少女と悪魔
兄貴は、俺が小さいときからなんでもできた。スポーツ・勉強・人付き合い…何もかもが完璧だった。
正直そんな兄貴に俺は嫉妬心を抱いていたが、それ以上に兄貴を尊敬した。
幼い頃兄貴に聞いたことがあった。
『兄ちゃん』
『どうしたの?和恋』
『兄ちゃんはどうしてなんでもできるの?俺は勉強苦手だし、人見知りだし…』
『うーん…そうだな…。和恋は得意なことある?』
『うん、バスケかな』
『和恋はバスケをはじめてやったとき、上手くいった?』
『ううん、全然。ドリブルすらまともに出来なかった』
『勉強も人とのお喋りもそれと同じだよ。最初は全然できなくても、何度も何度もやっていくうちに上手くなるんだ。和恋は努力家だからきっとすぐに勉強ができるようになるし、人と楽しくお喋りができるようになるよ。』
今考えると凄く当たり前のことだが、当時の俺の世界は家族か学校かだったから『こんなことを知っている兄貴は凄い』と思った。
俺が中学生になった頃、両親が異生物の研究で出掛けていて俺達3人で数週間過ごさなきゃいけなくなったことがあった。3人で散歩をしている最中、信号無視をしてきた車にぶつかりかけたことがある。間一髪で避けられ俺はかすり傷で済んだが、こめかみから軽い出血をしていた。
家に帰り兄貴に手当をして貰ったときの言葉は俺は二度と忘れないと思う。
『大丈夫だって兄貴、そんな大した傷じゃ』
『ちょっとした傷から菌が入ったら大変だろ?だからじっとしてな』
『う、うん』
『はい、包帯巻けたよ』
『あぁ、ありがとう兄貴』
そう言いながら立ち上がろうとすると
兄貴はそっと俺に抱き着いてきた
『ちょ…兄貴…何して…』
すると、少し肩が震え嗚咽が聞こえてきた。
『兄…貴?』
『……すまない』
『えっ…』
『…家族1人守れない…頼りない兄貴でごめん。』
俺は兄貴の肩に腕を回した。そこからどれだけ時間が経ったかはあまりよく覚えないが、
抱き締めていた腕を話すと、
『こんなかっこ悪いところ見せてすまない、こんなこと話せるの和恋しかいないから』
と、少し恥ずかしそうに話す兄貴を見て俺は
俺が兄貴を守らなきゃいけない。
と、決意した。
俺は昔から兄貴に頼ってばかりで、頑張って俺達を守ってくれていた兄貴とは対照的だった。俺は兄貴に憧れていたが、結局それは心の底から兄貴を理解できていなかった。
そんなある日─兄貴が今の俺と同じ年齢の頃よく貧血などで気を失うようになった。兄貴は隠しているつもりだろうけど、明らかに痩せている。
あぁ…まただ…
深夜2時40分
隣の兄貴の部屋のドアが開き、階段を下る。
兄貴が階段を降りきったのを確認すると、俺も兄貴の後を付いていった。毎晩毎晩どこへ行っているのだろう?トイレも風呂も2階にあるし、下に降りる必要は無い筈だ。
兄貴はなんと、そのまま地下室へと階段を降りていった。
地下室?地下室にこんな深夜に何かやることでもあるのだろうか?
兄貴が地下室のドアノブに手を掛けたところで、
「兄貴!」
と、声を掛けた。
すると、兄貴はハッとした様子で辺りをキョロキョロと見渡すと
「……ど、どうやら寝惚けてたみたいだな。少し疲れが貯まっているのか…」
と、言いかけたところで俺は兄貴をそっと抱き締めた。
「…どうしたの?和恋?」
「兄貴…俺は…」
「…うん」
「……………」
「……………」
「…俺は、兄貴がいなくなるのが怖い」
「………どうしたの?和恋?俺は和恋を置いてどこへも行かないよ」
と、俺の肩を少し撫でながら言った。
違う、そうじゃない。
俺は俺の知っている兄貴がどこか居なくなってしまいそうなのが怖い
だけど、そんなことを言い出す余裕なんか…ある筈が無い。
気がつくと涙が頬を伝っていた。
「…ほら、大丈夫泣かないで」
「な、泣いて…泣いてなんか」
「多分、疲れからきっと夢遊病みたいになっただけだよ。…あ、そうだ、和恋今日は昔みたいに一緒のベッドで寝よう」
「えっ…お、俺は」
「ううん、俺が一緒に寝たいんだ。さぁ、行こう」
と、兄貴が手を差し出した。俺は兄貴の手を取った。
あぁ…駄目だ…俺は……今の俺はまだ兄貴を守れる男になれない。
正直そんな兄貴に俺は嫉妬心を抱いていたが、それ以上に兄貴を尊敬した。
幼い頃兄貴に聞いたことがあった。
『兄ちゃん』
『どうしたの?和恋』
『兄ちゃんはどうしてなんでもできるの?俺は勉強苦手だし、人見知りだし…』
『うーん…そうだな…。和恋は得意なことある?』
『うん、バスケかな』
『和恋はバスケをはじめてやったとき、上手くいった?』
『ううん、全然。ドリブルすらまともに出来なかった』
『勉強も人とのお喋りもそれと同じだよ。最初は全然できなくても、何度も何度もやっていくうちに上手くなるんだ。和恋は努力家だからきっとすぐに勉強ができるようになるし、人と楽しくお喋りができるようになるよ。』
今考えると凄く当たり前のことだが、当時の俺の世界は家族か学校かだったから『こんなことを知っている兄貴は凄い』と思った。
俺が中学生になった頃、両親が異生物の研究で出掛けていて俺達3人で数週間過ごさなきゃいけなくなったことがあった。3人で散歩をしている最中、信号無視をしてきた車にぶつかりかけたことがある。間一髪で避けられ俺はかすり傷で済んだが、こめかみから軽い出血をしていた。
家に帰り兄貴に手当をして貰ったときの言葉は俺は二度と忘れないと思う。
『大丈夫だって兄貴、そんな大した傷じゃ』
『ちょっとした傷から菌が入ったら大変だろ?だからじっとしてな』
『う、うん』
『はい、包帯巻けたよ』
『あぁ、ありがとう兄貴』
そう言いながら立ち上がろうとすると
兄貴はそっと俺に抱き着いてきた
『ちょ…兄貴…何して…』
すると、少し肩が震え嗚咽が聞こえてきた。
『兄…貴?』
『……すまない』
『えっ…』
『…家族1人守れない…頼りない兄貴でごめん。』
俺は兄貴の肩に腕を回した。そこからどれだけ時間が経ったかはあまりよく覚えないが、
抱き締めていた腕を話すと、
『こんなかっこ悪いところ見せてすまない、こんなこと話せるの和恋しかいないから』
と、少し恥ずかしそうに話す兄貴を見て俺は
俺が兄貴を守らなきゃいけない。
と、決意した。
俺は昔から兄貴に頼ってばかりで、頑張って俺達を守ってくれていた兄貴とは対照的だった。俺は兄貴に憧れていたが、結局それは心の底から兄貴を理解できていなかった。
そんなある日─兄貴が今の俺と同じ年齢の頃よく貧血などで気を失うようになった。兄貴は隠しているつもりだろうけど、明らかに痩せている。
あぁ…まただ…
深夜2時40分
隣の兄貴の部屋のドアが開き、階段を下る。
兄貴が階段を降りきったのを確認すると、俺も兄貴の後を付いていった。毎晩毎晩どこへ行っているのだろう?トイレも風呂も2階にあるし、下に降りる必要は無い筈だ。
兄貴はなんと、そのまま地下室へと階段を降りていった。
地下室?地下室にこんな深夜に何かやることでもあるのだろうか?
兄貴が地下室のドアノブに手を掛けたところで、
「兄貴!」
と、声を掛けた。
すると、兄貴はハッとした様子で辺りをキョロキョロと見渡すと
「……ど、どうやら寝惚けてたみたいだな。少し疲れが貯まっているのか…」
と、言いかけたところで俺は兄貴をそっと抱き締めた。
「…どうしたの?和恋?」
「兄貴…俺は…」
「…うん」
「……………」
「……………」
「…俺は、兄貴がいなくなるのが怖い」
「………どうしたの?和恋?俺は和恋を置いてどこへも行かないよ」
と、俺の肩を少し撫でながら言った。
違う、そうじゃない。
俺は俺の知っている兄貴がどこか居なくなってしまいそうなのが怖い
だけど、そんなことを言い出す余裕なんか…ある筈が無い。
気がつくと涙が頬を伝っていた。
「…ほら、大丈夫泣かないで」
「な、泣いて…泣いてなんか」
「多分、疲れからきっと夢遊病みたいになっただけだよ。…あ、そうだ、和恋今日は昔みたいに一緒のベッドで寝よう」
「えっ…お、俺は」
「ううん、俺が一緒に寝たいんだ。さぁ、行こう」
と、兄貴が手を差し出した。俺は兄貴の手を取った。
あぁ…駄目だ…俺は……今の俺はまだ兄貴を守れる男になれない。