◈渡せぬ想い<チョコ>
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私が小学校に入ったばかりの冬。父の親友が亡くなったとの知らせを受け葬儀に参列した。
喪服の大人達の中に泣くのを堪えながら一人座る小さな男の子。初めて見る白銀の髪に目を奪われ、そんな子を大人達は口々に“可哀想”と言いながら誰一人として彼に寄り添おうとはしなかった。
それが何を意味するのか―‥幼かった私には理解する事は出来ない。
けれど―‥
『“泣いてるの?”』
寂しそうな背中が気になって声をかけて‥魅入ってしまった。必死に涙を堪えた表情、キラキラと輝く翡翠の瞳に――。
私の声に首を振って答えてくれた男の子をそっと抱き締め、気づいた。震える体をぎゅっと、背中をさすりながら“私が一緒に居るよ”何度も言ってた。
何でそんなことを言ったのかわからないけど、その子の傍に‥家族になりたいってそう思ったんだ。
『“私、あやめ!”』
?「“とーしろー‥ひつがや、とーしろー”」
『“とーしろーは今日から私の家族だよ!”』
日「“家族‥”」
『“うん!私がとーしろーの家族になる!”』
それから、お父さん達に頼んで彼を引き取った。少しずつ、少しずつ時間を重ねて私達は家族になってこれた。
当たり前のように傍に居る彼に特別な感情を持ったのは中学に上がった頃。
一つ下の日番谷 冬獅郎に私はずっと恋、してるのです――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いつもの朝。制服に着替えて、髪をおさげに結って部屋を出る。
ガチャ、
『おはよう、冬獅郎君』
隣りの部屋から出て来た男の子。それが、あの時の彼だ。
日「はよ」
素っ気ない朝の挨拶。交わらない視線。先に下りて行く背中を見て溜め息。
いつ頃だったか‥冬獅郎君は私を避けるようになった。高校生だし、そんなモノなのかもしれないけど‥寂しいんだ。
中学生の頃はまだ話してたと思う。高校受験辺りから変わったかな‥はじめは同じ高校行くって言ってたのに別の進学校を受験するし、家族なのに他人だって言うし‥‥私、嫌われてるのかもしれない。
『はぁ‥』
?「朝から溜め息なんて幸せ逃げるわよ?」
『乱ちゃん‥おはよう』
金髪美人の友人、松本 乱菊。
中学から一緒で何かと気さくな性格でよき相談相手だ。
乱「また想い人の事ね」
『あはは‥ι』
乱「いい加減に伝えたら?
バレンタイン近いし、来年はそんな事してられないでしょう」
『そう、なんだけどね‥』
乱「まったく。毎年毎年チョコは作ってるのに渡せてないんだから」
『面目ないι』
――そう。
毎年、バレンタインにチョコを作っているにも関わらず、ちゃんと渡せていないのです。
ちゃんと、というのは気持ちを伝えられないって事。
チョコはあげるんですよ‥家族だからって理由でー‥。それも、一昨年から貰ってくれなかった。
日「甘いの好きじゃない。家族だからってわざわざ作る必要ねぇよ」
その一言が突き刺さった。
今でも、引きずってしまって‥今まで通りに、普通に接しようとしたけど無理。
乱「そうやって、いつまでアイツを好きでいるの?」
『いつまでって‥』
乱「無駄に時間だけ過ぎるわよ?」
『わかってるよ‥』
乱「なら!今年こそ伝えなさいよ!」
『ぅん‥』
乱ちゃんにはそう言ったけれど、自信はないのです。
必要ねぇよ、その言葉が頭から離れなくて‥でも、作る事をやめられなくて‥渡せないクセにね。
――それから数日。
バレンタインまで4日と迫った放課後、スーパーに寄りチョコの材料を手に家に向かっていると後方から名を呼ばれた気がして足を止めた。
『桃ちゃんに冬獅郎君。お帰りなさい』
雛「ただいまあやめちゃん。それチョコの材料?」
日「‥」
『ぅん。来年は作ってる時間はないから、お世話になったみんなに作ろうと思って』
雛「みんなって?黒崎君達に?」
『うん。桃ちゃんにもあげるからね』
雛「ありがとう!楽しみだね、シロちゃん」
日「俺はいらねー」
ズキッ―‥
痛い程に突き刺さる。気分が重く沈んで視界がゆるゆると歪む。
遠くに聞こえる桃ちゃんの声、それを面倒くさそうに返す冬獅郎君の声、私は俯いたままゆっくり脚を止めた。気づかないまま家へと歩く二人の後ろ姿を見れば、仲睦まじい恋人同士のようで‥逃げるように家とは逆に走り出す。
夢中で走っていたから前も見ず、角を曲がるなりぶつかってしまった。
『っ‥すみませんっ!』
?「いや―‥って、神崎先輩」
『ぇ‥あ、黒崎君』
ぶつかったのは冬獅郎君の友人の黒崎君だった。
『ごめんね、私‥前見てなくて』
黒「大丈夫だ。
それより、どうしたんだ?先輩の家、あっちだろう」
『ぅん‥ちょっと、ね。
黒崎君とこうして話すの久しぶりだね』
黒「そうだな。学年違うし、冬獅郎は他校だしな」
『みんな元気?』
黒「ああ。学校一緒なんだし会えるだろ?」
『それもそうか』
中学の時はよく家に来てたなぁ。派手な外見だけど優しい子達で楽しかった。
黒「冬獅郎と何かあったか?」
『え?』
黒「泣いただろ?」
『!』
黒「上手くいってないのか?」
『気づいてたんだ‥』
黒「まぁな‥。二年辺りから冬獅郎の態度が変わっただろう」
『ぅん‥』
周りにも分かるくらい冬獅郎君の態度は変わっていたんだね‥。
落ち込む私に黒崎君は場所を移そうと近くの公園に。ブランコに座り、今までの事を彼に話していた。
黒「そっか‥冬獅郎の奴がそんなコト言ったのか」
『私、いつの間にか嫌われちゃってたんだね‥。鬱陶しかったのかもしれない。ダメな姉だよね(苦笑)』
黒「先輩‥」
『ぁ、ごめんねι!私の話ばかり!』
年下に愚痴ってしまうなんて情けない。そう思う私に対して黒崎君は笑って気にするな、と言ってくれた。その優しさが温かく感じ、重く沈んだ気分も軽くなった。
『ありがとう、此処でいいよ』
黒「わかった。じゃあな」
『うん。ありがとう』
ホント、優しい子だなぁ。
年上の私よりもしっかりしてるし、自分が恥ずかしいよ‥。内心で反省していると前方から見知った姿に足を止めた。
『冬獅郎君‥』
不機嫌そうな表情で見る彼から視線を外してた。
日「何してたんだよ」
『‥散歩、してただけ』
日「なら声かけてけよ。いきなり居なくなるから雛森が心配してたんだぞ」
『ぅん‥ごめんなさい』
というか‥家に帰るまで気づかなかったの?
冬獅郎君は私服で鞄もない。一度家に帰ったのは明らか。
言葉から察するに冬獅郎君はさほど心配はしてなかったんだろう‥‥少し、期待してる自分が嫌になる。
『面倒、だよね‥私』
日「あやめ‥?」
『こんな面倒ばかりかけてるから‥嫌われちゃうんだね』
日「!?」
『ごめんね‥』
日「違ッ!」
『早く帰ろっか』
溢れそうな涙を隠して足早に冬獅郎君の横を通り過ぎた。
胸が苦しい‥苦しくて、痛い――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
バレンタイン当日。ラッピングを済ませるも気分は沈んだまま。
あれから、冬獅郎君とは話してない。なんて言ったらいいのかわからなくて‥。
『好き、なのに‥』
伝えられないまま綺麗にラッピングされた箱。結局また作ってしまったのです‥。我ながら、ホントにお馬鹿だと思ってますよ。
溜め息を吐いて部屋を出れば。
ガチャ―‥
『ぁ‥』
日「‥はよ」
『ぅん‥おはよう』
日「それ、チョコか?」
『うん。チョコっていうか、チョコチップクッキーだよ。
チョコは本命‥‥いつも、渡せないんだけどね』
日「へぇー‥」
冷めた反応をする冬獅郎君に心は痛い。少しでも興味があるのかなぁ‥なんて思ってたんだけど、そうでもないか‥。
日「本命って‥誰だよ?」
『‥‥ずっと、身近な人、かな(苦笑)』
息苦しさから先に階段を下りる。
何であんな事聞いたのか気になるけど‥意味なんてないんだと思う。私に、興味はないんだろうから‥。
「あ、今日ね。パパとデートだから夕飯は二人で食べてねvV」
『はぁい』
ルンルン気分の母に笑って朝ご飯を食べる。いつまでも恋人気分の両親を見て育ったせいか、私もそうありたいと思うようになってた。
日「仲良いよな、おばさん達」
『うん。昔からあんな感じだしね。ちょっと、理想だったりする』
日「ふーん」
『‥』
やっぱり、興味ないよね‥私の事なんて。分かってるクセに期待ばかりしてる自分が嫌になるよ。今年こそは、と思っていたけど‥本人の冷めた対応に挫けてしまう。
『頑張ったんだけどな‥(ポツリ』
日「‥‥」
渡せないチョコ-想い-を鞄に押し込んで家を出る。隣から出て来た桃ちゃんに包みを渡して、冬獅郎君が来る前に学校へと歩き出した。
逃げるように――。
―――――――――‥
学校に着くなり乱ちゃんにも包みを渡して、HR前に黒崎君達にも渡して回った。
乱「また渡さないつもり?」
『‥‥』
乱「まったく。さっさと告っちゃえば済む話しじゃないの」
『そうなんだけど‥いざ渡そうって思うと緊張しちゃってι
それにー‥』
乱「?」
『嫌われちゃってるみたいでさ(苦笑)』
乱「それでいいの?来年は忙しくなるのよ?大体、アンタ進路の事も話してないじゃない。日番谷だって知りたい筈よ」
『‥‥』
乱「ちゃんと話してみなさい」
予鈴が鳴り、席に戻る乱ちゃんの言葉に頷くことも出来なかった。
こんなに近くに居るのに‥私が一番、遠い気がする。
小さい頃はいつも一緒で、笑ってくれたのになぁ‥。日に日に遠くなる互いの距離。年頃だとしても寂しいよ。
『(ちゃんと話せたらこんなに悩んでないよ‥)』
鞄に押し込んだまま出番を待つソレは何だか寂しそうに見えた。
いらない、その一言が怖いんだー‥。
好きなのに、傍に居たいのに‥‥。
ブゥーッブゥーッ
『メール‥‥ぁ‥』
携帯を出して開けば冬獅郎君の名前が表示されていた。
“遅くなる”相変わらずの短い文面に素っ気なさを感じながら閉じる。
寂しい‥寂しい‥泣き叫ぶ心を押し殺して堪えるんだ。
『(結局、私って何なんだろう‥?)』
家族だと、他人だと、突き放される度に考えてしまう。
ずっと家族だった――。
大好きな弟だと思ってたら恋に落ちて‥想い人になった。
大切な人なのに埋まらない距離はどうしたらいいのだろうか‥?
好きじゃなくていいから、せめて‥家族でいさせて欲しい。
『馬鹿だなぁ‥私って‥』
重い気分を引きずったまま帰宅した私は、夕飯を作っていた。ちょうど切れてしまった牛乳を買いに出た帰り道で溜め息ばかり吐いてる。情けない自分を笑っていると前方に並んで歩く男女がいた。後ろ姿で分かってしまうのは彼の綺麗な銀髪のせい。隣には可愛い桃ちゃん。ホントに仲良しな二人を後ろから眺めた。
冷たい手をギュッと握って顔に偽物の表情-カオ-で駆け出した。
『お帰りなさい!』
雛「あやめちゃん、ただいま!買い物行ってたの?」
『うん。牛乳切らしちゃって』
雛「メールくれれば買って来たのに」
『ありがとう。ちょっと気分転換したかったから大丈夫』
昔から優しい桃ちゃんに嫉妬してしまう気持ち-ジブン-が嫌いだ。
それでも笑っている私は彼にはどう映っているのか気になって視線を動かす。そこに映るのはつまらそうに前を見る横顔だけ。私に向けられないコトにまた痛みを感じて逸らした。
雛「シロちゃんったら、私が上げたバレンタインチョコ美味しいって聞いたら“まぁまぁ”って言ったんだよ!」
――え?
日「ホントのことだろ」
雛「あやめちゃんは美味しいって言ってくれたのに!」
『‥桃ちゃんからは貰ってたんだ(ポツリ』
雛「え?‥あやめちゃん?」
――苦しい。
早くこの場から去りたくて無理矢理笑って言う。
『なぁんだ、桃ちゃんからのが欲しいから私のはいらなかったんだね!』
雛・日「「!」」
『そうだよね‥好きな子からのだけでいいもんね!ごめんね、気づかなくて』
日「ッ」
雛「あやめちゃん!」
『先に帰ってるね!』
そう言って走り出す。
知らなかった‥知りたくなかった‥でも、言って欲しかった。馬鹿みたいに三年も作り続けてたなんて‥‥笑えるよ。
家に着き、リビングのテーブルに置いてあるラッピングされた箱。それを掴み取ってゴミ箱に叩きつける様に投げ捨てた。
『ッ!』
零れそうな涙を堪えて夕飯を作る。馬鹿みたいな自分を振り払うように無心で。すると、玄関の開く音がして一瞬手が止まる。
日「あやめ‥」
『ご飯出来たから着替えてきて!』
日「‥あのさ」
『ほら、早く!冷めちゃうから!』
日「‥‥わかった」
部屋へと向かう背中を見送り、テーブルへ料理を運ぶ。
デートとはしゃいでたお母さん達を思い出しながら、ゴミ箱の中にあるチョコ-想い-を忘れ去るようにして。
着替えを済ませた冬獅郎君と夕飯を食べる。
気まずさを隠しながら――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『ぁ、おはよう!』
日「‥はよ」
「パパー、朝ご飯よ!」
「はいはい。二人ともおはよう」
いつもと変わらない朝の光景。
両親の相変わらずなラブラブっぷりを流しながら箸を動かす。あれから、ゴミ箱行きになったあの箱はなくなっていた。もったいないコトをした罪悪感とよかったという安心感、複雑な心境に笑ってしまいますよねェ。
「そういえば!あやめ進路のコトだけど、やっぱり家出るつもり?」
日「!?」
『まだ分からないよι
それに、乱ちゃん達とシェアってコトも考えてるし。その前に受からなきゃだけど(苦笑)』
「そうだけど‥。一人はちょっと、ねェ」
「心配だな。シェアなら父さんはいいぞ」
『‥頑張りますι』
あまり自信がある訳じゃないのにねι
今の成績じゃギリギリだし、一人でっていうのは正直なところ私も嫌。だって、寂しいもん‥情けないかもしれないけど‥。
そんな時に乱ちゃんから何人かで借りてシェアしようって話しになった。
それが何より嬉しかったんだ。
日「家、出るのか‥」
『‥バイトして少しでも足しにしようって考えてね。家からだとバイトするにしても夜道は怖いから‥少しでも近い方がいいし』
日「聞いてない、そんな話し」
――驚いてしまった。
ずっと、私の事なんて気にもならないのだと‥興味なんてないんだと思ってたから。
嬉しい‥けど、嬉しさよりも悔しさの方が強い。
『冬獅郎君だって、言ってくれなかったじゃない(ポツリ』
日「!」
『一緒に――‥って、ごめんね!今のナシ!』
日「あやめっ」
『あ!黒崎君達だ!じゃあね!』
逃げる。だって、今更じゃない。何も話してくれないのは‥。今更‥責めたって、意味ないもの。
日「‥俺だって‥ッ!」
―――――――――‥
乱「どうしたの?元気なさ過ぎよ」
『‥ぅん、ちょっと自己嫌悪してるとこ』
乱「‥アンタも懲りないわね」
『ホントにね(苦笑)』
笑ってみせれば乱ちゃんは心配そうに私を見てた。
乱「たまには、泣いたっていいのよ?」
『泣けるなら、そうしたい‥。
でもね?涙がでないんだ‥何でだろうね?』
泣きたいのに涙が枯れたように出なくて‥けれど、心はずっと泣き叫んでいる。こんなにも好きなのに‥伝えられるず、すれ違ってばかり。
どうして――?
どうして彼だったの?
彼じゃなければもっと、恋していられたのかなぁ?
彼じゃ、なければ――。
乱「あやめ?‥あやめ!?」
『ハァ‥ハァ‥』
――夢に見るの。
小さな私と彼が手を繋いで笑ってた。小学校に入れば自分の容姿を気にして悩んでた彼に、
『私は好きだよ』
そう言った。
はにかみながら笑ってくれた彼に私も笑って‥楽しくて、愛しい時。あんなにも優しい時間があったのに変わってしまった。笑い合えたあの日は戻ることなく思い出の彼方へと消えていくだけ‥。
大丈夫――。
だって、新しい出会いを重ねて行けばいつかは思い出になるから。今は苦しくても、またあの頃のように笑い合えると信じてる――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めた頃には午前の授業は終わっていて、今はお昼休み。保健室に寝ていたようで先生に声をかけて教室に戻れば乱ちゃんが心配してくれていた。
いきなりのことに私も驚いたけど乱ちゃんはもっと驚いただろう。
保健室まで運んでくれのは黒崎君だと知った。ちょうど移動教室で近くにいたようで後でお礼をしようと思っていたら乱ちゃんから放課後遊びに行こうと誘われた。多分、気遣ってくれているんだと思う。だから二つ返事で答えた。
―――――――――‥
『あれ‥』
黒「早かったな、冬獅郎」
日「ウチの学校の方が近いだけだ。‥‥大丈夫なのか?」
『ぇ‥?』
黒「一応、冬獅郎に連絡しておいたんだよ」
そう、だったんだ‥。
本当に黒崎君は優しいなァ。
黒「なんだ?」
『ううん!あ、保健室まで運んでくれてありがとね!』
日「‥(ピク」
『重かったでしょ?』
黒「そうでもないぞ」
『Σ目をそらされたよ!?』
黒「あはは!」
『もぅ。‥心配かけてごめんね、もう大丈夫だよ!』
日「‥‥そうか」
笑ってみせたけど‥冬獅郎君、その反応はやっぱり痛いよ‥。
ダメダメ!
折角、乱ちゃんが誘ってくれたのに無駄にしちゃう!
乱「置いて行っちゃうわよ~!」
『Σ待ってよ!』
久しぶりの寄り道。みんなでこうして遊ぶのは中学以来だ。
たわいのない話しをして雑貨屋を回り、ゲームセンターに行く。
賑やかな笑い声を聞きながらクレーンゲームのコーナーに気になるぬいぐるみを見つけた。
『(可愛い‥vV)』
白の少し大きい猫のぬいぐるみ。ちょっと無愛想なその子が何だか彼に見えてしまう。
まぁ‥クレーンゲーム苦手だからやらないけどねι
?「欲しいのか」
『‥冬獅郎君。欲しいけど、クレーンゲームって苦手だから(苦笑)
みんなは?』
日「対戦ゲームしてる。負けたらジュース奢りで」
『そっか。私達も行こう――‥冬獅郎君?』
みんなの所に行こうと冬獅郎君を見ればクレーンゲームを始めていた。
『(中学の時もよくこうして見てたなぁ‥)』
今日みたいに寄り道してゲームセンターに来てはクレーンゲームでぬいぐるみを取って貰った。おかげで私の部屋に飾ってあるぬいぐるみの殆どが冬獅郎君に取って貰った物ばかりだよ。
日「ほら、取れたぞ」
『ありがとう‥』
日「嬉しくなさそうだな」
『そんなことないよ。凄く嬉しいもん‥』
日「そうは見えねーけど」
『‥優しいよね、冬獅郎君は。だから―‥』
日「あやめ‥?」
――諦めきれなくなるよ。
『何でもない!みんなの所に行こう』
日「ああ‥」
それからもみんなで賑やかに遊んだ。
一通りゲームを楽しんだ最後にプリクラを撮ろうって話しになったのはいいけど、男子陣は凄く嫌そうです(苦笑)
二人一組でと決まるなり乱ちゃんが組み合わせを決めていた。
乱「私と修兵。織姫と一護、朽木と恋次、あやめと日番谷ねvV」
『(ワザとだ!)』
黒「プリクラなら女子だけで撮ればいいじゃねェか」
日「めどくせェ」
檜「俺は構わないが」
阿「苦手なんだよなァ、写真とかって」
ル「なら男子だけで撮ればよかろう」
織「流石に男子だけっていうのは入りづらいと思うよι」
乱「こんなにお願いしてるのに‥アンタ達、私に逆らうの?(黒笑)」
黒・阿・日「「「‥‥ι」」」
檜「諦めろ」
乱ちゃん‥それはお願いではなく脅しだよι
『無理強いしなくてもいいんじゃないι』
檜「そうだな。ハーレム状態で撮るってのもわるくないな」
乱「じゃあ、修兵を中心に撮りましょう!」
黒・阿・日「「「‥‥」」」
檜「なんだ、それも嫌なのか?ワガママな奴らだなァ(笑)」
檜佐木君まで‥ι
そんなにからかっちゃ可哀想じゃないの。
――というか
『後輩をからかわないの』
檜・乱「「面白いんだもん」」
『もんじゃありませんι』
黒「つーか、プリクラ撮って何がいいんだ?」
阿「写真なんざ卒業アルバムとで十分だろう」
ル「そこからか」
織「あははι」
本当に写真嫌いなんだなぁι
卒業アルバムで十分、か‥。
『でも、私の卒業アルバムには黒崎君達は載ってないし』
黒「あ‥」
『写真自体そんなにないから‥。だから‥ダメ、かな?』
黒「仕方ねェな」
阿「だな」
『ありがとう!』
乱「あやめのお願いは聞けて私のお願いは聞けないのは何でなのよ!」
黒・阿「「脅しだろう!」」
織「まぁまぁ」
ル「さっさと撮るぞ!」
戸惑いながらそれぞれ機械の中へ。どんなのが出来るか楽しみだなぁ!
日「めどくせェな(ボソ」
『‥‥ごめんね。私が言ったから‥』
日「別に‥。さっさと済ませるぞ」
『ぅん』
気まずいままに中へと入る。
簡単な操作をして撮影開始‥だけど――。
『えと、前見ないの‥?』
日「別に写ればいいんだろ」
何度撮ろうが冬獅郎君はカメラさえ見ず、そっぽを向いたまま。笑って撮ってる私が馬鹿みたいで泣きそうになる。
何度やっても同じならもう止めよう。適当に選んで外に出た。
日「落書きしないのか」
『いいよ、別に‥』
したって意味ない。
無理矢理撮ったんだから‥楽しくも、嬉しくもないし。
鞄から一冊の小さなメモ帳を取り出した。そこには、今まで撮ったプリクラを大事に貼ってある。
その中の一枚に冬獅郎君が映っている。隣には桃ちゃんだ。この時も嫌々だったのだろうけどさっき撮ったのよりはましだ。
照れたのか微かに赤い頬をしながら仲良く腕組みして撮ってる。視線はそらしてるけどね(笑)可愛い一枚だ。
出来上がったプリクラを見て悲しくなる心。
『やっぱり、上手くいかないなぁ‥』
日「あやめ‥」
『桃ちゃんとだったらよかった?』
日「何言って‥!?」
『だって、桃ちゃんとならこんなに自然なのに‥私とじゃ不自然なんだもん‥』
日「それはっ!」
『ごめんね!』
日「!?」
『嫌なコトに付き合わせて‥ごめん』
日「あやめ‥」
『みんなも終わったみたいだね』
ゆっくりと歩き出す。
抱えるぬいぐるみをギュッと抱き締め涙を堪えた。
――少し期待してたんだ。
二人で撮ったコトないから‥でも、結局‥嬉しくもなかった。私とが嫌ならそう言ってくれたらいいのに‥。
乱「何よコレ!」
檜「完全にそっぽ向いたなι
嫌なのは分かるがもう少し付き合えよ、神崎が可哀想だろう」
日「るせェ‥」
『仕方ないよι
付き合ってくれただけマシだよ。一人にされたら流石に泣いてたよ、私』
本気です。
絶対、逃げ出して泣き明かしたよ‥。
乱「よし!じゃあ女子だけで撮りましょう!」
『え?』
乱「こんな無理矢理笑ったあやめのプリクラなんて嫌よ!
ほら、二人もいらっしゃい!」
ル・織「「はい!」」
乱ちゃんに手を引かれるまま歩いた。優しい友人の気遣いに感謝してもしきれない。
『ありがとう、乱ちゃん‥(ポツリ』
乱「どう致しましてvV」
それから四人ではしゃぎながら撮影開始です。
一方、残された男子陣は――。
阿「どうする?」
黒「待ってるしかないだろう」
阿「だよな」
檜「ま、仕方ないさ。日番谷がこんなだから悪い」
日「‥‥」
檜「神崎が気を遣って笑いたくもないのに笑ったのになぁ。背の低さは仕方ないが中身までガキとは‥ハァ~」
日「喧嘩売ってんのか(イラッ」
檜「まさか。ガキ相手に売らないさ」
日「テメェ‥(ギロッ」
黒「落ち着け冬獅郎!」
阿「檜佐木さんも止めて下さいよ!」
檜「いつまでも意地張ってると始まる前から離れていくぞ」
日「!?」
乱「お待たせー!
‥どうしたの?」
『?』
撮り終えて戻れば、何故か睨み合う檜佐木君に冬獅郎君。否、冬獅郎君が一方的に檜佐木君を睨みつけてるが正しい。
今にも喧嘩しそうな二人に心配になる。
檜「いやぁ、日番谷の身長をからかったら睨まれた(笑)」
乱「まったく。身長くらい気にしなきゃいいのに」
日「チッ」
『‥‥』
本当は違うんだと思う。
身長はいつもからかわれるけど今の冬獅郎君はからかわれたからじゃない気がする。気になるけど‥また面倒だと思うんじゃないか、そう考えたら聞けなかった。
その帰り道。
みんなと別れると静かなくらい会話もなく、ただ、黙ったまま後ろを歩く。
見慣れた背中は大きくて、やっぱり遠い。
『ぁの‥檜佐木君と何かあった‥?』
日「別に」
『でも―‥
日「別にって言ってんだろう!しつけェんだよ!!」
――!?』
日「!!」
ぽろぽろ、
日「ぁ‥ッ‥」
――もう、いいや。
『私は‥心配するのもダメ?』
日「あやめッ」
『私はッ!!‥家族にもなれなかった』
日「ッ!?」
『ずっと、好きだったよ?冬獅郎君のコト‥』
日「俺はッ!!」
『でも‥言えなかった。
別の高校受けるなんて聞いてないし‥家族じゃない、他人だ‥そう言われて私どうしたらいいか分からなくなった。
それでも、好きで三年も渡せないチョコ作って、いらないって言われて‥ッ』
日「ッ‥」
グチャグチャになる心に息苦しさを感じる。苦しくて、悲しくて‥。
『‥‥ごめん、なさい。
冬獅郎君には冬獅郎君の考えがあるのに‥ワガママだよね、あはは。‥それでも、言って欲しかった』
日「あやめ‥」
『だから、おあいこね』
そう、おあいこだ。
胸につかえてたモノがなくなってスッキリした。
ヤケクソで告白した感じになっちゃったけど、あのままだったらきっと言えなかったと思う。
答えは聞かなくても分かってる。
抱きかかえる猫のぬいぐるみに初めて二人で撮ったプリクラ。
今はちょっと寂しいけど、いつかはいい思い出になる日が来るよね、きっと。
だから今はこの寂しさをゆっくりとこれからの思い出で溶かして行こう。
大丈夫、まだ笑えるから。
『帰ろう、冬獅郎君(微笑)』
日「‥ああ」
その時、小さい頃の私達が手を繋いで通り過ぎた―。