◈銀色の彼はー
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全国大会が始まった。青学のみんなはもちろん、ヒロくん達も気合いが入っていた。僕は邪魔にならないようにみんなには気付かれない様に見に行ったんだけど…周助には気付かれたみたいでメールがきてた。なんで分かったんだろう?
両校共に順調。試合の報告はスミレちゃんから聞いてるし、ヒロくんも教えてくれる。みんなの頑張る姿を見てはニヤついてしまう僕は重症かもしれないのだ。
比「最近、嬉しそうですね」
『うん!みんなの頑張る姿を見ていられるコトがね♪』
比「青学のみなさんですか?」
『Σヒロくん達もだよ!』
比「クスッ。分かっていますよ」
『むぅ。ヒロくん、なんだか意地悪さんなのだ』
比「そんなコトはありませんよ」
そんなコトあると思うのだ…。
比「学校生活の方は如何ですか?」
『問題なく過ごせてるよ』
比「そうですか」
『うん!』
問題はない。それはホントだけど…ちょっと、周りの温度差がある気がするのです。それでも、ヒロくん達には言えないの。優しい人達だから、僕の甘えでしかないから。頑張るって。大丈夫って。笑って自分に言い聞かせては心で泣いてる‥弱い僕。
周りの優しさに頼ってばかりじゃダメ、なんだよね‥。
『順調に勝ち進んでるね♪』
比「そうですね。このまま行けば…当たるかもしれませんね」
『頑張ってね!』
比「はい」
『絶対、見に行くね!』
比「では、頑張らないといけませんね」
『ふふっ。楽しんでくれれば僕は嬉しいのだ♪』
笑っている僕は気付かなかった。ヒロくんが心配そうに見ていたことに…。
―――――‥
お昼休み。僕はお弁当を手に教室を出た。いつもならヒロくんとアズちゃんと一緒に食べるんだけど…。今日はミーティングを兼ねてテニス部レギュラー陣と食べると言ってたのだ。僕もと二人は言ってくれたけど、青学でテニス部マネージャーをしてた僕に聞かれては困ると判断されたらしく二人は申し訳なさそうに謝ってた。仕方ないコトだ。だから、笑って見送った。
『はぁ…』
重い溜め息を吐き出す。
僕は‥何をしているんだろう?
教室から逃げて、寂しさを感じながらも笑って‥。なんだか、疲れてきたなぁ。
?「こんな所に居たんですね」
『‥あ、ヒロくん』
比「探しましたよ。教室に行ったら居なかったので」
『ミーティングは?』
比「早目に切り上げて来ました。あやめが心配で」
そう言って笑うヒロくんに笑って言う。
『サボってはダメだよ。“ニオくん”』
比「!?」
『すぐに分かったよ』
仁「‥なんでバレるんじゃ?」
『なんでかなぁ(笑)』
変装を解いて隣に座るニオくんはなんだか、嬉しそうに見えた。
『戻らなくていいの?』
仁「あやめと居りたいんよ」
『‥‥』
仁「なんじゃ?」
『ううん。ニオくんは優しいなぁって(微笑)』
仁「(素直すぎナリ。それに、笑顔は反則ぜよ…///)」
『ニオくん、お昼は?』
仁「購買行くの忘れたぜよ」
『お昼抜くのはいけないのだ!』
自分のお弁当を分ける。今日はオニギリだから一緒に添えて。
『はい! 楊枝の代わりに箸も』
仁「いいのか?」
『うん! 心配して来てくれたお礼♪』
仁「‥ありがとさん」
半分こしたお弁当を二人で食べる。
仁「美味い」
『良かった~。口に合わなかったらどうしようかと思ったよ』
仁「お前さんが作ったのか?」
『そうだよ。居候させてもらってる身だから、せめてお弁当は作るって頼んだの』
仁「柳生のもか」
『ヒロくんのお弁当はアズちゃんが作ってるんだよ』
仁「初耳ナリ。 女子からの手作りを食べたのは初めてじゃの」
『そうなの? ニオくんモテるからいっぱいもらってそうだけど』
仁「貰うには貰うが。食わずにブン太にくれちまうんよ」
『なんで?』
仁「知らん奴からの食いもんなんざ怖くて食えないぜよ。 ま、知ってても食わないがの」
それはそれで、どうなのかなぁι
そういえば、前に幸村くんが女の子達の声援が迷惑だって言ってたっけ。ニオくんも同じなのかもしれないのだ。
『ごめんなさいなのだ…』
仁「ん?」
『迷惑なの知らずにお弁当を分けちゃって…』
仁「あやめからなら喜んで貰うぜよ」
『え?』
仁「ご馳走さん」
『‥‥うん!』
仁「(意味分かってないんだろうなぁι)」
どうして僕からならって言ったのかは分からないけど。凄く嬉しい。嬉しくて今度はニオくんの分も作ろうかなぁ、なんて考えてしまった。
仁「しかし、なんで俺の変装見破れるんかのぅ」
『ヒロくんだからじゃないかなぁ?』
仁「じゃあ、他の奴だったら分からんのか?」
『Σ他の人にもなれるの!?』
仁「詐欺師じゃき」
『ほえ~。ニオくんって凄いんだね』
仁「プリッ。試してみるか」
『?』
仁「柳生以外の奴で俺の変装を見破れるか」
『自信はないよ?』
仁「ゲームじゃよ。そうじゃ、もしあやめが見破ったらご褒美やるぜよ」
『ご褒美って?』
仁「それはお楽しみナリ」
『分かったのだ!』
ご褒美が何なのか気になるけど、ヒロくん以外の変装‥。見破れるかなぁ?
そもそも、なんで僕はヒロくんに変装したニオくんだって分かったんだろう?う~ん‥‥分からないなぁ?
仁「(お前さんには――‥)
‥―――見破って欲しいナリ(ポツリ」
『ニオくん?』
仁「なんでもないぜよ。昼休み終わりじゃな。教室に戻るナリ」
『うん!』
†side:仁王†
全国大会が始まっても一切の妥協は許さない神の子と皇帝は試合後でさえ練習。家に帰れば、横になるなり爆睡。授業中も居眠り。身体は重いばかりで嫌になるぜよ。
それでも、授業をサボらないのは――‥。
『お疲れ様なのだ!』
仁「おう」
『はい、朝ごはん。ちゃんと食べなきゃダメだよ?』
仁「ありがとさん」
『どういたしまして(微笑)』
貰ったオニギリを食べるのが当たり前になったのぅ。最初は冗談で言ったんじゃが、翌日、朝練終わりにオニギリを渡された。食事はちゃんと取れと言われての。それから今日まであやめは欠かさず作っては労いの言葉と一緒に渡してくれるんじゃよな。
丸「お前、まだアイツにオニギリ貰ってんのかよぃ。いい加減、朝飯食って来いよι」
仁「あやめの好意だからのぅ」
丸「お前なぁ‥。つか、名前呼びする程仲良いのか?」
仁「悪くはないぜよ」
まぁ、名前で呼んだところで気にするような子じゃないからの。超が付くほどの鈍い子だからな。
丸「ホント珍しいよなぁ。お前が女子からの手作りを食べるとはなぁ」
仁「‥‥」
丸「まさか、惚れたのか?」
仁「う~ん‥どうなんかのぅ?」
丸「なんだよ。曖昧だなぁ」
仁「そうじゃな」
曖昧、でもないがのぅ。
好奇心に近い。が、気に入ってるのは確かじゃな。気付けば目で追って、見付ければ声を掛けてるし。ほっとけない子というか、一緒に居ると落ち着くんよ。不思議な感覚だが、それが何なのかは見当はついてるぜよ。
ブン太の言ったように“惚れてる”。
まさか、一目惚れとは思わなかったのぅ。自慢じゃないがモテる方だし、告白して来る女は可愛いと評判の奴が多い。だが、これと言って興味が出る女は居なかったぜよ。
あやめは違った。寧ろ可愛いとさえ思ってしまったナリ。
丸「どこがいいんだ?」
仁「なんだ、随分と興味があるんじゃなぁ」
丸「否、俺にはない。
女子に頼まれたんだよ。最近、お前が神崎を構ってるから気になってるみてーでよ」
仁「成る程な。それで、お菓子と引き換えに聞き出しに来たと」
丸「当りだぜぃ♪」
仁「ウザいんじゃよ、そういうの」
わざとらしく言えば、頼んだであろう女共は罰が悪そうに視線を逸らした。
仁「アイツは、純粋で優しい子なんよ。そして、俺の変装を見破れる唯一の女の子じゃき。気に入るに決まってるじゃろ」
丸「あー‥はいはい。
(絶対惚れてるだろ、コイツ。神崎も厄介な奴に目を付けられたもんだなι)」
『ん? どうしたのだ?』
仁「なんでもないぜよ。オニギリ美味かったぜよ」
『それは良かったのだ♪』
それだ。その笑顔を俺は、見ていたい。だからこそ、笑ってくれるなら俺は‥なんでもしてやりたくなってしまうんじゃ。
仁「あやめ」
『ん?』
仁「よぉ見ときんしゃい」
『うん』
仁「‥‥ほれ」
『わぁ!』
丸「また手品かよぃ!」
『凄いね!』
丸「は?」
『やっぱりニオくんは魔法使いだね!』
丸「(スゲェキラキラした目だなι)」
仁「プリッ」
ただの手品でもこの喜び様はやりがいがあるのぅ。しかも、演技じゃなく素で。その笑顔が“可愛い”のだから、もっと見たくなるは仕方ないコトだ。
丸「手品がそんなに凄いか?」
『僕にとっては魔法なのだ(満笑)』
丸「(恥ずかしい奴だな///ι)」
仁「(あー‥。ダメだ。可愛いナリ)」
『??』
ぽふん、
仁「お前さんはそのままでいてくれ」
『??』
そう、そのままで。誰にも染まらず、俺の色に染まるまで。
―――――‥
比「あやめの様子はどうですか?」
仁「問題ないぜよ」
比「よかった。 どうも、私や梓に心配を掛けまいと笑って誤魔化されてしまうので…」
仁「仕方ないぜよ。甘えない様にと意気込んでいたしのぅ」
比「そうですね…。 しかし、君が彼女の様子を見て来ると行った時は正直、驚きましたよ」
仁「俺も少なからず原因の一つじゃからな」
俺と関わらなければ、今頃、友達を作っていたかもしれない。だが、俺はそれさえも喜んでしまう重症さだ。まぁ、それだけ可愛いと思ってるから気になってしまうんだろうなぁ。
比「珍しいですね」
仁「ん? そうじゃな。最近じゃ、笑う顔見たさに手品の腕を磨いてるくらいじゃ」
比「詐欺師から手品師になるつもりですか?」
仁「あやめにしか見せんよ」
比「君のファンが聞いたら驚くでしょうね」
仁「なんだ、お前さんは驚かないのか?」
俺がそう聞けば、紳士な親友は微笑みながら言う。
比「君の親友としてはこれ程喜ばしいコトはありませんよ」
仁「まだ、実ってもいないぜよ」
比「可能性がないとは思っていませんからね」
仁「ほぉ‥」
比「とは言うものの、あやめが気付くまでが長いかもしれませんがι」
仁「そこなんだよ。どうしたもんかのぅ」
比「難しい問題です」
ともあれ、柳生から了承を貰ったし頑張るか。全国大会よりも彼女を落とす方がやる気が出るとはの。
比「大切にして下さいね?」
仁「もちろん」
大切にするぜよ。あの子の笑顔に俺は惚れたんじゃからな。
□■□■□■
最近の僕はちょっと変なのだ。
どこが? と聞かれたら、上手く言葉に出来ないだろう。
僕が自分を変だと思うのはニオくんを探してしまうコトなのだ。気が付くと銀色を探しては一喜一憂してる。朝ごはんを食べてないと聞いて心配したら作ってと言われてオニギリを作って渡し。美味かった、と言って貰えるのが凄く嬉しい。一緒にいるのが当たり前になっているから探してしまうのかもしれない。
ニオくんは優しい。僕のコトを気にかけて、慰めて、助けてくれる。一緒にいると楽しくて、落ち着く。
彼はどこか大人びている。僕とは違う。同い年なのにね。そんな彼だから女の子達は魅了されるのかもしれないのだ。
『(‥‥あ、ニオくん。一緒に居るのは‥違うクラスの女の子。仲良しなのだ)』
楽しげに話す二人はなんだかお似合いで。僕は初めてモヤモヤしたモノを感じた。
?「あやめちゃん」
『あ、アズちゃん!』
梓「どうしたの?」
『ううん。今日は部活は?』
梓「お休みだよ。明日は決勝戦だからね」
『そうだったのだ。栞から聞いてたの忘れてたのだ(笑)』
梓「見に来るでしょう? 栞ちゃんも」
『うん。栞と一緒に行くのだ!』
梓「(一人でって言われたら阻止してたよ)
そうだ、帰りに寄り道しない? たまには!」
『賛成!』
梓「じゃあ、ヒロくん呼んで来るね」
『はぁい♪』
寄り道かぁ。いつも部活終わりだから時間的に遅いし、疲れてると思うから寄り道しない? とは、言えなかったのだ。
?「なんじゃ、嬉しそうな顔して」
『ニオくん。お話し中じゃなかったの?』
仁「あやめがいたから切り上げたんじゃよ」
『いいの?』
仁「ああ。別に親しいワケじゃないからの」
『そうは見えなかったけどなぁ。お似合いだったし』
仁「‥‥」
『ニオくん?』
あれ? なんか、怒らせた?
見上げた横顔は無表情で、少し、怖い‥。
だけど、さっきの言葉は嬉しかった。僕を優先してくれたんだと思うと、モヤモヤが消えた。同時に自分の嫌な部分が鮮明になる。
ニオくんに恋する女の子は多い。告白の現場を見たこともある。積極的な子もいれば、密かに恋する子もいる。その子達からしたら僕はやっぱりズルいと思う。ヒロくんのイトコだからニオくんは嫌な顔をせずに世話を焼いてくれている。僕は、それに、甘えているのだ。周りからしたらズルく見えても仕方ないのだ‥。それに甘えたままの僕は嫌な子だ‥。
仁「Σ‥ど、したんじゃ?」
『ちょっと、自己嫌悪してるのだ…』
仁「?」
『ニオくんは好きな子いないの?』
仁「(このタイミングで聞くか‥ι)
‥―――いるぜよ」
チクッ、
その言葉に小さな痛みを感じながら、そっと自分の胸に手を当てた。痛みは余韻を残したように鈍く締め付ける。
仁「あやめ?」
『‥ニオくんはどうしてその子が好きって分かったの?』
仁「どうしてって‥ι」
『あ、ごめんねι こんなこと言われても困るよね!
さっきの質問まだ答えてなかったのだ!アズちゃんが寄り道して帰ろうって。今、ヒロくん呼びに行ったのだ♪ そろそろ来るかなぁ?』
仁「‥‥」
ニオくんに背を向けてアズちゃんの姿を探して見たけど、まだみたい。
『‥――ほへ?』
腕がある? 自分の胸の前にある大きな手を見つめる。すると、ヒラヒラと手が動いて、500円玉が消えたり出たり。そして消えた。不思議で、何処に行ったのか気になって手を掴んで探していたら――‥。
ククッ、
頭の上の方から聞こえた笑い声に顔を上げたらニオくんが見えた。
仁「そんなに夢中になるとはのぅ」
『500円玉どこ行ったの?』
仁「さぁ? どこじゃろなぁ」
『手にはないよ』
不思議なのだ。じっとニオくんの手を見ていたらマメが出来てた。
仁「どうかしたか?」
『ニオくんの手も一生懸命な手をしてるなぁって』
仁「一生懸命な手?」
『マメが出来る程、ラケットを握ってる。一生懸命な手なのだ(微笑)』
そして、僕にはとっては優しくて、魔法使いの手だ。
仁「そんなこと、初めて言われたぜよ」
『青学のみんなも同じだった。ヒロくんも。大好きなテニスだからだね』
仁「(直球すぎナリ‥///)」
好きという気持ちはまだ分からない。
僕は好きな人が出来たらどうするんだろう?
もし、ニオくんが好きな子と一緒に居るコトが増えたら…僕は、どう思うかなぁ?
この手が頭を撫でなくなったら…僕は――――‥。
仁「あやめ?」
『‥‥あ、ごめんねι
いつまでも手を掴んでたら動けないよねι』
離してそう言えば、ニオくんは優しく笑って頭を撫でてくれた。
仁「もう少し、あのままでいたかったぜよ(ポツリ...」
『ニオくん?』
仁「なんでもないよ。柳生達が来たぜよ」
『ホントだ! ニオくんも一緒に寄り道しない?』
仁「よかろう」
『鞄取って来なきゃ♪』
先に教室に入って鞄を持ち、ニオくんのも一緒に持って教室を出た。入れ違いだったのか丸井くんがいるのだ。
丸「てっきり抱き締めてたのかと思ったぜ」
仁「だろうな。なんじゃ、俺のも持って来てくれたんか」
『うん』
梓「じゃあ、行こっか。Wデート♪」
比「そうですね」
仁「プリッ」
丸「マジかよぃ!?」
『Wデートってなんなのだ?』
ニコニコなアズちゃんに手を引かれながら学校を後にした。
†side:仁王†
いつもより早い時間での下校。
明日に備えて部活は休み。本来なら、家に帰って休むべきなんだろうが。あやめに誘われたコトが嬉しくて承諾すれば、笑顔で鞄を取りに行く姿に笑みが浮かんだ。
Wデートの意味も分かっていない純粋無垢の女の子にハマった俺は見たこともない顔をしとる時もあるらしい。ブン太や柳生は勿論、赤也にまで“よく笑ってますよ”と言われる始末。詐欺師の名が泣いてるぜよ。
仁「(とは言うものの、止められそうにないんじゃ)」
比「どうかしましたか?」
仁「どう育ったらあんな純粋無垢に育つのかと思ってな」
比「そうですね。まぁ、彼女は素直に言ってるだけなんでしょうが‥無知な面もありますからねι」
確かに。あの状況になっても彼女の興味は消えた500円玉だった。端から見たら抱き締められてる様に見えてもおかしくない状況じゃったが。事実、ブン太はそう見えたと言うてたし、周りの女子の声も彼女には届いていなかったナリ。そんなに手品が面白いのかのぅ?
ふと、自分の手を見て彼女の言葉を思い出した。
比「仁王くん?」
仁「さっきな、言われたんよ。一生懸命な手をしてるってな。
初めて言われたぜよ。褒めるコトがなかったワケじゃないが、指が長いとか、綺麗な手とは言われるんじゃが‥。一生懸命とは言われたコトはなかったナリ」
比「マネージャーとして、一番近くで見てきた彼女だからこそ出た言葉だったんでしょうね」
仁「ああ」
前を歩く彼女は楽しそうに笑っていた。
それだけで満たされるような気がするぜよ。太陽みたいなその笑顔を自分だけのモノにしたくなる。だが、彼女には恋が分かっていない…。どんなにこっちからアプローチしても気付かんだろうな‥‥。
比「詐欺師の君を悩ませるなんて‥。身内ながら驚きですね!」
仁「お前さん、楽しんでないか‥」
比「まさか! 彼女の幸せが私の願いですから」
仁「父親か‥ι」
比「そうかもしれませんね」
『どうしたのだ?』
不思議そうに見上げるあやめの瞳は澄んでる。そこに映る自分は笑みを浮かべていた。こんな顔をしてれば珍しいと言われてもしょうがないぜよ。
『そろそろ帰ろうか!』
仁「もういいのか?」
比「時間的にまだ大丈夫ですよ」
『明日は決勝戦でしょう。帰って休まないと! 寄り道はいつでも出来るけど、決勝戦は一度きりなんだから! アズちゃーん!』
比「気を遣わせてしまったみたいですね(苦笑)」
仁「そうじゃな」
分からんでもないが…。もっと、一緒に居たいと思ってる俺は寂しさを感じた。柄にもない。彼女と一緒に居るコトが当たり前の様になっているからかもしれんな。離れたくないが、俺達は恋人じゃない。そんなコトを言えば彼女は困るだろうからな。
比「では、私は梓を送って行きますから仁王君はあやめを頼みます」
仁「ああ」
『またねー!』
柳生達を見送り、俺達も歩き出す。
『今日は楽しかったなぁ♪』
仁「そりゃ良かったな」
『うん! 良かったのだ♪』
上機嫌に笑っている彼女が可愛いと、笑っていて欲しいと思ってしまうぜよ。
仁「そういえば、廊下で言ってたコトじゃが―‥」
『廊下で?』
仁「好きだってどうして分かったのか? て、話ナリ」
『あ…。あの、ね‥何となく気になっただけで‥ι』
仁「ホントに恋したことないんじゃな」
『‥ぅんι』
仁「柳生は、違うんか…?」
『ヒロくん? う~ん‥ヒロくんは好きだよ。小さい頃から僕を心配して、守ってくれてた。でも、恋とは違うかな‥。
ヒロくんって、お兄ちゃんみたいっていうか。一緒に居ると落ち着くけど、それは家族だからだと思うのだ。恋ではないけど、憧れではあるかな』
仁「憧れ?」
『ヒロくんとアズちゃんを見てるとね。毎日がキラキラしてるんだなぁって』
仁「キラキラねぇ…。あやめもしたいのか?」
『僕は毎日がキラキラなのだ!』
毎日がキラキラって‥ι
『ニオくんの手品のお陰だよ♪』
仁「‥‥ι」
『ニオくんの魔法は僕にキラキラをくれるの♪ だから、ありがとうなのだ!』
仁「‥///」
ヤバイ、ぜよ‥。
なんだって‥こんな‥惹かれるんじゃ。
赤くなってる顔を手で隠しながら横目で隣を見ると口許が弧を描くのが分かった。
仁「(本気で落としてみせるナリ)」
ほんのり頬を染めて笑ってる顔が可愛いぜよ。
きゅ、
『ニオくん?』
仁「嫌か?」
『嫌じゃないよ。 ふふっ』
仁「なんじゃ?」
『小さい頃、こうしてヒロくんに手を引いてもらったのだ』
なんか、柳生が憎たらしいのぅ。
恋じゃないとは言っていたが…本当にそうなんか?
本人が気づいていないだけでホントは――‥。そう思うとモヤモヤしてくるぜよ。今すぐ奪ってやりたいとこじゃが、悲しませたくはない。
仁「なら、これからは俺が引いちゃる」
『ふぇ?』
仁「だから、手を離しちゃダメぜよ?」
『‥でも、迷惑じゃない?』
仁「俺がそうしたいんじゃよ。あやめは特別ナリ」
『あ、ありがとぅ‥なのだ///』
仁「赤くなって可愛いのぅ」
『‥~~~~///』
更に真っ赤になるあやめには回りくどいやり方は逆効果ナリ。直球勝負は俺らしくないが、ペテンを仕掛けたら失敗するからの。
■□■□■□
全国大会決勝戦。青学対立海の試合が始まった。
栞と一緒に観戦しながらコートを見つめる。
栞「決勝戦とあって激戦ね」
『うん! 』
緊張感が漂う場内は誰もがどちらが勝つのか、それを見届けるかのようにコートを見ている。
お互いに一歩も引かない接戦を繰り広げ、次にコートに入って来たのは彼だ。相手は周助。
『(ニオくん‥頑張れ)』
栞「どっちを応援してるの?」
『へ? どっちって‥どっちもだよ』
栞「嘘でしょう。顔に出てるわよ」
『ゔ‥』
栞「悪いって言ってるワケじゃないわ。私だって周助を応援するだろうしね。ただ、あやめが一人を応援するのは珍しいから気になったの」
栞の言葉に気付かされた。
負けることがカッコ悪いとは思ってないのだ。精一杯やっての結果ならカッコ悪いコトなんてない。負ければ悔しいだろうけど…得るものがあると思う。次に生かせる様に。
ただ、ニオくんには笑っていて欲しいと思ってしまうのだ…。
栞「特別なんだ。仁王くんは」
『‥ずっとね、気にかけてくれたの。未だに馴染めなくて、友達も出来なくて…。気が付くとニオくんが一緒に居てくれた。手品を見せてくれたり。僕にはそれが救いだった』
ニオくんの優しさが泣きそうになる僕を魔法で慰めてくれてた。周りは詐欺師って言うけど僕には魔法使いなのだ。
栞「鈍いアンタが恋とはね~」
『恋、なんだろうか‥?』
栞「違うの?」
『よく分からないのだ。
ニオくんといるのは楽しいけど、友達だからかもしれないでしょう?
どう思ったら恋なのか僕には分からないのだ‥』
栞「(私には恋してるようにしか見えないんだけどι)
じゃあ、仁王君に彼女が出来たらどうするの?」
『え?』
栞「彼女が出来たら、アンタを構う暇はないのよ? 友達でも大切なのは彼女でしょう。今までみたいにはいられないのよ?そうなったら、あやめはどうするの?」
考えなかったワケじゃない。ニオくんはモテるし、告白されてる。ニオくんを好きな女子に絡まれたコトもある。だから、考えてしまう。ヒロくんのイトコだから優しく、世話を焼いてくれているじゃないかって…。もし、僕がヒロくんのイトコじゃなかったらニオくんと仲良くなるコトもなかったんじゃないかって。
昨日、帰り道でニオくんは僕の手を引いて“特別”だと言ってた。それがどういう意味での“特別”なのか聞けなかった。僕は‥ニオくんの優しさが好きなのだ。温かくて落ち着くから。
栞「周助の勝ちね」
『ニオくん‥』
栞「ちょっと周助を労ってくるわね」
『え、僕も行くよ』
栞「アンタは大人しく此処にいなさい。彼の為に、ね☆」
『ほへ?』
にこやかに立ち去る栞に首を傾げていると――‥。
『ニオくん‥』
仁「‥なんじゃ、来てたんか」
『お疲れ様でした』
仁「‥ああ」
隣に座ったニオくんは何も言わない。タオルを被っているから表情も分からない。ただ、悔しさだけは伝わってきた。キツく握り締められた手がそれを表しているから。血が滲んでしまいそうな位キツく握り締められた手にそっと自分の手を重ねた。
『そんなに握ったら傷付くのだ』
仁「‥‥」
『悔しいのは痛いくらい伝わってるよ。だから、大事な手を傷付けて欲しくない』
ゆっくりと力が抜けたコトにホッとしたら、代わりに僕の手をギュッと握られ驚いたけど握り返した。今は、どんな言葉を掛けても気休めにもならないと思う。だって、負けた悔しさは選手にしか分からないから。僕に出来るのは傍にいることだけ。
どのくらいそうしてたかな。暫くしてニオくんが口を開いた。
仁「カッコ悪いとこ見せたな…」
『カッコ悪いとこなんてないよ?』
仁「試合、負けたぜよ…」
『うん。でも、カッコ良かったよ』
仁「‥‥」
『結果はどうであれ、精一杯やっての結果ならカッコ悪いコトなんてないんだよ。
それに、負けた位でニオくんのカッコ良さはなくならないから大丈夫なのだ!』
仁「‥ははっ。なんじゃ、俺のコトカッコ良いって思ってたんか?」
『うん! 優しくて、温かくて、手品が上手。ニオくんはカッコ良いのだ♪』
カッコ悪いとこがあるのは当たり前だ。完璧な存在なんていないんだから。僕にだってある。中三になっても迷子になるし、校内も迷う…。しっかりしなきゃって思っても空回り。結局ニオくんやヒロくんに助けられてる。僕の方がカッコ悪いのだ。
仁「ありがとさん」
『?』
仁「あやめのおかげで元気でたナリ」
『‥うん/// (微笑)』
仁「‥‥」
なんだか、くすぐったいのだ。
ニオくんの為に出来るコトが僕には分からなかったから。いつも助けられてばかりだった。僕に出来るコトがあれば、と何度考えたことか…。
僕の言葉でニオくんに元気を与えられたなら、凄く嬉しいのだ。
とんっ、
『ニオくん?』
仁「少しの間、こうしてていいか?」
『うん‥』
仁「‥お前さんの傍は落ち着くぜよ」
ドキッとした。ニオくんの言葉に。握り締められた手に。傍らから伝う体温に。
初めて感じる胸の高鳴りに戸惑いながら栞の言葉を思い出した。
栞「“特別なんだ。仁王くんは”」
‥――――特別。だから、こんなにドキドキするのかなぁ‥?ニオくんは‥どうなのだ?
仁「そろそろ戻らんとな」
『そうだね』
変なの…離したくないなんて‥。
仁「行かんのか?」
『‥‥』
仁「青学が勝ったんじゃ。一緒に喜んだらどうかの?」
『ニオくん‥』
仁「お前さんは笑ってる方が似合うぜよ」
そう言って優しい目をするニオくんがカッコ良かった。
『ニオくん‥。テニス、辞めたりしないよね?』
仁「しないぜよ。こんな楽しいモン手放せん。それに、あやめが応援してくれるからな。続けるよ」
『うん!応援するのだ!テニスしてるニオくんは普段の倍はカッコ良いんだよ (満笑)』
仁「(恥ずかしくないんか‥可愛すぎナリ)」
これが、恋だと言うなら、僕は温かなこの想いを大事にしようと思う。相手が同じ気持ちとは限らない。だから、秘めておくのだ。
ニオくんの傍で笑っていられる様に―――‥。
『おめでとう! それから、お疲れ様なのだ!』
此処は変わらない。僕の居場所。明るくて、賑やか。変わらず楽しい場所。なのに――‥。
『(僕は‥彼処を居場所に出来るのかなぁ…)』
不「どうかした?」
『周助。みんな元気だなぁ、て』
不「喜びが勝ってるんだよ。疲れも忘れるくらいにね」
栞「周助はいつも通りにしか見えないんだけど?」
不「喜んでるさ」
『周助は表情が変わらないから、分かりづらいのだι』
不「そうかな?」
『ふふっ。良かった‥』
喜び‥。勝っても負けてもみんなが精一杯挑んだんだからカッコ良いのだ。でも、それは僕の価値観。
必死に練習して、勝ち進んでも負けることがある。それは、選手が一番痛感してるなのだ‥。ニオくんだって…。
『(僕‥なんか、モヤモヤしてるのだ)』
不「どうしたんだろ?」
栞「ん~‥。恋の病みたいよ」
‥‥‥‥‥‥‥――!!?
竜「青春してるじゃないか」
『Σ青春ッ///!?』
菊「恋の病って、あやめちゃんが~ッ!?」
桃「誰ッスか!? 相手は?!」
『え、あのッ…ちょっと待つのだ///ιというか、なんでそんなに興味があるのだ?』
僕が誰を想うとか興味ないと思ってたから、この驚き様は意外だったのだ。
そもそも今、この場で話す内容でもないし。ヒロくん達にまで聞こえてるじゃないか。
ちらっ、
『(あれ…?)』
今、ニオくんと目が合ったよね?
合ったのに…逸らされた? なんで?
疑問がグルグルと頭の中を回り、ヒロくんと目が合って苦笑いされた。そのまま、立海は閉会式の為に移動。みんなもスミレちゃんの声で移動する中、僕は‥動けずにいた。
『(この気持ちは…秘めて、おかなきゃ。伝えちゃ、ダメなのだ…)』
この恋は僕の一方通行だ。 僕には、彼の隣には…いられない…。そう思ったら…胸が、心が、痛かった…。
閉会式を終えるとみんなと別れてヒロくんの元へ。だけど…ニオくんは何故か、僕を見てはくれなかった。会話も、ない――‥。
比「大丈夫ですか?」
『え、何が?』
比「‥‥仁王君の事です」
『……』
比「あやめが悪いワケじゃありません。ただ、彼なりに思うことがあるのでしょう。貴女は変わらずに彼に接して上げて下さい」
『ぅん。分かったのだ』
◇◆◇◆◇◆
ヒロくんの言う様に僕はいつも通りにニオくんに接してた。だけど…。
『あの、ニオ――‥
仁「杉野、先生が呼んでたぜよ」
「マジ? サンキュー仁王」
仁「プリッ」
……………』
またなのだ。僕が話し掛けようとすると立ち去る。朝からずっとこの繰り返し。他のクラスメイトとはいつも通りなのに…僕だけ避けられている。理由は分からない。聞きたくても逃げてしまう。
ズキッ、
――‥痛い。 痛くて痛くて、泣きそうになる。
「神崎」
『はい』
「悪いが仁王に抜けてるところがあるから書いて持ってくる様に言っといてくれ」
『はぃ…』
プリントを受け取り、溜め息が出た。
僕が話し掛けようとすると立ち去るのに…どうしたら。
?「どうしたんだ?」
『丸井くん‥』
お菓子を食べてる丸井くんに話してみた。すると彼は――‥。
丸「成る程な。だったらさ―――‥」
―――――‥
『(よしっ!)』
ゆっくりと自分の席に座り窓の外を見てるニオくんに歩み寄る。
緊張するのだ。でも、ちゃんと話したいし、先生にも頼まれたし。一度、深呼吸して彼に声を掛けた。
『あの‥』
仁「‥‥」
『(聞こえてない? やっぱりちゃんと呼ばなきゃ分からないよね)
‥――――“仁王”ちょっといい?』
仁「なんじゃ、しつこいのぅ」
ズキンッ、
仁「何の用―――‥Σあやめ」
『ぁ、あの、コレ…先生から、抜けてるところがあるからって‥』
仁「‥‥」
『それ、から‥ごめんね』
仁「!?」
『僕、しつこかったよね。もう‥しないから安心して。ごめんなさいなのだ‥ッ』
仁「あやめッ…」
足早に教室を出て廊下を駆け抜け。行き着いたのは裏庭だった。同時にチャイムがなり、ざわついた校舎内は授業の為、静けさに包まれた。僕はその場に崩れて座り込むと我慢した涙が堪えきれずに溢れては零れていった。
心は突き刺されたようにズキズキと痛み、悲しみを抱きながら人知れずに泣いた。
知らなかった。気付かなかった。気付けなかった。ニオくんの優しさに甘えて、頼りすぎていたのだ。しつこいまでに…。
『ごめっなさぃ‥ッ‥』
彼の冷たい言葉と瞳が焼き付いてしまったのだ…。
僕の好きな彼は幻だったのだろうか。
†side:仁王†
丸「お前、最近どうしたんだよぃ?」
仁「何が」
丸「何がって‥。ずっと上の空だし、部活中もミスが多いだろぃ。しかも、真田に怒鳴られてランニングばっかりじゃん」
仁「そうかのぅ‥」
丸「それと、神崎とも話さねーし。流石に気になるって」
仁「……」
隣の席に居る筈の彼女は休み時間には居なくなる。当然じゃな。先に避けてたんは俺の方じゃき、何も言えないが。決定的なのは彼女が最後に声を掛けたあの時だ。
何度か話そうとしてくれたんに、俺は逃げて、避けた。それでも、声を掛けてくれた彼女に俺は冷たく言い放ってしまったぜよ。後でブン太に。
丸「“お前が避けてるって言うから仁王って呼んでみろって言ったんだよ”」
見事に引っ掛かりはしたが…おかげで彼女を傷付けてしまったナリ。悲しそうに歪められた表情。必死に泣くのを堪えながら笑おうとする姿は痛々しく見えたぜよ。
丸「あれだけベッタリしてたのに、どうしたんだよぃ?」
仁「‥‥ちょっとな」
丸「‥ま、探る気はねーけどさ。ちゃんと仲直りしとけよ」
仲直り、のぅ‥。したくないワケじゃないが‥。何度か謝ろうとしたが、避けられて話し掛けられないんじゃよな。避けられる側になって分かった。純粋で優しい彼女には辛かっただろうな。下らない事で彼女を傷付けた。笑った顔が好きだったのに‥悲しげな顔が焼き付いて思い出せないナリ。
仁「(何しとるんじゃ、俺は…)」
彼女に好きな奴がいることが分かったあの日。
それが自分だったら。自分じゃなかったら。
そう考えるだけでモヤモヤするし、苛立つ。嫉妬して彼女を傷付けたらと思うと避ける他なかったナリ。結局、傷付けてしまったが‥。
仁「(あ、戻って来た。柳生の所に行ってたんかの)」
横目で彼女を見ながら寂しくなる。
教室にいる時の彼女は携帯を見ている事が増えた。青学の誰かだろう。未だに友達を作れずにいるせいか、笑うコトも減ったぜよ。
俺の好きな彼女は其処に居ない。不意に彼女の言葉を思い出す。
『“ニオくんの魔法は僕にキラキラをくれるの!だから、ありがとうなのだ!”』
そう言って笑った彼女が可愛いと思った。その顔が見たくて手品を練習したのにのぅ。
仁「(笑った顔が見たいぜよ)」
くい、
『‥?』
仁「昼飯、一緒にどうかの?」
授業そっちのけで彼女を誘うと俯きながら頷いてくれた。たったそれだけのコトに俺は嬉しさのあまり口許が弛む。隠すように腕を枕に突っ伏した。
嫌われたワケじゃないようやし、ちゃんと謝らんといかんの。
仁「(試してみるか)」
――――‥
『ニオくん』
仁「屋上に先に行っててくれんかの」
『分かった』
あやめを見送り、俺も教室を出た。向かうは人気のない空き教室。
変装をしながらバレたら怖いが、それよりも見破れるかが気になって仕方ないぜよ。
準備を終えて空き教室を出て屋上へ。扉の前で一息吐いて扉を開けた。
『幸村くん』
幸「一人かい?」
『ううん。ニオくんを待ってるの』
幸「仲良いね」
『‥そう、かな』
幸「俺から見たらね。仁王のコト、好きなのかな?」
『‥‥それを聞くのは、ズルいよ』
幸「すまない。仲良いからてっきり―――‥
『ニオくんでしょ?』
‥――!! 凄いな‥」
変装を解いて、隣に座りながら顔を隠した。弛みきった口許はニヤけたままじゃし、気恥ずかしいナリ。
仁「あやめには変装は無意味じゃな」
『なら、ニオくんがどんな姿でも僕が見つけるのだ!』
仁「(嗚呼、もうダメじゃ…)」
『ニオくん?』
俺の色に染めたくなる。純粋で優しい彼女を俺の、俺だけの女にしたい。
『あのッ、ニオくん///』
仁「真っ赤。可愛いナリ」
『‥‥///』
距離を詰めれば恥ずかしさから真っ赤になる彼女の頬を撫でながらこのまま唇を奪ってしまいたくなる衝動を堪えて言う。
仁「さっきの質問の答えをまだ聞いとらんぜよ」
『さっき‥?』
仁「俺のコト、好き?」
『/////!!』
耳元で囁けば恥ずかしいのか俯いてしまったぜよ。そして、絞り出すような小さな声で言った。
『好き‥(ポツリ...』
仁「!」
『でもね…僕の“好き”とニオくんの“好き”が同じかは分からないのだ…』
仁「あやめの“好き”はどんなのなんじゃ?」
知りたいのに違ったらと思うと怖くなるナリ。
あやめの言うように同じ気持ちとは限らない。だが、このままでいても変わらんぜよ。例え違っても、振り向かせるだけじゃき。
妙な緊張を面に出さないようにしながら待つ。
『上手く言えないけど。
ニオくんといるのは楽しいし、嬉しい。気が付くとニオくんを探してるのだ』
‥―――俺もじゃよ。
『僕はニオくんの優しさに甘えてたんだ。ヒロくんとは違う。ニオくんの優しい笑みを見ていたくて』
‥―――お前さんだからナリ。
『でもね…。ニオくんが可愛い女の子といた時、モヤモヤしたのだ。僕は‥嫌な子だと気付いた。ニオくんはモテるから僕は‥ヒロくんのイトコっていう立場を理由に甘えてるんだ、て…』
‥―――違う。そうじゃない。
『ニオくんの言う“特別”は僕には分からないけど。僕にとってニオくんは“特別”なのだ(微笑)』
‥―――嗚呼、やっぱり回りくどいのはダメじゃな。
『だから――‥』
続けようとしたあやめの唇を塞いだ――‥。
□■□■□
ニオくんを避けるようになってから、僕のキラキラはモノクロのように色を無くした。
教室に居るのが苦しくて、寂しくて、休み時間の度にアズちゃんの元に逃げた。僕がしつこいからニオくんは疲れてしまったんだと思うと胸が締め付けられるように苦しくなる。
“特別”だと気付いたのに。それが何なのか自覚したのに…伝えるコトを怖れて。それでも、あの銀色を見付ければ目が追って、切なくなったのだ。
ニオくんは、僕が‥嫌いなんだろうか?
聞くのを躊躇わせる疑問を聞けぬまま、時間だけが過ぎて行った。授業中にニオくんからお昼のお誘いをもらった時は凄く嬉しくて、モノクロが少しだけ明るくなった。
言われるままに先に屋上で待っていれば、来たのはニオくんじゃなく幸村くんで。仲良いねって言われた時、僕には自信がなかったのだ。だけど、其処に立っているのが幸村くんじゃなくニオくんの変装だという確信だけは自信があったの。どんな姿をしていてもニオくんはニオくんだから。隣に座ったニオくんの口許が上がっていたのが見えて、嬉しいのかなぁ? とか思いながら僕も笑った。やっぱりニオくんと一緒にいるのは楽しい。そして、嬉しい。
ニオくんは僕の“特別”な人だから。ちゃんと伝わるかなぁ?
‥―――初めてのキスは驚きと優しさを感じるモノだった。
『‥ニオ、くん///?』
仁「あやめが好きナリ」
『!』
仁「もちろん友達じゃないぜよ?」
『ホントに?』
仁「キスまでしたのに疑うのか? あやめは意地悪じゃのぅ」
『Σご、ごめんね! ニオくんカッコいいから僕なんかじゃ釣り合わないと思ってたから…。夢、みたいで‥』
不安なんだ。僕は、ニオくんみたいに大人っぽくないし、子供だし、可愛くもないから。
仁「俺はお前さんにだけはペテンは使ってないんじゃよ」
『?』
仁「嫌われたくないからな。だから、お前さんが喜んでくれた手品を練習したんじゃ。笑った顔が見たくての。好きだから、ナリ」
『////!!』
仁「同じじゃな」
『‥うん///』
仁「ちゃんと聞きたいんじゃが」
『‥僕は、ニオくんが好き、なのだ///』
仁「俺もあやめが好きじゃよ」
伝わり結ぶとキラキラするのだ。
恋って凄いなぁ。何も変わらない風景さえ特別に見えるんだから。
仁「どうしたん?」
『ううん。ニオくんと一緒にいるのはキラキラなのだ♪』
仁「そうじゃな」
お昼を済ませて、たくさんお喋りをした。
お互いに謝っては笑って。何でもないコトも二人なら色鮮やかになるのだ。恋ってやっぱり凄いね!
『そろそろお昼休み終わりだね。教室戻ろう、ニオくん』
仁「‥‥」
『ニオくん? どしたのだ?』
先に立ち上がったんだけど、ニオくんは動かない。具合でも悪いのかなぁ?
心配になって屈んでみたら、手を掴んで引かれた。
『Σ!?』
バランスを崩した僕の身体はニオくんの方へと倒れ込んだ。
『ニオ、くん‥///?』
仁「サボるぞ。もっとあやめと二人きりでいたいんでな」
『そ、か‥///』
ニオくんの匂いがする。
ニオくんの体温を感じる。
ニオくんの鼓動が聞こえる。
僕はとても恥ずかしいのに嬉しい。
この腕の中はとても心地良いのだ。
仁「猫みたいに擦り寄って可愛いのぅ」
『Σはわっ///!? ご、ごめんね!』
仁「謝るな。嫌なんて言っとらんぜよ。寧ろ、嬉しいナリ」
『‥‥////』
仁「そんな可愛い顔しなさんな。我慢出来なくなるじゃろ」
『我慢?』
仁「ま、遠慮せんぜよ」
『ほへ?―――‥!』
また、キスされてる。
啄むようにチュッと音を立てながら何度も繰り返し、僕の思考はぼんやりして来た。恥ずかしいのに止めて欲しくないなんて。優しいキスをされるがままでいたら、空気を取り込もうと薄く開いた唇に空気じゃないモノが侵入してきた。
『Σんぅッ///!?』
初めての感覚に驚き身体が震えた。
咥内を荒らす様に動き回るソレは僕の舌に絡み、濡れた音が聞こえた。
深く深く貪る様な激しいキスに僕の頭の中は真っ白で、ニオくんしか見えない。
仁「はぁ…すまん…あやめが可愛いからつい。大丈夫か?」
『ん‥らいじょーう///』
仁「ククッ。そんなに良かったか?」
優しく笑うニオくんに僕も笑って見せる。
『ニオくんが笑ってると僕も嬉しいのだ』
仁「‥俺もあやめが笑ってると嬉しいナリ」
『えへへ///』
銀色が陽に当たってキラキラしてる。
僕のキラキラはやっぱりニオくんがくれるんだね。
僕はニオくんにキラキラを与えているかなぁ?
一緒だったらいいのだ。
仁「傍に居ってな」
『うん!』
恋人は魔法使い
(そういえば、ニオくんは何を我慢してたの?)
(さぁ、なんじゃろなぁ?)
(僕に何か出来る事ある?)
(あやめにしか出来んぜよ)
(僕、頑張るから何でも言ってね!)
(じゃあ、遠慮なく―――‥)
(仁王くん!)
(あ、ヒロくんとアズちゃん)
(柳生…空気読んでくれんかのぅ?)
(あやめに変な事教えないで下さい!)
(あやめちゃんにはまだ早いよ!)
(過保護な保護者じゃな)
(二人は保護者じゃなのだ)
(同じぜよ)
(あ、僕にしか出来ない事って何なのだ?)
(何でもありません!×2)
(ほへ??)
((はぁ…。困った保護者がいたモンじゃな))
