◈魔笛
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“ねぇ、聞いた?”
“何を?”
“虚を呼び寄せる死神がいるって話”
“知ってる!なんでも歌で呼び寄せるんでしょう”
“化け物じゃんそいつ”
“だな!
しかも、日番谷隊長怒らして殴られたって話だぜ”
“自業自得よ!”
いつも何処からか聞こえてくる陰口の数々。自分に向けられる白い目。誰にも理解不能の力を持った俺には居場所と呼べるモノはない。
十一番隊第四席。其れが俺の肩書きだ。何の役にも立たない肩書きに嫌気がしているが仕方なくその地位に就いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
草「##NAME3##、書類だよぉ~」
『其処に置いとけ。後コレ頼む』
草「了解vV」
パタン、
『‥減らないな』
自室に運ばれる書類の山に溜め息。俺は自室から一歩も出ずに書類と向き合っている。
理由?簡単だ。
嫌われているから、其れが理由。
俺自身、他人と関わりたくないから有り難い。嫌われている理由は、俺が歌うと虚が集まるからだ。故に“魔笛”と呼ばれている。お陰で何人かに重軽傷を負わせた挙げ句に死人も出してる。
この間は十番隊との任務で怪我人出して隊長に殴られたくらいだしな。何度も組みたくないって言ったが聞いちゃくれない‥
理不尽極まりないだろう?
まぁ、元々良くは思われてないから今更だけど。十一番隊は気にしてないらしく、普通に話し掛けてくるが悪い気はしない。
『ん?足りない?』
書類に目を通していれば抜けている事に気付く。どうやら十番隊の副隊長がサボってたんだろう事は真っ先に浮かぶ。同時に溜め息が出た。
やちるが居ない今、自分で取りに行くしかない。重い腰を上げて自室を後にした。
ひそひそ―‥
『‥‥』
道行き様に囁かれる陰口に慣れた自分がいた。面と向かって言えもしないくせに好き放題囁かれる無情な言葉たちを背に受けながら十番隊隊舎へと歩く。
隊舎内に入っても居心地の悪さは変わらない。人の事をジロジロ見てはヒソヒソと話し出す、その繰り返しだ。
コンコン、
『十一番隊神崎です』
?「入れ」
声色から機嫌がバレバレだろう?
仕方ないとはいえ、上司ならもう少し感情を殺す事を学べばいいのに‥分かりやすい辺りまだ子供だな。
扉を開けて中に入れば嫌でも感じる居心地の悪さに溜め息しか出ない。
さっさと用事を済まそうと主に歩み寄れば、書類の山が‥副隊長はサボっている為か不在だ。
日「何の用だ」
『書類が足りない。こっちにある筈なんだが』
日「‥‥松本が処理した筈だぜ」
見覚えないか。副隊長が不在じゃ分からないだろうな。
チラッと気になる場所を見付けて其処を探せば―‥
『やっぱり』
日「何して―‥‥書類?」
『未処理だな。よく隠したもんだ』
日「あのヤローッ!!(怒)」
『この書類はこっちで処理しとく、判は後で貰いに来るぜ』
日「‥‥分かった」
罰の悪そうな顔だ。別に気にする程の事でもないだろうに、律儀な隊長だな。剣八じゃ有り得ないだろうなぁ‥‥有り得ないな、絶対。
十一番隊へ戻る帰り道もヒソヒソと鬱陶しい陰口に嫌気がする。
自室に戻って書類へと向かって筆を動かす。その時だけは何も考えずにいられるから書類整理は嫌いじゃない。其れから昼休みまで動かしていた手を止めて背伸びし、後ろに倒れる。流石に疲れた‥昼ご飯、要らないな。少し寝ようと重くなった瞼を下ろした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うあぁぁぁッ!!?」
「連絡はまだか!?」
「クソッ!何でこんなに数が増えたんだよ!!」
―ウタ‥ウタ、ダ‥
「歌‥アンタの歌じゃないの?」
「そういえば。お前が歌い出したら――‥」
グサッ、
「嫌ァーーーッ!!」
紅が散る。
「応援は!!」
「もう少しで来ます!」
「よし!持ち堪えろ!四番隊は救護に回れ!」
「――モノ」
“化け物!!”
『Σッ‥‥ハァ‥ハァ‥‥はぁ‥』
?「##NAME3##‥大丈夫?」
『やちる‥居たのか』
草「うん。‥うなされてたから。怖い夢見てたの?」
怖い夢、か。悪夢というよりは悪夢の始まりだろう。
今の俺があるのはあの日、あの場に居た事が全ての始まりにして“魔笛”の誕生だったんだからな。
其れからというもの、毎日の様に繰り返される悪夢にウンザリする。
まるで、罪人だとでも言われてる気分だ。
草「##NAME3##?」
『大丈夫だ』
草「うん!」
随分と心配掛けてたんだな‥。
こんなワケの分からない俺を剣八達は嫌な顔せずに受け入れてくれた事は忘れられない。俺の全てを知っても罵るどころか、逆に“面白い”そう言った奴はいなかった。
だから救われる―‥。
草「お疲れ様、##NAME3##」
小さな手で頭を撫でてくれるやちるの優しさに癒されるなぁ。此処が俺の居場所であり、落ち着く場所でもあるんだ。
『昼休み終わりだったな』
草「うん。でも疲れてるなら寝てていいよ?」
『もう平気。十番隊に判貰いに行かなきゃならないし』
草「やちるも行く!」
『はいはい。其処の書類も配りに行くから半分コな』
草「うん!」
暗く重かった気分がやちるの笑顔で晴れたな。明るく笑いかけてくれるやちるに癒され続ける自分に笑ってしまった。
仲良く書類を持って隊舎を出て各隊へと歩く、くだらない世間話をしながら。配りながら思うのは俺に向けられる嫌な視線についてだろう。ただ歩くだけでさえも目障りみたいだ。
バンッ、
草「ひっつん書類だよぉ。あ!ヒナヒナだぁ」
雛「こんにちは!」
日「誰がひっつんだ!それとノックしろって言ってるだろうが!!」
草「機嫌悪いの?」
雛「乱菊さんに逃げられちゃったみたいでι」
草「カルシウム不足だね!」
日「てめぇ(イラッ」
ぺしっ、
草「Σあぅッ!##NAME3##~」
『ノックするって前に約束しただろう。忘れてたのか?』
草「ごめんなさい‥」
『謝るのは俺じゃなくて?』
草「ごめんなさい、ひっつん」
日「‥‥ああι
(ひっつんは直さねーのかよ)」
素直なやちるは手が掛からなくて楽だよな。他の連中ときたら‥‥面倒くさいったらない。このくらい素直ってのも、不気味か‥。
草「##NAME3##!コレ配って来るから此処で待っててね!」
『いや‥って、居ないし』
ビューンと走り去るやちるに溜め息。
待つ必要性あるのか?
とりあえず用を済ませないとな。
『判、貰える』
日「ああ。
(完璧な上に綺麗な字だな)」
ぼんやりと眺めていると―‥
雛「あの、神崎さん」
『?』
雛「ごめんなさい」
『何が』
雛「この前の任務‥。
私が悪いのに、神崎さんを責めるような事に‥。
日番谷くんに殴られたって‥本当にごめんなさい!」
頭を下げる彼女に続くように彼も下げてきた。
日「冷静さを欠いたとはいえ、お前に当たるのは間違いだった。すまない」
なんだか、馬鹿らしいな。
確かに俺は前の任務を五、十番隊と合同で行った。ホントは一角が行く筈だったがその日は非番で代わりに出たが、運悪く彼女が怪我をしてしまい俺のせいだと言われて言い返したら殴られた。まぁ‥この程度か、なんて言った俺にも問題があるんだけど。
『謝られる理由はない』
雛「でもっ」
『俺は間違った事を言ったつもりはない。だからといって謝られる覚えもない』
日・雛「「‥‥」」
『はぁ‥。こんな事に時間使うなら鍛錬した方がいいんじゃない』
日「お前‥」
睨む彼を無視して続ける。
『アンタが傷つけばアンタを大切に思っている奴が傷つく』
雛「‥‥」
『アンタが謝るのは其処の幼なじみじゃないのか?
謝るくらいなら見返せ。弱い副隊長なんかじゃ隊士が不安になる』
雛「ぅん‥ありがとう!」
何が嬉しいのか笑ってる彼女が理解できないでいれば、スッキリした笑顔で出て行った。
日「お前‥言葉はキツいが、いい奴なんだな」
『?』
日「誤解してた。人の気持ち考えずにグサグサ刺さる事言う嫌な奴だって‥。
でも、違ったんだな」
違った?何が?誤解?‥ははっ。
『何それ?お前に俺の何が分かるの?』
日「それは‥」
『俺は‥誰にも理解できない存在』
日「‥」
『疎まれ、蔑まれ、憎まれるだけの化け物。いい奴なんかじゃない』
日「神崎」
『邪魔したな』
居心地の悪さに耐えられなくなって隊主室を出た。
『いい奴‥馬鹿らしい』
理解したつもりなのかは知らないが簡単に言われるのはムカつく。
廊下を擦れ違う隊士達は気味の悪いモノを見るような嫌な目で俺を見るんだ。
嫌でも自覚せざる得ないだろう?
自分は周りとは違うんだって。別に理解してもらおうなんて思ってもないし、してもらいたくない。大した関わりもしてないのに分かったような事言われると腹が立つんだよ。
十番隊舎を出て息を吐く。待つって言った以上は待ってなきゃ‥やちるに怒られる。ぼんやり壁に寄りかかっていれば三、六、九の副隊長達が目の前を通った。嫌な視線を残して‥。
いつの間にか慣れた自分を褒めたい。傷つくのも、泣きそうになるのも‥なくなった。現実は変わらないから、受け入れて流すしか俺にはなかっただけ。
だから出来るだけ隊舎の外へは出ないようにして、鬱陶しい視線から逃れている。
草「##NAME3##ー!」
『お帰り』
草「おやつ!」
両手いっぱいのお菓子を嬉しそうに見せるやちるが可愛い。自然と口許が綻ぶ程に。
『帰ってお茶にするか』
草「うん!」
こうして十一番隊で過ごすようになって数十年。
何かと賑やかな連中だから、悩むだけ無駄に思えるようになったし、戦う事も嫌いじゃないみたいで十一番隊は性に合ってたようだ。
実を言えば―‥。俺は生きたいと思えるモノがない。生きている実感もなくなってしまった。自分が“魔笛”と呼ばれるようになり、自分を見る冷たい視線や心無い言葉の数々。まるで存在自体を責められている気さえして、生きる理由が見つからず迷子の子供のように暗闇を歩き続けるだけ‥。
出口のない暗闇から抜け出せないままなのかなぁ?
草「##NAME3##?」
『ん?』
草「大丈夫‥?」
心配そうに眉を下げるやちるに出来るだけ優しく笑ってやる。
『大丈夫だよ』
草「うん!」
いつだって満面の笑みを向けてくれるやちるに癒される。
胸に渦巻く寂しさや苦しみ、辛さに悲しみ‥。癒える事のない不安は消える事なく抱えていくんだろうな。俺は―‥。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日。
隊主会へと向かう剣八に総隊長が呼んでるから一緒に来いと言われて一番隊へと歩いていた。
『明後日の任務の事だよな』
更「席官で行くってアレか。十番隊だったな」
『ああ。大方、其処の虚を根こそぎ片付けたいから俺を呼びつけたんだろうな』
更「成る程な」
『今回ばかりは拒否権ないかもしれないね』
更「‥‥」
他隊とは組まない。そう前に宣言していたから他隊と組む事は少なかった。この間の任務は一角が非番で仕方なく弓親と行っただけで基本的には一人か剣八達とだけだ。
‥――気が重い。
そう思ったところで引き返す事も出来ないまま一番隊に着いた。既に集まっていた隊長達を見て溜め息。帰りたい――‥。
重苦しい其処に総隊長の声が響いた。
総「神崎入りなさい」
『(出来るなら断りたいな‥)』
ゆっくりと中へと進むと扉が音を立てて閉まる。蝋燭の火で灯されるだけの室内は威圧感が凄い。こうして隊長達を見るのは四席じゃそうはないからな‥見なくていいけど。
総「今日呼ばれた理由は分かるか?」
『明後日の任務で虚を呼び寄せる為、間違ってる?』
総「間違いはない。
お主の力を貸してもらいたい」
『以前言った筈だ。他隊とは組まない‥それを無視するつもり?』
総「承知している。が、その力を有効活用する為にも他隊との協力も必要と判断した」
『席官程度が耐えられるとは思えないんだけど』
総「嫌か?」
『嫌だね』
そう答えれば重い沈黙が降りる。其処に口を挟んだのは十二番隊隊長だった。
マ「君は自分の立場が分かっていないようだネ」
『立場?』
マ「君の歌声は虚を呼び寄せる。コレを有効に活用するには任務での実践が一番。君に拒否権はないし、立場にもない筈だヨ」
『‥何が言いたい』
マ「簡単な事さ。
魔笛は“道具”としての役割を果たすべきだって事だヨ」
『道、具‥』
俺は――‥
“人ですらない”
浮「神崎は道具ではない!言い過ぎだ!」
マ「おや。道具でなければ何なのかネ?
我々は“有効活用する”と言ったのだヨ」
浮「それはっ!」
更「テメェ、斬られたいらしいな」
日「更木――‥
『やめろ』
‥‥神崎」
『いいからやめろ、剣八』
更「チッ」
斬魄刀から手を離した剣八に安堵して総隊長を見据えた。
『どうぞ“お使い下さい”』
浮「神崎!?」
『涅隊長の仰る通り、道具が口答えをすべきではありませんでした‥申し訳ありません』
頭を下げる俺に沈黙。隊長達の戸惑いを感じながら続ける。
『お話がお済みであれば自分はこれで。失礼します』
バタン、
ゆっくりと歩き出せば行きよりも重く感じる足。引きずるように歩きながら頭の中はさっきの言葉を繰り返してた。
“道具”
化け物ならまだ“生きてた”が、道具は生きているのではなく“使われる”だけ‥。
『(俺は‥一体、何?)』
答えのない問いを考えながら隊舎へと帰った。
□■□■□
神崎 あやめ。
十一番隊第四席で“魔笛”と呼ばれてる奴。歌声で虚を呼び寄せる事から付いたらしい。俺はあまり交流が少ないからよくは知らない。
ただ、物言いが素直というか厳しい奴だとは思う。
雛森が怪我をした際にも“この程度か”その一言に腹が立って殴った。翌日には雛森に説教されたがな‥‥二時間も。
でも昨日、隊主室に来た彼奴は雛森が謝ろうが気にしてはいなかった。言い方はキツいが悪い奴じゃない、そう素直に思って伝えれば敵意のようなモノを向けられて驚いた。
似てたんだ、昔の俺と――‥。周りの人間を信じる事が出来ずにいた頃の俺と同じ拒絶をした瞳が。理解されない存在と言った彼奴はどれだけ傷ついてきたんだろうな‥。
俺は、ばぁちゃんや雛森、十番隊の部下が居たけど彼奴には‥十一番隊の奴等しか居ないんだ。
浮「あんな言い方はあの子を傷つけいるだけじゃないのか?」
マ「私は事実を言っただけだヨ」
未だに言い合う二人に溜め息が出るぜ。言っちまった事をとやかく言ったところで涅が聞く耳を持つワケがねーのによ。だが、浮竹の言うように道具はいくらなんでもないだろう。ましてや彼奴は化け物呼ばわりされてるのにモノ扱いは酷い。
言われた本人は一瞬驚きを見せるも直ぐに持ち直してた。受け入れるように―‥。
結局、隊主会はそのまま終わり、俺は隊舎へと帰った。
日「(彼奴は大丈夫だろうか?)
‥――って、何で彼奴の心配してんだ俺は」
女ならまだしも、男だろ?
あの程度の事でへこたれる性格してないだろうし、大丈夫だ。クロツチの無神経は今に始まった事でもない。気にしなきゃいいだけ。
‥――それだけの事なのに、彼奴が見せた驚いた顔が離れねー。男が気になるとか有り得ない筈なんだが‥‥彼奴は男にしちゃ綺麗な顔してるから――‥てぇッ!?だから何で男に!!
俺マジでどうしたんだよι
乱「どうかしたんですか?」
日「何でもねー‥」
松本にだけは絶ッッ対ェ言えないぜ。
乱「あ!今日、修兵達と呑みに行くんですけど隊長も行きません?雛森も来ますよ」
日「行かねー」
奢らされる上に酔っ払った松本。
‥――厄介だ。
乱「え~」
日「仕事しろ」
―――――――――‥
乱「さぁて呑むはよぉ!」
雛「呑み過ぎないで下さいね?」
日「ハァ‥」
結局引きずられるままに来てしまった事を後悔。酔っ払う前に引き上げねーと面倒くさいな、こりゃあ‥。
阿「あれ?一角さんじゃないッスか」
斑「お、何だ何だァお前ら」
阿「此から乱菊さん達と呑みに行くんですよ」
斑「へぇーそうかい」
乱「アンタは何してんの?」
斑「買い出しだ。隊長が月見酒するって言い出してな」
乱「愉しそうね!」
檜「!‥――魔笛」
檜佐木の一言に振り返ると買い出しを済ませた神崎が居た。
斑「終わりか?」
『ああ。やちるは?』
斑「あ?‥Σ居ねぇ!!」
『はぁ‥』
神崎の登場に変わる空気。松本でさえ毛嫌いしているくらい、彼奴には居場所が少ない。
“誰にも理解されない存在”
その言葉はあまりにも悲しいモノだ。理解されたいとも思わず、人とは違うのだと受け入れるには辛く‥寂しいだろう。
理解されず、受け入れてもらえず、誰にも――‥。そう思うと可哀想な奴だ、って言ったら殴られるだろうな、きっと。
雛「あ、草鹿副隊長」
乱「あら?」
斑「白い、猫??」
草「可愛いでしょ!捨て猫みたいでね、ちっちゃいから可哀想だなぁって」
斑「飼う気ッスか?隊舎で猫なんて飼えるんスか?」
乱「どうなんです?隊長」
日「どうってι
更木次第じゃねーか」
普通ならダメだろうが。
猫嫌いもいるだろうし、別に規則でダメだとは言われていない筈。
いつの間にか、言い争いを始めた草鹿と斑目に溜め息が出る。流石に可哀想な草鹿は猫を下ろして走って帰っちまった。
雛「大丈夫かな?」
乱「一角!言い過ぎじゃない!やちるが可哀想だわ!」
斑「仕方ねーだろうが。副隊長が面倒見れるとは思えないんだからよ」
それは分かる。草鹿は子供だからな、飼ったとしても誰かが世話を押し付けられるだけだ。それなら、可哀想ではあるが諦めさせるのが一番いい。子猫とはいえ自分で生きていくだろうし。
雛「神崎さん?」
斑「おい、あやめ?」
ジッとしゃがみこんで子猫を見つめる神崎。誰もが不思議に思って見ていれば子猫に手を伸ばした。
『今より窮屈な生活かもしれない。それでも、一人が嫌なら‥来る?』
阿「猫相手に喋ってるぜ」
乱「変な奴ね」
雛「乱菊さん‥ι」
周りは何か言ってるが俺は神崎から目を離せなかった。まるで、彼奴も捨て猫のように見えたんだ‥‥寂しそうな。
すると子猫は差し出された手を伝い肩で止まり神崎の頬にすり寄ってる。
斑「飼うのかよ!?」
『悪いか?心配しなくても世話は俺がするぜ?』
猫を撫でる彼奴は優しく笑ってた。
初めて見るそれに目を奪われ、歩き出した背を見つめていればそれぞれ歩き出し、俺は松本達とは逆へと歩くた。松本が騒いでいたが無視だ。
隊舎に戻る途中で浮竹達に会って誘われるまま十一番隊に。
草「ひっつんだぁ~」
浮「来る途中で会ってね。折角だから誘ったんだ」
草「いらっしゃい、ひっつん!」
日「ああ、邪魔する」
この際、ひっつん呼びは諦めよう。言ったところで聞くような奴じゃないからな‥。
縁側に座り卯ノ花が淹れた茶を呑む。酒は好きじゃない。
綺麗な満月を眺めていると、不意に歌声が響いた。
‥~~~♪♪
京「ん~。やっぱり綺麗だねェ」
日「この歌声は―‥」
草「##NAME3##だよ!」
浮「あの子の歌声を聴きながら呑むのが愉しみでね」
卯「偶にですが、こうして集まるんですよ」
日「へぇー‥」
月見をしながら彼奴の歌を聴く。なんとも幻想的な、不思議な感覚だ。虚が誘われるのも分からなくもない。落ち着く優しい歌声は澄んでいて、心地良いもんだ。ずっと聴いていたいくらいに‥。
京「いやぁ~綺麗だったよ」
『そぅ‥』
歌い終わった神崎に京楽が言葉を掛けても素っ気ない返事だ。褒められても嬉しくないんだろうな。虚を呼び寄せる魔笛と呼ばれた挙げ句に道具とまで言われてんだ、喜べって言う方が無理だろうさ。
縁側に座り柱に寄りかかる神崎の膝には先程の白猫が居た。優しい手つきで撫でる彼奴は月明かりを浴びて綺麗だ。男だって事忘れるくらいに。
其れから数時間、酒を酌み交わしながら世間話をして解散した。俺は部屋に戻って風呂を済ませ寛ぎ、ある少女を思い出していた。
いつだったか怪我をして四番隊で治療をした際に手当てをしてくれた女だ。
名前は“神崎 あやめ”
彼奴と同姓同名。
鼻歌を歌いながら手当てをしていたから印象に残っちまった。一目惚れとかじゃない。ソイツが楽しそうに鼻歌を歌っていたから“何がそんなに楽しいんだ?”って好奇心で聞いたんだよな。そしたら“歌が好きなだけなんです”そう笑って言ってた。好きな歌を楽しむソイツとは逆に、歌が彼奴を苦しめてるってのは‥やっぱり可哀想だと思う。
彼奴がどんな思いで歌を紡ぐのかは知らない。あんなにも綺麗で優しい歌なのに‥楽しむ事すら出来ないなんて悲しすぎる。
彼奴の事をよく知らない俺だが、優しい奴だって事は分かったんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「では、行って参ります」
日「ああ」
乱「気を付けてね」
「「「はい!」」」
後日席官三名は神崎と共に任務へと向かった。
俺自身彼奴と任務をした事はないからどれだけの危険かは想像出来ない。
念の為、無理をせずに連絡するようには言ってあるが――‥。
乱「大丈夫でしょうか?」
日「何がだ?」
乱「神崎が魔笛と呼ばれているのは誰もが知っていますが、どれだけの力かは見た人は少ないんですよね?」
日「ああ」
彼奴は十一番隊としか仕事はしないからな。
正直な話し、今回の任務は席官とはいえど厳しいであろう事は総隊長も分かっているようだが。彼奴がいつから魔笛と呼ばれているのか知らない。
元々十一番隊だったのか?
その力を目の当たりにしていない筈の総隊長を初め数人の隊長が知ってるのは何でだ?
情報さえ回って来ないってのに有効利用するなんざ無謀過ぎるよな?
乱「無事に帰って来ますよね‥」
日「‥」
乱「聞いた話では死人も出してるって。
流石に不安じゃないですか」
日「神崎が殺したワケじゃないだろうが」
乱「結果だけ見れば同じです。
‥平気な顔してるんですよ?何とも感じてないみたいに‥」
日「知りもしねーで言うんじゃねェよ」
乱「ですが‥」
日「誰も彼奴を理解しようなんざ端っから思ってないだろう?
噂だけで決めつけてる。
神崎は‥自分は“理解されない存在”だと言っていた」
乱「‥‥」
日「それを言わせてんのは周りの奴らだろう?俺だって彼奴を嫌な奴だと思ってた。だがな、言い方はキツいがちゃんと周りを考えてやれる奴だったぜ」
彼奴は誰よりも、周りに言われるよりも自分自身を嫌いなんだろうな。周りの奴らを傷つける存在でしかないと思っているんだ。そんな中でも逃げずにいられるのは彼奴の強さなのかもしれない‥。
―――――――――‥
任務に行って数時間が経った頃。執務室の扉が慌ただしく開け放たれた。
バンッ、
日「何事だ?」
乱「どうしたの?雛森、吉良まで」
吉「門の前で斑目三席が!?」
乱「一角?」
雛「十番隊の席官の人に掴み掛かってて!」
日「ウチの席官?」
雛「兎に角、早く来て!!」
ワケも分からないままに雛森と吉良に言われて松本と隊舎を出て向かう。
着いて見れば、今朝任務に向かった席官三名の内一人に掴み掛かっててる斑目がいた。今にも殴り掛かりそうな勢いで。
騒ぎを聞きつけた阿散井と檜佐木が止めに入った為、一先ず安堵。
乱「ちょっと!!何の騒ぎなのよ一角!!」
斑「何のだと?こっちの台詞だ!!」
吉「一体何が‥」
日「此は何の騒ぎだ?答えろ、斑目」
席官に話しを訊こうとしたが真っ青になり座り込んでいる為、斑目に訊いた方が早いと判断した。
日「ウチの席官が何かしたのか?」
斑「何かした?ああ、しましたよ。最悪な事をな!」
乱「何したって言うのよ?」
斑「話した所で信じてもらえるんスか?」
日「どういう意味だ?」
信じるも何も、理由が分からないんじゃ判断しようがない。
状況から見て神崎が関係してるのは確かだ。
‥――其処で気づく。
日「神崎はどうした?」
「「「‥‥」」」
目を逸らす三人。代わりに斑目が口を開く。
斑「言えるワケねーよなァ?
彼奴一人“見捨てて来た”なんざ」
日・乱「「!!?」」
吉「見捨てた?」
雛「そんなっ!?」
檜「おいおい」
阿「冗談だろう‥」
「違いますっ!神崎四席は単独行動をっ!!」
「見捨てられたのは我々で!先に戻られたのかと思って!!」
必死に弁解する三人の言葉は俺には届かなかった。
神崎を見捨てて来た?
彼奴はまだ戻って居ない‥なら、まだ戦ってるのか?
コイツ等は何で此処に居る?
連絡するようには言った、が、逃げ帰れとは言っていない。
ましてや‥一人置き去りして――‥。
乱「ちょっと待って!一角、アンタ‥ウチの隊士を疑ってるわけ?」
阿「そうッスよ!大体、彼奴なら勝手に行動しそうじゃないッスか!」
吉「彼等が嘘を吐くとは思えません」
檜「俺もです」
雛「‥日番谷くん」
隊長として、部下の言葉を信じてやりたい。だが、神崎が単独行動を取ったとして何かしら理由があった筈だ。理由なく動く奴じゃない‥俺は、そう思う。
斑「結局、あやめを信じてないんだな」
斑目の言葉に誰もが黙ってしまう。
乱「隊長」
日「事実確認が必要だな。
俺は神崎の所に向かう、話はそれからだ」
応援も呼ばずに一人戦っている神崎が心配だ。
それに、魔笛の力をこの目で確かめるいい機会でもあるな。
俺は急いで神崎の元へと走った。
□■□■□
闇夜に響く叫び声。無数に集まる虚。逃げ出した連中を構うことなく斬魄刀を抜く。責任だからなんて思っちゃいない。何も知らずに余裕かましておいて、状況が悪くなると押し付けて逃げる。その程度の事だ。何も変わりはしない。
いつもと同じように俺は独りで戦うだけ。
見据える先に群がる虚は取り囲みながら見下ろす。その中の一匹が言葉を発した。
―小僧、何故逃ゲヌ?死ニタイノカ?
死にたい、か。何度そう思って生きてきただろう。
今でも夢に見る悪夢の始まりの日。目の前で死んだ隊士‥救う為に四番隊に入った自分が殺してしまった命。化け物と叫ぶ隊士の瞳は嫌悪していた。
報告が上がると十二番隊で事実確認の為の調査をされ、居場所を失ったんだ。
『‥そうかもな。
上にとっては“道具”下にとっては“化け物”だ。俺は人でない存在らしい』
利用しようとする上も、嫌悪を向ける下もお互い都合がいいよな。俺の意見なんか聞く気もないんだから。
―自ラ死ヲ選ブカ
『ああ。だが、自殺はしない。そんな逃げるような真似はな。だから―‥戦って死ねるなら本望だ』
その言葉と同時に走り出す。
一斉に襲い来る虚に斬りつけられる体、襲う痛みを耐えながら虚を斬る。
―何故、戦ウ?
虚の言葉に脚が止まる。
『何故‥』
そんなの分からない。戦っている間と書類をしてる時は何も考えなくていいから楽なんだ。剣八には感謝してる。途方に暮れてた俺に居場所をくれたからな。
更「“お前の力、面白そうだな。辞めるくらいならウチに来い”」
誰もが気味悪いと思う力を面白そうだ、その一言に救われて十一番隊に入った。
稽古に励んで、任務に出てみて初めて楽しいと思う自分に気づいた時は笑ったな。今の生活に満足してる。
ふと、任務に出る前にやちるに言われた言葉を思い出す。
草「“ちゃんと帰って来てね?無理しちゃダメだよ?”」
毎回のように確認するやちるの優しさをちゃんと感じてる。帰る場所があるから頑張れる。
何よりも―‥
『生きている実感を得られるから』
アイツ等と戦ってる内に気づいたんだ。俺は―‥
―ナラバ、死ネェーーッ!
『(しまった!?)』
背後を取られ、絶対絶命。
ここまでか、そう諦めた時。
?「霜天に坐せ氷輪丸!」
凍り付いた虚は砕けて散る。キラキラと輝きながら。
『(綺麗‥)』
その様に目を奪われていれば声を掛けられた。
?「神崎」
『‥何でお前が居るんだ?』
銀髪が特徴の十番隊長に目をやる。居るはずがないのに‥そう考えて気付く。
『先に帰ったのか』
日「ああ。その事で確かめたいから此処に来た」
『そりゃあご苦労さん。けど、後にしてくれ‥まだ終わってないから』
息を吐き出し、空を見やる。
日「何を―‥Σお前ッ!?」
何かに驚く彼奴を無視して唇を開き、紡ぎ出す。
‥~~♪
無心になりながら歌う。その為に此処に来たんだ。歌で虚を呼び寄せる為の道具として。楽しいからじゃない‥そんな事赦されるワケがないんだから。
『いつまでいる気だ?』
日「お前一人置いて行けるか。怪我してんだし、それと―‥」
『‥何だ?』
日「着てろ。目のやり場に困る///」
手渡された羽織を見て戸惑う。
今までとは違った反応をされれば当然だ。
日「随分と集まったな。ここまでの力とは思わなかったぜ」
『素直に気味悪いって言ったらどうだ?』
日「んな事思ってねーよ。後は俺が片付ける」
そう言って虚へと向かう彼奴を見つめる。何が変えたのか知らないが、少しは心配されてるみたいだ。
渡された羽織の小ささに胸が温かくなるのを感じる。
不意に懐かしい記憶を思い出した。
『(気づかないモンだな)』
斬魄刀を振るう幼い隊長を目で追いながら嫌な記憶が脳裏を掠め、歯を食いしばった。
“化け物”
“人殺し”
頭に響く叫び声に気を取られて迫る虚に気づくのが遅れた。
日「神崎!?」
一撃目をかわしたものの振られた尾を避けきれずに吹っ飛ばされ、木にぶつかる。
ドンッ!!
『ぐっ!?』
頭を打ったせいか視界が歪む。
日「大丈夫か!?」
『‥ああ』
日「悪い。俺が気づかなかったせいで」
『何必死になってんだ?』
日「何って‥」
『毛嫌いしてただろう?
いきなり気遣われると薄気味悪いし』
虚は‥もういないか。
流石は隊長さんだな、と感心していたら―‥
日「‥‥悪かった」
と、いきなりの謝罪に目を丸くした。数秒の沈黙の後、照れたのかそっぽを向いて歩き出した背を見つめる。
日「さっさと帰るぞ///」
『‥そぅ、だな』
自分で言ったクセにな。
ふと、肩に掛けた羽織を握り締めた。どうしてなのかな‥胸にゆったりと広がる温かさは。
こんなにも嬉しいと思うのは、何でだ?
不思議だ。
日「神崎?」
『何でもない』
疲れた‥早く帰って休みたい。
―――――――――‥
斑「あやめ!」
『なんだ、居たのか』
綾「大丈夫なのかい?」
戻って来るなり随分と集まる人だかりを一瞥して一角達へと声を掛けた。
斑「怪我してんじゃねーか!?」
『煩い‥平気だ』
まったく、耳元で叫ぶなよ‥頭に響いて痛い。頭を打ってるせいか余計に響くんだよ。
乱「Σアンタ!?」
阿「女?!」
檜「嘘だろ?!」
『男だって言った覚えはないぜ』
戦いの最中に虚の爪を避ける際に死覇装の前を引き裂かれた為はだけてしまっていたようで羽織を渡されたのはその為だった。勿論、羽織だけじゃ隠せる筈もなく‥サラシを巻いた胸が見え隠れしている。周りは凄い驚きらしい、なんて他人事のように考えて。
日「神崎、正直に答えろ。
‥お前は“単独行動したのか?”」
単独行動、ね。そう報告した連中を見ると顔を逸らしてる。嘘がバレバレだろ?
『“違う”と言ったらアンタは信じるのか?部下でもない俺の言葉を』
この状況で誰が俺を信じられるんだ?
一角や弓親は別として、この場にいる誰もが俺を気味悪がり、蔑み、憎んでいるってのに。
けれど、目の前に立ち見上げてくる翡翠に曇りがなくて少し驚いた。あれだけ敵意を向けていたのに、今は感じられない。寧ろ逸らしたくなる程澄んだ強い輝きがある。押し殺してきた胸の内まで見透かされそうで怖い。
日「‥――信じる」
乱「Σ隊長?!」
日「お前は嘘を言ったりしない」
『買い被り過ぎだ。俺だって嘘は吐くぜ?』
日「吐かないさ、お前は」
しっかりと見据える翡翠に息を吐いて歩み寄る。歪み始める視界にフラつきながら。
『ほら』
日「コレは‥」
『お前が、知りたい‥答えが‥‥ある‥っ』
ドサッ、
日「神崎!?」
『はぁ‥後は、お前‥次第、だ‥』
そのまま、俺は意識を手放してしまった。
その僅かに見た日番谷隊長の表情が意外だと思いながら―‥。
□■□■□
総「神崎はどうじゃ?」
卯「依然として眠ったままです」
総「そうか‥」
日「(二週間か‥)」
あの日から二週間が経ったが未だに神崎は目を覚まさない。怪我よりも精神面の問題だろうと卯ノ花は言っていたが、彼奴はそんな弱い奴じゃない―‥と、言いたいが‥彼奴は女だったんだよな。男ならまだしも女と分かった今、彼奴が置かれていた状況を考えれば目を覚まさないのも分からなくもない。
気を失う前に答えがあると渡されたモノの中にあったのは録音された会話だった。
それを聞いた瞬間、胸が締めつられたように苦しくなった。