PHASE-00 シファ
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「しかし困ったな……記憶喪失なんだろ?この子。IDがねぇんじゃなぁー……」
「確かに……このままではあらぬ疑いをかけられておしまいですね」
隊長ラウ・ル・クルーゼに対面する為、シファと名乗るこの少年を連れてアスランたちは移動していた。
「チッ……本当にスパイだったらどうするつもりだ!こんなガキ知らん!撃ち殺しておけ!」
「素性も分からない民間人の子供を撃てるわけないじゃないですか!」
「……もしボクが地球軍のスパイだったなら、どうして地球軍はボクをここへ送ったの。ボクがキミたちと同い年くらいだったならともかく」
「っ……」
ぐうの音も出なかった。あのイザークを黙らせたのだ。スパイにしてもそうでないにしても、この子はただ者ではない。かなり恐ろしい子である。
「確かに、この子……さっきの生年月日が本当なら……」
「……13歳、か」
「えっ……マジで?」
「さっきの話のどこを聞いていたんだ、お前は……」
目を丸くするディアッカに、アスランとニコルは呆れてため息をついた。イザークは「フン」と不貞腐れている。シファはただ大人しく、そんな四人の後ろを着いて歩いていた。──その時。
──第二戦闘配備発令。パイロットはブリーフィングルームに集合せよ──
「っ!地球軍か!こんな時に……っ」
艦内では警報が鳴り響く。アスランたちは足を止めた。──彼らはパイロットだ。すぐに行かなくてはならない。
「おいでなすったか。シファ……だっけ?ここでじっとしてろよ」
「シファさん、大丈夫ですよ。すぐに戻ってきますからね」
「おいていくの」
シファは小さく手を伸ばして、細い指でアスランの服の袖を掴んだ。13歳の少年にしては華奢で、か弱い力だった。
「ボクもつれてって」
「……は?」
アスランたちは固まる。シファのその一言はあまりにも空っぽで、けれどその桜色の瞳は揺らぎなくアスランたち四人を真っ直ぐと貫く。
「な……っ、何を言っている貴様!死にたいのか!」
「おいおい、お前……さっきまでお荷物だとか撃ち殺すだとか言ってなかった?」
「貴様は黙っていろディアッカ!!」
「もう、こんな時に喧嘩しないで下さいよ!」
呆れるディアッカ。怒鳴るイザーク。一方、アスランの翡翠の瞳にはシファの桜色の瞳が深く突き刺さるように貫かれていた。
「……本気でそう言っているのか、シファ」
アスランの声は若干震えていた。民間人の子供を巻き込むわけにはいかない。──否、それ以上に心がざわついて落ち着かない。わかったと頷けば、この子を戦争に巻き込むことになる。
「お前……死ぬかもしれないんだぞ」
「……死ぬかもしれない?どうしてそんなこと言うの。勝ちたいんでしょ、キミたちは」
シファはそのまま静かに言い放った。
「もう一度言う。……ボクをつれてって。戦って、勝ちたいなら」
アスランたちの心は、その一言に大きく動かされた。
(……なんなんだ?なんなんだ、この子は……?何故、戦場を恐れない……?)
空っぽな割には真っ直ぐなその言葉。一瞬すら揺らがないその桜色。アスランは参ったように溜息を吐いた。
「……わかった」
「アスラン!シファさんは──!」
「わかっている!だが迷っている時間はない!」
いつものアスランらしからぬ行動ではあった。冷静ではない。こんなナチュラルかコーディネーターかもわからない民間人の子供を巻き込むなどと。
「……責任は俺がとる。とにかく急ぐぞ!」
「チッ……!もう知らん!勝手にしろ!」
だが、アスランの瞳にはもう迷いはなかった。四人に着いて走り出すシファは、決して逃げようとしなかったからだ。その意志の意味は、一体──。
