ワザとか‥///)
寝るんじゃ、なかったの?』
仁「頭撫でて?」
『まったく‥』
意外と柔らかい銀髪を撫でると、気持ちいいのか嬉しそうだ。
『お疲れ様』
仁「おう」
答えが出ないモノがこんなに大切なことだと気付かせてくれた雅には感謝してる。
何より、私を満たす手の温もりが愛しいと分かった。
すれ違って、噛み合わなくて、誤解して。忙しい日常が楽しいと今は思う。雅を好きになって良かった。
前途多難な恋人
((気持ちぃな))
(あやめ)
(何?)
(したいナリ)
(は??)
(あやめが欲しい)
(‥‥Σはぁ――ッ!?)
(えぇよな?)
((何言ってんだ///!?))
(デート)
(へ??)
(付き合ってる確証が欲しいからデートしたいナリ)
((なんだ、デートか‥焦った///ι))
(‥ヤらしいこと考えたな)
(Σ違うッ///!?)
(可愛えぇのぅ)
(ッ///)
(あやめにそういう発想があって良かったぜよ)
(‥‥Σワザとか!?)
(プリッ)
