📂file10
記録開始
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天使の居なくなった書斎は椅子ひとつと天井の電球、そして大きな窓を残してからっぽになっていた。
ここの磨りガラスは今も外の景色を隠している。もう種は明かされた。あとはこの夢の終わりを見届けるだけだ。
電球の真下に置かれた古い木の椅子はやたらとささくれ立っている。
「やはりキミの夢はすばらしいね。あれほどのショックがありながら、まだ形を保ってるなんて。」
廊下いっぱいに広がったニゲラの花の海の上を滑りながら、そいつは書斎だった場所に踏み入った。
「やぁ、ゼルク。調子はいかがかな?」
「何のつもりだ」
桃色の小動物は両手で手折ってきた花を数本抱えている。小動物はその花のひとつを宙に浮かべ、花弁を1枚ずつはぎ取ってゆく。すき、きらい、すき、きらいとつぶやきながら。やがて花弁がすべて無くなると奴は半ば嘲笑するような声音で話し始めた。
「かなしいね。どの花も花占いに使ったら必ずキライで終わるんだ。」
「…」
「まぁいいや。おそらくキミがあらゆる説明を求めている相手はボクじゃない。そうだろう?」
「分かっているのならとっとと失せろ小動物。」
「はいはい。また呼ばれることになるだろうけど、いったん消えることにするよ。」
奴の姿が消えたのを皮切りに、四方を覆っていた壁が、ただの布となって崩れ落ちた。
館だったものが崩れ去ったあとには星ひとつない闇色の空と、それとは対局な青い青い花畑がどこまでも広がっていた。光らないはずの花たちはなぜか宵闇を煌々と照らしている。
「きづいちゃった、んだね。ゼルクくん…。」
忌々しい声がする。はじめはあの布を被っていないと会話すらままならなかったはずのそいつは、今確かに俺に向けてはっきりと言葉を発していた。
「サントノーレ…」
「あ、あの、まず僕もタルトも君を悲しませたくなかったの、それは、その、わかって、」
俺の左腕が奴の脇腹にめり込む。奴はそのままうめき声をあげて崩れ落ちる。それでも足りず俺はその顔めがけて腕を突き立てようとした。その時、空気を切る音が少し遠くで聞こえた。思わず飛び退くと、ちょうど先ほど俺の顔があった位置に、三日月型の刃が飛んできた。
「ッ、!貴様らァ…っ!!!!」
「あんたの気持ちは分かる!!!でもまず話を聞けっての!!!」
「黙れ…黙れ…ッ!!!貴様らがこの夢の中に俺を閉じ込めたんだろうが!」
「それは違うってば!!あんたここが何なのか全然わかってない!!ここは…もともとあたしたちの領域なの!!!」
その言葉に一瞬注意が逸れた俺は、地面に這いつくばっている黒い奴の動向を把握しきっていなかった。俺が三日月頭に向かってゆこうとした途端、俺のすぐ後ろの地面から長い腕達が伸びてきた。
「ごめん、ゼルクくん。あの、ちょっと、じっとして、」
「貴様の技か…っ、くそ…離せ!!!」
「だーかーら!おとなしくしろって言ってんのよ。ありがとねサントノーレ、あいつのこと止めてくれて。」
「で、でも、ほんとにいいの?こんな…、つかまえるなんて…。」
「あたしが許すわ。さーてゼルクきゅ~ん?一方的に話させて貰うわよ~?」
なんとか自分の腕に絡みつく黒い影達を振り払おうとした。だが黒い影は俺を強固に掴んで離さない。引き抜こうとすれば俺の腕が外れるだろう。俺は抵抗をやめざるを得なかった。
どうせ、やっとおとなしくなったかだとか茶化されるだろうと思っていた。だが珍しく三日月頭は冷静だった。そして奴はこの世界のことを、淡々と語り始めた。
