恋になるまで、側にいて。【Main Story】
1年前_________。
確か肌寒い、雨の日だった。
その日の私の気分はシンプルに最悪だった。
2年、付き合った彼氏にフラれ。
満員電車では知らないおじさんに痴漢され、
仕事場ではクレーマーに会い……。
仕事を終えて町を歩いていても、自分だけが不幸な気がして。
ふと、立ち寄った公園。
見覚えのある姿に、思わず声をかけた。
青い髪に緑のコート。
噂ではいつもお金が無くて、頻繁にどこかの公園で見かけると聞いた。
シブヤの有名人で、人気者。
それで、私の店の常連客。
『…あの………、』
ベンチで丸まる見慣れた緑のコートに、軽く触れてみた。
びしょびしょに濡れていたで、私の指先も冷える。
応答は数秒後にあった。
その人はゆっくり起き上がって、ずぶ濡れの頭を軽く振った。
もうほとんど意味もないだろうけど、あまりに濡れていたから、傘を差し出した。
そのせいで私の服も濡れて、頭もぼやけていった。
今考えても何やってんだろ、と思う。
起き上がった二つの瞳は、上から下までジーッと、私を見つめた後、
「………あー、
パチ屋の……_________」
………きっと。
その日、私は誰か、
誰でもいいから、
側にいて欲しかったんだと思った。
それがたまたま知った顔をした帝統で、
たまたま行く宛が無かった帝統で、
何の特徴も無い、ただの店員だった私なんかを覚えていてくれていた帝統で、
自分の都合で手を差し伸べた私は、
その先のことなんてどーでも良くて。
一瞬の寂しさと迷いで、巻き込んだ。
私の人生に、キラキラした帝統を。
帝統は嬉しそうにも、嫌がりもせず、ただ私に着いてきた。
多分そういうのに慣れているようにも見えた。
もしくは、帝統に何をするつもりも気力もなかった私に気付いていたのかもしれない。
私の家に上がって、ご飯を食べて眠るまで、当たり前だけど彼は何もしてこなかった。
当時の私は正直、何をされてもどうでも良かったけど、帝統も私のことなんてどうでも良かったらしい。
「なんか、分かんねぇけど、ありがとな。」
と言って、朝方帰っていった帝統の目を今でも思い出せる。
心配と、混乱を含んだ表情だった。
帝統に心配されるんだから私、相当だったんだなと、思い返して笑えてくる。
とにかく私たちはそれから、何度かそういう日を繰り返した。
帝統は最長、3日連続で泊まっていったこともある。
始めは私がどうしようもない時に誘っていたのが、
次第に帝統から来るようになって、
恋人や大人の関係みたいに触れ合ったり、体を重ねたりすることはなかったけど。
いつからか、帝統の目が、声が、
たまに触れる手が、
優しさと、ほんのちょっとの期待を含むようになったことに、気付いた。
…いや、気付いていた。
上で、無視をし続けた。
今日まで。