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そうして出来上がった茶碗蒸しは…元からこっちを作る予定でいたという方が自然なほど完璧な仕上がりだった。
結局あの小動物が戻ってくることは無かった。一体なんのつもりなのか、皆目見当もつかない。いや、もしかしたら奴の干渉によるものではないのかもしれない。それはそれで疑問が残るが...。ともかく、このまま奴を待っていてはせっかく作った茶碗蒸しが冷めてしまう。奴の分は取り置きしておいて、まずは俺たちだけで食事を始めることにした。

「スプーン、持てるか?」
「物によるが…。」
「木製と半透明な樹脂製のものしかない。形も普通。」
「糸を出せばなんとか可能だ。寄越してくれ。」
「ん。」

持ち手に彫り込みの入った木のスプーンを受け取る。
刺し貫くことしか能のない俺の腕は、いろいろな道具を使うとき何らかの工夫が必要になる。せめて指が一本でもあれば話は違っただろうに、俺を産んだ誰かはそこまで俺のことを考えてくれなかったらしい。
だがそんな俺でも涙ぐましい努力の果てにある方法を確立した。手から糸を出し、スプーンを腕に括り付ける。指と掌を持たない俺が辛うじて物を持って使用することができる唯一の方法だ。

「そういえばおまえ、摂食できるのか?」
「なぜそんなことを聞く?」
「…いや、なんでもない。忘れろ。」

忘れろ、と言われたので聞かなかったことにする。
ダフネが食べ始めるのを見届けてから、俺も茶碗蒸しをひとくち分すくって口に運ぶ。


「これ、味がしない。」

先に口を開いたのはダフネだった。

「だし、足りなかったんだな。」
「…いや、というよりは」

次の言葉を出そうとした時だった。

「!?あっつ、…」
「ん…!?」

いきなり味と熱が溢れ出す。
なにかしらの要因で舌が馬鹿になっていたのか、遅れて味覚が反応したようだ。

「私たち、ずっと食事を摂らなくても平気だったから気づかなかったな。」
「味覚が鈍っていた、というか退化しかけていた…?」
「おまえ、大丈夫?どうやって食べたかわからないけど火傷してないか?」
「それに関しては問題ないが…、」

生地と出汁が分離しはじめた茶碗蒸しに視線を落とす。
数十秒、俺もダフネもひとこともしゃべらなかった。しゃべれなかった。何故かはわからない。そうか鈍ってたのか、と言って笑って残りの茶碗蒸しを少しづつ食べてゆけばいいだけの話だ。なのにそれが出来ない。

「…まぁ、いいさ。」

永遠にすら思えるような沈黙が破られる。顔をあげるとダフネがふた口目の茶碗蒸しを味わっていた。

「味付けのミスはなかったみたいだし。」
「あ…」
「あの小さい奴の分も作ってしまっていたから、おいしくなかったらどうしようかと思っていたんだ。」
「…!、そうだな、料理はうまくできてる。」

ここで俺はやっと、緊張状態から解放された。結局どうしてあんなに考えることが恐ろしくなったのかはわからずじまいになるだろう。だがダフネが気にしていないこと、俺が気にしても仕方が無い。

「いつかリベンジしたいな。」
「ん。こんどはちゃんとプリンを作る。」
「今すぐ食べたいなら外へ買いに行くことも可能だぞ」
「それは間に合ってる。」

彼女と外の世界を見に行けるまでまだ先は長そうだ。

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