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少女と悪魔

空が真っ赤に燃えている。
いつから赤色の空が普通になってきたのだろうか?
そんなことを天を眺めながら思う。
「リップ、…そろそろ大丈夫?」
「あぁ、おれはこんなもんじゃくたばんねぇよ」
「はは、元気そうで良かった」
「鹿の子にはあと5分したらそっちに行くと言っておいてくれ」
「うん、わかったよ」
8号が行ったことを確認すると、この場に倒れ込む。8号の前ではそう言ったが、右脇腹の刺傷からは血が流れ続け、正直致命傷だ。このことを、鹿の子と8号が知ったらどう思うだろうか?きっと修行不足だとバカにするだろうな…なんだか視界がぼやけてきた。きっと俺はこのまま死ぬんだろうな…あぁ、視界が光り出した…あいつを殺せなかったのが心残りだ───────


この世界では、人生に一度だけ異生物を召喚することが許されていた。ある者は妻を失った悲しさから人魚を召喚し、ある者は愛でる為にヒッポカンポスを召喚した。しかし、召喚した生物が召喚者を主として認めるかはその生物次第―――

午後5時。辺りはすっかり暗くなり、部活動をしていた生徒が皆帰り出す時刻だ。
「はぁ」と、白い息を吐き出すと『異生物召喚方法』と書かれた本を片手に理科準備室に入る。何故悪魔を召喚する為に三角フラスコが必要になるのかは知らないが―もしこの三角フラスコのお陰で召喚することができるのなら持っていかざるを得ない。
三角フラスコを取り出すと、何事もなかったかのように理科準備室を後にする。そもそもだが、なぜ悪魔を召喚するする為に『青色に染めた海水』『三角フラスコ』『白いバラ』『月の光』を用意しなければならないのか?主を裏切り殺してしまう可能性のある悪魔をこんなもので召喚できてしまって良いのだろうか?
そんなことを考えていると、近所の公園に着いた。早速青色に染めた海水を三角フラスコに入れ、それに白いバラを刺す……そしてこれを月の光が当たるようにベンチの上にそれを置く。
「本当にこれで召喚できるのかな?」
そう言いながら瞼を閉じた瞬間体が、フワッと上に上がったような感覚がした。すると、
「おや、随分と幼い主ですね」
と、声がした。恐る恐る隣を見ると、奇妙な仮面を付けた美形な男が絵を浮かべて私を――横抱き…………つまり゙お姫様抱っこ"していた。
びっくりして悲鳴をあげると、彼はなにか問題でも?というような涼しい顔で私をベンチの上に座らせる。勿論、先程の「それ」は消えていた。
「はじめまして小さな主、私の名はレイン・コート。貴方は?」
「…辻斬薙乃」
レインと名乗る悪魔は、こちらにゆっくりと目線を合わせた。
「では…貴方はなぜ私を召喚したんですか?なにか理由があるでしょう?」
「…実は3年前に両親がうちの地下室で「大事な仕事があるから入ってきちゃダメ」と言ったっきり出てこなくなって…2週間後に心配したお兄ちゃんが、地下室の扉を開けたら"そこに最初から誰もいなかった"みたいに居なくなってて…それを貴方なら解決できると思って召喚したの。」
するとレインは、微笑みながら赤い目を光らせた(ように見えた)。
「わかりました、ではお嬢様の謎解きをお手伝いしましょう。」
「え!?私も?」
「貴方の両親のことですから、私はあくまで「お手伝いさん」ですよ。私は貴方のような可愛らしいお嬢様が主で嬉しいですよ」
「あんまりからかわないでよ…あと、お嬢様って呼ぶのもやめて。なんか恥ずかしい。」
「では…『お嬢』ではどうでしょうか?」
「それは……ううん、それでいいよ。」
正直あまり変わらないと言おうとしたが、それはそれで面倒だからやめておいた。
「それでは自己紹介も済んだことですし、帰りましょうか」
「そうだね………あっ!」
しまった、重要なことを忘れていた。『兄の存在』だ。そもそも、公園で召喚したのも兄達に見つかったら全力で止められてしまうからだ。それに今は午後6時30分、門限を30分も遅れている。
「どうしよう…お兄ちゃん達に見つかったら何て言われるんだろう…」
「素直に『悪魔を召喚した』と言ってはいかがでしょうか?案外お兄様も許してくださるかもしれませんよ」
「えー、そうかなぁ」
正直、あの兄達…特に次男が許してくれるとは思えないがとりあえず家に帰るしかない。

家の前に立つとゆっくり深呼吸しながら、長男でありますようにと心の中で祈ってドアを開けた。
すると―――
「おい!約束の時間40分も過ぎてるのわかってるのか??兄貴がめちゃめちゃ心配してただろーが!!!」
この声は、間違いなく次男の和恋だった……こんなになっている和恋はとても面倒だ。
「ちょっとこれにはわけが…」
「は!?訳なんかどーでもいい!とりあえず兄貴に………ん?お前なんか隠してるだろ?」
心臓を掴まれたようにキュッとなった。
「和恋、騒がしいけど何かあったのか?」
すると、長男の蓬も顔を出てきた。
「兄貴なんか薙乃がなーんか俺達に隠し事してるんだよ」
「薙乃?またテストの点数が落ちたのなら別に驚かないから素直に言って大丈夫だよ」
「そ…そんなんじゃ」
すると、
「はじめましてお兄様、私お嬢に召喚された悪魔のレイン・コートと申します」
と、痺れを切らしたレインが満面の笑みで入ってきた。呆気に取られる2人をよそにレインは
「はやくお嬢が説明しないせいで出てきてしまいましたよ?」
「…い、今説明しようと…」
「それはどういうことかな?薙乃」
先に冷静さを取り戻したのは蓬の方だった。
「ほら、貴方の言葉で伝えなさい」
「ええと…じ、実は2年前にお父さんとお母さんが居なくなってからずっと…2人の行方を見つけ出す方法を探してて…そして1週間前に、いなくなった人を悪魔が探し当てたって記事を見つけて……それで…それで…」
そこまで話したら、瞳から涙が留めどなく雨のようにポロポロと落ちてきて、言葉を進めることが出来なかった。
暫くの沈黙の後、蓬は、私の涙をそっと拭いながら優しい口調で
「たしかに、お父さんお母さんは僕らも何度も調べたし勿論悪魔を召喚しようともしたけど踏ん切りがつかないでいた、それに幼い君にまで両親のことを考えさせてしまって僕は悲しい。でも――」
「君がそこまでの覚悟を持ってやった行動に僕は敬意を払う。兄として君に協力させてくれないか?」
「……じゃあ、私がやったこと怒らないの?」
「あぁ、僕だって両親についての謎を解明したいからね。」
「それに?俺らいなくても召喚できたのはなかなかやるじゃん」
ようやく我に返った和恋も、ニヤニヤとしながら答えた。
「じゃあ…ええと、レインさん?改めて、辻斬薙乃の兄の辻斬蓬です。こっちは…」
「俺は蓬の弟の和恋、いくら悪魔でも容赦しねーからな」
「ええ、よろしくお願いします」
ほっと息をついくと、レインが耳元で
「やはり素直に言うのが1番だったでしょう?」
と、優しく囁いた。
「…うん!」
と、返事をするとレインは少し嬉しそうに微笑んだ。
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