日番谷
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少し肌寒い秋空の下。
仕事を終えた帰り道、一人で寝転ぶ高台の丘。
ゆっくりと茜に染まる空を見上げると不意に泣きたくなった。
?「やっぱり此処に居た」
『雛ちゃん‥』
呆れた声で視界に入ったのは上司であり、親友の雛森 桃ちゃん。
雛「どうしたの?
こんな所で黄昏ちゃって、風邪引くよ」
優しい言葉に可愛らしい笑み。誰もが憧れる理想の女の子だ。それに比べて私は、地味で眼鏡のお下げっ子‥雛ちゃんが眩しく見える。
雛「本当にどうしたの?」
『‥‥』
雛「あんなに嬉しそうにしてたのに‥。日番谷くんと何かあった?」
『何もない‥』
そう、何もないのだ。
十番隊を束ねる最年少の隊長、日番谷 冬獅郎。雛ちゃんからその名前が出るのには理由がある。
雛「ずっと片想いして、やっと実ったって喜んでたのに。
最近は笑顔も減ってるし、就業後は必ず此処に居るし‥」
片想い―‥。
日番谷隊長に私はずっと片想いしていた。時々、五番隊に顔を出しては雛ちゃんと話しをして帰るだけの彼を静かに見てるだけの私。
それでも、雛ちゃんと一緒に居るだけの私の事も覚えてくれた。挨拶を交わすだけで嬉しくて、声を掛けられるだけで胸が高鳴って‥‥苦しくなるコトもあった。
だから、想いが届いた時は泣いてしまうくらい嬉しくて幸せで。私と同じ想いでいてくれた、それがたまらなく嬉しかった。
――なのに‥。
『本当に、想い合ってるのか‥分からないの』
雛「ぇ‥?」
『“何もない”から。
あの日から何も変わってなんかいないんだよ。
名前を呼んでくれない。
お喋りをしてくれない。
あの人は私に何もしてくれない‥』
雛「‥‥」
『此処に来るのはね?
一番紅葉が綺麗だからなの(笑)』
雛「そうだね」
笑って言えば雛ちゃんも笑い返してくれた。
想いを告げたあの日から雛ちゃんは何かと相談に乗ってくれる。気がついてくれる。優しい親友に感謝しても足りないくらい。
色付き始める紅葉と茜の空が重なり真っ赤な世界へと染め上げた。
『綺麗‥』
雛「うん」
『ありがとう‥雛ちゃん』
雛「親友だもん(微笑)」
本当に可愛い親友だ。彼女に憧れる気持ちがよく分かる。誰よりも優しく、誰よりも純粋な女の子。
対して私は、醜い感情を彼女に向けている。胸に秘めながら笑って、劣等感に今にも押しつぶされそうになりながら茜の空を見上げていた。
『(ごめんなさい‥雛ちゃん)』
私は親友に胸の中で謝り続けた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『書類配りに行って来るね』
雛「あ!なら、コレもお願い!」
『うん。じゃあ行って来ます』
雛「行ってらっしゃい!
(上手く行くといいなぁvV)」
いつもの日常。変わらない時間の中、私は処理を済ませた書類を各隊に配りに隊舎を出た。
少し冷たい空気に寒さを感じながら歩く。雛ちゃんから渡された書類を確認。
すると、
『心配、させちゃったな‥』
十番隊宛ての書類に苦笑い。気を遣わせたコトもだけど、心配を掛けてしまったコトに申し訳なく思ってしまった。
コレばかりはどうしようもないのだけど‥。
途中に聞こえた噂話に足が止まる。
「やっぱり分かんないよねェ。
なんで雛森副隊長じゃないのかなぁ?」
――雛ちゃん?
何かあったのかな?
親友の名前が出て、悪いと思いながらも立ち聞き。けれどそれは、私が聞いてはいけない内容だった。
「お似合いなのにね。
やっぱり家族以上恋人未満だったのかな?」
――それって‥
「気づいてないだけじゃない?近くにいると見えないし。一時の感情か、断れなかっただけだよ」
「だよねェ。神崎さんって雛森副隊長と仲良いし」
――私の、コト‥?
自分の名前が出てしまえば自ずと内容が分かってしまう。
「日番谷隊長と神崎さんが一緒に居るの見たことないし、火遊びだったりしてね!」
「日番谷隊長ならやっぱり雛森副隊長と付き合う方がお似合いだよ」
「ねェ~!」
楽しげに話す彼女達から気付かれない様に立ち去る。
嗚呼、やっぱり‥。
周りからすれば私があの人の傍らに立つのはおかしく見えるんだ。重い足取りに、痛む心‥‥必死に泣くのを堪えながら十番隊の隊舎を目指す。正直、行きたくないけど‥仕事だ。モヤモヤしたまま歩き続ければ隊舎に着いてしまった。
コンコン、
『五番隊の神崎です。書類をお持ちしました』
?「入れ」
『‥失礼します』
一息吐いて扉を開ける。ゆっくりと机に歩み寄れば、忙しく筆を走らせる日番谷隊長が見えた。
日「書類は?」
『此方です』
日「ん、ご苦労さん」
久しぶりの会話だと言うのに呆気ない終わりに寂しくなって言葉を掛けてみる。
『‥お疲れですね』
日「まぁな」
『ぁの‥気分転換、されては如何ですか?
紅葉が綺麗に色付いたんですよ。宜しければ一緒に―‥』
日「神崎。勤務中に無駄話か?」
『ぇ‥いえ、そういうつもりでは‥』
日「なら早く戻れ。お前と世間話をしてるほど俺は暇じゃねーんだ」
グサリと貫かれる心の痛みに苦しくなり、謝罪した。
『申し訳、ありません‥。以後、気を付けます』
日「そうしろ」
『‥失礼致しました』
逃げるように十番隊を出た。
冷たい態度を目の当たりにして思う。
――私は、私の想いは‥届いてはいなかったのだ、と。
『ッ‥』
溢れそうな涙を見られたくなくて、脇道に隠れうずくまった。堪えきれず零れ落ちる涙。口元を手で覆い声を殺して泣いた。
無駄話をしたつもりはなかった。ただ、少しでも気分転換になるならと軽い気持ちで誘っただけなのに‥。あの人と一緒に見たいとずっと思っていたから。
けれど、私に割く時間なんてないんだ。忙しい人だものね。
私は‥必要ないんじゃないのだろうか?
恋人なんて煩わしいだけじゃないのだろうか?
ふと浮かぶ疑問に彼女達の噂話を思い出した。
“一時の感情”
“断れなかった”
“火遊び”
『(嗚呼、まったくその通りだ‥)』
結ばれた筈の想い糸は容易く解けてしまっただけだった。あんなにも浮かれていた自分に笑みが浮かぶ。
彼は私を好きではなかったのだ。きっと可愛い幼なじみと比べられて、呆れていたに違いない。
『‥ははっ』
――私は馬鹿だ。
そう思うと笑えた。
―――――――――‥
あれから涙を拭って隊舎へ。
雛「お帰り、あやめちゃん。日番谷くんと話せた?」
『ううん。何だか忙しいみたいで‥声掛けられなかった(苦笑)』
私は嘘を吐く――。
雛「もう、日番谷くんったら彼女が来たっていうのに冷たいんだから」
『また松本副隊長に逃げられたんじゃないかな?
居なかったみたいだし』
偽りの笑みを浮かべて――。
雛「せっかくのチャンスだったのに。一緒に紅葉見れたら、って言ってたから誘えるようにって思ったんだけど‥」
『残念ながら誘える雰囲気じゃありませんでした』
雛「ごめんね。日番谷くんには私から叱っておくから!」
『気にしないで。隊長なんだから仕方ないよ‥。ありがとう雛ちゃん』
雛「ぅん‥」
『そうだ。代わりに雛ちゃんが誘ってあげて?』
雛「私が?」
『うん。疲れてるみたいだし‥気晴らしにはいいと思うの。
お昼休みにでも誘ってあげて?ね?』
雛「‥わかった!みっちりお説教しなくちゃ!」
『ほどほどにねι』
心とは裏腹に笑顔で話す私は道化のようだ。
あの人にとって優先されるべき人は幼なじみの彼女だけ。悔しさはない。だってどんなに頑張っても私は彼女にはなれない‥。嫉妬もしたところで意味はない。分かっていた事‥。
それでもあの人の傍らに居られるならと思っていたんだけど、ね‥。
『(傍らにさえ居られない私って‥。想いって‥)』
やるせない気持ちが胸を締め付ける。
雛「あやめちゃん‥」
『ん?』
雛「ちゃんと誘ってみたら?」
心配そうに言う雛ちゃんのその言葉が傷を深くした。否、私が勝手に傷ついて深くしただけで、彼女が悪いワケじゃない。
ぎゅっと手を握り締めて一息吐く。
『私じゃ、無理だよ(苦笑)』
泣きそうになるのを堪えて、笑う。そそくさと仕事へと逃げるように目を逸らした。
雛「あっ‥。
(何で?何でなの? ねぇ、日番谷くん。あやめちゃんはずっと傷ついて泣いて、無理して笑ってるって気づいてないの‥?)
‥やっぱり、説教しなきゃ」
―――――――――‥
あの人と出会ったのは雛ちゃんの紹介でだった。
最年少で天才児。噂になるのは早くて、何より外見も目を惹く存在。誰もが惹かれては憧れた。
私もその一人。でも、地味で取り柄もなく、自信もない私は遠くから見てるだけだった。
そんな私に気づいた雛ちゃんに手を引かれるままあの人の元に連れて行かれて‥言葉を交わした。交わすと言っても名前を言ったくらいで、まともに会話なんて出来てない。それでも私は凄く嬉しかったのを覚えてる。
あの人に出会ってから少しでも近づきたくて頑張った。
‥‥追いつけやしなかったけど――。
同期で親友の雛ちゃんにも置いて行かれた。悔しさはなかった。元々、彼女は優れていたから‥私なんかが追いつける筈がないのだ。少しずつだけどあの人とも言葉を交わせるようになって‥‥色々なコトがあった。
隊長、副隊長不在で何とか切り抜けて雛ちゃんが戻って来て‥‥背中を押されるまま告白。緊張と不安、諦めの中で結んだ想い糸‥――だった筈なのに。
『(本気じゃ‥なかったんだよね)』
手を止めてしまえば、また胸が痛み出した。
「失礼します。神崎三席」
『‥どうかしましたか?』
「虚の出現情報なんですが‥。
一度、現世に赴き調査をして欲しいようで」
『分かりました。副隊長には私から伝えておきます』
「お願いします」
パタン、
一人きりの執務室。隊士から渡された一枚の紙に目を通す。
暫くすると雛ちゃんが日番谷隊長を連れて戻った。そのお似合いぶりに痛みが増したようにズキズキする。
『お帰り、なさい‥雛ちゃん』
雛「ただいま。ちょうど其処で日番谷くんに会ったからお昼休みにするね」
『うん。ぁ、あのね。さっき隊士からコレ受けたの』
雛「虚の調査? あやめちゃんが行くの?」
『うん。調査だけだし、人数はいらないと思う。雛ちゃんよりは頼りないけど、大丈夫だよ』
雛「でも‥」
私の親友はかなりの心配性でもある。不安そうな雛ちゃんに声を掛けようとしたら、黙っていた日番谷隊長が口を開いた。
日「調査程度で副隊長が抜けるワケにはいかねーだろうが。
誰かがやらなきゃならないなら三席が妥当だろう」
雛「それは、そうだけど‥」
日「お前がしっかりしないでどうすんだ。部下を信じろよ」
雛「部下である前に大事な親友なの!」
日「公私混同だ。神崎も上官をあだ名で呼ぶな」
雛「シロちゃんッ‥!?」
反論しようとした雛ちゃんの手を握って笑ってみせる。
『申し訳ありません。親友と言えど上官、立場をわきまえなければなりませんよね。以後、気を付けます』
日「‥あぁ」
私、笑えてるかな――?
やっぱりまた上手く笑えてないのかな‥?
ズキズキする心の痛みをいつまで堪えたらいいのかな?
私って‥必要ない、のかな‥‥?
答えの出ない問い掛けを繰り返しながら、気付かれないように笑って言う。
『私はこれで失礼します』
雛「あやめちゃん!」
『何ですか?副隊長』
雛「‥‥気を付けてね? 絶対に無茶しないようにね?」
『はい(微笑)』
パタン、
ゆっくりと隊舎を歩く。また、注意されてしまった‥。
嗚呼、もう疲れた――。
?「よぉ、あやめ」
『恋次くん、ルキアちゃん』
ル「今から任務か?」
『うん。現世に調査しに行くところ』
阿「調査つっても遭遇したら一人じゃ危険だろう? 大丈夫なのかよ?」
『私、一応‥三席だよ‥ι』
阿「そうだけどよ。女が一人ってのはな‥」
その言葉に笑って返す。
『ありがとう。無茶はしないように言われてるから大丈夫だよ』
ル「もし応援が必要なら私に連絡をしてくれ。ちょうど現世に用があるのでな」
『うん。ありがとうルキアちゃん(微笑)
それじゃあ、行って来ます』
阿「おう!」
ル「気を付けてな」
同期の友人に見送られ、少し気が晴れた。悩むのは終わってからにしなきゃ。失敗でもしたら‥何、言われるか‥‥。
『ダメね‥』
沈む気分は不安へと変わる。
あの人の言葉に怯えてしまう自分を振り払うように現世へと向かった。
□■□■□
雛「何であんな言い方したの!」
日「‥‥」
雛「‥あやめちゃんを傷つけたいワケじゃないでしょ?」
日「‥当たり前だ」
雛「なら‥どうして?」
日「‥‥」
神崎が出て行った後、俺は雛森に問いただされていた。不安げな雛森の表情から視線を逸らす。
雛「あやめちゃん、ずっと私を待っててくれたの。不安定な状態の私を優しく見守って」
――知ってる。
毎日欠かさず病室に通って、俺が居ない間も雛森の支えになってくれていた。そんな優しさに惹かれたからこそ、アイツの告白に応じたんだ。
“好きだ”とは言えなかった。同意だけで、未だに伝えていない。それでも、アイツに抱く感情に偽りはない――。
雛「シロちゃんが気にしてるのは“噂”でしょう?」
日「知ってるのか‥」
雛「ぅん‥。私も聞いちゃったから‥」
“噂話”――。
俺とアイツの事が広まると下らない話題に上がるようになった。
“似合わない”だとか“断れなかったから”とか、勝手なコトばかり。
だが、それがアイツを傷つける原因になるならとなるべく勤務中は立場を守るようにした。噂ってのは尾ひれが付くから。どんな些細な話しも大袈裟になればアイツを傷つけると思ってした行動‥だったんだが――。
雛「それは間違いだよ」
日「なら、どうすりゃよかったんだよ‥」
噂も時間が経てば飽きる。
目立つ行動を控えていればいい、そう思っていた。けれど、雛森は間違いだと言う。
俺には他にアイツが傷つかない方法は浮かばなかったんだ。
雛「そんなの噂を肯定してるようなものじゃない」
日「それは‥」
言葉に詰まる。言い返すだけの言葉が浮かばない自分に呆れた。
雛「気分転換しようか(微笑)」
日「は?」
雛「ほら、早く!」
日「ぉ、おいι!」
雛森に腕を引かれるまま外へ。
何処に行くんだ?と聞いても秘密の一点張り。諦めてついて行く中、アイツの事を考えた。
雛森が気を利かせてくれていたのは気づいてたし、俺もアイツが来るのは嬉しいとさえ思った。なのに、いつも口から出るのは素っ気ない言葉ばかり。
大人しいアイツは我が儘なんて言うタイプじゃないから言いたい事も言えなかっただろう。
今日だって優しい言葉を掛けてやれずに注意しただけ‥。アイツの沈んだ声色で傷つけたと気づいた時には遅すぎた。
日「(初めて、誘ってくれたのにな‥)」
雛「着いたよ!」
日「!!」
ふわり、と風が優しく吹き抜ける。
はらり、と紅葉が舞う。
真っ赤な絨毯の様に土を覆う紅葉。時間の流れでさえゆったりと感じた。
雛「此処ね、あやめちゃんのお気に入りなんだよ?」
日「神崎の‥?」
雛「うん。入隊した時から何かあると必ず此処で寝転んでてね。息抜きの場所になってるの(微笑)」
俺は付き合っていながら何一つ、アイツについて知らない。知ろうとさえしてこなかった。
勝手な噂に腹を立てて、守ってるつもりで傷つけて。結局、俺はアイツに何一つしてやれていないんだ‥。
雛「シロちゃんと一緒に見たいって言ってたの」
日「‥‥」
雛「だから書類配りに行くって言うから十番隊のも頼んだの。誘えるように。
‥でも、誘えなかったって。そんな雰囲気じゃないって笑って‥」
そうやって雛森に心配を掛けずに嘘を吐いてたのか‥。どうりで今まで雛森が黙ってたはワケだ。
雛「ホントは誘われたんでしょう?」
日「‥ああ」
雛「やっぱり‥。あやめちゃん、嘘が下手だから。
何かあるって気づいてたけど‥私にはいつも笑ってたから、聞けなくって(苦笑)」
日「‥最低だよな、俺」
雛「シロちゃん‥」
好きだって気持ちは本当なのに、実際は他人同然の関係。周りからしたら付き合ってる事さえ疑うだろう。
それでも俺に出来る事は噂を聞き流して、ほとぼりが冷めるのを待つぐらいだった。それしか出来ない自分に腹を立てたくらいだ。
日「噂がアイツを傷つけるんじゃなく、俺がアイツを傷つけてたんだ‥最低としか言いようがない」
雛「‥‥距離を置くんじゃなくて、縮めなきゃダメなんじゃないかな」
日「距離か‥」
正直言えば、どうアイツと接すればいいのか悩んでた。
こんな性格でお世辞にも社交性があるとは言えない俺に女の扱いなんざ分からねー。好意があっても態度は変わらず。
それ以前に自分の立場を考えると踏み出す事も躊躇ってしまう。そう考えるとアイツの告白に応じたのは間違いだったんじゃないか、とさえ思ったくらいだ。
雛「あやめちゃん頑張って三席になったんだけど、自信がなくてシロちゃんに告白出来なかったんだって前に話してくれたの」
日「‥‥」
雛「追いつきたいのに追いつけない。遠すぎる存在だって‥。
まぁ、シロちゃんは何事とも真面目で一生懸命だったからあっという間に隊長になっちゃったらそう思うよね」
笑って言う雛森。
雛「あやめちゃんが居たから私は頑張れた。だから、幸せになって欲しいって心から思うの。
‥――幸せにしてあげてね? 私の親友を」
日「‥俺に、出来るかよ」
冷たくあしらってばかりで、アイツの優しさを振り払ったんだぞ?
幸せにしてやれるって胸を張って言える程大人になれてないんだ。
雛「あやめちゃんを好きって気持ちは簡単に捨てられる程、軽かったの?」
日「それは‥」
雛「ちゃんと伝えてからでも遅くないよ!」
――伝える。
俺は何一つ、アイツに伝えていない。軽い気持ちじゃないんだ。だからこそ、伝えなきゃならねー、俺の気持ちを――。
はらり、
一面の紅葉をアイツと―‥あやめと見たい、そう思った。
日「ありがとな」
雛「私の大事な親友なんだから泣かせないでね!」
日「あぁ」
昼休みが終わる時間になり隊舎へと帰る道で俺達は突然の知らせを受け、愕然とする。
□■□■□
『‥‥』
瞼を開けるとぼやける視界に映る天井は白く、どこか薬品の匂いがした。
力の入らない身体に気だるさを感じながら記憶を辿る。
『(確か―‥)』
虚出現の調査に現世に向かったんだ。其処で、霊圧を探ってる最中に背後から感じた霊圧に反応が遅れて――‥。
ガラ、
扉の開く音に視線を向ける。
?「目覚められましたか。気分はどうです?」
『少し、気だるさがありますけど大丈夫です。
あの‥卯ノ花隊長。私は―‥』
卯「現世で虚に遭遇、背中に斬り裂かれた傷、腹部を刺されての重傷。
応援に向かった朽木さんが井上さんに治療を頼んで下さったので大事には至らずに済みました。ですが、その際の出血が酷かった為、二、三日は安静にしていて下さいね」
そう微笑み、言う卯ノ花隊長。
その言葉で状況を全て思い出した。
いきなりの出現に対処出来ず、背中を斬りつけられて‥ルキアちゃんに連絡した後、何とか持ちこたえようとしたけど隙を付かれて腹部を刺されたんだ。
薄れる意識の中でルキアちゃんが見えて‥気づいたら今に至る。
卯「雛森副隊長が酷く心配されていましたよ」
『‥‥』
卯「連絡を受け直ぐ駆けつけられて。日番谷隊長も心配されていました」
『そぅですか‥』
卯ノ花隊長が出て行った病室は静寂に包まれる。
雛森副隊長に心配を掛けてしまった罪悪感。自分の無力さを恥じる。
同時にあの人の冷たい言葉を想像して怖くなった。隊長不在の自隊において副隊長の負担は重く、それを支える立場に在る三席が負傷なんて業務上、迷惑でしかない。
真面目で彼女思いのあの人が許す筈ないのだ。
けれど、一つ安堵しているコトがある。
それは――。
コンコン、
『はい』
?「あやめちゃん、目が覚めたんだね!良かった!」
駆け寄る雛森副隊長の安心した表情に笑って返す。
『ご心配おかけして申し訳ありません』
雛「ううん。あやめちゃんが無事ならいいよ」
その優しさが、笑みが眩しく見えた。
私にはない輝きを前に黒い感情が胸の内を染めていくのが分かる。
それでも私は笑い、言う。
『私、少し安心しているんです』
雛「え?」
『現世に向かったのが雛森副隊長じゃなく私で良かった、と』
雛「!?」
『決して副隊長の実力を否定しているワケではないんです。
ただ、あの虚は数秒程度ですが気配を絶つことが出来ました。
いきなり背後から襲われたら上官であれ無傷では済まなかったと思います。
だから――‥』
雛「あやめちゃん‥!」
『副隊長に傷を負わせずに済んで良かったって安心したます(微笑)』
雛「そんなっ‥そんなコトで安心なんて!」
『副隊長が負傷したら日番谷隊長が血相変えて飛んで行くんでしょうね‥』
貴女はあの人のとても大事な存在だから。私とは違うから‥。
雛「日番谷くんだってあやめちゃんのコト凄く心配して‥!」
『そうですか‥』
雛「あやめ、ちゃん‥」
『あの人は私のコトなんて気にしていませんよ』
窓の外へと視線を向けた。
『結んだ筈の想い糸は容易く解れてしまった。今の私にはあの人の言葉が怖いです』
雛「‥‥」
『歩み寄ろうとしました。傍らに居たいと強く想いました。
けれど、あの人の言葉は私の心を突き刺すだけだった‥』
心から愛していたのに‥返る言葉は拒否ばかり。
なら、私と結んだ想い糸は幻だったのだろうか?
偽りの幻想に弄ばれた気分だ。
なんて‥なんて、質の悪い夢だろう。
雛「‥あやめちゃんは日番谷くんのコト嫌いになっちゃった?」
『どうなんでしょうね‥。私にも分かりません。
でも、一つだけ自覚したコトがあります』
雛「何を‥‥!?」
『私、副隊長に嫌な感情を抱いてしまいました(微笑)』
頬を伝う涙。
それでも笑う私を雛森副隊長どんな気持ちで見ていたのだろう?
雛森副隊長は一言、
雛「そうだよね‥」
そう言って病室を出た。
親友を傷つけた自分にはもう彼女と笑い合うコトも出来ないだろう。これで良かったんだ。先送りにして我慢を続けていたらきっと、今以上に彼女を傷つけてしまっただろうから‥。
『‥っ‥‥』
胸を締め付ける気持ち。切なくて、苦しくて、辛くて、寂しい。
結局、一番最低なのは私自身だ――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれから数日が経ち。業務へと復帰した私は何も変わらない日常を過ごしていた。
雛「あやめちゃん。副隊長会議に行って来るね!」
『はい。行ってらっしゃいませ』
雛「うん!」
あの日以来、雛森副隊長は変わらずに私と接してくれている。何も言わず、今まで通りの関係に少し戸惑ってはいたけれど、彼女なりの優しさなのだと思い私自身も言葉使い以外は普通にしていた。
あの人には復帰してから会っていない。最早、興味さえないのかもしれない‥‥。
『(紅葉‥散っちゃったかな‥)』
あの時――。
虚から逃げ切れず、地に倒れた瞬間。手足から力が抜けて、血が広がって‥まるで――‥
『(真っ赤な絨毯に見えた)』
あの場所の紅葉が広がる様子が重なって、ほんの少しだけ期待した。あの人が来てくれるんじゃないかって‥。
馬鹿なコトを考えた自分に笑ってしまうじゃないか。あの人の中に私は居ない‥。
小さな溜め息を吐く。
コンコン、
『どうぞ』
スッと扉が開くと現れたのは綺麗な銀色の髪。
――あの人だ。
中へと入る姿に私の身体は緊張からか強張ってしまう。とはいえ、黙っている訳にもいかない。
『‥副隊長にご用ですか?』
日「‥‥」
『副隊長会議に出ていますので、伝言があればお預かり致しますが?』
日「‥今日、仕事終わったらあの場所で会いたい」
『え‥?』
日「ずっと待ってる。じゃあな」
パタン、
呆気にとられる私は閉められた扉を見つめていた。あの場所って‥私のお気に入りにしてる場所のコト、だよね‥。
なんでわざわざ隊舎にまで来て言い残したんだろう?
会って、何を伝えられるのだろか?
一番聞きたくはない言葉が頭に浮かぶ。否定する気はない。
だって、私たちの関係は冷め始めているから‥。
雛「“日番谷くんのコト嫌いになっちゃった?”」
雛森副隊長の言葉を思い出す。
『(嫌いになれたら‥こんなに辛くないですよ‥)』
ずっと恋い焦がれていた。
見かける度に想いは募り、胸が苦しいくらいに締め付けられる。
好きという気持ちがあるのに、私は怖がってしまった。その先に待つモノが自分にとって辛いモノだと思っているから。
『(恋なんて、しなければよかった‥)』
ほろり、
溢れた涙が一筋、頬を伝った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
就業時間が過ぎても私は執務室で仕事をしていた。
雛「あやめちゃん。そろそろ上がったら? 急ぎの仕事はないでしょう」
『‥はぃ』
雛「‥不安?」
『!』
雛「日番谷くんから聞いてるから‥。行ってあげて?
大丈夫だよ!あやめちゃんを悲しませるコトはしないから(微笑)」
『ですが‥』
励ましの言葉を掛けてくれる副隊長には申し訳ないが不安でしかない。どうやっても拭いきれないのだ。
雛「大丈夫だから」
『副隊長‥』
雛「信じて、ね?」
私の手を握り締めて言う雛森副隊長。その優しさと励ましを振り払うコトは出来ない。
告白を決めた時もこうして背中を押してくれたのだから――。
―――――――――‥
あれから数時間が経ち、月が輝く夜空を眺めながら歩く。
さすがに待ってはいないだろう、と思いながら。
冷たい風が頬を撫でる度に冬を間近に感じた。肩掛けを握り締めながらあの場所へと近付く。
一息吐けば、
『綺麗‥』
月明かりに照らされた紅葉が幻想的で息を呑んだ。
そして、ひらりと舞い散る中で根元に座り、寄りかかったまま眠る銀色のあの人が――。
『(待っててくれた‥)』
諦めていたのに‥。ゆっくりと静かに歩み寄って、息を殺しながらしゃがんだ。
『綺麗ェ――‥(ポソ』
月明かりに照らされた銀色に紅の葉が映える。
無意識に手を伸ばして頬に触れた。
『‥冷たい』
いつから此処で待っていたのかはわからないけど、こんなに冷えては風邪を引いてしまう。
肩掛けをそっと掛けて、隣に座って上を見上げた。
『(月夜の紅葉も綺麗‥)』
なにより、こうして傍に居るコトが幸せだと感じた。触れそうで触れない、微妙な距離は私たちの関係そのものを表してる。
この距離を詰められたら‥もっと、幸せなのだろうか?
不安や切なさを感じるコトがない程に‥。
『(なんてね‥)』
そんな幸せがあるはずないじゃないの。
想う人がいるから、一緒に居たいから、ちょっとしたことに敏感に気分を落としてしまうのだ。だからといって、私にはその不安を言葉にすることは出来ない。勝手に傷ついて、勝手に嫉妬して、勝手に‥‥不安になってるだけ、なんだもの。
隣に視線を移し、眠る彼を見た。こんなに近くで見るのは初めてで、少し嬉しくなる。いつもならこの場所は親友である彼女が居るから‥。
私には滅多にない機会でもある。なんて、自分で思ってるあたり虚しい気もするけどね。
起きてしまう前に帰ってしまおうか?
それとも、起こした方がいいのだろうか?
どちらも躊躇ってしまう。
だからといってこのままじゃ、二人して風邪を引きかねないし‥。
『(困った‥)』
困り果てていると、
日「ん‥」
起きてしまった――‥。
日「‥神崎。来てたのか‥」
『はぃ‥。先程、着きました』
日「そうか。起こせばいいだろう?」
『申し訳、ありません‥』
日「‥‥」
やっぱり身構えてしまう。
俯いたまま、次の言葉を待つ間が長く感じる。
怒った? 呆れた?
マイナス思考へと落ちる私に彼は口を開く。
日「コレ、ありがとな」
『ぁ、はぃ‥』
肩掛けを受け取り、握り締めた。重苦しい沈黙の中、彼へと視線を隣に動かす。
どきっ、
『!?』
様子を窺うつもりだったのに、彼と目が合ってしまった。恥ずかしさから視線を戻し、緊張で身体が動かない。
そして、彼が言う。
日「来てくれたってコトは‥‥その‥。まだ‥つ、付き合ってると思っていいんだよな‥///?」
『ぇ‥?』
日「違うのか‥」
言葉が出ない。だって、付き合ってると思っていたのは私の方で彼は違うのではないかと思っていたから‥‥驚いてしまった。
日「‥それらしいコトしてたワケじゃないし、疑われても仕方ないよな‥」
『‥‥』
日「悪ィ。反省してんだ。
お前の告白を受け入れといて冷たくあしらい続けて、付き合ってるとか思えないよな」
『‥‥』
日「噂を聞いちまってさ。
お前が傷つくんじゃないかって思って、飽きるまではって自重してたんだ。
でも、悪化させた‥。お前を傷つけてたのは俺だって気づいた時にはどうしたらいいのか分からなくなってたんだ」
『(私は‥)』
日「傷つけたかったワケじゃない。それだけは信じてくれないか‥?」
私は、彼の優しさを信じきれなかった。
私は、独り善がりだっただけなのに‥。
なんで? なんで、こんなにも優しさが痛いの?
ぎゅ、
日「神崎‥?」
胸が痛い。視界が潤んでしまう。
『っ‥』
日「神崎!?」
涙を見られたくなくて駆け出す。けれど、あっさり手を掴まれてしまった。振り払おうにもキツく握られていて出来ず。涙は止まることなく零れ落ち続ける。なんて惨めな自分だろう‥。
笑みが浮かんだ。
『貴方が守りたかったのは彼女でしょう‥』
日「何‥」
黒に塗りつぶされる心。私は涙を零しながら笑い、言う。
『いつだって貴方の一番は雛森副隊長だけ。他になんて目を向ける事もない』
日「違うッ!」
『違いませんよ。だって、私の誘いは“無駄話”なのに彼女の誘いは違うじゃないですか』
日「!?」
『私に付き合う暇もないんのでしょう?
暇つぶし程度の存在なのでしょう?』
溜め続けたモノが溢れ出す。
『私が死にかけてる時に仲良く此処に居たのでしょう?』
日「ッ‥」
足から力が抜けて座り込んだ。本当に惨めな自分。
不満をぶつけた所で余計惨めなだけじゃない‥。
こんなことならあの時、
『‥‥死んでしまえばよかった』
日「神崎!!」
『(面倒くさい女‥)』
優しい風が頬を撫でる感覚に顔を上げた。
『ぁ‥』
はらり、はらりと舞い散る紅葉に彼の悲しげな顔が見えた。
ただ見つめるだけの私を彼はそっと抱き締めて言った。
日「好きだ、あやめ‥」
『!!』
日「ずっと我慢させて、苦しめてすまない。都合がいいのは分かってる。
それでも俺は、あやめに傍に居て欲しい」
『‥っ‥』
聞きたかった。ずっと、聞きたかった言葉。欲しかった温もりに抱かれるだけで愛しさが溢れる。
日「あやめ」
『‥‥』
日「もう、絶対に泣かせない。好きだ」
『‥私も、好き』
日「ありがとな」
ゆっくりと重なる唇。
そして、もう一度キツく結んだ想い糸。祝福するかの様に紅葉が舞い、月明かりが優しく照らしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『いいの?』
阿「おう!毎回それで悪ィけどな」
『ううん。いつもありがとう』
阿「じゃあな」
『うん。
‥‥雛ちゃんとお茶にしよう』
書類配りの帰りに恋次くんから甘納豆を貰った。現世からの帰りだったらしくお土産で。
意外と律儀な性格なのだ。
隊舎へと帰る道を歩きながら昨日の夜を思い出す。
すれ違っていた私たちは前よりも距離が縮んだと思う。
何より日番谷隊長が世間話をしてくれるようになった。
ちゃんと私を見てくれるようになった。
名前を呼んでくれるようになった。
それだけのコトが私には凄く嬉しい変化で、幸せで。いつの間にか噂も聞こえなくなり、私としてはとても平和な日常を過ごしている。
『ただいま』
雛「お帰りなさい。 その袋どうしたの?」
『さっき恋次くんに会って貰ったの。お土産だって』
雛「律儀だね~阿散井くん」
『本当にね。せっかくだからお茶に――‥
コンコン、
‥あ、どうぞ』
ガラッ、
雛「日番谷くん。どうしたの?」
日「書類持って来ただけだ。
‥つーか、日番谷くんじゃねぇ‥日番谷隊長だって言ってんだろうが」
雛「あやめちゃん、お茶にしよう!」
日「テメェ‥」
『今淹れるね。
日番谷隊長もよかったら如何ですか? 貰い物の甘納豆もありますから』
ダメもとで誘ってみれば、
日「‥ι」
何やら葛藤していらっしゃいますι
雛「あやめちゃんからのお誘い断るの~?」
日「う゛っι」
『あの、無理でしたらそれで‥』
何だか困らせてしまった。
それに、雛ちゃんからの追い討ち。申し訳なくなってしまう‥。
日「‥もらう」
『‥‥はい!(微笑)』
葛藤の末に出た応えに笑ってお茶を淹れに隊主室を出た。
『(よかった)』
断られなかったコトに安堵。
忙しい方でもあるから無理に誘っては迷惑。でも、少しでも同じ時間を共有したい気持ちもあっただけに嬉しい。
お盆にお茶を乗せて戻る。
雛「ありがとうあやめちゃん」
日「悪いな」
『いいえ(微笑)』
甘納豆をつまみながらたわいのない話しをする。穏やかで優しい時間に安心した。
雛「あ、イヅルくんに呼ばれてたんだ!ちょっと行って来るね」
『うん。行ってらっしゃい』
雛「ゆっくりしててね、日番谷くん!」
日「ん‥」
パタン、
日「『‥‥』」
会話がない‥。
私には彼に掛ける言葉も話題もないんだ。情けないけど‥雛ちゃんが居なければ会話にならないのだ。
日「阿散井と仲が良いんだな‥」
『同期ですから。クラスは違いますが。私はルキアちゃんと同じクラスだったので』
日「そうか‥」
『あの‥ご迷惑では、ありませんでしたか?』
手にした湯呑みに力が入った。
不安、なんだ。こんな会話もろくにない時間は無駄なんじゃないかと‥。
日「迷惑なんかじゃねぇよ‥」
『‥‥』
日「その‥誘ってくれて、嬉しかったし‥///」
『!』
日「前に誘ってくれた時だって、内心かなり嬉しかったんだぜ///」
照れながら言う彼に私まで照れが移ってしまった。
けれど、嬉しい――。
日「またな」
『はい‥///』
―――――――――‥
就業時間を終えて、私はあの場所へと向かう。冬を迎える季節になり鮮やかだった紅葉は枯れて行き、次の見頃を迎える為の準備に入る。名残惜しい気もするけど、来年の楽しみでもあるからのんびり待とう。焦らずに。
いつもの場所に着くとあの人がいた――。
日「やっぱり来たな」
『日番谷隊長』
日「見頃も終わりだな」
『はい』
隣に並んで見上げた。
少し寒くて手を擦り合わせていると、手を握られ驚いて彼へと顔を向ける。
日「冷たいな」
『大分、寒くなりましたから‥///』
日「‥‥」
『隊長?』
黙ったままの彼に首を傾げた。
握られた手が熱いくらいに感じる。触れ合っているだけでこんなにも温かいなんて思いもしなかった。
日「あやめ」
『ぁ、はい。何でしょうか?』
日「ちょっと、屈め‥」
『はぃ‥?』
不機嫌な顔で言う彼に従って目線が合う程度に屈む。
あ‥さっきの不機嫌な顔は背が低いコト気にしてるから、カッコ悪いとか思ったのかも。そんなこと全然ないのに。
銀色の髪も翡翠の瞳も低い声も、身長も魅力だと思う。それに男の子だから直ぐに追い越されるだろうし‥。
それはそれで、不安かも。
『ぁの‥隊長‥』
日「後にしろ」
『ぇ?‥‥っ!?』
不意に重ねられた唇に驚いて身を引こうとしたら襟元を掴まれて動けない。
初めてしたキスとは違い、何度も啄むようなキスをされたと思っていれば口の中に舌を入れられた。
『Σんんっ///!』
恥ずかしさと苦しさに肩を押して抵抗したけどダメで、されるがまま。頭が真っ白になった頃には立っていられなくなり膝から崩れてしまった。
日「はぁ‥」
『はっ‥ハァ‥ハァ‥///』
日「悪い。大丈夫か?」
『はぃ‥///』
何とか息を落ち着かせようと呼吸を繰り返していると、
『たぃ、ちょぉ‥///』
頬を撫でる手に顔を上げ彼を見た。そこには今まで見たことのない表情をした彼が真っ直ぐ私を見ている。
ほんのり頬を染めて、親指が私の唇を撫でれば、再び唇を重ねた。
深く、深く貪るように――。
『んっ‥んんっ///』
日「はぁ‥ん‥」
初めての感覚が体中に走る。
いつの間にか情熱的なまでのキスに私も彼の首に腕を回して夢中で貪っていた。
あんなに寒さで震えた身体が嘘のように今は熱い。
『(幸せだ‥)』
私はずっと守られていたんだ。
やり方はどうであれ、彼なりに私を想ってのコトで、私は勘違いをしていただけ。
どんなに想い合っていても言葉にしなければ伝わらないコトもある。
幸せの形が人それぞれ違うように守ることにも違いがあるのならお互いに伝え合える関係が一番いいのかもしれない。
支え合って、補い合って――。
そうして幸せの形を造るのだから。
『ハァ、ハァ‥///』
日「はぁ‥。いきなりすぎ、だよな‥すまない//
本当はずっと、こうしたかったんだ///」
『私も‥///』
日「愛してる」
『愛しています』
燃えるような唇付けを交わした私たちの頬は紅葉に負けないくらいに真っ赤だった。
すれ違っていた寂しさを埋めるように私たちはまた唇を重ねる。離さぬように互いを抱き締めて――。
今はまだ未完成
(あやめちゃん、シロちゃんが意地悪言うのよ!!)
(ホントのことだろうが!一々、あやめに言うな!)
(あやめちゃんは親友なんです!べー!)
(ガキか!!)
(ふふっ。仲良しですね)
(笑うな//!?)
(あ!会議の時間だ!行って来るね!)
(行ってらっしゃい)
(ったく。ガキだな)
(ですが、仲が良いのは事実ですよ。‥ちょっと羨ましい/ポツリ)
(‥今日、早く終わるんだ。
だから‥飯食いに、行かないか)
(‥はい!嬉しいです!)
(そ、そうか///)
(私も早く終わらせますね!)
(ああ‥///)
((嬉しい///))
((笑うと可愛いな///))