📂file10
「まず、ここが夢の世界だってことは多分あんたも知ってると思う。でもそれがこの場所のすべてを示すとき正確かって言われるとちょっと足りないんだよね。ここは普通の奴なら来る事なんてできない、夢の特に深い場所。」
「深い…」
「ほんとはここ、なんにもない場所のはずなんだけど、いつだったか突然ここに屋敷が建った。あたしとサントノーレが管理する夢の世界、それもかなり深い場所にあんたは小さな世界を形成した。…正直おどろいたよ、侵入者さん。」
「…」
「で、あたしもサントノーレもどうにかあんたを目覚めさせようとしたわけ。長いことこんなとこにいたらどうなるか分かんないし、なによりジャマだったし。んであたし達はあんたを監視することにした。結果、よくわかんないことが起きてるってことしかわかんなかった。」
どうでもいい。もうすべてのことが欺瞞と言い訳に聞こえる。この世界がどうとか、そんな事より大事なことがあった。その答えを聞けさえすれば、俺は。
「…ダフネはどこにいる」
かみ殺すように、絞り出すように、奴に問う。黒い奴が三日月頭にむけて切実な表情でかぶりを振る。三日月頭はその切れ長な桃色の瞳を一瞬俺から逸らす。その目の光が初めて揺らぐ。
「…居るわけないでしょ。あんたも悟ってる通り、あれはあんたが作った夢の中の住民よ。そもそも本人以外で自由意志を持ってるやつが夢に干渉できるわけない。そんな事したら夢はたちまちいろんな要素が混ざり合って崩壊するはずなの。あたしらは夢の世界を観測する立場だから大丈夫ってだけ。ダフネだけじゃなくて多分あのちっさいのもあんたの頭の中にしか居ないわよ。」
「ま、まって、タルトちゃん、その、だめだよ、」
「だってはっきり言わないといつまでたってもウジウジ悩むことになるじゃん!それじゃ可哀想だから…」
「そういう問題じゃ…まって、ゼルクくん、待っ…」
激情が彼方遠くまで俺を放り上げる。無数の鋭利な剣で貫かれ、心臓をえぐり出されるような感覚。痛みはない。恐れもない。
空はいつしか闇よりもおぞましい色に変わり、それと同じくらいみだれた色の雨を降らせる。
「まずい…。ねぇゼルク!!もういいでしょ!!ここには何もないの!!!あんたは現実で目覚めなきゃいけないの!!あんたがどういう生き方をしてきたか分かんないけどとにかく起きなきゃ、」
「…違うんだタルト。俺は外の事なんて知らないんだ。」
今まで憚り無く言葉を発してきたはずのその口から、はじめて音が奪われる。次の言葉を待つ理由なんて俺には無かった。
「ここに来る前のことなんざ覚えてない。目の前に現れて導いてくれたあいつももう居ない。じゃあどうすればいい?どうやって生きていたかなんて分からない。もう外の世界に期待することも絶望することもやめた。あいつがいないんだ。そう、あいつだけが。ああ、やっぱり、いつも俺のことを壊れるくらい揺さぶってくれるのは…」
「タルト、いったん逃げよう、危ないから…!」
「…っ、夢に逃げたってなにもないのに…あんた…」
落ちてきた雨は花を汚し、水たまりになっていく。その水面が脈打つとともに…何かが姿を現す。無数の水たまりから、よどみきったなにかが。
「深い…」
「ほんとはここ、なんにもない場所のはずなんだけど、いつだったか突然ここに屋敷が建った。あたしとサントノーレが管理する夢の世界、それもかなり深い場所にあんたは小さな世界を形成した。…正直おどろいたよ、侵入者さん。」
「…」
「で、あたしもサントノーレもどうにかあんたを目覚めさせようとしたわけ。長いことこんなとこにいたらどうなるか分かんないし、なによりジャマだったし。んであたし達はあんたを監視することにした。結果、よくわかんないことが起きてるってことしかわかんなかった。」
どうでもいい。もうすべてのことが欺瞞と言い訳に聞こえる。この世界がどうとか、そんな事より大事なことがあった。その答えを聞けさえすれば、俺は。
「…ダフネはどこにいる」
かみ殺すように、絞り出すように、奴に問う。黒い奴が三日月頭にむけて切実な表情でかぶりを振る。三日月頭はその切れ長な桃色の瞳を一瞬俺から逸らす。その目の光が初めて揺らぐ。
「…居るわけないでしょ。あんたも悟ってる通り、あれはあんたが作った夢の中の住民よ。そもそも本人以外で自由意志を持ってるやつが夢に干渉できるわけない。そんな事したら夢はたちまちいろんな要素が混ざり合って崩壊するはずなの。あたしらは夢の世界を観測する立場だから大丈夫ってだけ。ダフネだけじゃなくて多分あのちっさいのもあんたの頭の中にしか居ないわよ。」
「ま、まって、タルトちゃん、その、だめだよ、」
「だってはっきり言わないといつまでたってもウジウジ悩むことになるじゃん!それじゃ可哀想だから…」
「そういう問題じゃ…まって、ゼルクくん、待っ…」
激情が彼方遠くまで俺を放り上げる。無数の鋭利な剣で貫かれ、心臓をえぐり出されるような感覚。痛みはない。恐れもない。
空はいつしか闇よりもおぞましい色に変わり、それと同じくらいみだれた色の雨を降らせる。
「まずい…。ねぇゼルク!!もういいでしょ!!ここには何もないの!!!あんたは現実で目覚めなきゃいけないの!!あんたがどういう生き方をしてきたか分かんないけどとにかく起きなきゃ、」
「…違うんだタルト。俺は外の事なんて知らないんだ。」
今まで憚り無く言葉を発してきたはずのその口から、はじめて音が奪われる。次の言葉を待つ理由なんて俺には無かった。
「ここに来る前のことなんざ覚えてない。目の前に現れて導いてくれたあいつももう居ない。じゃあどうすればいい?どうやって生きていたかなんて分からない。もう外の世界に期待することも絶望することもやめた。あいつがいないんだ。そう、あいつだけが。ああ、やっぱり、いつも俺のことを壊れるくらい揺さぶってくれるのは…」
「タルト、いったん逃げよう、危ないから…!」
「…っ、夢に逃げたってなにもないのに…あんた…」
落ちてきた雨は花を汚し、水たまりになっていく。その水面が脈打つとともに…何かが姿を現す。無数の水たまりから、よどみきったなにかが。
