Chapter 1
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「大変……ずぶ濡れじゃないですか。風邪引いちゃいますよ」
とても穏やかで優しい声。それは太陽のような温かさだった。リヴァイアサンに巻き込まれ全身濡れ浸ったセシルには、温かすぎるくらいに。
セシルは目の前の少女を見上げる。こんな場所で出会うには場違いのような、そんな美しい少女。
「あの……もしかして貴方も、気がついたらここにいたのですか?」
「え……?あ、あぁ……はい。僕、気がついたらここにいて……えっと、君は?こんなところで何を――」
セシルは身を起こそうとした。――が、全身が悲鳴をあげて思わず顔をしかめた。肋骨の辺りがズキズキと痛む。
無理もなかった。あの激流に巻き込まれたのだ。怪我が一つもない方が不自然である。
「!駄目ですわ、動いては……!怪我をしているかもしれません……」
少女は慌ててセシルに駆け寄り、身体を支えてくれた。心配そうに目を細める。
「ごめんなさい……私、魔法は使えないんですの。けれど、近くにテントがありましたわ。良ければ少し休んで、傷を癒しましょう?」
ぽかんとした表情でぱちくり瞬きをするセシルに少女は優しく微笑んだ。
「……実は私も、気がついたらここにいて。記憶も無くて。どこへ行けばいいのかわからないのです。ですから、せめて助けさせてくださいな」
セシルが少女の手に支えられながらその顔を見た。――どこかで。どこかで会ったことがあるような。見覚えがあるような。
いや、気のせいだろう。こんな美しい少女の知りあいなどいない。いないはずだ。多分。
「あ、ありがとう……助かるよ。僕も記憶が曖昧で……」
セシルは痛みに顔を歪めながらも、なんとか立ち上がった。少女の華奢な身体からは想像もつかないほどしっかりとした支え方だった。
「仲間と離れちゃったんだ。テントがあるなら、お言葉に甘えてもいいかな」
「えぇ、勿論ですわ。困った時はお互い様といいますし、ね」
少女は優しく微笑んで「それにしてもお仲間さんが……大変でしたわね」と、頬に手を当てながらぽつりと呟いた。本当に心までが美しい少女だった。
森の中は薄暗く、鬱蒼と木々が茂っていた。リヴァイアサンが吐き出した水のせいで地面はぬかるみ、空気はひんやりと湿っている。遠くでなにかのけものが唸るような声が聞こえた。
「……僕はセシル。セシル・ハーヴィ。君の名を、聞いてもいい?」
セシルは濡れた前髪を払いながら、少女に穏やかな笑みを向けた。こんな状況でも目の前の相手を安心させようとする。それがセシル・ハーヴィという男だった。
「私はトワ。トワ・ロザリエッタですわ」
少女は口元に手を当てたまま、クスリと優しく微笑んだ。温かく、優しい笑顔。風が少女の黒髪を撫でるように吹いていた。
「セシル、さん……素敵なお名前ですわね」
そう言って微笑むトワと名乗った少女の笑顔に、セシルは何か惹かれるものがあった。不思議な感覚。これが出会いであって、出会いではないような。妙にむず痒い感覚だった。
これがトワ・ロザリエッタと名乗る少女との出会い。彼女との出会いは偶然なのか。それとも、必然なのか――。
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