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少女と悪魔

ふわぁ〜と、欠伸をする。
レインを召喚してから殺されそうになったり飼い猫がオグルだったり実は何年も前からオグルにだったりと、数日間のうちに色んなことが起きすぎててこんなにしっかり眠れたのは久しぶりだ。
ふと、時計を見ると6:00だった。これだけしっかり寝たのにまだこんな時間なんて…!と、少し感動を覚える。
「さて、と」
そう言いながら玄関を開け、ポストを開ける。すると、いつもよくわからない宗教の勧誘新聞ぐらいしか入っていないのに珍しいものが入っていた。
「手紙?」
レースで出来ていて少し高そうな便箋だった。その便箋を鼻に近付けると、鈴蘭の良い香りがした。
「うわぁ…良い香り…!」
「人間とは紙まで食べるのですね。不思議な生物です」
「うわっ!!」
上の方から声が降ってきて思わず悲鳴が出る
そこにはいつもの中華なのか洋風なのかよく分からない服装をしたレインではなく、私が用意した黒字に白の花の柄を付いたパジャマを着ており、仮面は付けておらず新鮮だ。
「……色気の無い悲鳴ですね」
「いいの!!ところで、今このポストに可愛い便箋が入ってたんだけど誰のかわかる?」
便箋には、住所等何も書かれておらず誰宛なのかもわからない
「ふぁ〜…なんだ薙乃…朝早くから」
と、半分寝惚けたまんまの和恋がやってきた。正直あの和恋がこんなカワイイ手紙貰う相手がいるとは思えないが、一応聞いておく
「ポストにこんな手紙入ってたんだけど、和恋見覚えある?」
「手紙?」
そう言いながら受け取ると、和恋は手紙を見ながら少し考えると
「あー、これ三条西か」
「か、和恋が女の子から!?」
「おやおや貴方に浮いた話があるとは驚きですね」
「バカ!そんなんじゃねーよ、三条西は俺のクラスメイトだ」
和恋の話にようとこうだ。

数日前の放課後、学校の図書館で課題を研究していた時にうっかりそのまま眠ってしまった。そろそろ下校時刻が近づいており、慌てて帰ろうとると
「辻斬君」
と、書架の方から声が聞こえた。振り返って見てみるとそこにはクラスの男共が前に言っていた『顔は可愛いがオカルト研究部所属で電波なことで有名』な三条西琥珀がいた。
「あぁ、三条西か」
「あ!名前知っててくれたんだ」
「まぁな、それで俺に何か用事があったんじゃないのか?」
「ウン、今度琥珀の家に来てくれない?」
「…は!?」
ま、ま、ま、待て三条西とは今年クラスが一緒になっただけで今日まで一度も会話なんてしたことなくてだからその、そういうときは一応家に行ってみるべきなのか?俺が今まで女と付き合ったことないからきっとこんなことにええとだからその
「辻斬君?どうしたの?」
「お、お、お前が妙なこと言うからだろ?」
「妙なことなんて言ってないよ?ただ今度家に来て欲しいって言っただけだよ」
「それが妙だって言ってんだろ」
「あ、勿論お兄さんと妹さんとオグルさんも連れてきてね」
「あぁ、なんだそういう……ま、待て!なんで三条西が兄貴のことを!」
「そういうことだから、また招待状送るね!じゃ」

ということである。
「へぇ、そうなんだ…和恋って女の子とはなせたんだ…」
「和恋様が女性と交際経験は無しと」
「そ、そこじゃねーだろ!…ま、まぁとりあえずこれは俺に来たやつだから一応俺が開けるぞ」
すると和恋はペイパーナイフで開けるなど品の良いことはせず、ビリビリ破って開けた。
『辻斬くんへ
急に呼び出したりしちゃってごめんね
でも、辻斬くんに朗報がありまーす!
なんと!三条西琥珀は君の両親がいる
魔界に生身で行く方法を知ってまーす!
お兄さん、妹ちゃん、オグルくん達を
連れて三条西家に遊びに来てね!
待ってるよ☺︎︎︎︎
琥珀より』
と書いてある手紙とインターネットの三条西家の地図が書かれた紙が入っていた。
「…確かに人間が魔界にいるオグルを召喚できても人間が魔界に行くなど考えられませんが……どうされます?お嬢」
「う、うーーん…私三条西さん知らないからな…和恋はどう思う?」
「俺は行っても良いと思うけどな、オカルト研究部の奴なんだからしょもーないものでも紹介されるだけだろ」
「そんなこと言って、和恋は女の子のお家に行ってみたいだけでしょ?」
「あ、兄貴!?いつからそこに…って、い、嫌そういう訳じゃ…」
と和恋はモゴモゴし始めた。どうやら図星のようだ。
「おや、蓬様おはようございます。聞かれてたとは思いますが蓬様はどうされたいですか?」
「うーん…そうだな行ってみたいかな、面白そうだし」
と、嬉しそうにニコリと笑った。

その後、オグル達と話し合ったが『まぁ得することも無いだろうけど損することも無い』
ということで行ってみることになった。
三条西家は思っていたよりも近くにあり、全員で徒歩で行くことにした。
「へぇ、ここって大使館か何かじゃないんだな……でっか」
その和恋の言う通り、絵や小説から飛び出してきたのではないかというほど彼女の家の敷地はとても広く私ならここで迷子になってしまうだろう。
「はぁ…めんどくさい…どうせ俺は関係ねぇよな?帰るぞ、鹿の子」
「あ、どうもすみませんそちらのお嬢様に招待されてきた辻斬なんですが」
と、鹿の子はピーンポーンとインターフォンを鳴らしていた。
「なんでお前が鳴らしてるんだよ」
「えぇ?いいじゃないか私は楽しいことは大好きでね」
と、鹿の子はめんどさがりなリップと違ってウキウキのようだった。
すると、ガチャリと玄関のドアが開き
「お待ちしておりました。辻斬様」
と、中学生くらいの少女……いや、少年?が出てきた。髪も瞳も服装も髪に付けた椿のブローチまで真っ赤だった。
そんな少年に連れられ中に入ると、オグルの3人が眉をひそめた。
「えっ?どうしたの?」
「なんというか…ここは魔界と同じような空気を感じます」
「誰かに見られているようで気味悪いね」
「…俺は帰るって言ったからな」
確かに部屋の中は遮光カーテンと薄暗い照明のお陰でなんとなく雰囲気が悪い。しかし、特別奇妙なものが飾ってあるだとかそういうものは見かけることはなく、むしろお金持ちなのにシャンデリアと遮光カーテン以外の装飾物が何一つ無い。
すると、赤髪の少年は歩きながら
「まさか、お嬢様が悪魔に現を抜かすとは」
と、レインの方をギラリと睨んだが
レインは慣れているのか、ニヤニヤしながら
「古椿の霊ですか…。人間を誘惑することで有名な貴方が1人の人間に執着するとは珍しいことがあるものですね」
そう言うと、少年は不愉快そうに眉をひそめまた前を向いた。
しばらく歩くと、扉の前で
「こちらでお嬢様がお待ちです」
と、扉を開けた。
入るとその部屋だけひんやりと気温低く、肌寒かった。
「あ、来てくれたのね」
と、白く太ももまでありそうな綺麗な長い髪にグレージュの瞳をしており、レースのネグリジェを着た三条西琥珀がいた。確かに和恋の言う通りとっても可愛い。
「ロッキーも、案内ありがとう」
すると、ロッキーと呼ばれた赤髪の少年は跪いて三条西琥珀の手の平にキスをした。
そんな様子を見ていると、右斜め上から視線を感じたから
「私たちはしないよ」
と、視線を逸らさないまま言うと
「残念です」
と、帰ってきた。
「ところで、みんなは琥珀が送った手紙読んでくれた?」
「えぇ、内容は人間が魔界へ行く方法とありましたが……それは貴方のような純人間では無い方が行く場所ではないのですか?」
……ん?純人間?レインは何を言っているの?
「もう!悪魔さんったらネタバラシがはーやーい!もっとゆっくり言おうとしたのに」
「おっと、それは失礼致しました」
「お、おい三条西、純人間じゃないってことはまさかお前…」
「さっすが辻斬くん!そう、琥珀ちゃんは混血なの。パパが人間でママが雪女。三条西家では代々自分が召喚したオグルと結婚することが義務付けられているの」
あぁ、だからロッキーくんはレインのことを敵意剥き出しで見てたんだ…!
「私達みたいな混血はオグルの親の許可アリで魔界に行くことは許されてるけど、純人間は行くことが許されてないの。でもそこで!!琥珀ちゃんは三条西家蔵からとんでもないものを発見したの!」
三条西琥珀は小さく「じゃーん」と言いながら黒っぽく禍々しい石を取り出した。
「…………」
こういう時に真っ先に反応するレインが珍しく押し黙った。
「私が答えよう」
と、鹿の子は飽きてヴァーゼに化けたリップを抱き抱えながら言った。
「それは魔舌石と言ってね、名前の通り悪魔の舌ベラが化石となったものさ」
えぇ…悪魔の舌?気持ち悪い…
「せいかい!そしてこれを液体にして、海水と共に飲んだら行けるってわけさ!どうかな?使ってみたい??」
と、三条西琥珀は言ったがそんな気味悪いのなんて飲みたくない
「…それを使うかどうかは今じゃなくても良いですか?まだ情報不足で…それにまだ1人仲間が集められていません」
と、蓬が青ざめて何も言えなくなったレインの代わりに言った。
「そ、わかった。使いたくなったらいつでも行ってね」
と、ニコリと笑った。
すると、和恋が
「そういえば、さっきから俺達のことにやけに詳しいが、誰から聞いたんだ?」
と言うと彼女はパァッと嬉しそうな顔をし、
「気になる?実はねー、これ!」
と、ずっと布が被っていたものを取るとそれは大きな水晶玉のようなものだった。
「これをね、前偶然見てたら君達が映ってそれからずーっと見てたんだよ」
と、嬉しそうに言ったけど、それはストーカーなんじゃないの?
そして、ここでようやく復活したレインが
「じゃあ私達はおいとまさせていただきましょう。ここまで妙な魔力の強い場所に居続けるのは負担ですからね」
正直さっきの舌ベラが見たくないからはやく帰りたいだけなんじゃ?と思った。
「えーーー!さっき来たばっかなのにー」
と、ウニュウニュ言っていたがロッキーくんは
「玄関まで案内します」
と、言い彼に付いていく。
「妹ちゃん」
そう言われ、振り返ると
「妹ちゃん、1番上のお兄さんのこと気をつけて見た方がいいよ。あんまり無理させない方がいいかも……それだけ」
と言った。
蓬が?無理させない方がいい?どういうことなんだろう?そんなことが心に引っかかりながら彼女のいる部屋を後にした。
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