蒼の吸血鬼

 澄明な朝の空気は、地獄の悪龍の悲鳴のような大音声で破られる。

 いつもの、光景とは違う。
 立ち並ぶ古びた商業ビルを縫うように走る、満員の通勤電車。
 その電車の様子が、明らかにおかしい。

 神経を逆なでする大音声の正体は、ぐらぐら揺れる電車の車輪と、ゆるやかなカーブに差し掛かったレールが激しくこすれ合う金属音。
 スピードを出し過ぎたまま、カーブに突っ込んだ電車の車体の下からは、ついに火花が上がり。

 通勤途中の勤め人、遅刻すまいと急ぐ学生たちからさえ、注意を奪い取ったその不穏な電車は、なお一層の悲鳴を上げ、身を震わせ。

 とうとう。
 レールから脱線して、勢いよく身を躍らせた次の瞬間、派手に脱線、横転する。

 みっちり肉の詰まった鉄の箱は、さながらのたうつ大蛇のように線路上に身を投げ出し。
 破砕されたガラスが、激しい破壊音の間に、八方に飛び散る。

 今度こそ本物の、誰かの悲鳴が上がる。

 パトカーと救急車のサイレンが近づいてくるまで、すぐだ。

 しかし。
 その完全に機能停止した電車の下から、汚水のような汚らしい何かが、急速に広がっていくのを、今は誰も止めることができなかったのだ。

 今は、まだ。
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