その背中に空を仰ぐ
死の予感が、目前に迫る─────。
ああ、終わった。
まだ世話をしなきゃいけない作物も、つい3日前に、仔山羊も生まれたばかりだったというのに。
今日は母山羊の滋養にと、森に薬草を摘みにきただけだった。
なのに、まさか…。
獣の腐った臭いが鼻をつく。人間とは違う種類の体液が滴るのは、千切れたゴブリンの胴体。その半分が、ぐちゃりと自分の傍に落下した拍子に飛び跳ねた体液で視界が半分消えた。
「ッ…、、」
ゴボ…っ、と隣の物体からヘドロのような汚物が溢れ出る。途端に花籠に摘んだばかりの薬草や山菜が腐った。
そして、自分の近い未来の姿を見るように瞑目して、あまり痛くないといいなぁ、と祈る。
その距離、数歩。
けれどそれにとっては少し手を伸ばせば届く。
唸り声も上げず、恐ろしく大きな手に身体を鷲掴みにされて全身が軋む。
「ひ…っ、ぐ、う…ッ…!!」
建物なら2階相当までの高さに浮遊する感覚の恐怖と、そのあまりの激痛に涙も声も勝手に漏れた。
もういっそひと思いに殺ってくれ、と歯を食いしばった時─────。
「パリイ!!」
「ッ、グァアアアアアッ!?」
「っ?!!!」
まさに食事をしようと口を開けていたそれの横面を、凄まじい勢いで飛んできた、黒い何か硬い物が殴打した。
突然の衝撃で手放された身体が空中に投げ出される。
魔物に喰われなかったとしても、このままなら落下死だ。
全身が痛い。おそらくは骨の数本は折れていそうだ。指の一本も動く気がしない。
結局、ここまでだった。
調子に乗って森の奥深くまで立ち入ったのがそもそも失敗だったんだ。
自業自得。でも、せめて、どうせ死ぬなら森の肥料くらいにはなりたい。
毒キノコだったら生えるかな。
そう思ったら、ほんの少し頰がゆるんだ。
魔物の叫び声を薄れる感覚で浴びながら、落下する身体が受ける地面の硬さを覚悟した、その時─────。
「っと…、大丈夫か?」
「っ…??」
抱き留められた暖かさが、悲鳴をあげていた身体を包む。
けれど状況を受け止められないまま、意識が遠くなる。
不思議な感覚だった。痛みまで、遠く、薄らいでいく様な。なのに包まれる温もりは気のせいではなく、なんだったらより一層ぎゅうぎゅうと、いや、ぐるぐる巻きにされて、まるで赤ん坊のごとく包み込まれた。
「…、?」
「っし、逃げるぞ!」
「っ、」
布越しの背中に感じる堅い板。額は温かい何かに押し当てられている。
それが人間の首筋だと認識したのは、気絶する寸前の事だった。
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