📂file7
記録開始
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「ダフネ、そこに居るのか?」
いつもと同じように俺は書斎に入りながら彼女に呼びかける。普段は彼女の気怠げな声が応えてくれるはずだ。だが今日は返事がなかった。
「ダフネ?」
書斎にはだれもいない。デスクは珍しく本が乗っておらず、テーブルランプも消えていた。狭い書斎の中に彼女が隠れられる場所なんてないはずだ。
「ダフネ…!!」
いっそう大きな声で呼びかけるが反応はない。頭のてっぺんからつま先まで冷えるような思いだった。
ダフネがいない。ひとりで出かけた?いや、そんなわけない。だってダフネはいつも外に出たがらなかった。俺の知る限りではそうだ。ダフネが俺に黙ってどこかへ行ってしまうなんて考えられない。
俺は鉄砲玉のように書斎を飛び出し、彼女の部屋の扉を叩いた。
「ダフネ、具合が悪いのか?なぁ…」
返事はなかった。なんどもノックしたが結果は同じだった。
本当になんてことなくて、ただダフネは今日に限って自室で熟睡しているだけかもしれない。だというのに返事がないのが息がつまるほどおそろしくて、数秒先の行動すら思い描くことが出来なくて、俺は狂ったように扉を叩き続けた。
耐えられなくなって扉を開こうとする。だが俺の手では彼女の部屋の丸いドアノブを掴むことは出来ない。
「開けてくれダフネ…!なぁ…!!」
なにを俺はこんなに恐れているんだ?分からない。考えたくない。ただダフネの姿が見たい。俺は、俺の恐怖は、そうだ。ダフネが居なくなってしまうことだ。扉がひっかき傷でいっぱいになる。そもそもダフネは本当にここにいるのか?もしかしたら透明になれるローブを着て、俺のそばで笑ってるのかもしれない。
「そこにいるのか…?ダフネ…」
俺はあたりを見回す。声は返ってこない。
どうして。
景色が揺らぐような錯覚。体温と同じくらいの憂鬱に骨を浸すように、仄暗い感情の海へ落ちてゆく。そのとき、ふと肩に何かが乗ったような気がした。たしかに体温がある。
俺はとっさに振り返った。振り返ったらダフネが立っててくれてるんだ。きっとそうだと思いながら、願いながら。そして背後が完全に見えるようになって俺は、さっき沈んでいった自分の心が真っ赤な高波にさらわれて持ち上げられる感覚に襲われたのだった。
