◈魔笛
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「Σうわぁぁぁッ!?」
「なんだこれは!?」
「‥お前か?お前の、魔笛の力かっ!!?」
『だったら何だ?』
「こんなの俺達だけじゃ無理だ!?応援を――‥」
「お前が一人でやれよ」
『逃げるのか?』
「お前が呼び寄せたんじゃないか!!責任取れ!」
「そ、そうだ!!化け物ならこんなの楽勝だろ!」
「俺達はお前なんかと違って必要とされてるんだ!こんな所で死ねるか!!」
ウォォォォーーッ!!!
『‥――こうなる事は分かってたんだ。化け物の俺が、仲間と思われる筈もないんだから‥』
―小僧。何故、逃ゲヌ?死ニタイノカ?
『そうかもな‥。上にとっては“道具”下にとっては“化け物”だ。人でない存在らしい‥』
―自ラ死ヲ選ブカ
『ああ。だけど自殺はしない。そんな逃げるような真似はな。だから――‥。戦って死ねるなら、本望だ!』
―――――――――‥
録音されていたのはそこまで。
女と知らなかったとはいえ、彼奴一人見捨てて戻った自分の部下を恥じた。
ガラッ、
四番隊救護詰所に毎日、暇を作っては足を運ぶ。神崎の見舞いと顔を見に。寝顔を眺めるだけで掛ける言葉なんかない。いつも時間だけが過ぎて行くだけ。
日「(同一人物だとはな)」
怪我を手当てしてくれた女は眠る女と同一人物だと卯ノ花が教えてくれた。
卯「“自分の力が周りを傷つけるモノだと知ると四番隊を去ってしまいました。
救う為に四番隊に入ったのに、そう嘆きながら‥。
彼女の心はボロボロなのでしょう。癒やす術を知ず‥傷を負い続けてしまった”」
悲しげなその言葉に罪悪感が湧いた。覚ました所で待っているのは前以上の扱いだ。女であるという事実が回り、周りの反応は酷くなった。女で‥しかも、元四番隊所属の奴が死者を出して平然と男の様に振る舞っていた。周りの反応は悪くなる一方。
答えのない闇に迷い込んだまま‥一人きりで抱えてるんだな、お前は―‥。
日「目ェ覚ませよ‥あやめ」
お前は一人じゃないだろう?
更木達、十一番隊の奴等がいるじゃねーか。お前の存在を認めてる奴等がちゃんと居るんだ。
俺も―‥俺もお前を認めてるんだぜ?
それに、本気で男相手に惚れたのかって悩んでたんだからな。だからさ‥。早く起きて俺の話し聞いてくんねーか?
“お前が好きだ”って伝えるから、傍に居るって誓うから、目ェ覚ましてくれよ。
‥――あやめ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
乱「今日で―ヶ月ですか。まだ目を覚まさないんですよね」
日「ああ。怪我は治ってるんだがな」
乱「早く目を覚ますといいですね」
日「そうだな」
一ヶ月経った今も眠ったままの神崎。
“戦って死ねるなら本望”だと言っていた。その言葉の重みを感じたんだ。女の口から出る言葉じゃないだろう?
言動や態度、男の様に振る舞っていた事を俺なりに考えてみて出した答えは――‥。
バンッ!
乱「やちる!ずぶ濡れじゃない!!」
草「##NAME3##‥‥##NAME3##知らない?!」
日「神崎がどうかしたのか?」
草「居ないの‥。病室行ったら居なくて‥探してるけれど見当たらなくて‥(ウリュ」
居ない!?
嫌な予感が脳裏をよぎる。だが、その考えは直ぐに消えた。神崎は自殺しないと言っていたからだ。なら‥今神崎が居なくなったのは一人になりたいからだろう。生きている事に後悔し、不安を抱いてるんだ。周りの‥自分の存在を否定する視線の中生きていく事に‥。
そこまで考えて今一人にするワケにはいかねーと思った。確か、前に秘密の場所があるって言ってたな。行ってみるか―‥。
乱「先ずは拭かないと、風邪引くわ。‥隊長?」
日「心当たりがある。‥少し出るぜ」
パタン、
草「ひっつん‥」
乱「大丈夫。待ちましょう?」
草「ぅん‥」
隊舎を出て雨の中を駆ける。
彼奴は―‥
あやめは―‥
“誰よりも自分自身を嫌っている”
だからこそ、女である自分を偽りながら強がってただけなんだ。それを、誰もが理解してやろうとはしなかった‥否、認めたくなかったんだろう。それを一番彼奴が分かってて‥周りを遠ざけていた。傷つくのは自分だけでいいんだと、自分が化け物だからと言い聞かせて―‥。
‥――そして。
見つけたあやめは雨の中、今まで溜め込んでいたモノを吐き出すように悲痛な叫びを上げていた。
日「あやめ!」
□■□■□
灰色の雲が空を覆って、土砂降りだ。
パシャ、
何かを悲しんでいるかのような雨粒は涙の様で‥切なくて、泣きそうになる。そんな中を頭からずぶ濡れになりながら歩いてた。人影のない道を裸足で。
目を覚ました俺は気だるい躰を起こして病室を抜け出し、今に至る。
別に死のうとして抜け出したワケじゃない。ただ、誰にも会いたくなくて‥一人になりたくて抜け出しだけ。
死神になってからよく来る秘密の場所がある。疲れた時や落ち込んだ時、気分転換によく来ていた場所。晴れていたら心地良いひなたぼっこが出来るんだけど、生憎の雨空だから残念だ。
バシャン、
『ははっ‥‥悪運、強すぎだ』
どんなに魔笛として虚を集め戦っても、大怪我しても‥俺は“死ねなかった”。今回も同じだ。一人では危険な任務にも関わらず怪我を負ったものの、こうして、生きてる。まだ続くんだ‥生き地獄のような日々が‥。
空を見上げれば、雨か涙か、どちらか分からないが頬を伝っていた。
『覚めなきゃよかったのに‥』
病室を出る時に聞いた話し声―‥。
―――――――――‥
“魔笛の奴女だったんだってさ”
“偉そうな態度は自己防衛だったワケだ”
“でもさ。見た目は綺麗だけど、手ェ出したら呪われそうじゃね?”
“言えてる!さっさと十一番隊に戻って欲しいよ。気味悪いし”
“だな。あんな奴が同じ四番隊士なんて言われたくないぜ”
―――――――――‥
俺は‥‥邪魔者でしかないんだ。歌で虚を集める特殊な存在だから、生かされてるだけで‥それがなければ、俺の存在なんか無いのに等しいんだろうな。
『私は―‥‥』
四番隊には志望して入隊した。
誰かを助ける立場になりたくて。戦うのは苦手だったし、何より、卯ノ花隊長に憧れていたから。一生懸命に勉強してたのに‥‥ただ、歌うのが好きで口遊んでいると気分転換にもなって、集中出来た。
でも―‥‥
あの日、初めて自分の歌が害になると知った私は十二番隊で研究材料にされ。
四番隊に戻れば、周りからは嫌なモノを見るような視線が突き刺さった。
それに耐えきれなかった私は死神を辞めようと四番隊を去った。そんな私を剣八は歓迎してくれた。素直に嬉しかった―‥。受け入れてくれた事も、仲間だと認めてくれた事も‥全部が嬉しかった。だから、足手まといにならないように必死で鍛錬して‥頑張って‥なのに――‥。
『私‥生きてるだけで‥‥生きてる事さえも‥――許されないの?』
私にも人並みの幸せを望んでいた時もあった。
大切な人と幸せな家庭を作る‥そんなささやかな夢を――‥。
でも、そんな夢を現実には出来ないだろう。私は理解されない気味悪い者だから‥。
私に残された選択肢は二つ。
現実から逃げ、死を選ぶか。
現実を受け入れ、道具として生きるか。
最早‥人としての生は諦めてる。
『ただ‥幸せに生きたかっただけなのに‥‥っ。
はっ‥アァッ‥‥ふっ‥ぁ‥』
土砂降りの中、泣いた。声を絞り出すように、うずくまる躰を抱き締めて。
心が悲鳴を上げてるのが分かるんだ。軋む音を鳴らしながら、引き裂かれるような痛みを感じながら、私が今まで押し殺してきた感情。それが溢れ出るように押し寄せる。
『っ‥ぁ‥‥っあァァァ―――!!』
吐き出すように叫ぶ。誰にも聞こえない悲痛を。
?「あやめ!!」
その時、雨音の中に微かに聞こえた自分の名を呼ぶ声にゆっくりと視線向けた。
『何、で‥?』
意外な人物の登場に驚き、見つめる。同じようにびしょ濡れになりながら駆け寄る十番隊隊長の姿が。
日「見つけた。草鹿が心配してる、帰るぞ」
差し出されたその手を払う。
ぱしっ、
『一人で帰れ』
日「馬鹿言うな。風邪でも引いたら大変だろうが。んな薄着で‥肌透けてるじゃねーか」
面倒くさいなら放って置けばいいじゃない。羽織を掛ける優しさを向けられる覚えなんかないのに‥。
日「帰るぞ」
『嫌だ』
日「駄々っ子か?草鹿の事も考えてやれ」
考えてやれ?何様だ、お前。
自分の事で他に気を配る余裕なんかない。それでも、明日はいつものように笑って“大丈夫”って言えるようにしようと一人になりに来たんだ。
『お前に‥何が分かるんだ‥‥』
日「何も‥何も分かってやれねーさ」
『なら失せろ。お前の顔なんか見たく――‥』
ぎゅっ、
『(ぇ‥?)』
‥――何?
日「悪いがそれは出来ねー。
今一人で泣かせたら、何も変わらない。
俺はお前を知らないから、分かってやれねーけど‥‥傍に居てやる事は出来る」
『‥せ』
日「一人で抱え込んで泣くな」
『‥離せ』
日「大丈夫だから‥」
『離せっ!!』
知りたくない!
理解なんかされなくていい、優しさなんか要らない!
こんな‥こんな‥‥!!
必死に離そうと押しても男相手じゃ敵わない。
『お前なんかに分からないっ!私がどんな思いでいたか!知ろうともしないで、敵意を向けてたクセに!!』
日「すまない」
『偽善者!!お前に私が理解出来るワケがない!されようとも思わない!私はっ‥‥神崎 あやめは常に独りだ!!』
日「違うっ!!」
『!?』
抱き締める腕の強さに聴こえる心音。こんなに近くに温もりを感じたのは初めてだ。
‥――何で、そんなに必死なんだ?
日「お前は独りじゃない。更木達がいる‥‥俺も、信じられないだろうが‥。
俺はあやめを理解したい」
『私を‥‥?』
顔を上げれると交わる視線。
薄暗い中に輝く翡翠の瞳には曇りはなく、綺麗だ。
‥――理解したい。
そんな風に言われたのは初めてで、素直に“嬉しい‥”そう思った。けれど、その反面では“信じられない”でいる。
魔笛の力を目の当たりにした連中は皆、私を残して逃げ出した。恐怖するんだ‥私を―‥。
以来、私は誰も‥‥剣八達以外誰も信じられないんだ‥。
ドンッ!
日「っ‥‥あやめ」
『今更‥信じようとは思わない。俺は“今のまま”でいいんだ‥。
それが―‥
俺のささやかな願いだから(微笑)』
日「あやめ」
昔抱いた願いは無理でも、今の生活がなくならないなら‥それでいい。私を受け入れて、私の為に怒って、私に笑いかけてくれる人達がいる。
まるで奇跡でしょう?
それなのに高望みしたら罰が当たるしね。
ぴちゃ、
『それに‥戦ってる間は実感出来るんだ‥』
日「実感?」
『“生きてる”実感だよ』
日「‥‥」
『他じゃ感じられなかった‥』
自分が自分じゃないみたいで。
あの日、全て打ち砕かれてから自分が嫌いだった。一人でも多く助けたい、そう思っていたのに‥私は‥自分の歌で危険な目に遭わせた挙げ句、死なせてしまった‥。
抜け殻になった私は頭の中が真っ白で。そんな時に手を差し伸べられたら縋りたくなるでしょう?
いつの間にか、アイツ等と一緒に戦っている事に生きてる実感が持てたんだ。
『俺は今のままでいたい。
‥――他は要らない』
日「‥‥それでも、俺はお前を知りたい」
揺るがない意思で向き合う日番谷隊長に圧される。
『何でそんなに、必死になるんだ‥?』
日「知りたいか?」
ぴちゃ、
一歩進む度に俺は下がる。
意味はない‥ただ、自分で聞いたクセにその答えが怖いんだ。
トン‥後ろは木、前は日番谷隊長。逃げ場がない。
その間にも日番谷隊長の手が襟元に伸び掴まれ‥引っ張られた。
『なっ‥‥!?』
雨音が消え、何が起こってる?
唇に‥何か、温かい感触?
うっすらと開けた瞳に映る影。
『(なん‥で‥)』
ドンッ!
日「っ‥」
『はぁ‥っ‥』
日「あやめ」
目の前にある体を突き飛ばして木を背に座り込む。混乱する私の前にしゃがんでまた近付く彼の肩を押した。
『来ないで!』
日「嫌だ」
『ふざけるな!!』
日「ふざけてねーよ。俺はお前の事が“好き”だから。独りにしない‥怖がらなくていい」
『何、言って‥』
“好き”?私を?
ぴた、
日「冷えてるな」
同じようにびしょ濡れなのに、頬に触れた彼の手が温かくて泣き出した。
『っ‥』
日「泣くなよ」
『ふっ‥っ‥』
日「あやめ、好きだ。だから‥独りなんて言うな」
そう言いながらまた唇を重ねる。啄むように、慰めるように―‥。その優しい口付けが心地良くて、彼の背に腕を回す。
彼が何を思って私を好きだと言うのか分からない。それでも、重ねた唇から伝わる優しさが嬉しくて、温かくて‥胸が一杯だ。いつの間にか夢中で貪り合う私達。嫌じゃないそれが私を満たしてくれた。
『ン‥‥はぁッ‥んん‥』
絡まる舌と混ざり合う唾液の音を雨音が消し去り、二人だけの世界へと包んでくれている様だ。
数分の口付けを名残惜しげに離せば、銀糸がゆったりと解ける。上がる息を整えて彼を見やれば幼さがなく男の顔をしてた。
日「嫌じゃないないのか?」
『散々貪っといて言う台詞じゃないだろう‥』
気恥ずかしくなって目を逸らしながら。
日「なら、答えろよ」
チラッと見れば真っ直ぐな瞳があった。
いつもそうだ、迷いがなくて純粋で馬鹿が付く程真っ直ぐで‥優しい。
だからなのかな―‥?
こんなにも満たしてくれるのは。
『分からない、それが答えだ』
日「何だよそれ」
『いきなり好きだ、なんて言われても実感ないんだよ。恋なんてしたことないし‥』
そんな感情抱く事すら諦めたんだから。
『寧ろ、お前が俺を好きになる理由も分からないんだけど。
気の迷いじゃないの?』
日「そんなんで口付けなんて出来るか。‥本気で好きなんだよ。理由なんて何だっていい、お前が俺のモンになるなら」
『後悔しないの?私は普通じゃない。それでも、お前は私を好きでいられる?』
日「ああ。言ったろ?俺はお前を独りにしないって。傍に居てやるって」
揺るぎない瞳で告げる彼に私の心は揺れた。不安もあるのに、それを受け入れたい自分がいる。
『なら―‥』
胸に広がる温かさが愛しさだと言うなら、きっと私は嬉しいんだと思う。
その証拠に――‥
『もっと口付けて』
‥――私は君を求めているから。
日「病室に戻ったらな」
『今じゃなきゃ嫌』
日「風邪引くだろう?こんなに冷えてんのに」
『温めてよ。‥――口付けで』
日「‥困った駄々っ子だな」
そう言いながらフッと笑う彼にドキッとしたのは今は内緒。悔しいからさ。
重なる唇に剣八達とは違った安らぎを感じる。その違いが何なのか、私には分からない。
けれど―‥独りにしないと言ってくれたのは彼が初めてだ。剣八達は仲間として私を受け入れてくれた‥大事な居場所。
なら彼は??
独りにしないけど、仲間じゃないなら‥今、私を抱き締めて口付ける彼は‥一体、何。
『お前は‥何‥?』
日「俺は、お前に惚れた‥ただの男だ」
『お前は‥私をどうしたいの?』
日「さぁな。欲を言うなら―‥」
抱き締める腕が強くなった。
日「神崎 あやめを独り占めしたい」
『‥‥何、それ』
日「独占欲が強いんだよ」
馬鹿な男。
けど、嫌じゃない――。
『‥こんなのに惚れるなんて、頭おかしいんじゃないか』
日「うるせー」
ホント、おかしい。
お互いよく知りもしないで恋人みたいに甘い雰囲気で。薄着の躰は寒さで震えてるのに、抱き締める腕の中が温かくて‥。こんな気持ち初めてだ。
日「戻るぞ」
そう言って抱き上げられる躰。外見は幼いのに、やっぱり男なんだな‥そんな事を考えながら瞳を閉じた。
四番隊に戻った俺に待っていたのは満面の笑みで迎える卯ノ花隊長と大きな瞳を潤ませたやちるのお説教だった。
卯「外出を許可した覚えはないのですが?しかも、無断で出て行くとは‥いただけませんよ(満笑)」
『すみません‥』
草「やちるにまで内緒は酷いよぉ~(ウリュ」
『ごめんなさい‥』
ベッドの上で正座する俺を見てる十番隊長がムカつく。一時間は続く説教を笑って見てるんだからな。
心配掛けた事は深く反省してるんだ。
卯「お説教はここまでにしときましょう。居心地が悪いとは思いますが、勝手に出歩かないようにして下さいね(微笑)」
『はい』
次はないですよ、と言わんばかりの微笑みだ‥。やちるも用があるらしく慌ただしく出て行った。
『で?いつまで居る気だ?』
日「邪魔か?」
『仕事あるだろう。いいのか?』
日「なんとかなる」
なんとかなるでいいのか?
いつも追われてる様な事聞くんだけど。
濡れたせいで髪が下りてる十番隊長にそっと手を伸ばして頬に触れる。
日「何だ?」
『‥風邪引く前に戻れ。お前が倒れたら一大事だろう』
日「んな柔じゃねーよ」
『いいから帰れ。俺なら平気だ』
日「嫌だ」
‥――呆れた。
これが天才と言われる十番隊長か?
子供みたいに駄々っ子だし‥。これ以上言っても意味はないから溜め息を吐いて窓の外を見る。
日「邪魔か?」
『別に。ただ、お前が寝込んだりしたら俺のせいだって思っただけだ』
日「心配、してくれんだな」
『一応だ』
日「流石、元四番隊士」
その言葉に彼を見る。
日「卯ノ花から聞いた。前に手当てしてくれた奴だって」
『‥そぅ』
日「変わり過ぎてて気づかなかったぜ。何で男みたいに振る舞ってんだ?」
『楽だから。‥まっ、俺が弱いから強がって見せただけだろうな』
そうでもしなきゃ立てなかった。受け入れる事も出来ずに跪いて立ち止まってだろうな‥。虚勢を張ってなきゃ、苦しいだけだ。
日「何も知ろうとしなくてごめん。殴った事も、本当にごめんな」
『気にしてないよ。過ぎた事だろう‥』
日「守るから。あやめが笑っていられるように、俺が守るから」
ギュッと手を握り紡がれた誓いの言葉。馬鹿だな、なんて思いながらもドキドキしてるんだけどね。
ホント――‥
『変わってる(微笑)』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『減らないな‥。はぁ~』
いつものように自室での書類の処理に追われてる俺はさっきから溜め息しか出ないでいる。
一向に減らないんだよ、マジで‥。
『呑気だよな、剣八達は‥』
時計を見ればそろそろか、なんて思っていれば足音が。あの雨の日からというもの。決まった時間に自室を訪れる人物がいる。
溜まっている書類から手を離せば―‥。
?「入るぞ」
スッ、
『よく毎日通うな‥お前』
日「好きで通ってるんでな」
昼休みに決まって訪れる日番谷隊長に小雪(拾った子猫の名前だ)も懐いたようで、じゃれてる。
別に何するワケでもなく、ただ傍に居るだけ。
日「減ってないな」
『減るかよ。俺が入院してた頃から溜め込んでるし、次から次へと増えるしだ。いい加減嫌になる』
退院した俺に待ち受けてたのは大量の書類の山。呆れて怒る気にもなれなかった‥。
日「少しはやらせろよ」
『すぐ飽きるんだよ。弓親だけだは手伝ってくれてるけどな』
日「隊長だろう?」
『雑用は不向きだ』
日「確かに。あんまり無理すんなよ?」
『無理しないと減らない』
日「心配してんだから無理するとか言うなよなι」
『気の利いた言葉が浮かばないんだから仕方ないだろう?』
再び筆を持ち、書類へと向かう。普通なら男女が二人きりなんだから甘い雰囲気になると思うだろうが、俺達はそんな事はない。
なら何で居るんだ?、と聞かれたら“何となく”としか言えないだろうな。何が楽しくて毎日来るのか分からない。
チラッと見ると仲良くじゃれてる彼と小雪。いつの間にか入り込んだ彼の存在は俺にとって拠り所になっていた。其処にいるだけで落ち着くように。
けれど生きている実感は相変わらずない。風当たりも前よりも悪いし、陰口もなくなりはしなかった。何も変わらない、彼が傍に居る事以外は。
『(綺麗な銀色だな‥)』
初めて逢った日も同じ様な感想を抱いたっけ。見かけは幼い少年なのに、私は‥彼に縋ってしまった。それが恋なのか‥やっぱり分からない。
‥――それでも
彼が居て笑っている私がいた。
彼に触れて安心する私がいた。
戦う事でしか実感の出来なかった私に彼は別の方法を教えてくれた‥‥今思えば恥ずかしい方法だけど――。
日「なぁ、あやめ」
『んー‥ぁ、違う』
日「‥あやめ」
『何だ』
日「なぁ、あやめ」
ムカッ、
『何なんだよお前はさっきから。返事してんだから用件を言え(イラッ』
日「‥‥(ムスッ」
逆ギレかよ‥。
結局用件は言わないし、背を向けたまま。ホントに何なんだよ‥。
一つ溜め息を吐いて書類へと向き直す。昼休みの終わりが近づいた頃にやっと一段落ついて背伸び。彼の背に言葉を投げる。
『戻らなくていいのか?』
日「‥‥」
『(無視かよ)
‥なぁってば』
日「‥‥」
『隊長殿』
日「‥‥」
『日番谷隊長』
日「‥‥」
一向に返事をしない背中を見つめながら溜め息。
ワケが分からないからどうしたらいいかも浮かばない。
‥――ほっとく事にしよう。少し感じる空腹を無視して寝るか。後ろに倒れて見上げる天井。微睡み始めた視界に割り込む彼が映った。
『綺麗ェ‥』
吸い込まれそうな位に澄んだ翡翠は俺のお気に入りだ。
日「名前」
な、まえ――‥
『‥とー、しろぅ』
そう言えば表情が柔らかくなり、それがあどけなくて‥――愛おしい。私にもまだそんな感情があっただなぁ。
手を伸ばす距離に居て、触れた体温は心地良い。
『名前、呼べって‥言ったらいいだろう』
日「気恥ずかしかったんだよ///」
なんだよそれ(笑)
頬を染めてるなんて珍しい‥そんな顔、出来るんだ。いつもその位柔らかい表情をしていたら近寄りがたい雰囲気はないだろうに。
『コロコロ、変わる表情だな』
日「‥るせぇよ///」
『そんな顔、幼なじみだけの特権じゃないのか?』
日「別に‥。雛森限定ってワケじゃない。
だが―‥」
ちゅっ、啄む様なキス。
日「特権って言うなら、それはお前だ」
『俺の‥特権か‥』
トクン、トクン。
静かに心を埋めていく愛しさや優しさ。隙間だらけの私の心が埋まっていくなんてね。
そんな事を考えているとまた唇を重ねた。しかも、舌を割り込ませて深く咥内を侵す。
眠いのに、なんて考えてる私はおかしいだろうなぁ。ゆっくり瞳を閉じて唇に集中し、実感した。
嗚呼――‥私は生きているんだ、と。
ちゅっ、
日「はぁ‥」
『ぁ‥はぁ‥』
日「お前のこんな顔見れるのは俺の特権だ」
『特権も何も。俺にこんな事するの‥冬獅郎だけだろ』
日「ああ。決めたからな」
『何を?』
日「お前が自分を嫌いなら、俺はお前の全てを愛そうって」
素直に驚いた私に笑って続ける。
日「生きてる実感を与えてやろうって決めた。だから、此からは独りにしない。傍にいるから」
そう言って頭を撫でてくれる優しさが心地良い。
『もう、貰ってるよ』
日「?」
『生きてる実感。冬獅郎とキスしてる時‥実感出来るんだ///』
あー‥顔が熱い。照れくさくて顔が見れないし‥。
日「なら、いつでもしてやる」
『‥‥ぅん(微笑)』
日「!!
(ヤバッ。スゲェ可愛いんだけど///)」
こんな俺に愛をくれる奴が現れるとは思わなかった。人並みの夢を抱いては諦めてたのに。
彼なら‥‥冬獅郎なら、叶えてくれるのかもしれない。
ささやかな夢を――‥。
―――――――――‥
その日の夜。
仕事終わりに自室にやって来た剣八と酒を酌み交わす。
いつもなら賑やかな連中も付いて来るのに今日は居ない。
更「最近、日番谷が出入りしているらしいな」
『迷惑か?』
更「いや。だが、お前が部屋に連れ込むのは珍しいからな」
『かもな。剣八でも色恋沙汰に興味があるんだな』
更「別に」
まったく、強面のクセに(笑)
更「惚れてんのか」
『さぁ。でも、それに近いモノではあるかな』
今は、自分が抱く気持ちが恋なのかは定かじゃない。けれど、彼には剣八達にはないモノを抱いてはいる。恋と呼ぶには幼い気持ち‥。
いつか其れを恋と呼ぶ日が来るのかもしれないな。
否、恋じゃ済まないのかも‥。
更「良かったじゃねェか」
『何だか、父親みたいね‥剣八(微笑)』
更「ふん。
‥チッ、切れちまいやがった」
『買いに行くならいつもの酒屋に行きなよ。いい酒入ったみたいだから』
更「そうすっか」
大きな背に笑みが浮かぶ。
あれだけ呑んで足りないとか‥アル中じゃないのか。
『まったく‥』
夕焼け空を眺めて思う。
こんなに穏やかな気持ちになる日が来るとはな。
『‥‥猫か?冬獅郎』
塀を飛び越えて来た銀色に笑う。
『入って来る場所違うだろう?』
日「面倒くせェ。
‥‥酒、呑めるんだな」
『ああ。此処に来てからだけど』
仕事しないクセに呑んだくれてるし‥。
思い返してみれば賑やかな日常、騒がしい毎日だ。酒を呑もうと口に寄せた瞬間、
『ん?』
奪われた。
しかも、そのまま呷り、呑み下すと次第に紅く染まる。
『弱いのに呷るからだ。大丈夫か?』
日「平気だ。ガキ扱いすんな」
『そう思ってる時点でガキだろう。待ってろ、水持って―‥‥オイ』
日「此処、居ろ」
真っ赤な顔して、酔いが回ってるのに袂を掴んで離さない銀色の猫はまるで甘えてるみたいだ。
‥――ホント、可愛い男
『少し横になりな。膝貸すから』
日「ん‥」
膝に頭を乗せて寝転ぶ彼に笑みが浮かんだ。
傍にいて、触れ合っているこの瞬間が私は好きよ。
『ねぇ、冬獅郎。私がお前を好きになっても‥私は十一番隊にいる』
日「分かってる。‥それでも俺はあやめが好きだ。此からも、この先も、ずっと」
真顔で‥恥ずかしい奴。
でも―‥
『幸せ、なんだろうな。そんな風に言ってもらえるんだから』
日「そう思うなら、もう少し甘えて欲しいモンだな」
『甘えてるよ』
日「足りねー(ムスッ」
甘えろって言われても‥どうすればいいのかな?
さら、触れ合っているだけで幸せなのに‥私になかった筈の欲が湧き上がる。
ふにっ、頬をつつけば眉間に皺が寄り、不機嫌な顔に。
自分がこんなにも欲深くあったなんて思わなかった。
だってそうでしょう?
魔笛として全て諦めてたのに。こうして、私の傍にいる彼に抱くモノが膨らんでいくんだから伝えなきゃね――‥。
日「あやめ?」
『好きよ‥冬獅郎(微笑)』
日「!?」
君は、私の闇を照らす光だから――‥。
□■□■□
乱「隊長!!」
日「なんだ?」
乱「神崎と付き合ってるってホントですか!?」
日「だったらなんだ」
乱「なんだ、って。‥本気なんですね」
日「悪いか」
あやめの部屋を行く内に噂になり、広まるのは早かった。
草鹿が原因らしいが俺には好都合だ。少しでもあやめを守れるだろうしな。
乱「あんなに興味なさげだったのに‥どういう心境の変化何です?」
日「仕事しろ」
乱「神崎の風当たり、余計悪くしてません?」
日「勝手にさせとけ。彼奴はそんなの気にもしてない」
乱「(本気なのね。隊長が女の子に惚れるなんて‥‥驚きだわ)」
あやめが心を許してくれた。それだけの事が嬉しいと感じている自分がいた。
生きてる実感がないと言ってた彼女が俺に触れる事で実感出来ると笑ってくれたんだ。
例え、風当たりが悪くなったとしてもあやめは気にしない。周りに理解なんてされたいとも思っていないからだ。
それでも、笑ってくれる。幸せそうに―‥。
だから俺は毎日欠かさずにあやめの部屋に行く。
笑う彼女を見たくて、彼女を捕まえていられるように―‥。
日「よっ」
『‥よぉ』
気だるそうに出迎えるあやめは小雪と仲良く寝転んでた。隣に座り、同じ様に寝転んだ。不意に伸びる彼女の手は俺の頬を撫でる。その距離5cm。
息が掛かる程の距離に心臓が煩い。
『冬獅郎』
日「///!?」
名前を紡ぎながら妖艶な笑みを浮かべるあやめに熱が上がった。
普段は素っ気ないクセに‥こうして二人の時は色っぽいのはずりィよ///
『やっぱり、綺麗ェ』
日「何がだ?」
『瞳。私のお気に入り』
そう綺麗に笑って重なる唇。
嫌いな瞳を気に入ってくれるあやめに愛しさが込み上げた。
初めは嫌味な奴だったのにな。強気で無気力で礼儀知らず。
けど、ホントは――‥
優しくて面倒見がよくて、我慢してたんだよな?
辛くて悲しくて、寂しくて‥。泣きたい位苦しんで、一人で抱えてたんだ。
独りは寂しいって俺は知ってる。周りからの冷たい視線や言葉も‥。なのに俺は周りと同じ様にあやめを見てた。最低だろ?
だからさ。
今度は目一杯“愛して”やる。寂しさも感じない位の幸せをあやめに与えてやるから戦う事でしか生きてる実感がないなんて言わせねーからな。
日「好きだ。あやめが好きだ」
『知ってる‥‥何回も言わないで、恥ずかしい///』
日「言っても足りないんだけど?」
『言ってて恥ずかしくないの//』
日「全然。寧ろ、もっと言いたい位だ」
『言葉もいいけど、抱き締めてくれる方が私は、好き///』
‥――なんで、んな可愛いんだよ///!
自分で言って恥ずかしくなりながら俺の胸に顔を埋めるとか、可愛い過ぎだ。
すり寄る仕草に理性が今にも切れちまいそうだぜ‥マジで。
日「言葉使いがごちゃ混ぜだぞ?」
『るさい』
日「くくっ。俺の前では女でいろよ。恋人なんだしさ」
『今更女らしくなんて言われても‥。俺は俺だ』
日「なら、強行手段に出るしかねーな」
『強行手段って?』
上目遣いに見上げるなよ。マジで理性ヤバいんだから。
あやめの耳元に唇を寄せて囁く。
日「お前を抱く」
『!?』
日「そうすりゃ、嫌でも女に戻るだろ?」
『欲情出来るのか?』
日「もうしてる」
『‥ははっ。魔笛と呼ばれてる化け物相手に欲情とはな』
笑いながら言うあやめの唇を奪って言う。
日「狂ってるならそれでもいい。周りがお前を化け物扱いしようが俺にとっちゃどうだっていいんだ」
『‥‥』
日「俺には可愛い女にしか見えないんでな。だから欲情もする。今だって理性保つのがやっとなんだからな?」
周りなんか気にすんなよ。
俺は誰よりも神崎 あやめを愛してる。必要としてる。一生お前の味方でいるからな。
『神崎 あやめは冬獅郎にあげる。
だから、愛して‥私を。心も躰も冬獅郎で満たして』
指を絡めて握り、腰を引き寄せ抱き締める。
今日はこのままサボるか、なんて頭の隅で考えながらあやめに誓いの口付けを贈った。
傷だらけの恋人を癒すように――‥。
魅了する者
(おんやぁ?)
(どうかしたのか?京楽)
(あやめちゃんの歌変わったねェ)
(変わったか?)
(色っぽくなったよ。恋してるんじゃないかなァ)
(恋か‥。確かに艶やかさがあるな)
(そうですね/微笑)
(##NAME3##楽しそうだと嬉しいよね!小雪)
みゃあ~
(いいの?幼なじみの誘い断って)
(ヤキモチか?)
(どうかしら?)
(ちぇ。いいんだよ。俺はあやめと居たいんだからさ)
((真顔で‥。ホント、素直で恥ずかしい男))
(なぁ、好きだぜあやめ)
(私は愛してる)