📂file8


「だ~ふにゃ~ん、お茶淹れてぇ~あたしお手手短いからぁ」
「わかった。」
「さんきゅ♡あとこれからもだふにゃんって呼んでいい~?」
「悪くはないけど。」
「やった!よろだよだふにゃ~ん♡」
「…ダフネのことを変な名前で呼ばないで貰えるか?」
「あーどぞどぞあんたはお構いなく~。」
「構うに決まってるだろう…」
「私としては気にいったぞその呼び方。」
「ほら~いいじゃ~ん。」
「…」

びし、と、先ほどより明らかに大きな音がして、磨りガラスがはめ込まれた書斎の大窓に大きな亀裂が生じた。
今度の音は全員に聞こえたらしく三日月頭も小動物も口をつぐんだ。

「…っとに」
「タルトちゃん、あ、あのね、…」
「…分かってる。建て付け悪い窓ねーほんと!でさ、話の続きなんだけど…」

何かを言おうとした三日月頭にサントノーレが割って入った理由が分からない。いやこの際もう分からなくてもいい。ダフネが屋敷の異常性を理解し、無限の物語を享受できたのと同じ。俺もこの屋敷を利用できる。

俺は静かに立ち上がりダフネに歩み寄る。

「どうした?ゼルク、なんだか…」

彼女の華奢な身体を躊躇なく抱きしめる。大振りな布につつまれた確かな体温を感じ、俺の頭に黒い愉悦が芽生える。
女の子だ。
今俺の腕の中にいるのは女の子なんだ。神秘性を纏った、甘くきらめく天使の捕まえ方を知る。甘い。めまいがするほど甘い。心臓の位置を知覚する。感覚器官すべてが彼女を欲している。

「あつい。くっつくな。離せ。」
「以前ハグとは何か聞いていたな、ダフネ。これがそうだ。」
「な…」

俺の腕の中で彼女がもがく。愛おしくて仕方がない。
ああ、そうだ。あやうく完全に目的を見失うところだった。

「今は茶化さんのだな。」
「あんた…ほんとにど」

三日月頭が何か言い切るのを待たず、感情の全てを「侵入者の排除」という願望に向ける。次の瞬間、俺の後ろで、横で、けたたましい音が響き渡った。おそらく、というかやはりガラスが割れたのだろう。

俺はもう耐えられなかった。

破片がいくつか俺の身体に刺さる。それは些細なことだ。彼女をかばえているなら、それで。

目を開けると、そこにはいつも通りの書斎が広がっていた。侵入者の姿も、先ほどまで乱雑に広げられていたティーセットも無い。窓ガラスさえもとどおりになっていた。俺はその場で意識を失った。
  
そこから先のことはよく覚えていない。

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