◈薔薇の刻印
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おとぎ話でよくある、王子様がお姫様と運命的な出会いをするでしょう?
悲劇的な出会いであれ、お話の最後は必ずハッピーエンド。
そんな幸せなお話ってそうはない。
だって、王子様がお姫様となる女の子を助けに来るなんて滅多にないもん。誰だって自分が可愛いから―‥。
私が住んでる町には王子様ではなくて人ではない者が住んでる。
山奥の奥にあるお屋敷。
古くから住むその人たちは―‥
“吸血鬼-ヴァンパイア-”
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ん―っ!!今日もいい天気♪』
私の名前はあやめ。
この小さな村で一人で暮らしてる。というのも、両親は既に他界していて身よりもないのだ。優しい村長さんが手助けしてくれて17歳の誕生日を無事に迎えることが出来た。
今は薬草を煎じて薬を作って売ってる。両親が薬売りをしていたから継いだ。自然に囲まれたこの村では薬草が自生するいい環境なの。
「おはよう。薬草集めかい?」
『おはようおじさん!お散歩も兼ねてね(微笑)』
「奥には行かないようにね!」
『わかってるわ!行ってきまーす!』
村の人たちは優しい。身寄りがない私をいつも気にかけてくれて、助けてくれる。だからといって甘えてばかりはいられない。
「あら?誰かと思えば“変人”の薬売りじゃない」
『‥変人は余計でしょう』
「動物に話しかけてるなんて“変人”と呼ばずしてなんと呼ぶのかしら?」
『何か用なの‥エレナ』
「気安く呼び捨てにしないでくれるかしら。気持ち悪い」
『だったら話しかけないで。貧乏暇なしなんだから』
「それはごめんあそばせ。そんなにお金に困っていらっしゃるとは思いませんでしたわ」
『裕福でも心って狭いのね』
「なっ!!」
『暇でよろしゅうございますね、エレナ様』
皮肉を込めてそう言えば、真っ赤な顔で怒るエレナ様を無視して先を急いだ。
彼女は村長さんの娘で高飛車なお嬢様。何かと絡んでは馬鹿にしてくる。慣れたがら気にもならないけど―‥
『変人はないでしょう!』
確かに動物と話したりする。
話すというか、私が勝手に喋ってるだけ。
小さい頃から何故か、動物に好かれた。熊や狼にも。今じゃ大切なお友達。
『気持ちぃ‥』
森の中は静かで心地いい。
風の音や川のせせらぎ。
鳥の鳴き声が響く。
村に居るより安らぐのは、私が変わり者だからだろうか?
『気にしても仕方ないよね!』
誰に言う訳でもなく呟いた私に小鳥が小さな声を響かせた。
ウサギやリスも出て来ては笑いかける。そこへ、狼が現れた。一目散に小さな動物-コ-たちが逃げる。
『どうかしたの?』
私の袖を加えて引っ張る狼に、立ち上がりついて行くことに。
小川のせせらぎが響く木の下に人が座っていた。
‥――あ‥
木漏れ日に照らされた銀色の髪。上下黒の服装。顔立ちの綺麗な男の子がそこにいた。
ゆっくり近くと眠っているようで傍にしゃがんで顔を覗いた。
『村の子じゃないな‥‥怪我!』
脇腹の辺りから血が滲んで彼の手を赤く染めていた。
私は彼をゆっくり寝かせて、悪いとは思ったんだけど緊急事態だったから一言謝罪して服をたくしあげる。
『酷い怪我‥』
鋭い刃物で斬られた傷口に手が震えた。それをギュッと握って薬草を探す。
狼さんには彼を見ているように頼んで‥一方的にι
薬草を煎じて傷口に当て、ハンカチを濡らし汗を拭いた。
『良かった‥呼吸が落ち着いて』
いつの間にか日が落ちてしまった。そろそろ帰らなきゃ。眠る彼の傍には狼さんが付いていてくれるようで頭を撫でて感謝。冷えないようストールを掛けて家に戻る。
「あやめちゃん、おかえり」
『ただいま』
「拓也が待ってるよ!」
『またぁ‥。(最悪だ)』
家に着くと、玄関の前に人影があった。おばさんの言っていた拓也だ。
『何かご用?』
「用って、用がなきゃ会いに来てはいけないのかな」
『会いに来なくていいって言ってるでしょう』
「つれないなぁ。俺と君は婚約者じゃないか」
『愛の欠片も抱いてないんだけど』
「君がどんなに俺を拒んでも無駄さ。村長は喜んでるんだから」
ぱしっ、
「!!」
『脅迫なんて最低だわ』
肩に触れようとした手を払いのけて、足早に家に入り鍵をかけた。
『はぁ‥』
拓也はこの辺りの地主だ。
村長さんも拒めなかったらしく、勝手に婚約者になっていた。エレナはそれが気に入らないようで、あんな悪口を言っている。
村長さんに感謝してるけど‥正直、アイツの花嫁にはなりたくない。
成り上がりで親の肩書きをぶら下げるだけのしょーもない男。
なんで私なのかと聞けば、
「君は誰よりも美しいから」
なんて、不快感しか感じない台詞を自信満々に言っていた。
『男運なのかも‥』
呟き、そっと胸に触れる。
『迎えに来てくれるのかなぁ‥』
小さい頃の約束。見知らぬ男の子と交わした。
“お前を貰いに来る。約束な”
今でもその約束を信じてる私って馬鹿ね。わかってはいても、その約束は違える事はないって信じられた。その男の子は嘘を言わないって―‥。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌朝。
まだ早い時間に私は簡単なサンドイッチと暖かいコーヒーを水筒に入れて家を出た。
静かな森を抜ければ、昨日の男の子がいる。
『顔色もいいね。ありがとう狼さん』
ずっと一緒に居てくれた狼を撫でたらゆっくり立ち上がって森の奥へと帰った。
ハンカチを小川で濡らし汗を拭いていたら、いきなり手を掴まれ驚く。
『Σ‥‥ぁ』
?「誰、だ‥お前‥」
開かれた瞳の色に私は目を奪われた。
‥――綺麗
宝石のような澄んだ翡翠色に言葉が出ない。
?「おい」
『ぇ‥?‥あ‥ごめんなさい。私はあやめ、昨日貴方が倒れてて‥‥痛いとこある?』
?「‥いや」
『良かった。あ!お腹空いてる?サンドイッチとコーヒーあるよ!
え‥と‥ι』
?「冬獅郎」
『‥よろしくね!冬獅郎くん(微笑)』
冬「‥‥」
『(機嫌悪いなぁιちょっと、馴れ馴れしいかも‥)』
眉間に皺を作る冬獅郎くんは怒っているようで、気まずくなる。とはいっても、ほおって置くわけにもいかない。
『起きられる?』
冬「ああ‥っ」
『ゆっくりでいいから』
上体を支えながら起こした。
『包帯替えるから服脱いで』
冬「‥別にいい」
『よくない。酷くなってからじゃ遅いの!ほら、早く』
冬「チッ。うるさい奴」
『うるさく言われたくないなら素直に聞く』
冬「わかったよ‥」
渋々の冬獅郎くんに笑って、持って来た水筒のお湯でタオルを濡らした。
因みに、持ち物はサンドイッチにコーヒーの入った水筒とお湯の水筒。タオルに包帯、替えのシャツと準備した。
『体拭くね』
冬「自分でやる」
『言うこと聞いてなさい』
冬「‥‥」
背中を拭きながらちょっと赤面。
だって、男の子の体ってそう見ないし‥なんだか、恥ずかしくなってしまう//
『(ダメダメ///)』
今は看護してるだけであって、別に深い意味はないんだから!‥と言い聞かせて、前に手を動かす。
また拒まれるかと思ったけど、何も言わない冬獅郎くんをチラッと見たら―‥
『(ぁ‥)』
‥――真っ赤だ
恥ずかしく思っていたのは私だけじゃなかったらしい。そう思ったら、なんだか緊張の糸が切れた。傷口を丁寧に消毒して包帯を巻く。
『はい、終わり!とりあえず服はそれ着てね』
冬「‥ああ」
サンドイッチとコーヒーを用意して朝食に。だけど、無言が続く。どう話せばいいか悩む私に冬獅郎くんが口を開いた。
冬「怖くないのか」
『何が?』
冬「俺」
『??』
怖い?冬獅郎くんが?
“なんで??”
全く理解できていない私に冬獅郎くんは呆れ顔に溜め息までつけて再び口を開いた。
冬「俺の容姿見てわかんねーのかよ」
『さっぱり‥??』
冬「馬鹿だろ」
『そうだね』
冬「(否定しねーのかよι)
‥吸血鬼って言えばわかるだろ」
吸血鬼―‥。
この森の奥深くに住む人ではない者。滅多に村に現れないその人たちを見た人は少ない。
噂では、変わった容姿をしているらしいけど。
私は見たことないし、あったとしても怖くはないと思う。
昔から吸血鬼と人は互いに協力し合って生きてきたと父から聞いた。なんでも、化け物退治をしてくれているらしい。
吸血鬼と言っても見境なく人を襲うワケじゃないのだ。彼らは花嫁を見つけ、その花嫁の血しか飲まないのだという。
だから、人が彼らを忌み嫌う理由が私にはわからなかった。
『冬獅郎くんは吸血鬼なの?』
冬「そう言ってんだけどな、さっきから」
『ごめんなさい。私見たことないし、噂って信じてないからι』
冬「なら、実際見てどうだ?」
『怖くないよ(微笑)』
冬「///!」
『冬獅郎くんが倒れてたの見つけた時、綺麗だと思ったの。
木漏れ日に照らされた銀色が幻想的で。怪我を見たら慌てたけど』
ふふっ、と笑う私に冬獅郎くんは続けた。
冬「普通、こんな容姿見たら気味悪がるぜ」
『嫌い、なんだ。自分の容姿』
冬「‥‥まぁな。散々言われたからな。冷たいとか目つき悪いとか、銀色に緑の目が気味悪ィってな」
そう話す冬獅郎くんが寂しげで見ていられなかった。
口調は強いけど、傷つきやすい子なんだと思う。
『綺麗だよ』
冬「は?」
『髪も目も。私は好きだよ』
冬「Σなっ///!!」
『ふふっ』
冬「笑うなっ///」
『真っ赤で怒ってもね~』
冬「~~‥フン///」
そっぽを向いた冬獅郎くんがなんだか可愛くて、嬉しくなる。
ピッピ、
『おはよう、今日も天気がよくて嬉しいね!』
指にとまる小鳥に話しかけてハッとした。
冬「お前‥」
『ぁ、ははι
変だよね‥動物に話しかけて』
冬「好かれてんだな」
『ぇ‥』
冬「動物に」
初めて言われた。変わった子として見られ続けたから、反応に困る。
『小さい頃から、この子たちがお友達だったから‥‥』
冬「動物が?」
『うん。私、一人ぼっちだから』
冬「親、いねーのか」
『私が4つの時に‥‥』
苦い思い出話。
小さな家に両親と三人で暮らしていました。どこにでもある普通の家庭。
薬草を摘んで、煎じて薬に。評判の良くて自慢だった。
そんな両親を失ったのは私が遊びに行っている間のことだった。
『村の人たちは口々に“吸血鬼が殺した”そう言った』
冬「!」
『でもね、そんな筈ないの。お父さんがいつも“吸血鬼は優しい人たちだよ”って言っていたから』
冬「(薬売り‥‥まさか)」
『冬獅郎くん言ったよね?
“俺が怖いか”って』
冬「ああ」
『私が怖いのはねー‥
“人間だよ”』
冬「!なん、でだ?」
『知ってるの。なんで両親がしんだのか』
‥――そう、本当は
『“村の人たちが殺した”んだって』
冬「!?」
吸血鬼を庇う両親を村の人たちはよく思わなかった。誰が襲われたワケじゃないのに。人と違うからという理由だけで毛嫌いして‥。人は自分たちが正しいと信じるが故に、人ではない者たちを遠ざけようとしたのだ。
『それを知ったのは5つの時。内容はよくわからなかったけど‥その時の大人が怖いと思った。
いつの間にか、この森に来ては泣いて‥動物たちが慰めてくれたの』
冬「辛かったんじゃないのか?」
『ううん!この子たちがいたし、約束もあったから』
冬「約束?」
『この森で迷子になってた時に助けてくれた男の子がいたの。
顔はよく覚えてないんだけど‥』
―貰いに来る。約束な―
『馬鹿みたいでしょう?
見ず知らずの男の子との約束を信じてるなんて』
冬「‥お前“薔薇の刻印”あるか?」
『え?何で知ってるの?』
私の胸元には綺麗な薔薇がある。なぜだかよく知らないけど。
冬「吸血鬼は花嫁と決めた女に印を残す。それが薔薇の刻印だ」
『そうなんだ‥』
じゃあ、あの男の子は吸血鬼‥。
なら、私は吸血鬼の花嫁になると?
『私‥どうなるの?』
冬「別に死にゃしねーよ。人間と同じだ。好きな奴と一生を共に過ごして、老いて死ぬ。
吸血鬼は不老不死じゃないからな」
『へぇ―』
知らなかった。
何というか‥吸血鬼って血しか飲まないし、棺桶で寝るとか、ニンニクや十字架が嫌いとか、そんなことしか知らないなぁ。
冬「純潔の吸血鬼ならそうだが、今は居ない。長い間に人間と交わる内に変わったからな。
血を飲むには飲むが、本能が残ってるからだ。普通に飯食うし」
なんだ。何も変わらないんだ。
『じゃあ、私と冬獅郎くんは何も変わらないんだね(微笑)』
冬「!‥そ、だな///」
冬獅郎くんに会えて良かった。だって、お父さんたちが言ってたことは正しいってわかったから。
冬「戻らねーと」
『そうだね。私も――‥
「あやめ――」
!!』
この声!!
「あやめ―!いるかい―!」
冬「知り合いか?」
『隠れて!!』
こっちに来る前に冬獅郎くんを隠さなきゃ。騒がれたら傷にも響く。とっさに木の陰に冬獅郎くんを隠し、深呼吸。
『よしっ!』
「此処にいたのか!探したよ!」
『何か用?』
「デートの誘いにね」
『お断りよ』
「そう言わずに、君は婚約者なんだから」
『触らないでっ!!』
伸ばされた手に恐怖を感じて、怒鳴った。
「何故、何故そんなに俺を拒む!!」
『!!』
「君は俺と婚約しているから村にいられんだよ!!
じゃなきゃ、お前みたいな変わり者山奥に捨てられてたんだからな!!」
『!?』
目を見開き驚く私の肩を掴み、木に押し付けられた。
「お前の親を殺した吸血鬼に弄ばれるより―‥」
ゾクッと背筋に寒気を感じる。頬から首筋へと指を滑らせる拓也に体が強張った。
‥――怖い
けれど、金縛りにあったように体は動かなくて震えるだけ。
「あやめ‥」
『っ‥』
きつく目を瞑ることしか出来ない。助けてと思い浮かんだのは吸血鬼の彼だ。
でも、此処で出て来たらこの男は何をするかわからない。
そう‥諦めた時、
ガサガサ、
「なんだ‥‥狼!!?」
グルルルゥ―‥
威嚇する狼がいた。
一歩、足を出すと拓也は怯え駆け出した。
ぺたん―‥
力が抜けて座り込んだ私に狼は歩み寄り、座る。
『あり、がと‥』
震える手で撫でていると、冬獅郎くんが出て来た。
冬「大丈夫――‥、じゃねーよな。悪ィ‥助けてやれなくて」
『‥‥冬獅郎くんは悪く‥ないから、何するかわかったもんじゃないもの。
私なら‥大丈夫‥‥だから、ね?』
心配してくれる冬獅郎くんに出来るだけ笑って言う。上手く笑えてはいないだろうけど‥。
冬「隠れてたらコイツがいてさ。代わりに行かせたんだ」
『そう。この子が私を冬獅郎くんに引き合わせたんだよ』
冬「そうだったのか。ありがとな。おかげで助かった」
そう言って狼を撫でる冬獅郎くんにホッと一息。
すると、私に向き直り遠慮がちに手を伸ばしては頬を撫でる。その優しい温もりに我慢してた涙が溢れ、止まることなく流れた。
『うっ‥‥っ‥‥ふっ‥』
冬「怖かったな。もう大丈夫だから、我慢するな」
その言葉に我慢してた感情を止めることが出来ず、冬獅郎くんに抱きついて子供みたいに大泣きしてた。
恐怖、寂しさ、悲しさ―‥。
色んな感情-モノ-が込み上げては涙となり溢れ出す。
そんな私は冬獅郎くんはずっと抱き締めてくれた。黙ったまま、優しく頭を撫でながら‥。
冬「なぁ、あやめ。
もし―‥その刻印を刻んだ吸血鬼が現れて、お前を嫁にするって来たら‥。手を‥取るか?」
涙でぐちゃぐちゃの顔を上げる私に、冬獅郎くんはその綺麗な翡翠の瞳で私を見つめていた。
それは、真剣で‥でも、少し揺らいでる。
『‥――取るよ』
冬「!‥‥顔も覚えてない男だぞ?
普通に暮らすことも出来ないぜ?
森の奥で友達にも会えないかもしれない。それでも‥」
『友達、居ないもの。それに‥』
先程の出来事を思い出し、震える。気づいた冬獅郎くんがキツく抱く。
『あんな男に抱かれるなら‥嫁になきゃならないなら‥いっそのこと、私を攫って欲しいっ―‥』
冬「っ!!」
胸元に刻まれた薔薇の刻印は私にとっては御守りだった。
ひとりぼっちじゃないんだ―‥
迎えに来てくれるんだ―‥
それだけが、そんなことが私に勇気をくれていたの。笑っていられたの。
冬「信じろ」
『‥‥』
冬「吸血鬼は自分で刻印を刻んだ女を必ず迎えに行くんだ。
その女を守り、愛する―‥吸血鬼ってのは人間なんかより一途なんだぜ」
『‥うん(微笑)』
冬獅郎くんの言葉に救われる。
そして、お互い別れて家に帰った。
狼さんは冬獅郎くんに着いていくように森へ。
私は一人村に。
けれど―‥それがいけなかった。
ガチャン―‥
「すまない。村の為には仕方ないんだ」
『‥‥』
「わかっておくれ」
村長さんの言葉に、ただただ、涙を流すしかなかった。
戻った私を待っていたのは―‥
“監禁だった”
家の前で待ち構えてたあの男が近寄って来た瞬間に叫んだ私に村の人は驚いていた。
けれど、そんなことさえ気にもせずに拒絶の言葉を放ち、家の中に。
その夜。
村長さんに呼ばれて行けば、頭を下げて頼んできたのだ。あの男と結婚して欲しい、と。
何度も、何度も断り続けた。
『私はっ!道具じゃないわ!』
「わかっておくれ。君を渡すことで村人たちが助かる」
地主であるあの男の父親は、この村を縛り付けていた。
村人たちから作物を奪う、あまり評判のいい人じゃない。
『そうやって‥私を縛るんですか!』
「あやめ!」
『両親を殺したクセにっ!!』
「Σ‥あ、あれはっ!吸血鬼が‥‥」
『私は、両親も奪われて‥私の人生まで奪われなきゃならないのっ!!』
そう叫んだ‥でも、
「恩を仇で返すのか!」
『っ‥』
「君が嫁げば、村人たちが助かるんだ!
村人たちの為にも、頼む‥」
恩は確かに感じてた。
だけど、なんで私なのよ‥。
逃げてしまおうと考えていれば、小部屋に通されて鍵をかけられてしまった。
『ふっ‥‥ぅ‥ッ‥』
‥――冬獅郎くん
目を閉じれば彼が浮かぶ。
ぶっきらぼうな口調で、ちょっと近寄りがたいけど。
本当は優しくて、温かい人だった。
小さな体で抱き締められた瞬間‥安心出来た。
心地良かった‥なのに、
『もぅ―‥』
‥――会えない
それが何よりも辛く、寂しい。
『‥っ‥‥は、ァッ‥‥ぅッ‥』
止まりかけた嗚咽が漏れる。
言葉にならない悲しみを絞り出すように泣き続けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あやめ」
優しい父の声が―‥
「あやめ」
優しい母の声が―‥
もう、聞くことの出来ない声を聞いた。
幸せな夢。優しい幻。
私が居たい場所は脆く崩れ、一人残された。
葬儀を終えても、小さかった私には死がよくわからず。
よく三人で薬草を取りに行った森に出掛けては二人を探した。
『パパー‥ママ―‥。ど―こ―!』
森に響く声に返事なんて返って来るはずもなく、日が落ちるまで歩き回る日々。
そのたびに、村長さんが慰めてくれた。
でも、小さかった私には両親の温もりを求めずにはいられなかった。
毎日毎日‥森へ行っては二人を呼ぶ。そんな時だった。
『ここ‥‥どこ‥?』
森の奥深くまで迷い込んでしまったのだ。
心細さから涙が溢れ、泣いてしまった私の前に現れたのはフードを被った男の子だった。
「何してるんだ?」
『ぅ‥ここ、どこ‥‥ぅッ‥うあぁぁ―――ん!』
「!!」
泣き出す私にその子は慌てて、頭を撫でた。
「泣くなι」
『ぅ‥ヒック‥ぅん‥』
「いい子だな」
『にーたん、だぁれ‥?』
「俺は~ιシロだ」
『シロにーたん?』
「そうだ。お前迷子か?」
『?』
それから、その子は私の手を引きながら森を案内してくれた。
綺麗な花畑や小川を教えてくれた。
日が暮れて、村の近くまで連れて行ってもらい‥手を離された瞬間、しがみつく。
『一緒‥シロにーたんと一緒いる!』
「‥ι
じゃあ、こうしようぜ」
『?』
「お前が大人になったら迎えに来る」
『大人っていつ?』
「そうだなぁ―。大きくなったら、だ」
『そしたら、シロにーたん来てくれるの?』
「ああ。お前を嫁にもらいにくる、約束な」
そう言ってぎゅっと抱き締めた彼は森の奥へと消え、後に残ったのは胸元の薔薇だけ。
ガチャン、ギィィィ―‥
鍵を開け、扉がゆったりと開いた。
『貴方――‥』