PHASE-01 勝利の女神




「#シファ#。君にはこれを任せる。まだ開発段階ではあるが操縦は可能だ。新型搭乗機、GAT-X410 ネレイ。君なら操縦できると思うのだが……」
「……全力を尽くします」
「ハハッ、そんなに固くならなくていいんだぜ?#シファ#。俺達がついてるんだから安心しな」
「フンッ、キサマがいても安心できるわけないだろう」
「酷くね?」
「シファさん、無理しないで下さいね」
「ニコル……だっけ。……ありがとう。善処する」

 ジンのコクピットは狭い。148cmの#シファ#には広かったかもしれないが。

「おい坊主、OSの説明は——」

 整備兵が言い終わる前に、細い指がコンソールに触れた。
 ──動いた。ジンが。OSを起動し、火器管制を立ち上げる手順に一切の淀みがない。初めて触る機体のはずだった。少なくとも、そのはずだった。

「……は?」

 警備兵も、クルーゼも、驚いていた。通信越しに、アスラン達も。ディアッカが驚きの声を上げる。

「おいおいおいおい!なんで動かせんの?」
「たまたま動いただけだろう。戦えるかは別だ!」

 イザークはモニターを睨んでいた。そんなまさか、と誰もが思った。
 カタパルトデッキにジンが並ぶ。四機と一機。異質な五番目の影がそこにあった。

「出撃。——存分にやれ、少年」
「──了解」

 説明は不要、ということらしい。クルーゼもこれは面白いと笑っていた。

「……#シファ#・#イト#。ネレイ、発進します」

 発進。──充分すぎるほどに動かせていた。訓練した訳でも、軍に入っているわけでもないのに。

「……キミ、動くね。ありがとう」

 ジンにそう語り掛けていた。微笑んでいる、無口で無表情な彼が。
 宇宙に放り出された瞬間、Gが身体を叩く。——#シファ#は操縦桿を引いて姿勢を制御した。滑らかに。教科書通りではない、身体が知っている動き方だった。
 バスターのカメラでネレイ機を追いながら、ディアッカは目を丸くしていた。

「……嘘だろ。あの動き、誰に習ったんだ?」
「たまたまだと言っている!」
「……まさか、彼奴……コーディネーターか……?」

 アスランはそう呟いた。間違いない、彼はコーディネーターだ。でなければこんなに正確に動かせるはずがない。
 前方に熱源反応。——地球連合軍の艦艇だ。護衛のメビウスが三機、編隊を組んで接近してくる。
 アスランはフェンリルを駆りながら、ジン五番機の動向を常に確認していた。*

「#シファ#、前に出すぎるな! 俺の後ろに——」

 通信が返ってこない。——いや、聞こえていないのではない。必要がなかった。桜色の目の少年は、敵の陣形を読んでいた。
 ブリッツから観測データを送る。

── 敵機三、散開します。右翼から来ます!

 右のメビウスがミサイルを放った。——その射線上に、すでにネレイはいなかった。最小限のスラスター噴射で軸をずらし、逆にライフルの銃口が敵機の腹を捉える。その場の全員が絶句。

「——今の、見えてたのか?」

 ディアッカが声を震わせて間もなく。

「──捕まえた。アスラン、今。早く」
「っ!?」

 #シファ#が小さく笑った、ニヤッといった感じで。撃て、と言っている。

「ディアッカ、背後。イザークとニコル、左右」
「えっ!?」
「ちょ、マジかよ──!」
「チッ……!」

 アスランは#シファ#からの指示に一瞬戸惑った。——が、身体は動いていた。フェンリルのビームライフルが火を噴き、#シファ#が動きを止めたメビウスを貫く。ディアッカも言われるがままに振り返りざまに後方の敵を捕捉、バスターの砲が火線を吐いた。イザークは歯ぎしりしながらも機体を左へ滑らせる。 ニコルも右に展開しながら、戦慄していた。

(——この子、指揮官の目をしている)

 ニコルは想定内の出来事に驚きを隠せなかった。自分よりも若い子供がコーディネーターで、パイロットだなんてそもそも初めて見る光景で。それなのにこんなにも指揮が完璧だとは思わなかった。思うはずがない。
 初陣で。初めてのジンで。ネレイで。——#シファ#・#イト#は戦場の全体を見ていた。自分の手だけでなく、四人の位置と敵の配置を同時に把握し、最適な陣形を口頭で伝えている。

「——ほう」

 クルーゼは旗艦から戦況を眺める。仮面の奥で、何を見出したのか。
 残りの二機が急旋回して離脱を図った。——だが遅い。デュエルのビームサーベルが一閃。残った一機を両断した。

「雑魚が!」

 イザークが得意気に一機堕とした。

「……逃がさない」

 #シファ#はもう一機をネレイのライフルで素早く撃ち、貫いた。見事に。溜息も吐かない。静かに通常の呼吸のまま終わりを見詰めていた。精神も座っている。大人より大人かもしれない、この子は。
 とにかくシファ・イトにとっての初戦は大成功だった――。

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