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記録開始

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「ダフネ、居るか?」

彼女の名を呼びながら今日も書斎に立ち入る。今日はダフネはいつもの場所に居てくれていた。

「毎度毎度呼びながら入ってこなくても一目見ればいるってわかるはずでは?」
「それはそうだがダフネ…俺が声を掛けないとお前はずっとこっちに気づかないだろう。」
「気づいてはいる。お返事するのがめんどくさいだけ。」
「なお悪い。せめて挨拶はしてくれ。」
「むう…」

ダフネは億劫そうに本から顔を上げた。彼女はそのまま言い返さず「挨拶は大事だしな」とつぶやいた。

何もない時間が流れてゆく。ダフネはもう何回読んだか分からないであろう赤い表紙の本を再読していた。はじめこそ同じ物語を読んでいてよく飽きないなと感心していたが今となっては納得がいく。
先日俺はこの館の奇妙な出来事が気のせいではなかったことを確信した。勝手に部屋が増えたり、内装が変わったり。本の中身が書き換わるのも異常のひとつだ。この異常によって彼女は毎度違う物語を読んでいた。飽きるはずがない。
さて、俺は屋敷に異変が起きていることを話そうか迷っていた。しかし今までおそらくだが彼女は屋敷の異常性を俺よりも早く理解し、順応していたのだろう。そういえば以前、彼女がしおりを探すために書斎の引き出しを開けたことがあると話していた。しかし肝心のしおりを彼女が使っている所は一度も見たことがない。勝手に書き換わる本にしおりを挟んだところで意味が無い。当然だ。
彼女の振るまいから屋敷の異常性を認知していた可能性は高い。だがそうすると別の疑問が思い浮かんできた。

「おまえ、なんか今日変じゃないか?」
「そうだろうか?」
「うん。ただでさえ硬い顔が余計カチカチになっている位には。」
「…そうか。…すまないがダフネ、聞きたいことがあるんだ。」
「なんだ?」
「この館がおかしいこと、気づいていたか?具体的に言うと本の内容が書き換わったり。」
「茶碗蒸しを作った次の日には気づいてた。ちなみに今屋敷を探索すれば調理場の位置が若干変わってることも知っている。」

おおむね予想通りの返答だった。ここまではいい。俺が本当に聞きたいのはそうじゃない。俺は意を決して言葉を紡ぎ出した。

「どうして俺に言わなかった?」
「え、おまえ気づいてなかったのか?」

けろっとした顔で返答するダフネを前に、俺は膝をつくことしかできなかった。

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