秘密
どうにもならないことをどうにかしたくて泣いていた。下がらない熱。戻らない人。永遠のない世界。
試練の果てにきらきらした洞窟の中であの子を捕まえる。その一連のプロセスに、私はなにより尊いものを自分の手で引きずり下ろしてしまったような罪悪感を感じていた。 同時に重たい棺からたったひとつの輝くものを連れ出す王子様にでもなったような高揚と特別感が、冷たい外の世界を歩いてゆくための灯火をくれたのもまた事実だった。
煮凝らした感情全てをあの子に食べさせたと思う。愛していたからあの子のペースに合わせていっしょに歩いて、お話をして、触れて、なぞって、時々振り払われて。それが楽しくて。あの子の為に花を手折って、プラネタリウムで星を見て、何かの生き物の美味しい肉を一緒に食べて。
時間切れになってしまった。
本当は私はずっとあの場所にいた。きらきらした結晶に飾られた棺の中で足を抱えて丸まって泣いていた。あの場所に囚われていたのは私の方だった。
本当はね、私も1番になったことなんてなかったのって、それでもここならお互いの望む名前でお互いを呼んで、お互いのことをお互いの心の中で1番輝くものにできるんだって。
私達生まれた時から神様に嫌われてたの。ルールに噛み付くことができるような歯も、永遠のある場所へ行けるような翼もなかったの。ただ誓いを結ぶための指があって、誓いの言葉を覚えておける脳があって、それを紡げる口があって、それだけだったの。
毎朝目覚める理由がとうになくなってしまった世界で、
あらゆる愛を、軽い鼻息ひとつで凍らせてしまう怖い人が沢山いる世界で、
最後に大好きだった優しい人の名前と足跡と未来を燃やし尽くした人達がのうのうと生きてる世界で、
爆ぜた塩を刷り込まれ続けているような喉の痛みと、死神に見つけて貰う為だけに火の手を挙げたこの身体を引きずりながら今も醜く酸素を求めている。
誓いの言葉もあの子の名前も忘れてしまうのが怖かった。だから爛れきった物語におしまいを記せない。
外の世界に永遠はない。
私達は、私は、物語の中でしか生き残れなかった。
きっと誰も私を赦さない。
これから私は何も知らなかった時の裁かれようのない罪を血と絶望で精算しながら歩いていく。その果てで、いつも私の灯火になってくれたあの子を忘れていく。
生も死も過去も今も未来も拒んで棺の中にふたりで隠れても、いつか冷たい外の世界のルールは私の首を落としにくる。この熱が下がっても最後は焼けた花の匂いに埋もれていく。玉手箱みたいになった真白い私の体を幻視する。土の冷たさと虫たちの足音と世界の終わりを背中に感じる。怖い。怖い。怖い。怖い。助けて。
私はあの子と手を繋いだまま、永遠になりたかった。
試練の果てにきらきらした洞窟の中であの子を捕まえる。その一連のプロセスに、私はなにより尊いものを自分の手で引きずり下ろしてしまったような罪悪感を感じていた。 同時に重たい棺からたったひとつの輝くものを連れ出す王子様にでもなったような高揚と特別感が、冷たい外の世界を歩いてゆくための灯火をくれたのもまた事実だった。
煮凝らした感情全てをあの子に食べさせたと思う。愛していたからあの子のペースに合わせていっしょに歩いて、お話をして、触れて、なぞって、時々振り払われて。それが楽しくて。あの子の為に花を手折って、プラネタリウムで星を見て、何かの生き物の美味しい肉を一緒に食べて。
時間切れになってしまった。
本当は私はずっとあの場所にいた。きらきらした結晶に飾られた棺の中で足を抱えて丸まって泣いていた。あの場所に囚われていたのは私の方だった。
本当はね、私も1番になったことなんてなかったのって、それでもここならお互いの望む名前でお互いを呼んで、お互いのことをお互いの心の中で1番輝くものにできるんだって。
私達生まれた時から神様に嫌われてたの。ルールに噛み付くことができるような歯も、永遠のある場所へ行けるような翼もなかったの。ただ誓いを結ぶための指があって、誓いの言葉を覚えておける脳があって、それを紡げる口があって、それだけだったの。
毎朝目覚める理由がとうになくなってしまった世界で、
あらゆる愛を、軽い鼻息ひとつで凍らせてしまう怖い人が沢山いる世界で、
最後に大好きだった優しい人の名前と足跡と未来を燃やし尽くした人達がのうのうと生きてる世界で、
爆ぜた塩を刷り込まれ続けているような喉の痛みと、死神に見つけて貰う為だけに火の手を挙げたこの身体を引きずりながら今も醜く酸素を求めている。
誓いの言葉もあの子の名前も忘れてしまうのが怖かった。だから爛れきった物語におしまいを記せない。
外の世界に永遠はない。
私達は、私は、物語の中でしか生き残れなかった。
きっと誰も私を赦さない。
これから私は何も知らなかった時の裁かれようのない罪を血と絶望で精算しながら歩いていく。その果てで、いつも私の灯火になってくれたあの子を忘れていく。
生も死も過去も今も未来も拒んで棺の中にふたりで隠れても、いつか冷たい外の世界のルールは私の首を落としにくる。この熱が下がっても最後は焼けた花の匂いに埋もれていく。玉手箱みたいになった真白い私の体を幻視する。土の冷たさと虫たちの足音と世界の終わりを背中に感じる。怖い。怖い。怖い。怖い。助けて。
私はあの子と手を繋いだまま、永遠になりたかった。
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