◈魔笛
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日「あやめ‥俺は‥っ」
人差し指を口に当てられ、言葉を遮られた。
そして、あやめは言う。
『聞いて、冬獅郎。確かにあの時‥あのまま死んでしまおうとしたのは事実。それが彼女の望みだったから‥』
俺は黙ってあやめの話しを聞く。
『ううん、違うわね‥。私は強くないから‥逃げてしまいたかったの。周りの言葉を聞き流す事にも疲れてたのね‥。
でもね?
気を失う前に冬獅郎が言った言葉が嬉しかった(微笑)』
日「あれは、俺の我が儘だ」
『泣きそうな顔してた』
日「!」
『忘れてた。私の命は自分だけのモノじゃないって事』
日「あやめ‥」
『帰る場所があって、傍に居てくれる愛しい人がいる。
私は‥そんな幸せを捨て様としてしまった。‥馬鹿よね』
ベットに座るあやめは隣をポンポンと座る様に促した。
『幸せって誰かの涙で出来ているのかもしれないね。傷つき傷つけ‥』
日「だからこそ、幸せを全うしなきゃならないんじゃないか。
誰かの涙の為に」
『そうね。なら、私と全うしてくれる?』
寂しげに揺れる瞳。下げられた眉。月明かりに照らされたあやめは綺麗で、化け物なんて思えない。むしろ、綺麗過ぎる程に優しい女なんだ。
この先もあやめに向けられる眼差しは白く冷たいだろう。それを受け止めるには優し過ぎるあやめはいつか、本当にいなくなっちまうかもしれない。
‥――だが、
日「言ったろ?俺はお前を離さない。
お前が俺を求める限り、それが永遠でも構わないって」
『うん。嬉しかった‥。
あの時、気を失う前に見た冬獅郎の顔が忘れられない』
日「あれはっ//!」
『ありがとう』
日「っ!?」
ふわりと香るあやめの匂い、唇に感じる柔らかな感触。
――嗚呼、あやめが生きている
久しぶりに感じる体温が懐かしくて腰に腕を回して抱き寄せる。
『ん‥///』
気づけば夢中で貪っていた。角度を変え、舌を絡めては舌先を吸う。洩れる吐息が色っぽくて胸が熱くなる。
ホントは、今も分からないんだ。お前が幸せを感じる度に苦しむんじゃないか‥。生きるコトで縛り付けいないか‥。
不安ばかりで、それでも俺はお前を‥お前と‥
ギュッ、
――生きていたいんだ。
日「はぁ‥」
『っ‥はぁ‥//』
日「あやめ」
見つめ合い、頬を撫でる手に重なる柔らかな手。
どんな理由も結局は俺自身の自己満足でしかないんだ。
日「傍にいろ」
『冬獅郎‥』
日「死ぬなんて許さねー。黙って仕事に行くな。俺を頼れ、守らせろ。‥‥頼むから」
我が儘でも自己満足でも何でもいい。
俺はあやめの笑った顔が好きだから。
『ホント、変わった人ね』
日「あやめ」
『でも、ありがとう。
‥冬獅郎に出会って、傍に居てくれて。こんなに幸せになれるなんて思わなかった。
だから、ありがとう‥冬獅郎(満笑)』
日「!」
そう言って笑ったあやめは俺が初めて見る満面の笑みを向けてくれた。その瞬間思ったんだ。
――もう、大丈夫なんだな。
根拠はない、が‥その笑顔が答えだ。
◆◇◆◇◆◇
あれから数日後。退院許可が出て、十一番隊へと戻って来た俺にやちる達が出迎えてくれた。変わらずに、笑って。
私の帰る場所はいつだって温かかったんだな、なんて実感しながら書類を整理していた。
残暑が残る今日も、アイツはやって来る。
?「入るぜ」
『よぉ』
日「はぁ‥あちぃ」
『まだまだ涼しくはならないな』
日「みたいだな」
『暑い中わざわざ来なくてもいいんだけど』
日「いいだろ、別に//」
『そうだな』
日「‥‥」
『クスッ。不服そうね』
日「別に」
拗ねる冬獅郎の背を見ながら笑う。
暇なんかない筈なのに必ず部屋へと来ては世間話をする。隊長という立場にありながら時間を作って逢いに来てくれるのだから素直に喜びたいのだが、こうしてからかっては拗ねる冬獅郎を見るのが好きらしい。
『嬉しいのよ?これでも』
日「なら素直に喜べばいいだろ」
『だって、拗ねる冬獅郎が可愛くて』
日「可愛くねー!」
『私には可愛く見えるのだから諦めて(微笑)』
日「~~‥(ムスッ」
ますますご機嫌斜めの隊長様にまた笑う。
冬獅郎と居るこの時間にまた自分が居られるコトを嬉しく思いながら広い背中に寄り添った。何も言わず、語らず、ただ、温もりを感じる様に。心地よくて腕を回せばそこに触れる少し体温の高い温もり。愛しい人の温もりに笑みは零れるばかりだ。
『あ、暑いのよね。ごめんなさい』
そう言って離れようとしたら、手を掴まれた。
『冬獅郎?』
日「暑いには暑いが‥。離れなくていい」
『‥分かった』
また、背中に寄り添えば胸が高鳴っているのが分かった。もちろん、私の。
日「なぁ‥」
『ん‥?』
日「明後日は、暇か?」
『うん。書類も一段落ついたから暇だけど、何?』
日「‥‥出掛けないか//」
『それって‥デート、って事?』
日「ああ//」
‥驚いた。
そんな時間をいつの間に作っていたんだか。
『無理しなくてもいいのに』
日「無理なんてしてない。
お前が目覚めたら出掛けようって決めてただけだ‥//」
その優しさが胸に広がる。
温かくて、幸せで、愛おしい。
『寝不足気味じゃない』
日「う゛ι」
『頑張ってくれたんだ、私なんかの為に』
日「‥一緒に居られる時間が欲しかったんだ。あやめと二人きりで‥//」
『冬獅郎‥』
胸いっぱいに広がる温かさに高鳴るばかりで、溢れ出てしまいそう。苦しくて、言葉に出来なくて、抱き締める腕に力が入る。愛しさが、幸せが、嬉しい‥。
日「あやめ?」
『嬉しすぎて言葉にならないの』
――どうしたら伝わるの?
幸せという一言では表せない程の幸福感。
冬獅郎で良かったと思うこの気持ちは、愛してるだけじゃ足りない。
『(どうしたら‥‥ぁ‥)』
一つの答えに辿り着いた。
背を離れると振り返った冬獅郎に優しく微笑む。
日「あやめ?」
『言葉じゃなくても伝える方法があった(微笑)』
日「それって―‥!」
『(愛してる)』
ねぇ、冬獅郎。
私は貴方がどうしよもないくらい愛おしくて仕方ないの。
こんなにも恋い焦がれているとは思ってないでしょう?
貴方が思っているよりも私は貴方を愛してるわ。
傍に居て、触れられて、伝え合う。それでもまだ足りないの。いっそ、溶けて混ざり合ってしまえば、なんて言ったら笑うかしら?
満たされる事のない愛を私は貴方に注ぎ続けていくから、永遠とも呼べる永い時間をかけて。
だから、どうか―‥
『(貴方の想いも同じでありますように‥)』
重ねた口付けに願いを込め、そっと離す。
するといきなり視界が反転した。
視界を埋める微かに紅く染まる冬獅郎に天井。押し倒されたと理解するのに時間は掛からなかった。
『‥冬獅郎』
日「前に言ったよな?
あんまり俺を煽るなって」
――嗚呼、なんて綺麗なんだろう
ギラギラと妖しく輝く翡翠の瞳に魅入られる。
幼さの中に隠れた大人の顔は私の胸を高鳴らせた。
『好きにしたらいい』
日「‥」
『私の心も身体も、命さえも冬獅郎に上げたの。
我慢なんて必要ないわ。抱きたければ抱けばいい、壊されたって構わない‥』
何をされても冬獅郎ならいいと思えるの。
だって貴方は、優しすぎる人だから‥。
私の事を想って、傷つかない様に守ってくれる。
日「‥んな事言われたら、優しく出来ねーだろうが///」
『そんなことない。冬獅郎はいつだって優しいもの。
優しすぎて心配になる位に』
日「何の心配だよ、それ//」
『‥浮気とか?』
日「疑問で返すなι
それに、浮気なんかしねーよ」
『みんな初めはそう言うのよ。
飽きてくれば心は移ろいやすいのだから、分からないわ。
まぁ冬獅郎が浮気したら、やり返すからね?』
日「(マジでやるな、コイツι)
‥絶対しねー。あやめ以上の女なんてそう居ないからな‥///」
『そうでありたいわ(微笑)』
私にとっても冬獅郎以上の人は居ないと思っている。
こんな私を愛してくれる人なんていないもの。
『(鼓動がうるさいな‥)』
高鳴り続ける鼓動と熱を帯びる身体。見つめ合うだけで呼吸が乱れてしまう。まだ日が高い時間だというのに変な考えばかりが浮かぶ。
そして、視線を逸らし言う。
『何もしないなら退けて‥//』
日「‥‥」
『冬獅郎、聞いて―‥』
ちゅっ、
『!!』
首筋に感じる柔らかな感触。
キツく吸われる度に震える肩。首筋から耳へと移動する唇。
鼻孔を擽る彼の匂い。
指を絡めて握られる骨ばった手。
全てが私を興奮させていく。
日「ここまでだ」
『‥冬獅郎//?』
日「草鹿に邪魔されたくないからな」
『そぅ‥』
日「拗ねるなよ」
『別に、拗ねてなんかない』
さっきまでの高ぶりが嘘の様に冷めていく。気分は最悪だけど‥。
やちるの邪魔が入らないとは限らないけど、あそこまでされてお終いというのも質が悪い。
仕方なく気分転換でもしようと立ち上がった。
日「何処行くんだ?」
『誰かさんのせいで中途半端に高ぶった気分を冷ましに行くのよ』
小さく溜め息を吐いて引き手に手を伸ばした。
日「行くな」
出て行こうとした私の手を掴み、阻む冬獅郎に溜め息。
『隊舎に戻るんでしょう?』
日「ああ。だが、一人で出歩くな」
『平気よ』
日「駄目だ。変な気を起こす輩がいると分かった以上一人で出歩くな」
やちるにも言われたなぁ‥それに、隊士達からも。
気分転換も出来ないとは‥不便ね。また溜め息を吐き、諦めて机に向かう事にした。
日「あやめ」
『心配しなくても出歩かないわ。早く戻れば?』
机に向かったはいいけど書類がない‥。全部処理済みばかりで配りに行くだけ‥行けないけど。
日「拗ねてるだろ」
『しつこい。拗ねたからって何か変わるの?』
日「それは‥」
『いいから戻れよ。用は済んだんだろう。俺は寝る』
ふて寝だ。仕事はない、出歩けない、ときたら後は寝るしかない。退屈だ。
日「‥明後日、忘れるなよ」
そう言って冬獅郎は出て行き、私はゆっくりと瞼を閉じた。
―――――――――‥
夕方になり、やちるが帰って来たのに気づき目を覚ました俺は書類配りへと隊舎を出た。
『涼しくなったなぁ。今日は何してたんだ?』
草「あのね!」
何気ない世間話をしながらやちると各隊舎へと歩いた。
日中の暑さが和らぎ、涼しい風が吹き抜ける。
今年もあっという間に終わるなぁ、なんて考えれば思い出す。冬獅郎との出逢いで私の心は軽くなった。
幸せだと感じる日々を与えてくれた冬獅郎には感謝しても足りないだろう。
草「やちるはワンワンの所に配って来るね!」
『ああ。回収も忘れるなよ』
草「はーい!」
元気なやちるを見送り、俺は五番隊の隊舎へと歩いた。
コンコン、
『書類持って来たぜ』
雛「神崎さん、ありがとうございます」
『‥別に』
彼女は苦手だ。
綺麗過ぎて眩しく見えてしまうから‥。自分が‥酷く醜い者の様で、胸が痛い。
雛「あの、神崎さん」
『‥』
雛「日番谷くんと何かありました?」
『何かって‥?』
雛「さっき十番隊に行って来たんだけど、日番谷くんの様子が変だったの」
『‥?』
心当たりがある様な、ない様な‥。
雛「一人で唸っては叫んで、うなだれたと思ったら赤面して‥何だが変なの!」
『(心配じゃなく好奇心か‥)
ほっとけばいいだろ。その内戻るだろうし』
雛「そうなんだけど‥。
仕事が全く進まなくて隊の人達が困ってるみたいで」
その言葉で副隊長が逃げたのは分かる。
しかし、仕事が進まないのなら明後日の約束はなくなるな‥。
暫し考えを巡らせ、言う。
『当人の問題だろ?俺には何も出来ないな』
雛「で、でもっ、明後日はっ‥‥その‥日番谷くんと出掛けるんじゃ‥」
知ってたのか‥。冬獅郎のコトだから幼なじみの彼女に相談でもしてたんだろう。
『あまり期待してない』
雛「ぇ‥?」
『隊長である立場を考えればいつ緊急で呼び出しが掛かるか分からないだろう?
だから、期待しない‥。
俺は傍に居てくれる時間だけで十分だから』
雛「(優しい人。日番谷くんが惚れ込むわけだ)
一度、顔を出してあげて下さい。きっと喜びますから(微笑)」
『‥ああ』
一礼して五番隊を後にした。
タイミングよくやちるも戻り、隊舎へ。もちろん、十一番隊にだ。冬獅郎の所へは‥行かなくても大丈夫だろう。
何を考えているのかは知らないけどね。考え過ぎも良くないと教えておこう。
草「そうだ!あのね、マユリンが言ってたんだけど」
『?』
草「##NAME3##がお仕事に行った日だけ虚の数が増えたんだって」
『たまたまじゃないか?』
草「ううん。歌の力も上がってたって。マユリンが理由が知りたいって言ってたよ」
『理由か‥』
あの時は、あの時だけは‥想いを乗せて紡いだだけだからなぁ。
草「最近、歌わないね」
『暇がないだけだ』
草「聴きたい!」
『今か?』
草「今!」
笑顔が眩しいぞ、やちる。
まだ隊舎にも着いてない道のド真ん中で歌えと‥‥鬼だな。
――とはいえ、期待を込めた眩しい笑顔に嫌だとも言えない‥‥仕方ないか。
『‥~~♪』
なんだか素直に歌える。嫌な感じもしないし苦痛でもない。
久しぶりだな、歌うのが心地良く感じるのは――。
『(冬獅郎にも届くかな‥)』
私が紡ぐ歌は、冬獅郎の為にあると思いたい。魔笛ではなく、ただ、愛しい人を想い歌う金糸雀-カナリア-でありたい。そう思う。
歌終わるとやちるが言った。
草「##NAME3##の歌変わったよ!」
『そうか?』
草「うん!なんかね、すっごく優しいの♪」
『‥ありがとう』
素直な言葉だな。その素直さにいつも救われる。
「あのっ神崎さん!」
名を呼ばれ振り返る。そこには一人の男性隊士がいた。
『‥俺に何か用?』
「いえ、用という程では‥。
先程の歌、とても綺麗でした//」
『は?』
また文句でも言いに来たのか、ぐらいにしか思っていなかった為、間抜けな声が出てしまった。
「初めて聴きましたが、あれほど美しいとは‥。
機会があればまた聴かせては頂けないでしょうか?」
爽やかな笑顔を浮かべる隊士に引いた。
俺が言う前にやちるが口を開いて言う。
草「##NAME3##をナンパしちゃダメ!」
『(どこで覚えたんだ‥)』
「Σナンパではっ///」
草「##NAME3##はひっつんの彼女なんだからね!」
『やちる、何だかややこしくなってないか‥』
草「??」
無自覚か‥。
赤面してる隊士に自分の口で言った。
『お前に歌うつもりはない』
「ですがっ!」
『俺は魔笛だ。散々悪意を持っていたクセに今更なに言ってんだ?‥不愉快だ』
苛立ちが生まれる。俺の中に積もっていたモノが爆発しそうな勢いで気分が悪い。
『綺麗?美しい?馬鹿かお前』
「なっ!?」
『そんな褒め言葉に自惚れるとでも?』
「そんなつもりは‥」
『鬱陶しいんだよ、そういう都合のいい解釈。
関わりたくないんで、お前みたいな奴』
人ってのは案外、単純に出来てるんだな。否、何も知らずにいるのと知るのとでは違うだけなんだろう。
けれど、一度悪意を向けられた方としてはそう簡単に変えるコトなんか出来やしない。
そもそも、誰だか知らないし、男に褒められて喜ぶ程可愛い性格をしてないんだよ、俺は。
『お茶するか』
草「うん!」
例え、俺の歌が綺麗だ言い寄る奴がいたとしても俺には必要ない。帰るべき場所があって、迎えてくれる仲間がいて、愛してくれる彼がいるのだから――。
その夜、料理を作ったはいいけど作りすぎてしまい、徹夜をしているだろう冬獅郎にお弁当を詰めた――‥のだが‥。
隊主室に行く途中で足を止めて、溜め息を吐く。
乱「神崎じゃない。何してるのよ?」
『あー‥これ渡しといてくれ』
乱「コレは‥。自分で渡したらいいじゃない」
『可愛い彼女が来てるからいいよ。じゃあな』
来た道を引き返して隊舎へ。
隊主室から感じた霊圧に気づいて足が止まった。仲が良いのは仕方ない‥なぁんて、聞き分けのいい女じゃない。
だからといって、乗り込む度胸も気力もないから流すだけ。
『ふぅ‥。ホント、作りがいがあるな』
料理は息抜きによくする。
いつの間にか料理は俺の仕事になった。
『ん?よく考えたら仕事多くないか?』
書類に食事当番‥偉いな、俺。
なんて笑っていれば、慌ただしい足音が近づき、調理場で止まった。
『なんだ、冬獅郎か』
そこには仕事に追われているはずの恋人が立っていた。
日「弁当‥ありがとな」
『作りすぎただけだ、気にするな』
日「何で直接渡しに来なかったんだよ」
理由なんて分かってるだろう?
せっかく水に流して楽になろうとしてんのに―‥。
『わざわざ掘り返すワケ‥』
日「理由が聞きたいだけだ」
『可愛い彼女がいたから遠慮した、其れだけだ』
日「‥遠慮する必要なんかねーだろ」
『俺は心が狭いから。家族なんて言葉で受け入れられる程大人じゃない‥』
日「あやめ‥」
理解しても苦しいから‥見たくないから‥だから、掘り返さないで。明日になれば気にもせずにいつもの私でいるから。
日「俺だって、嫉妬してる」
『冬獅郎‥?』
日「あやめの手料理を隊士達が食ってるのも、俺じゃなく更木達が傍にいるのも‥気にしないフリをしても、やっぱ‥面白くねェ」
『‥クスッ。お互い嫉妬深くて困るわね』
日「そうだな」
『ふふっ。そろそろ戻ったら?
仕事溜まってるんでしょう』
日「まぁ‥。その前に飯が先だけどな」
そう言って手に持った包みを見せた。
『食べてなかったの?』
日「‥落ち着いて食えねーからあやめの部屋で食おうと思ってな」
食べる前に礼に来るとは‥。
大方、副隊長にからかわれるのが嫌だったのね。
『なら先に部屋に行ってて。お茶用意するから』
日「ああ‥//」
何故か照れる冬獅郎に首を傾げながらお茶の用意をする。
お盆を手に部屋へと戻り、ふと思う。
『(結婚したらこんな感じなのかなぁ‥)』
そんな事を考えている内に部屋に着き、冬獅郎にお茶を渡した。
日「美味い」
『それは良かった』
日「‥料理、得意だったんだな」
『普通だと思うけど?
ウチは男所帯だから、やれる人のが少ないしね。
‥何?私変なコト言ってる?』
日「‥‥そのエプロン」
『コレ?やちるがくれたのだけど‥変だった?』
薄い青のエプロン。
あると便利だからってやちるがくれた。現世の物だからちょっと変かもしれない。
日「‥似合ってる//」
『そう?珍しくもないじゃない』
日「そうでもない。エプロン姿なんてそうは見ないしな‥//」
『だからってそんなに照れなくてもいいじゃない(苦笑)』
ほんのり頬を染める冬獅郎に笑みながら言う。
『それとも、何か想像してるのかしら?』
日「Σ変な想像じゃないからな//!!」
『ふふっ。ならどんな想像?』
日「っ‥//」
また赤くなった。
些細な変化が愛おしいと思いながら言葉を待つと―‥。
日「結婚したら、こんな感じなのか‥と思っただけだ///」
『!』
驚いて言葉が出ない。
だって、冬獅郎の口から結婚なんて言葉が出るとか思わないし。何より‥そんな考えがあるとは思わないだろう。
どんなに中身は大人びていると言ってもまだ少年なのだ。恋愛に不器用で、愛などよく分からない年頃でもある。
これから先、色々な経験をして考えるべき事を些細なコトで想像しているとは‥しかも、同じ考えなんて――。
日「あやめ?」
『‥あはは!』
笑ってしまった。
日「Σなっ///!?
笑うことないだろうが!!」
『ふふっ‥ごめんなさい。
冬獅郎が同じコト考えてたとは思わなくて』
日「!じゃあ‥」
『結婚生活ってこんな感じなのかなぁって私も考えてた(微笑)』
私には叶うことのない願いだと諦めていた。
ただ、愛する人との暮らし――。
何気ない当たり前の願いだけど、魔笛である自分には無理だと思っていたから‥今こうしていられるのが奇跡みたいだ。
『女の幸せなんて、望めないと思ってた』
日「‥‥」
『私は私を押し殺して生きる。
そう、思ってたのに‥‥冬獅郎が変えてくれた(微笑)』
日「‥っ」
ぎゅっ、
不意に手を引っ張られ胸の中へ。しばしの無言。聞こえてくるのは廊下に下げた風鈴の涼やかな音色と安心する鼓動。
キツく抱き締める冬獅郎が愛おしい―‥。
『どうしたの?』
日「幸せにする‥」
『冬獅郎‥?』
日「あやめが笑っていられるように俺が守るから。
だから―‥俺の傍で笑っててくれ///」
『!?』
思いもよらない言葉に驚いた。
まさか婚姻を申し込まれるとは、誰が想像しただろう。
『おませさんね』
日「なっ///!
テメェ、人が恥を忍んで言ってんのに‥ガキ扱いかよ///」
『そうじゃないわ。からかったんじゃなくて‥。
もっと時間をかけて考えたらと思っただけ』
私達の時間は永い。その間に色々な人に出逢う中で本当に守りたい人を見つける。冬獅郎はもっとゆとりを持って生きた方がいいと思う。
日「俺じゃ‥頼りないか」
『そうじゃない。一時の感情で流されないでって言ってるの。
‥‥私は、その言葉を信じられる程可愛い性格をしていないから‥』
冬獅郎とそうなれたらいいと私だって思う。
けれど、出逢いというのは気紛れに訪れるモノだ。自分よりも惹かれる魅力があれば心は容易く移る。
『私は、自分に自信がないの‥』
日「俺だって同じだ。
ガキみたいにお前を傷つけてばかりで、いつか愛想尽かされるんじゃないかって不安なんだ」
『冬獅郎‥』
日「いきなり信じろなんて言わねーよ。
ただ、覚悟があるってだけだからさ(苦笑)」
どうして――‥。
日「愛してる。誰よりもあやめを―‥」
そんなに強く想ってくれるの―‥?
迷いも不安もない翡翠の輝きに視界が揺らぐ。
いつだって真っ直ぐで真面目で正直で‥優しい。
そんな素敵な彼に愛される私は幸せ過ぎで少し、怖くなってしまう。私の我が儘や嫉妬で傷つけてしまわないか。
あの雨の中、好きだと言った彼。
あの夜、私と幸せを全うすると約束した彼。
ちゃんと考えて答えてくれているのに私は信じられずにいたんだ。
離れてしまうのが怖いから‥でも――。
ほろ、
日「あやめ‥」
『私も‥愛しています』
日「!」
『誰よりも貴方だけを想い、愛し、傍に居ます(微笑)』
日「ああ‥幸せにする」
そう言って冬獅郎は頬を伝う涙を拭い、唇を重ねる。今までで一番幸せな口付けに私は瞳を閉じて彼を全身で感じた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日は現世でデートに来ているん―‥‥だけど、前日まで徹夜をしていた冬獅郎はぼんやりしたままなのよね。
私が話し掛けても相槌のみ。時折、欠伸をしているし、これではデートをしている気分も冷めてしまう。
『(仕方ない。彼処に行くとしますか‥)
冬獅郎、次行こうか』
日「ん‥」
『(眠そうだこと)』
ちょっと可愛いかも。
手を引いて歩いて行けば、人通りの少ない道へと入った。
すると、流石に気づいた冬獅郎が足を止める。
日「Σぉ、おいっ!此処は違うだろう///!」
『違わないよ?
此処に用が出来たから来たんだし』
日「用って‥///
そもそもお前、どうしてこんな場所知ってんだよ‥」
『お宅の副隊長さんが教えてくれた』
出掛ける前にやって来て地図を渡されたのだ。
乱「二人っきりで休める場所があるから行ってみなさいvV」
からかいたいだけだろうが‥今は助かる。
躊躇う冬獅郎の手を引っ張って建物の中へ。
ぱたん、
『怒ってるの?』
日「そうじゃない。
ただ、デートだってのに昼間っから‥その‥‥ラブホってのは‥///」
そう、私達が今いる場所は現世のラブホテルだ。
私は正直に理由を話した。
『眠いんでしょう?』
日「!」
『欠伸してるし、ぼんやりして話し掛けても上の空。
一人で買い物してるみたいで虚しいのだけど?』
日「‥悪ィ」
『ううん‥買い物も終わったからゆっくり休んで?』
日「‥‥すまない」
申し訳なさそうに謝る冬獅郎に胸が痛む。
忙しい合間を縫って誘ってくれたのが分かるだけに。
そのまま、手を引いてベッドへと誘う。
ギシッ、
『疲れた‥。こんなに歩いたのは久しぶり』
日「‥‥」
背を向けたままだんまりの冬獅郎に優しく問い掛ける。
『まだ不満でもあるの?』
日「不満じゃねーよ。
ただ、初めてのデートなのに気を遣わせた自分が情けないだけだ」
思わず笑みが浮かぶ。
どこまでも真面目過ぎるんだもの。
私はデートに誘ってもらえただけで嬉しいし、何より、こんなに長い時間二人で過ごすなんてなかったから‥凄く幸せな気分なのにね。
『ねぇ、冬獅郎』
日「なんだ?」
『抱き締めていい?』
日「は?」
『いつもは私が抱き締められてるから、今日は抱き締めてあげたいの。
ダメ‥?』
日「う゛ι
‥ガキみてぇじゃねーかよ///」
『私がそうしたいだけよ。
ほら、寝て』
日「‥///ι」
嫌々なんだろうけど、拒絶はしないのね。優しい人。
向かい合わせに寝ながら冬獅郎を胸の中へと包み込んだ。
『忙しいのに今日はありがとう』
日「楽しくなかっただろ‥ごめんな」
『ううん、冬獅郎といられるだけで幸せなの。
多くは望まないわ。何気ない日常を冬獅郎と過ごす。
それだけのコトが凄く幸せだって思えるから』
日「‥本当なら、行き先とか決めてあれば良かったんだが‥。その‥女が喜びそうな所なんて思い浮かばなくてさ‥」
その言葉で今日まで悩んでいたのが分かった。
経験がないから私が喜ぶ計画を考えてくれていたんだね。
ぎゅっ、
日「ぉ、おいッ///」
『愛してるわ。言葉なんか足りない程、冬獅郎に溺れてる』
日「ッ///」
私が上げられるモノは多くはないから。
貴方が安らげる様に、少しでも背負うモノが軽くなる様に‥今日は冬獅郎だけに、冬獅郎の為に歌おう。
『‥~~♪』
日「(結局、あやめの方が一枚上手か‥。情けねーけど‥今はこのままでもいいか)
‥愛してる、あやめ」
『‥~~♪(お休みなさい)』
暫くすると寝息が聞こえてきた。可愛い寝顔を見ながら私は考えていた。
あの時‥彼女に刺されたあの瞬間、冬獅郎の腕の中で死ねたら‥なんて考えていた。抱かれるまま逝けるのなら悪くない。なんて自分勝手なコトだろうか。
だから今は、冬獅郎が傍に居てくれる日常を大切にしたい。赦されない罪を嘆くのではなく、全てを受け入れて今を歩く。
だって、私は一人じゃないから――。
『ありがとう、冬獅郎』
額にキスを一つ贈り、私も眠りについた。
―――――――――‥
日「昼飯食ってなかったな」
『そうね。何処かで食べようか』
日「ああ」
ホテルを出た私達は遅い昼食を小さなレストランで取ることにした。
『よく眠れた?』
日「ああ‥ありがとな///」
『いいえ。可愛い寝顔を見れたもの』
日「‥可愛くねー///」
『はいはい』
それから食事をしながら世間話。
有意義な一日はあっという間に終わりを迎えた。尸魂界へと帰れば少し寂しく感じてしまう。
『夏も終わりか』
日「そうだな」
『季節が変わるのは早いな』
日「それでも、何度だって巡るんだ。寂しくなんかねーよ」
『‥‥』
日「季節は変わっても俺は‥あやめの傍に居る///」
『‥ぅん(微笑)』
きっとこの先も私の傍には冬獅郎が居る。
二人で移り行く季節を感じながら日常を過ごせたらいいと思う。
『今日はありがと』
日「いや‥」
『また誘ってね』
日「‥ああ。じゃあな」
冬獅郎を見送り中に入るとやちるが出迎えてくれた。
草「おかえりー!」
『ただいま。お土産だ』
草「お菓子だぁ!
##NAME3##楽しかった?」
『ああ、楽しかったよ(微笑)』
―――翌日。
書類を片手に十番隊を訪れると―‥。
『失礼します。
冬獅郎、書類―‥なんだよ?』
乱「いい所に来たわねvV
あの地図役に立った?」
日「松本ッ///!」
乱「いいじゃないですかぁvV
気になるし♪」
『(からかわれてるのか‥大変だな)』
完全に副隊長のペースだな。
乱「で?どうなのよvV」
『役に立ったよ』
乱「隊長~♪」
日「~~///」
『休憩に使っただけだぞ』
乱「えー‥休憩だけェ。
隊長の意気地なし!」
日「なっ///!?」
困った副隊長だ。
まぁ‥真っ赤になりながら反応する冬獅郎にも問題があるな。
『ハァ‥。いるよなぁ、年下からかって楽しんでる“オバサン”』
乱「ぉおお、オバサン!?」
日「おい、あやめ‥ι」
『年増の茶受け話しにするとは‥案外暇なんだな』
乱「誰が年増よ!私はまだ若いわ!覚えてらっしゃい!」
スパンッ!
日「‥あやめι」
『事実だろ?』
日「(あの松本が口で負けるとは‥スゲェなι)」
『まぁ‥意気地なしには同意してるけど、ね』
日「!?」
『じゃあな』
ぱたん、
日「‥――いいぜ。
次は覚えてろよあやめ‥。
容赦しねーからな(妖笑)」
‥‥終わり、かな?