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記録開始
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「満足した?」
声が聞こえる。なんども俺たちに…いや、俺に、ちょっかいを掛けてきたあの声が。
どうやら無数の影に押しつぶされると思っていた俺の身体と心は、まだもたらされる情報を拾えるだけの機能を有しているらしい。
「キミ、意外にしぶといね。そんなに心が強い方ではないと思ってたけど。この期に及んで、まだ何かを信じているんだね。」
前後左右上下すべてが暗黒に塗りつぶされた空間。光源もないのになぜか俺は自分の身体と、数メートル先に浮かぶ小動物もどきの姿をはっきり視認できた。
俺は立ち上がる気力もなくその場に膝をついている。いっそあのとき影達に押しつぶされていたほうがずっと楽だった。小動物もどきの言うように俺の自我を最後の最後でつなぎ止めたものが信念なのだとしたら、俺は一体何を信じているんだろう。彼女は夢と同じ成分で出来ていた。そしてそれはこの小動物も同じなはずだ。
「貴様も俺の脳内に居るだけの、ただのキャストなんだろう?」
俺の言葉のあと、数秒もしないくらいの時間が流れ、俺の聴覚は確かに、かみ殺すような笑い声を拾った。声の主の顔をおそるおそる伺う。あんな小さな生き物のことを恐れるなんて馬鹿げている。その顔色を伺うことだって。ただ俺の本能が警告を出すのだ。
奴は俺と目が合うといっそう大きく身体をのけぞらせた。もう隠す必要もないと判断したのだろう。侮蔑の感情を腹いっぱいに込めて小動物もどきはケラケラと笑い出した。
「ははっ、やだなぁ。ボクはちゃあんと現実世界からここに来てるよ。目覚めることで今すぐ帰ることもできる。」
暗闇が躍動する。本来なら今すぐにでもこいつを滅するかすぐに逃げ去るべきだ。奴は何かを知っている。おそらく、俺を滅ぼす決め手となる何かを。だがそれを知らずにいるという選択をするには俺はあまりにも多くのものを失いすぎていた。
「その理屈はおかしい。」
「うん。そうだね。キミにタルトが話したとおり、普通なら夢に他者の意識を介入させることは出来ないはずだ。だけどそれは夢の中が非常に不安定だからという理由にすぎない。逆に言えば、外部から夢を安定させられれば問題は無くなるわけだ。」
「待て、俺の夢に外部から干渉している奴がいるのか?何のために?」
「あ、やっぱり知りたいかな?」
小動物もどきの青い眼が鈍い光を放っている。精神が食い荒らされる。
「いいよ、教えてあげる。さて、キミの絶望はどこまで大きくなれるんだろうね。」
その声と共に俺の脳内に映像が流れ込む。そこに映ったのは、無数の管に繋がれ、カプセルの中で活動を停止している、俺自身だった。
