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恋になるまで、側にいて。【Main Story】



始めに言うと、私は帝統のファンでは無かった。


もっと言うと私たちは、1年前までは全くの他人で、お互いに何の興味も無かった。
私は帝統の存在を画面越しに認識しているだけの一般人。
帝統はこの地では有名な、Fling Posseというラップバトルチームのメンバーの一人。

…で、私たちはシブヤの町にある古いパチンコ屋の、店員と客。

たった、それだけの関係。




だったはずなのに今、私たちは。
同じ部屋の同じソファーで、同じ映画をだらだらと観ていた。
……確かに、数分前までは、そうしていた。






『……帝統。
 重たい…、』




「………。」






あまり面白くなかった映画のエンドロールが、視界の端で流れている。
さっき飲んだアルコールがお腹の方に落ちていったのか、全身が熱くなってきた。

一人暮らしのために買った、少し狭めのソファー。
男が女を押し倒して見下ろすには、無理があるのではないか。

と思っていたのはさっきまでで、実際そうでも無かったらしい。


数十秒前まで隣に合った、帝統の顔は今、間違いなく私を見下ろしている。
あ、っと思った時にはもう視界は回っていて、私は寝転がされていて。
男の人の力の強さを感じた一瞬、ちょっと怖いような気もした。




「…なぁ…………、」





帝統が口を開く。

テレビ画面はもう、知らない制作会社のロゴを映して眠ろうとしていた。
それを見た私の心拍は上がって、勝手に置いていかれるような気分になる。


帝統に押し倒されて、自由を奪われた、今。
ドキドキなんかじゃない、キュンキュンなんて爽やかな気持ちでもない。
ただドロドロとした焦りの感情だけが沸き上がってきて、吐きそうになった。


熱を帯びた、帝統の瞳を呆然と眺める。

そういえば帝統は、いつも何か言いたげだったなぁと思う。

その全部を今日、言うつもりでここに来たんだなぁと分かった。





(……手、出した方が、悪いんだもんね。)




私はもう、どうにでもなれ、と言う気持ちで目を閉じた。



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