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記録開始

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「ダフネ、今暇か?」
「生憎私はなにもしないので忙しいんだ。」
「そうか…。だが今日は何もしないのがもったいなく思えるほど絶好の外出日和だぞ。」
「ふーん。」
「朝からかんかんと日差しが照っていてそれはもう空の青さ遠さに目眩でも起こすような心地で」
「死ぬほど暑いならそう言え。」
「天にも昇るようだぞ。」
「それは比喩であってほしかった。」

彼女は書斎の机に頭を腕を置きぐったりしている。木製の机はひんやりして気持ちがいいのだろう。

「今日は本は読まないのか?」
「…まぁ。今は頭の中に情報を入れたい気分ではないからな。」

耳に結ばれたリボンの端っこを指に巻き付けながら、億劫そうにダフネは答えた。ペンダントとリボンを見つけてからというもの、休息時を除いてダフネはそれを肌身離さず身につけていた。リボンの長さにも慣れたようであれからリボンの端を踏んづけることもなくなっていた。
よほど気に入ったんだろうなんてことを考えているとダフネが唐突に身体を起こした。

「暑いのは外だけではないのか。」
「と、言うと?」
「さっきから書斎内の室温が上がっている気がする。」

言われてみれば書斎内の空気が生暖かい。今まで外がいくら猛暑であってもこの館の室温は一定に保たれていたはずだ。よほど外が暑いのだろうか。

「快適な全館空調だと思っていたのに。」
「まぁ、たまには調子が良くない時もあるだろう。」
「そうだよ~こういうこともあるもんだよぉ」

少し前に聞いた声が会話に割り込んできた。そう、あれはたしか俺たちが料理をしたときの…

「誰だ?」
「そういえばおまえの名前聞いてなかった。」
「確かに前会ったときボクの名前教えてなかったけどさぁ!いちどは話した仲なんだしもうちょっとふんわり接してくれてもいいじゃんかぁ!!」

桃色の身体の小動物もどきは天井近くの空間にあらわれ、ゆっくりと下降する。やはりあの水色の瞳が値踏みするようにこちらを凝視してくるように感じる。

「今度は何の用だ。」
「んもーゼ・ル・ク・きゅん?なんでそうツンツンしてるのさ~。あとボク一応名前持ってるんだよ?教えてあげてもいいけどボクの名前に関わらずキミはボクを小動物呼ばわりするだろうしなぁ。」
「その呼称で問題ないなら小動物と呼ぼうではないか。それで小動物、今度は何をしにきた。」
「今起きてることの報告だよ。ちょっとこの…館全体の冷却システムが故障してるんだよね。」

何をしてくるか身構えたが本当に単なる報告だった。俺はすっかり拍子抜けした。

「まぁこの不具合もあと数十分で直ると思うよ。それまでキミたちはちょっと我慢してもらうってだけ。」
「それだけか。」
「ほんとにそれだけだよ。なんでキミはそんなに神経質になってるのさ。」

俺にまぶたがあれば睨みを利かせられていたのに。桃色の小動物はいかにも無害そうにくるりと空中で1回転してみせた。

「それじゃボクはこのへんで。あそうそう、ボクは呼ばれたらいつでも駆けつけるから、どうにもならなくなった時はちゃんと頼ってよね!」

そう言って小動物の姿が消えるまで、胃酸が上がってくるような心地が収まらなかった。そんな俺をダフネは終始不思議そうに見つめていた。

「おまえ、あの子に何かされたのか?」
「いや。…何故そんな事を聞く?」
「おまえはあの子に冷たいから。なんでそんな風に接する?」

あらためて聞かれると、俺自身でも理由が分からなかった。ただ何となくあの小動物からは何か嫌な感じがするのだ。心にもないお世辞を延々と吐き捨てている対話プログラムのような不気味な感じが。少なくともダフネの認識ではあの小動物は無害な存在なのだろう。だが俺の中の何かが警鐘を鳴らしている。
俺はひと言「態度に関しては改める」とだけ伝えた。
答えになってない、とむくれるダフネを見て、俺は早急に話題を変えようと思った。

「そういえばそこそこ室温が上がってきたな。ダフネは平気か?」
「おまえ、びっくりするほど話題転換が下手だな。」
「というわけで、身も心もひんやりできるような事をしよう。」
「うーん…まぁいい分かった。」

何か言いたげなダフネだったが追及を諦めてくれたようだ。





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