アヤカシバナシ第一章「隠世へようこそ」

 そんなこんなで、商店街の入り口までたどり着いた。
どことなく不思議でレトロな雰囲気は、好きな映画に出てくる商店街にそっくりで、自然と気分が上がってしまう。
楓「やっぱり素敵…!あの映画の中みたい…!」
いろは「ここ来ただけでこんなに喜ぶ人初めて見たよ」
アルフ「現世の商店街はどんな感じなんだ?」
楓「…現世のほうは…こんなにキラキラしてないし、ゴミとか散らばってるし、あんまりお店も開いてないし…」
いろは「そっかぁ…現世も寂しいもんだね」
改めて周囲を見渡してみると、屋台のようなものもちらほらあった。
楓「ますます映画っぽい…!」
いろは「楓ちゃん、さっきから言ってるその映画って何?」
楓「えっとね、引っ越しの途中に不思議の街に迷い込んじゃって、豚にされたお父さんとお母さんを助けるために働くことになった女の子の話なんだけどね、その話の序盤に出てくる商店街とここがそっくりなの…!こんなに近くで見れるなんて夢みたい…!」
あの映画も持ってくればよかったな、とちょっとだけ後悔した。
いろは「よしっ!それじゃあおすすめのお店案内するからついてきて!」
楓「う、うん!」
いざ足を踏み入れようとしたその時、真っ黒な鳥がバサバサと音を立てながら目の前に現れた。
『カァー、カァー』
楓「ひゃあっ!?カラス!?」
いろは「あっ、鞍馬のとこのカラスだ、どうしたの?」
『カァー』
赤いスカーフのようなものを首に巻いたカラスはアルフさんの方を向いて鳴き始めた。どうやらアルフさんに用があるらしい。
アルフ「…そうか、分かった……悪いないろは、楓、怨霊が出たようだ、祓ってくる。お前は楓に商店街を案内してやれ」
いろは「…はーい」
楓「分かりました、気をつけてくださいね」
アルフ「ああ」
アルフさんはカラスの後を追いながら別方向へと向かっていった。
楓「ねぇ、怨霊ってさっき言ってたあの…?確かアルフさんって妖力が…」
いろは「大丈夫だよ、騒ぎになってないって事はそこまで強い怨霊じゃないだろうし、それにお兄ちゃん妖力少ないけど代わりに身体能力凄いからね!…言っとくけど本当に凄いからね。」
わざわざ2回言うほど凄いんだ…どんなものなのか気になるけどひとまずは商店街を案内してもらおう。
ーーー
いろは「はい!まずはここ!和菓子屋でーす」
手を引かれ、初めに着いたのは仄かに甘い香りが漂う和菓子屋さんだった。
いかにも老舗という出で立ちのお店の中では、穏やかな雰囲気のお婆さんが店番をしていた。
いろは「ここの和菓子美味しいんだよねー、楓ちゃんは和菓子好き?」
楓「うん、好きだよ、最後に食べたのは何年か前だけど…」
最後に和菓子を食べたのは、確か2年前。お母さんが買ってきてくれたお花の形の練り切りを少しずつ食べたっけ。
懐かしさに浸っていると、和菓子屋の中にいたお婆さんに声をかけられた。
『おや、いろはちゃん、豆大福買いに来たのかい?』
いろは「あ、お婆ちゃん!今日は友達に商店街の案内してるの」
『おやおや…初めて見る子だねぇ』
楓「初めまして、楓です、種族は…その、人間、です」
『に、人間かい!?凄いねぇ、人間なんてお話の中でしか聞いた事なかったよ、いやぁ…長生きはしてみるものだねぇ、ありがたやありがたや』
種族を言うだけで拝まれてしまった。人間というのはそんなに珍しいものなのだろうか。
いろは「人間が来るなんて500年ぶりらしいからね、私も本とかでちょっと見た事あるよ、確か巫女様…だっけ?とにかく凄い人だったらしいけど…」
楓「昔も来た事あるんだ…それに巫女様かぁ…」
そんな凄かったと噂の巫女様の次に来た人間が私で本当によかったんだろうか。なんてネガティブな考えを頭の中で繰り広げていると、店の外に出てきたお婆さんが何かを差し出した。
『いろはちゃん、よかったらこれ貰っておくれよ』
いろは「これって…わぁ!豆大福だ!いいの?」
『形が悪くて売り物にならないものだけど、捨てるよりいろはちゃん達に食べてもらったほうがずっといいからね』
いろは「ありがとうお婆ちゃん!楓ちゃん、家帰ったら食べようね」
楓「うん、ありがとうございます、お婆さん」
『気に入ったらまたお店に買いに来ておくれよ、この子と一緒に待ってるからね』
「ニャー」
尻尾が二つに分かれた三毛猫がこっちをじっと見ながら可愛らしく鳴いた。どうやら和菓子屋さんの看板猫らしい。
『さてと、お客さんが来る前に早くお店に戻らないと、それじゃあね2人とも、ほら行くよ、ミケ』
「ニャンッ」
楓「いい人だったね、そういえばあの人も妖怪なんだよね?」
いろは「うん、種族は聞いた事ないけど…若い頃はすごく強かったらしいよ」
楓「そうなんだ!今度和菓子屋行った時にお話聞いてみようかな」
いろは「それじゃあ次行こっか!」
楓「うん!」
それから私達は雑貨屋、果物屋、洋服屋などいろんなお店を回った。
どうやら雑貨屋には現世から流れてきたものもあるようで、さっき言った私の好きな映画のDVDが売っててつい買ってしまった。いろはも興味津々だったから、今度一緒に見てみよう。
ーーー
着物屋を出た所でアルフさんと合流した。
アルフ「……ここにいたか」
いろは「お兄ちゃん!怨霊どうだった?」
アルフ「怨霊自体は弱かったが…数が多かった、やっぱり銃弾5発では厳しいな」
いろは「手っ取り早く血飲めるようになったらいいじゃん、ママに今度良い方法聞いてみなよ」
アルフ「それで飲めたら苦労はしてない、それに母様は仕事で忙しいんだ、そんな私情ごときで電話するわけにはいかないだろ」
いろは「確かにそうだけどさー…」
一目でとても仲が良いと分かる兄妹2人のやりとりに、何故だか心が和む。
2人の会話を眺めていると、バサッと音が聞こえた。またカラスかな?と思いながら音が聞こえた方に目をやると、カラスではなく、黒く大きな翼が生えた赤髪の男の子が立っていた。
その子は呆気に取られる私に近づき言った。
??「へぇ、君が人間か」
突然種族を言い当てられ、なんだかびっくりして動揺してしまう。
楓「えっ!?な、なんで分かったんですか!?」
??「妖力が一切無かったから…それにこの子が教えてくれたからね」
その子はそう言いながらカラスを手懐けていた。
楓「あっ!さっきの……」
そのカラスはさっきアルフさんを呼びに行った赤いスカーフのカラスだった。
いろは「ごめん楓ちゃん、待たせちゃった…あっ!鞍馬!」
鞍馬と呼ばれたその男の子は、いろはに軽く手を振るとまた私の方を向いた。
鞍馬「…という訳で、自己紹介が遅れたけど……鞍馬です。種族は鴉天狗だよ」
楓「初めまして、楓です、あの、さっきのカラスって鞍馬さんが?」
鞍馬「…うん、僕一応怨霊討伐隊の副隊長やってるからね、怨霊が出現したら伝えなきゃいけないんだよ」
楓「へぇ……副隊長!?」
突然出された凄そうな肩書きに驚愕する。こんなに優しそうな男の子が討伐隊の副隊長だなんて。人は…いや、妖怪は見かけによらないなぁ。
鞍馬「そういえば…君はここに来てから怨霊は見た?」
楓「い、いえ…話は聞きましたが実際には…」
鞍馬「そっか…怨霊は人間に恨みを持って死んだから、人間である君を見つけたらもしかしたら優先的に襲ってくるかもしれない、いろは達がいるから心配はないだろうけど…もし怨霊に会う事があったら気をつけるんだよ」
楓「はっ、はい!」
鞍馬「あはは、そう怖がらなくても大丈夫だよ、僕達も一般の人達に危害が及ばないように努力してるからね」
楓「ありがとうございます…」
話していると、突然カラスが鳴き始めた。また怨霊が出たのだろうか。
鞍馬「あ、もう見回りの時間か…じゃあそろそろ行くね、楓、長い付き合いになるかもしれないけど、これからよろしくね」
楓「はい、よろしくお願いします」
鞍馬「じゃあね、夜道には気をつけるんだよ、あ、それと…次から敬語はいいよ、さん付けもね」
そう言うと鞍馬さん…いや、鞍馬くんは黒い羽を羽ばたかせてカラスと一緒に森の奥へ飛んでいった。
いろは「もう夕方かぁ、そろそろ帰ろっか、この辺暗くなると辺り真っ暗になっちゃうからね、怨霊も出やすいし」
楓「それなら尚更早く帰らなきゃ……あっ!そういえば私家どうすれば……」
すっかり忘れてた。新しい土地に来たなら住居は必須だ。このままだと家なし武器なし妖力なしで怨霊の格好のエサになってしまう。現世にいた頃は死にたいと言ったけど今はこの新しい生活にワクワクして死ぬ気がない。むしろ死にたくない。どうしよう…と頭を悩ませているといろはが口を開いた。
いろは「このまま私の家に住んじゃいなよ、うち誰も使ってない空き部屋あるからさ、必要なものは後で買えばいいし…どうかな?」
楓「えっ!?」
願ってもない言葉だったが、流石に遠慮が勝る。
楓「いや、でも…流石に迷惑じゃ…」
いろは「そんな事ないよ!ね、お兄ちゃん」
アルフ「ああ、むしろ1人でいられる方が心配だ」
確かに知らない土地…ましてや怨霊を見たことない人間が1人で暮らすのは危険かもしれない。この2人なら怨霊には詳しいだろうし、妖怪の事も色々教えてくれるだろう。それに1年ぶりに1人じゃない賑やかな家に帰る日々に戻るのも悪くはない。そう思ったら、断る理由はなかった。
楓「…分かりました!お世話になります」
いろは「やったー!楓ちゃんと一緒に住めるー!」
アルフ「…帰ったら家の間取りを教えないとな」
いろは「よしっ!帰ろ帰ろ!こっちだよー!」
楓「あっ!待ってよいろは!…って足速いね!?」
アルフ「全く…楓、まだ隠世には慣れないだろうが…何かあったらすぐ言えよ」
楓「はい、ありがとうございます!」
明るくて元気で私を引っ張ってくれるいろは。
落ち着きがあって気配り上手なアルフさん。
新しい仲間と、現世とは全く違う場所で、これからどんな日常が繰り広げられるかを想像しながら、私は新しい家に向かって走り出した。

【4話へ続く】
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